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狼のーかの花嫁(4)

クワを振るう陛下を書いてみたかったんです。
トラクターで広大な農地を耕すコックーあるいはコンバインで見渡す限りたわたに実る穀物を刈り取るコックーとか夢は広がったんですが。いつか出してみたい(けど今回は出番なしのような気がします)。


【現パラ】【おや謎の一端が…?】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(4)
* * * * * * *

彼女の額に、彼の唇が押し当てられた。

(…え!?)
ととまどっている夕鈴の耳元に
低い狼陛下の声が響いた。

「夕鈴――。
カボチャをくれないと
イタズラするよ?」

陛下の唇が離れたとたんに、
その部分だけがカアァっと熱をもった。

「なっ!?―――… 」

カボチャをくれないと
いたずらするよ
―――カボチャを
…夕鈴?

カボチャを…―――

頭の中を何度も何度も低い声で陛下の言葉がめぐり
朦朧として意識を手放した夕鈴の体がぐらりと傾いだ。

黎翔はその体を腕に抱きかかえると、
力なく崩れ落ちた彼女を見下ろした。

「…いい子だ」

彼女の髪を撫でつけると、黎翔は彼女の膝の裏に腕を回し抱え上げ、
寝台に、その体を横たえた。


* * * * * * *

薄明りが差し込んでいた。
鳥の声が聞こえる。

「…鳥」

コッコッコッ コッコッコ
コーッ! コッコッ!

「ニワトリ?」

(―――額が、熱い)

夕鈴は、ジンジンといたむそこに手を伸ばした。
熱でも出した?
それとも…どこかにぶつけたかしら?

額に左手のひらが触れたとたん、
それまでジンジンと熱を持っていた額がすっと冷えるように沈静化した。
「う、ん…」
夕鈴は目を覚ます。

豪華な白いレースの天蓋。
ふかふかの羽根布団に、手の込んだ手作りパッチワークの上掛け。
見慣れない風景。
見慣れない寝台。

「…えっ、と?」

(昨日、確か。バイト先にきて面接を―――
臨時花嫁のバイトで…
飛び出して、変な人たちにいっぱい会って、歩き疲れて…
お風呂に入って、
陛下が部屋に来て―――
陛下に抱きしめられて
陛下は大きくて形の良いカボチャが欲しくて
へ、へ、陛下が私のおでこにキス―――!?


ぎゃーーーーっ!?)


記憶にないが。
まさか―――!?

夕鈴は蒼白になった。

バッと掛け布団をめくる。

いつものちょっとくたびれたベージュの兎ガラのパジャマが視界に入る。
慌てて胸元を手で押さえるが、きっちりボタンが掛けられている。
大きな寝台の真ん中。
足元も特に乱れた様子もなく、自分はまっすぐになってすっぽりと布団のなかで寝ていたようだと分かる。

ちょっとホッとしながら、朝の光が差し込む窓辺の方を見る。
白いレースのカーテンが風で揺れる。

室内を見渡す。
昨日は夜、照明に薄暗く照らし出されていた部屋も、朝の透明な陽光の中で見るのはとても新鮮で違って見えた。

無駄に広いスイートルームの室内はすっきりと広く、白と金と淡いグレイッシュピンクでコーディネイトされていた。ふかふかの白いじゅうたん、マントルピース、ソファーと応接セット。机の上には果物がどっさり載った足つき皿。ウォーキングクローゼットとクラシカルなチェストの上には花瓶に活けられたアレンジメント生花。
金のフレームのベッドには白いジョーゼットとレースの天蓋がかけられ、
(まるでシンデレラになったみたい)
堅実に生活してきた夕鈴にとって、今までの生活とはかけ離れた空間だった。

