スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

狼のーかの花嫁(5)

のん気なタイトルのくせに
いろいろ謎な設定に「ん?」と立ち止まったらすみません。

…実はファンタジーです。

無理されないでくださいね。


【現パラ】【ファンタジー】【ついてこれなかったらゴメンナサイ】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(5)
* * * * * * *

この広大な地域一帯で王様のように振る舞う目の前の彼。

「冷酷非情の陛下」と誰からも恐れられるこの若き支配者の
初めての手料理(?)を、夕鈴のため振る舞ったという。

一バイトに対し過分なる待遇であると夕鈴は最初恐縮したものの

手の中でホカホカと湯気をあげる石焼釜で焼きたての焼き芋は美味しく
ニコニコと笑いながら嬉しそうに自分を見つめる男性が
あれほど怖く感じた狼陛下と同一人物とは
夕鈴にはとても思えなかった。

「…いつも怖い狼陛下を演じるって、疲れませんか?」

「いや、別に。
もう慣れたし」

「でも、どうして?」

「――ん、つまり。
ぼくの前の王様
…ああ、この辺りでは、珀家の当主のことを王様って呼ぶ風習があってね…
で、ぼくの兄
…といっても、母親は違う兄だけどね。
その兄が珀家の当主、つまり王様だったとき。
仕事をほっぽりだして酒や女におぼれてさ。
周りの人たちにやりたい放題やらせたあげく、あれこれ混乱を招いてね。
この国を傾けちゃったってさんざん言われたよ。
だから僕は不正を許さない、怖くても強い王様になろうって――」

「…」
(陛下は、ほんとうは優しくて。暖かい。
なのにそれを押し隠して、演技して――)

「それなら。
陛下のお役にたてるよう
私にできること、頑張りますね?」

夕鈴が黎翔を勇気づけようと、心の底から本気であることは
その素直な瞳に満ち溢れていた。
その温かい茶色の瞳に見つめられ、黎翔はふわりと笑った。

「…ん、ありがとう」

頬を染めて笑うやさしい青年。

フワフワとただよう湯気に包まれて
夕鈴と陛下の二人はお互い打ち解けてくつろいだ雰囲気を味わった。

お互い見つめ合っていたことに気づいて、ハッと夕鈴は理性を取り戻した。

慌てて何か言わなくちゃ、と話題を変える。

「あっ、あんなに立派な石釜があるのなら
今度はピザを焼きましょう」

陛下は楽しそうに「それはいいな」とうなずいた。

「せっかくなら、パーティーをしましょうっ!」

「えー? パーティー?
…なんか、肩がこりそうだね…」

彼の思いのほかガッカリした様子に、夕鈴は意外そうに見つめた。

「それなら、陛下が気を許せる人だけ」

「ん――、僕が招待客を選んでいいの?」

「はい」

(陛下は、誰を招待するのかしら。
たぶん、李順さん?それから…うーん。
気が許せるっていうと、そんなに大勢ではないかもしれないわねぇ…)

「じゃ、夕鈴。

――君だけ」

「え? 
それではパーティーになりません!」

「いいんだ。君の歓迎パーティ」

「私の?
歓迎パーティー?」

きょとんとして彼のことを見つめる夕鈴。

(こ、この人。
ただのバイトのために、そこまで?)

夕鈴はそれが『自分のため』『特別な』と言われているようで思わず赤面した。

「私、ただのバイトですよ?」

「…でも、もっと君のこと
知りたい――ダメ?」

(知りたい? 私のことを?
それって、好意があるとかの意味で興味があるって…
――いやいや。
そんなはずないから。
会ったばっかりのバイトに、なんでも望みの叶う王様が――。
そう。
あくまで陛下は、夫婦演技をする必要性があって、演じてくださってるだけ。
…勘違いなんかしちゃだめ、夕鈴!)

