FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

狼のーかの花嫁(2)

どこまでゆくのか?
はたしてハロウィンにたどり着けるのか?

宜しければどうぞ。



【現パラ】【研究都市編?】【カボチャの謎】【不条理】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(2)
* * * * * * *

夕鈴は振りかえると、もと来た道をソロソロと戻り始めた。
しかしやはり躊躇する。

目に浮かぶのは、今あったばかりの、黒髪の『怖いひと』。


(…怖くて「ムリです」って言えなかった…)

夕鈴はフラフラと柱にもたれ掛かった。

汀夕鈴。17歳。
弟の塾の費用を稼ぐため、割の良いがあると聞いて、
収穫作業真っ只中の広大な農地が広がる
ここ、白陽へ出稼ぎにきたバイト娘。

それが、いきなり「花嫁」になれと来たもんだ。

もちろん、あくまで縁談除けのバイト。
だけど、相手というのが…

――その眼光で人々を屈服させる
他を寄せ付けない孤高の王…

(高賃金にはちがいないのよ…
ああ、でも――)

瞳にはちょちょぎれた涙が浮かぶ。

「~~~~やっぱ
辞めるって言ってこよう!」

バッと顔をあげ、思い切ってもう一度奥へと進む…

(あっちのメガネの人に!!
陛下がいたら、また次の時に――)

どうか、もう、あの怖くて冷たい陛下が、
あの部屋に居ませんように。

祈るような気持ちで夕鈴は廊下を進む。
息をひそめて、足音を立てないように…

部屋の傍までくると、声が聞こえた。

「て
ゆーかさあ」

(ん?)

夕鈴は耳をそばだてた。

若い男の人の、くだけた調子の声。

「この作戦、僕が休むヒマなくない?」

「まだ気を抜かずに!
人払いが済ませてあるとはいえ…」

「だってー」

「彼女にはそれ、ばれないでくださいよ!?」

二人の男性の、会話。
…ばれないでくださいよ、と敬語を使っているのは
さっき、いろいろバイトの説明をしてくれた李順、というメガネの人の声のよう。

…ということは、もう、一人の声――

(ん!?)

この声――

「彼女にも、でしょ?」

部屋からひょいと顔をだしたのは―――

「あ」

「へ!」

紅い瞳の、黒髪の。
長身の男性――

夕鈴は思わずぱちくりと目をしばたたかせた。

「あ――――――
…ご」
「へい、…へ?」
「め――ん!
李順―― お嫁さん、まだいたよー」

やっぱり、さっきの、あの、恐ろしい狼陛下、その人だ!!

「えっ
なっ
…部屋にお戻りくださいとっ!!」

メガネの男の人が慌てて飛び出してきて
夕鈴と目がバチンとあった。

「あああああ、作戦がああああっ」
李順は頭を抱えて崩れるように床に膝をつく。

「やっちゃったー」
黒髪の青年は笑いながら頬を染めている。

「!?」

(さっきの人と
なんか別人なんですけど――!?)

先ほどまでの凍るような空気をまとった狼陛下ではなく、
まわりに小花を散らしながら頬をそめて
人畜無害系のホワホワした空気を醸し出してる…

狼っていうか、

小犬――!


「兄上の代で荒れ果てた土地も、こうして陛下の手腕で盛りかえし、
ようやくこの国本も落ち着いてきた矢先。
みなの関心はもっぱら本家の嫁についてです。
――しかし、嫁をもらって『狼陛下』が実はこんな方だとばれるのはとてもまずい」

ジッとみつめる夕鈴に、にこーと笑いかえす優しげな青年。

先ほど椅子に座って、あたりを凍えさせていた人と同一人物とはとても見えない。

「…つまり『冷酷非情な狼陛下』って…」

夕鈴が確認をすると、メガネの男はシレッとした表情で答える。

「――他国やこの地区の生産者になめられないための
イメージ戦略です」


「縁談断るたび理由きかれて困っちゃってね。
仕方ないから一時しのぎに臨時花嫁(バイト)雇ってごまかそうかと」

『そんな――』
メガネの人が恐ろしい表情で締めくくる。

「今回の件…
うっかりでも口を滑らせたら――」

――契約違反で
 十倍返し!?
そんなばかな~~~!!!