窓の外から、ニワトリの声に交じって、軽いリズミカルなサクッ、サクッという音が続いていることに夕鈴は気が付いた。

ベッドにかけられていたガウンに袖を通し、スリッパをつっかけると夕鈴は開きテラス窓に手をかけた。

18階のテラスに出ると少し風が強かった。
煽られる髪を手で押さえつけ、ガウンの前合わせをきつく引き寄せた。

そこは空中庭園…正確には農園(ガーデン)だった。
音の主はすぐに見つかった。

クワを振るって土を耕していたのは狼陛下とよばれる背の高い青年だった。

彼はこちらに気が付くと、クワを下ろし首にかけたタオルで軽く汗を拭きながら声をかけた。

整地された畑にはいろいろな作物が植えられていて、柵の向こうにはニワトリも見えた。

「やあ、おはよう。
よく眠れたか?」

「…お、お、おはようございますっ!」

昨日、額にキスをされて―――その後の記憶がない夕鈴は、急に昨晩のことが思いだされて真っ赤に頬を染めた。

「へっ、陛下もっ! よくお休みになられましたか?」

「ああ、ぐっすりと。
昨晩は二人で過ごせて楽しかった」
ニコ、と笑う笑顔が眩しい。

あれほど恐ろし人と思っていたはずなのに、
なぜか胸がキュンと高鳴ってしまった夕鈴。

(ぎゃー、なに、この女たらし!?)

「あっ、あの、その―――っ!!
私、良く覚えていないんですがっ
まさか、その―――」
しどろもどろだったが、とにかく疑念は早くはらしておきたい。

「…ああ。私も疲れていたし。
すぐ自分の部屋に戻った」

指刺された方を見ると、空中庭園のテラスを挟んで夕鈴の部屋と対になる部屋が見えた。

「…あっち。
僕の部屋、ね。
こんどは夕鈴が、遊びにきてくれる?」

急に子犬の、キュンキュンと甘えたような顔をするものだから

「へ、へーかがお望みならば!」
と夕鈴もついツンケンしながら答えてしまった。

クスッと笑う黎翔。

「こっちにおいで」

テラスの端には石窯が置かれており、かすかな煙が上がっていた。

黎翔が耐熱手袋を付けると厚い鉄の扉を開け、火掻き棒で石窯の中からコロコロ焼き芋を取り出した。
厚切りのベーコンとソーセージの脂が香ばしい香りを放ち程よく焼けていたフライパンを石窯の中から引っ張り出すと、黎翔はポケットから生みたての卵を2つ3つ取り出し、パカンと割ってフライパンごと石窯の中に突っ込む。

ほどなくしてジュウジュウ音をたてて目玉焼きが出来上がった。

「ご飯、食べる?」
ピョコン、と黎翔の頭に耳が生えたように見えた。
夕鈴は一瞬あっけにとられた。
(ま、幻、よね―――?)

「…こ、こんな風にいつも朝ごはんをご自分で?」
とりあえず、会話をつづけなくては、と夕鈴は気丈に振る舞った。

「今日は特別。
お嫁さんが一緒に食べてくれる
初めての食事だからね」

夕鈴は真っ赤になった。
昨晩、彼との夕食をすっぽかしたのは夕鈴だった。

少し悪そうな顔をした夕鈴のことを気に留める風もなく
機嫌よさそうに黎翔はベーコンと目玉焼きを二枚の皿に移した。

手袋をはめるよう促され、焼きたての芋を渡される。
二つに割るとばふっと湯気があがる。
甘いにおいが立ち込める。

「…いただきます」

いつのまにか朝食の用意が載ったサイドテーブルがあって
黎翔がポットを傾けると、入れたてのコーヒーがカップに注がれた。

「トースト、搾りたてのミルク、オレンジジュース。…どれでも、好きなのを。なんなら全部」
夕鈴はテラスのテーブルの方へとエスコートされる。

「これ、陛下が用意されたんですか?」

「ゴメン、ネタバラシしとくと―――ぼくは料理したことないから。
朝食の準備はしてもらった。
ベーコンと卵は旨くやけただろう?
…芋も窯に放り込んだよ。
初めてにしちゃ、上出来だな」と笑った。

―――陛下、手作り!?