夕鈴は自分の頬をピタピタと叩いた。


見晴らしの良い18階にあるテラスでの楽しい朝食は
ほんの短い時間となった。

カップのコーヒーが覚めないうちに飲み干すと、
黎翔はすぐに立ち上がった。

「じゃ、仕事にいってくる」

「え?」

夕鈴が見上げる。

陛下は指で夕鈴の額をツイっとなぞった。

夕鈴はチリッと焼けるような熱を感じた。
そこは昨日の晩、彼の唇が触れたところで
黎翔が指で触れた途端、蝋燭に灯りがともったように
ぽうっと頭の中で光が宿ったような感覚があった。

(…え?
ここ、昨日、へーかが…)
思い出した途端に真っ赤になって、俯いた。

「…行ってくるよ、奥さん」

彼の指が離れる。

「今日は夕食を一緒に食べよう。
――約束しても、よいか?」

黎翔が背後から覆いかぶさるように、夕鈴の顔を覗き込んだ。
鼻先に黒い髪がサラリと触れ、紅い瞳に見つめられた夕鈴はドクンと胸が跳ねた。

「…あ、はいっ!」

「ん」
満足げに彼は微笑むと、カツカツと大股で自分の部屋へと戻って行った。
ガラス越しに、扉が開いてメガネをかけた王の忠実なる側近、李順の姿が見えたような気がする。

自分の部屋からもお世話係りの女性が現れて
「外は風が強いですから、お身体を冷やしますよ。
さ、お部屋へお入りに」と暖かい肩掛けを広げながら迎えられた。

* * * * * * *

「おはようございます」

テラスのガラス戸から入室した黎翔に、李順はいつものように几帳面な角度のお辞儀をしながら挨拶をした。

「ああ、李順。ご苦労」
李順の出迎えに少々辟易としている黎翔は生真面目な従者に目もあわさず、
首に掛けていたタオルを外すとバサリとソファーに投げかけた。
ついで胸元のボタンをはずし、汗をかいた上着を脱ぎ捨てる。

シャワールームへ歩く黎翔に
「お時間が。…お支度をしながら本日のご予定を説明いたします。
朝の役員ミーティングは…」
朝議、と呼ばれる朝のミーティングは毎日のこと。
うんざりするような一日がまた始まる。
「続きまして――」
李順が読み上げるスケジュールは隙間なくびっしりと組まれており、
延々と読み上げられた。

黎翔は構うことなく身に付けていたものを脱ぎ捨て、ガラスで仕切られたバスルームにペタペタと裸足で歩み入ると、おもむろにシャワーノブをひねる。

熱いシャワーが降り注ぎ、黎翔は目をつむり、頭からそれを浴びた。

聴こえようと聴こえまいと同じことだ。
『今日も一日励め』と告げられているだけだ。

「…」
黎翔がシャワーを浴び顔を剃る間に
李順は今日のスケジュールを告げ終えた。

頭からタオルを被り、シャワールームから出てきた主をじっと見つめた。


「――陛下」
李順はいつの間にかスケジュール表を手放し、
その手には黎翔が今日身に付ける着替え一式を抱えていた。

黎翔にそれを差し出す。

「なんだ改まって? 李順。」
濡れた頭をタオルでガシガシとこすりながら、黎翔は着替えを受け取った。

「夕鈴殿のことですが…」
李順のメガネがキラ、と反射する。

「…うん」

水を切るように、フサっと頭を振り上げると
黎翔の頭の周囲には霧となって水分が飛び去り
濡れていた髪がいつの間にか乾く。

「印を授けられた、というのなら。
陛下にはお分かりなのですか?
――彼女、何者でしょう?」

昨晩、夕鈴の額におした印。
それは見る者が見れば解る、不思議な光を宿していた。

「夕鈴。
我々の結界を、易々と破ったな…」

黎翔はフフと目を紅い細めた。

「そもそも、一旦結界の外に出た者が
許可なく二度踏み込めることはないはずなのですが――。
廊下に居たはずの彼女は、
普通なら見つけることのできない我々のいる部屋へ
戻ってきました」

