FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

春立ちぬ

昨日に引き続き。
サーブ、いきまーす!


【微糖】【春の予感】――予感だけ? だけ。(コックリ)
【67話原作沿いパラレル※】ネタバレを含むかというとそうでもありませんが、念のためコミックス派の方はご注意ください。


* * * * * *
春立ちぬ
* * * * * *

「ゆーりん、あのね――」
こんなお顔をされるときの小犬陛下は見捨てられない。
キュンとときめいてしまう。

「――ぼく。お願いがあるんだけど」

いつのまにかさりげなくすり寄ってこられれば
つい間合いを失って、手をとられることを易々と許してしまう。

「…また、寒いんですか?」

繋がれた手を握り返す。

形の良い爪ににあわない固い皮膚。
ごつごつした陛下の手は、刀を振るう男の人のそれで、
ちょっぴり冷たい感触に、いそいで私のぬくもりを移そうと両手で包み、吐息をかけて暖める。

「…うん」
ひとしきり、私が彼の手を暖めるしぐさを
ジッと見つめながら嬉しそうに小犬はされるがままになっていた。


ふっと見上げると、ばっちりと絡んだその視線が
あんまり甘くて。

…思わず居た堪れないきもちになって、手を離した。

ちょっと困ったように眉をさげ、
今度は陛下は『おいでおいで』とばかりに私に向けて両手を広げて誘う。
「まだ寒い」
「…わたし、もうバイト妃じゃないんですよ」
「うん?」
「仲良し夫婦演技する必要なんて、ないんですよ」
「うーん…」
ちょっと強引に陛下は私を懐に招きよせ、ニコニコと笑って見せた。
私がそっと手を差し出すと、躊躇することなく彼はぎゅっと私を抱きしめる。

「…こうしてると、あったかいね」

陛下はとっても満足そうに、もう一度、私を強く抱きしめなおした。

「…ほんとに、いいんですか?」
「うん!…ゆーりんも、あったかいでしょ?」

あったかい、というより
恥ずかしくて顔が熱い。

冷酷非情の狼陛下。
でも実は子犬のような一面をもつことを
周囲にしられないために雇われた、私はバイト妃だった。

今はそのバイトも解雇され一介の下町娘の私は
元気でやりくり上手といういうこと以外、特に美人というわけでも、秀でた才能があるわけでもない。

それが
こんなふうに、また陛下いられるなんて
まるで夢みたいだった。

バイトを解雇され、私が傍に居られる理由もなくなった。
遠く旅も、した。

忘れることなんてできなかった。

ずっと、会いたかったヒト。

私なんかには、手の届かない…。


だから
もう一度だけ会って
『好き』って言って、
見事玉砕するのが
私のささやかな、たった一つの希望だった。


「ほんとに、こんなふうにしてて
いいんですか?」

「…許しが、いるの?」

彼はきょとんと眼を丸くする。

「だって、陛下は王様ですよ?
私はもう妃バイトでもなんでもない、
ただの…」
必死に言いかけたけど、
突然陛下がギュッと息がとまるほど強く抱きしめるから
思わず私は「グエッ」とカエルがつぶれたような声を喉から絞り出してしまった。

「へ、か! 苦しっ…」

「…ごめんごめん」
こっちは苦しいっていってるのにっ!
陛下は悪びれもせずアハハ、と笑うばかり。

突然ちょっと真面目な顔になって、私に問う。

「ぼくが寒くて、ゆーりんにあっためてもらうのに
許しなんているの?」

あんまり当たり前のように云うものだから
なんだか、私の方が逆に悪いことをしているような気にもなるじゃない。

「そうは参りません。
立場をわきまえないのは、許されないことです!」

正当な理由がないのに
陛下のお傍にいるわけには――

「…じゃあ。
ぼくのお願い、一つ聞いてくれる?」

ぜんぜん、陛下は私の言うことを聞いてくれない。
それどころか、会話がぜんぜんかみ合っていないように思えて
ちょっとムッとしてしまう。

なのに
私を覗き込む瞳はキラキラ輝いていて
楽しそうな彼はいたずらっ子みたいな表情をする

そのうえ、遠慮もなく私に無邪気にすり寄る。

(近い、近い、近いですっ!)