「じゃあ、こんどは私が料理作りますね?」

「ああ、それは楽しみだな」
ピョコン、と頭に小犬の耳が生えたように見えた。
(―――幻影?)と夕鈴は目をこすった。

「庶民の料理しかできませんよ?」

「うん」
黎翔はニコニコと嬉しそうに小犬の尻尾を振っている。
どうみても、本当に尻尾が生えているようにしか見えない。

「陛下がいつも食べていらっしゃるような、料理人のお料理とちがって。
ほんと、特にどうってことないものしかできませんよ?」

「…うん。そういうのが食べたいな」

耳も尻尾も、もうどうみても小犬陛下は幻じゃないような気がするが
そろそろ夕鈴は詮索する気力もなくなってきた。

笑いながら黎翔は夕鈴に椅子をすすめられて座らせた。

これまでレディ扱いを受けたこともない夕鈴は、あまりに自然に振る舞う黎翔にドギマギした。手の触れるほど近く並んで座るのもちょっと恥ずかしかった。

18階のビルの上からの眺望は素晴らしく、
地平線まで広がる農地を見下ろして二人で焼き芋を食べた。


焼き芋をほおばり、ミルクの入ったマグカップをごくんと飲み干した夕鈴。
おずおずと話を切り出した。

「…お、お話を蒸し返すようですが」

「ん?」
尻尾がパタパタ振られる。

「…さ、昨晩は―――」

黎翔から極力遠くに視線をそらしたまま、消え入りそうな声で尋ねる。

夕鈴は真剣なまなざしで青くなったり赤くなったり…
その様子が黎翔はおかしくてたまらない。
耳がピン、と立っている。

「…昨晩? ああ別に何も」
黎翔がさりげなく答えると、ほーっと大きな安堵の吐息を吐き出した。

「ほんとに、何もなかったんですよね?」

重ねて問うと、黎翔の耳と尻尾がタランとうなだれて、消えた。

(あら?
幻の尻尾と耳が…消えた?)
夕鈴はきょとんと黎翔の顔を見つめた。

今さっきまで見えていた耳と尻尾がなくなって…
というか、そもそも耳も尻尾も、幻だったのだ、と夕鈴は無理やり自分を納得させた。

「うん、何もないよ?
だって君すっごく疲れてたでしょ?…すぐ寝ちゃったし。
ぼくもすぐ部屋に戻ってぐっすり朝まで」

「ほんとの、ほんとーに?」

ジトリと、下から黎翔を見上げる夕鈴。
羞恥心をごまかすための虚勢なのか、赤らんだ頬をぶっと膨らませ、その様子はなんとも「変な顔」。
『冷酷非情の狼陛下』とよばれる男を、いまだかつてこのような目で見たものがあろうか――。
あまりにも意外すぎた。
おかしくて、笑いがこみあげてくる。
黎翔は彼女のことを苛めたくてウズウズしたけれど、下手にいじって『嫌われたくないな』とも思った。

「―――何かされたかったの?
妻の願いとあらば、助力は惜しまないが」

わざと子犬から狼に。声音はスルリと切り替わる。
いかなる人物をも屈服させる狼陛下。
その冷酷な声すら、夕鈴は果敢に突っぱねた。

「いえっ!! それには及びませんっ!」
びしっと手をたて、大きな声で真っ向から断る。

実に変な顔をした彼女。
その反応は今までつきあったどのような人種にも当てはまらなく、型破りで実直。

それが黎翔にとってとても新鮮で―――今まで見たこともない、目新しいオモチャを手に入れたような感覚だった。

「…まったく夕鈴。
君って、面白い。
面白すぎだよ―――」

ぶわっはっは、とお腹をかかえて笑う黎翔。

(ほんと、夕鈴。君は不思議な力の持ち主だね。
―――だから、試してみたくなる)

心の底から笑い転げる自分を見つめる
冷えた目の自分がいることも
…彼は知っていた。


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Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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