父さんのことだから、もう借金返済に使っちゃったわよ!?


* * * * * * *

「今日はお疲れでしょう。
夕食までゆっくりお過ごしください」

「じゃ、また夕食の時に――」
ぴらぴらと手を振られ、あっけにとられているうちに二人は部屋から出て行った。

呆然としながら、ぽつんと一人残されていると
控室の方からきれいな秘書さんが声をかけてくれた。

「どうぞ、お部屋にご案内いたします。
お持ちになったお荷物は、すでに運び込んでありますので――」


(ぜったい、詐欺よ、こんなの。
表向きっていうのがせめてもの…

――でも。

まんまとはまってしまったのが悔しい!)

夕鈴は腹が立って、駆け出した。

エレベータに乗って1階まで降りる。
無機質なエントランスを一気に駆け抜けて、外に出る。

風が強い。

白亜のビル群の周りはグルリと広大な農地に取り巻かれていた。
無性にカボチャ畑が見たかった。
夕鈴は走った。

だけど、走っても走っても、カボチャ畑にはなかなかたどり着けなかった。
研究都市エリアは広かった。
ようやくビル群の端までくると、今度はガラス張りの温室群が見えてきた。

ガラスが陽光を反射して、きらきらしている。

外からガラス越しに覗き込むと、
白衣を身にまとい黒い髪をポニーテールにくくった細身の男性が一人いた。

バインダーを片手に温室内を歩き回り、何やらカチカチと手の中のカウンターを鳴らしてはバインダーに挟んだ用紙に記入している。

温室の中央には大きな木がそそり立っており、枝々にはたわわに実ったトマトが鈴なりだった。あまりに立派な様子だったので思わず夕鈴は温室内に踏み込んでしまった。

「…トマトって、木の実だったんですね」
夕鈴が感嘆の声を上げた。

のんびりと話しかけたつもりだったのに――

「あなたは馬鹿かっ!!」

とてつもない勢いで怒鳴られ
夕鈴はザクッと胸を切り裂かれたような思いがした。

(見も知らぬ人にむかって、
いきなり、馬鹿か、ですってぇ~? 
この傍若無人男――!)

夕鈴は唖然として男の顔を見返した。

「トマトといえばっ!
学名Solanum lycopersicum、南アメリカ原産のナス科ナス族の多年生植物であろうっ!
トマトは野菜であり、野菜とは副食物として利用する草本類の総称と定義されるっ
そんなことも知らんのか、あなたは」

面食らった夕鈴は、一二歩、後ずさった。

(トマトの学名なんか、いちいち知らないわよ――!!)

関わりたくない人種――だけど、研究に没頭する熱い魂は感じられた。

「…ええと。トマトが野菜というなら、たぶん私もそうだと思っていました。
トマトが野菜で何よりです。
あの――もしよかったら、私とてものどが渇いてるので
その立派なトマト、一つわけていただけませんか?」

これだけあるなら、一つや二つ。
嫌味代として貰ってやらねば――。

夕鈴は内心ピキッと額に筋をたてながらも
あいそ笑いをして、下手に出て見せた。

「何いっ?!」

ポニーテールの男はギッと夕鈴を睨んだ。
そのすさまじい怒気に、またもや夕鈴は一歩後退した。

「それは…私がトマトの水耕栽培でギネス記録を狙っていると知っての嫌がらせか――?
陛下の御為、世界一達成まで、あと3個と迫っているとこの大事なときに――」

なんだか、精神的に疲れたわ、…と夕鈴は白旗を上げた。

「…いえ、そんなに大事なものだったら、結構です」

「のどがかわいているのなら、隣のイケスをのぞけば
ヒマな男が茶でも出してくれるだろう。
私は今手が離せん!」

とポニーテールの男はプリプリした表情で、
――それでもなんとなく親切なことを教えてくれたので、
夕鈴は「忙しいところ、お邪魔いたしました」と言って温室を後にした。

隣のイケス、と聞いたとおり、
温室の隣の敷地にはコンクリートの壁がそそり立っており
太いポンプからザバザバと音をたてて地下水が汲み上げられ、
人工池がいくつも作られていた。