「…そうだな」

そのため、小犬陛下の秘密を
彼女に話さざるを得ない状況になったのだ。

普通なら、いくら気を緩めていたところで
見つかるはずのない部屋に、彼女はすんなりとたどり着いた。

思わず、思い出し笑いが込み上げた。
クックックと笑う黎翔に、李順は「――笑うところではありません!」とムッとしたように続ける。

「厳重に結界を張っていたにもかかわらず
昨日はその後
このビルからも勝手に出て行きました」

「…おかげで、私は夕食をすっぽかされた。

――だから、代わりに振る舞ったよ、朝食を。
初めて、自分の手で料理をした――」

黎翔は楽しそうに笑った。

李順はぎょっとして目を見張った。

「――料理?
陛下が、御自ら…?」

「魔法ではなくて。
自分の手で、ね――
やろうと思えば案外できるものだな」

「…まったく、あなたともあろう御方が。
あのようなバイト娘のため、
何を好き好んで」

李順は小さい声でため息をついた。

黎翔はすでに完璧に支度を整えていた。

「――李順。今日の予定だが。
今晩の大臣との予定はキャンセルだ」

「…えっ!?」
せっかく完璧なセッティングをしたというのに――
李順は眉をひそめた。

「夕鈴…彼女を
晩餐にエスコートしなければ、ね。

彼女が収穫祭までにカボチャを見つけてくれることが
今や、私の最優先だ」

(カボチャ、カボチャ、カボチャ…
――ただの古い因習の一つにすぎぬのに。
どうも、こう我々はあのようなものに
振り回されなければならないのでしょう、ね)

それでも、この方が望まれるというのであれば…。

「――はあ。
あのような小娘に、
そこまで期待されてよいものかどうか…?」

「…だが、見極めたいだろう? お前も。

彼女が本当に金色兎なのか。
それともただの無知で無邪気な白兎なのか。

――我々の結界を破ったのはただの偶然で
ただの白兎が、たまたま、あの時、あの場に、
紛れ込んだにすぎないのか、ね」

「…」

李順は青ざめたようにも見えたが、
静かに黎翔とは視線をはずして部屋の隅を見つめていた。

「お前は、どちらの兎であることを望む?」

「願わくば…」

李順は言葉を濁した。

この話題は振り切ったとばかりに
黎翔は首を振った。

扉に向けて振り返る。

「――時間だな」
コツ、と黎翔は革靴の音をたて歩きはじめた。

「――興味深い。
私は、彼女のことが
知りたい」

端正な顔にうっすらと微笑みをたたえた黒髪の青年。

李順は、ゾクリ、と背中に冷たいモノが走った。

どれほどこの方と長く過ごそうと
圧倒的な存在である彼に、本能的に怯えるこの気持ちは抑え込むことができない。

伝説のアングマールの魔王(Witch-king of Angmar)を凌ぐ魔力を持つ、とすらいわれる、魔法使いの王。

21歳というのに百選練磨の年長者を足元に屈服させるそのオーラ。
足元に引き摺っている影は、深淵なる暗黒の虚無。
彼は絶対的な闇と孤独と氷のような冷気をまとっていた。


――狼陛下。
彼の一日が今日も始まる。



*
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

ぴょんさま

突然の展開、失礼いたしました(笑

夕鈴さんが駅にたどり着いたあとから
陛下のマジック・ワールドに紛れ込んだ模様…?

兎さん、何色か
お楽しみに―――。


まるねこ様

農場はマジックワールド(*´ω`*)

カボチャ、カボチャ
…妙に多く出てきますが…
はてさて。←

検索フォーム
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
カレンダー
04 | 2018/05 | 06
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
プロフィール

おりざ

Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

アクセスカウンター
ただいまのご来訪数
現在の閲覧者数:
ありがとうございます
■(キリ番)カウンターでキリのよい番号に遭遇された方はお気軽にご一報ください^^

■オフ活動■ おりざの本[織座舎] 一覧 → こちら
陛下の花園へようこそ
~ご注意~
≪以下あらかじめご了承のうえ、本サイトをお楽しみください。≫

・原作者様ならびに出版社様とは一切関係ございません。
・此のブログは日々の日記並びに二次創作作品の倉庫、管理人本人の自由な自己表現の場です。
・この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件、史実などにはいっさい関係ありません。また原作と異なる設定など、表現、その他多数捏造あります。

・二次創作の場です。
・ブログ内容に関する苦情は受け付けておりません。出来る限り注意は払う意向ですが個人的表現の場という位置づけの運営上、万人に対して万全を保障するものではありません。
・読む際は各作品の冒頭の説明・ご注意等にてご判断ください。読後いかなる不都合が生じても当方はその責任を負いかねます。

・ご感想お待ちしております。

・当ブログ内の作品の著作権はブログ管理人に属し、無断コピー・無断転載は固く禁じます。
Twitter
 
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。