遠くから見ても怖いくらい立派だけど
近くの陛下は、
すっと通った鼻筋に、薄い唇
整った眉に、綺麗な紅い瞳を縁取る黑いまつ毛は長くて
女の私でも嫉妬してしまうほど、美人。

そんなお顔で、とろけるような笑顔を浮かべて
サラサラとした漆黒の髪が私の頬にふれるほど近づいて
低い声で囁くのだから――

私は言いたいことを言いだす隙さえなかった。

「あのね。夕鈴」
「はい」

「あの…」
「はい?」


「――えぇっと…」

急に陛下は挙動不審な様相を呈し、
視線を宙にうろうろと飛ばすから、
え、何か難しい事?と、ドキドキしてしまう。


「そんなに難しいことですか?
…だったら庶民のわたしになんか
ぜったい無理だとおもいます」

「っ! そうじゃなくて…」

「…じゃあ、どんな?」

国王陛下たってのお願いだなんて。
無理難題に違いない。
庶民の私になんか、かなえられそうな気がしない。

私はなんだか悲しくなってきて、気が重くなった。

「だから。その」

「はい…」
神妙に目を伏せた。



「その

あの。

お願いっていうのは
じゃなくて

その君さえ、良かったら…なんだけど。

君の正直な気持ちで構わないし

そう。
嫌なら
断ってもかまわないんだけど…

その。
つまり。
あの。
私の
――き さきに…なって
くれない?」

「きさき?」

彼はゴクンと息をのむともう一度
要点のみを言葉にした。

「わたしの妃になってくれる?」

「――あの。

つまり。



…また、バイト妃に戻れるって、ことですか?」


「そうじゃなくて!」
彼は苛々しながら叫んだ

ちがう?となると
「妃…バイト妃じゃない、妃?…って、妃です、か?
えーっと。その。バイトがとれた、妃?」

陛下は強引に私の両腕をつかんでゆすぶった。
「だから――お嫁さん、だってば!」

「バイト妃じゃない、お嫁さんのバイトって?
なんだか…難しそうですね。

…なんというか。
バイト妃レベルだって、極めるが難しかったのに…」

いったい、私は何をしたらいいんですか
お料理? もっときれいに着飾るの?
それとも…とブツブツ見当をつけていると


「――ああ、もう!!」

じれったそうに彼は叫んだ。

「だから。
わたしの、たった一人の妃、だって――」

もう!!と私の正面を見据えると

「ぼくのこと、嫌い?」と真剣な目で私を見つめた。


「きっ、嫌いなわけっ…

だって私。

陛下に好きって言って
玉砕するんだって――!? …っ!」


その日。


春の風が私を包んで、
遠くの空に、さらっていった。




*

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

風花さま

お返事遅れまくってすみません

春風、萌え時ですね~(笑


陛下が大好きなので
私の中ではヘタレじゃないんですけどね(´ω`*)

おとめさま

ありがとうございます~

久しぶりの短編でしたが
お楽しみいただけて幸いです

ぽつんと短編浮かんだので
書いてみました~

続きモノは
腰据えて書ける環境でないので
今は取りかかれませんが…
また書けた時は読んでやってくださいませm(_ _)m

検索フォーム
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
カレンダー
08 | 2018/09 | 10
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
プロフィール

おりざ

Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

アクセスカウンター
ただいまのご来訪数
現在の閲覧者数:
ありがとうございます
■(キリ番)カウンターでキリのよい番号に遭遇された方はお気軽にご一報ください^^

■オフ活動■ おりざの本[織座舎] 一覧 → こちら
陛下の花園へようこそ
~ご注意~
≪以下あらかじめご了承のうえ、本サイトをお楽しみください。≫

・原作者様ならびに出版社様とは一切関係ございません。
・此のブログは日々の日記並びに二次創作作品の倉庫、管理人本人の自由な自己表現の場です。
・この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件、史実などにはいっさい関係ありません。また原作と異なる設定など、表現、その他多数捏造あります。

・二次創作の場です。
・ブログ内容に関する苦情は受け付けておりません。出来る限り注意は払う意向ですが個人的表現の場という位置づけの運営上、万人に対して万全を保障するものではありません。
・読む際は各作品の冒頭の説明・ご注意等にてご判断ください。読後いかなる不都合が生じても当方はその責任を負いかねます。

・ご感想お待ちしております。

・当ブログ内の作品の著作権はブログ管理人に属し、無断コピー・無断転載は固く禁じます。
Twitter
 
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。