「…イケスって、これ?」

「おや、お客様?」

イケスの端にしゃがみ込んでいた人が立ち上がる。

綺麗な人だった。

淡い栗色の長い髪を背中に流しやさしげで色白な青年。
やはり白衣を着ている。

「餌をやっていたんですか?
…大きいお魚がいっぱいですね」

「ああ、それはニジマスの四倍体のメスですよ…」

「へ?」

「いえ、三倍体とか、四倍体とか、
貴女にとってはどうでもよいことですね…」

ふわっと笑うと「どうです、お茶でも?」と研究棟の方を指さした。

夕鈴は歩き続けでのどが渇いていたので「では、お言葉に甘えて」と、青年の後に続いた。

「突然おじゃまして…」

「構いませんよ?」
ふわりと笑う。

「私は氾水月。魚類の生態を研究しています」

「白陽は農業が盛んな土地だと聞きましたが、魚類の研究もされているんですか?」

「まあ、いろいろ。陛下はさまざまな分野に積極的に取り組まれ、研究にも多額の投資がなされていますから…。
私はのんびりと、ですけどね」

「はあ…。ちなみに水月さんはどんな研究を?」

「月の綺麗な夜にね、魚たちに笛を吹いてやるんです。
そうすると大きくて味の良い魚が育つ、という研究です」

「――はぁ?」

「もちろん、笛に限りませんが…
ようは、質の高い音楽を聴かせることが重要なんです」

「…はあ?」

夕鈴は手元の茶をすすった。
ザバザバとイケスに水をくみ上げる音だけが耳に染み渡る。

「…美味しいです」

研究内容はよく分からないが、
きっと水月さんは心のきれいな人なんだろうな、と思った。

「よかった」
細い指で茶器を扱い、水月はニコリと笑い返す。

「あの私、この白陽には初めて来たんですけど…。
知りたいんです。白陽国の王様と呼ばれる――」

「陛下?」

水月さんはビクッと肩をすくめて、怖そうに青い顔をして眉をひそめた。

(そんなに、怖がられている人なんだ。
あの人――。)

本当の姿を知られないように
『冷酷非情の狼陛下』として振る舞って、
だれからも恐れられているという…黒髪の青年。

「はい」

夕鈴はゆっくり考えながら肯定した。

「どうして? 私はあの方が恐ろしい」

「どうして、っていうか…その、あの」

…縁談除けのバイト嫁、の話はできない。
でも、陛下がどんな人なのか、夕鈴は知りたいと思った。

「お好き、なのですね? あの方が」

「…えっ!?」

水月の言葉があまりにも突拍子のないものだったので、
夕鈴は目を丸くして驚いた。

(――好きもきらいもないでしょ!
いま、詐欺まがいの目にあったばかりなんですけど?)

しかし、臨時嫁として雇われて…
このあと誰にどういう経路で話が広がるのかわからない。

今は下手な返答もできない。

(縁談除けのバイトだなんて、無茶言って、人を騙して!
嫌い、きらい! きらい…なはず、
…でも、
あんな優しそうな――)

モジモジしながら、難しい表情で一人百面相をしている少女に
水月は苦笑をしながら答えた。


「――陛下は、おおきなカボチャをお望みです」

「おおきい、カボチャ?」

「形よく、色ツヤよく。
そしてなにより一番大きなカボチャ…です。
なんといっても、
21歳の収穫祭ですから、ね…」

水月さんはそういうと、窓越しに遠く見えるカボチャ畑を見遣った。
夕鈴は飲み干した茶碗とトンと机に置くと、
水月の視線を追って広大なカボチャ畑を見つめた。

「…え、と??」

何がなんだかわからないと首をひねりながら水月の方を振りかえると、
水月の背後の飾り棚の高そうなツボの中から、タコがはい出してきた。

「――タコ!」

夕鈴が驚いて指差すその先を
水月はまったりとした表情で見定めた。

「ああ…この子のこと、忘れていた。
そろそろお散歩は終わりだというのに――」

水月はツボごと持ち上げると扉をあけて、水槽がずらりと並んでいるラボの方へと歩きかける。

「…すみません、まだ世話が残っているので。お茶会はこれまで、です。
あなたがこの白陽で一番大きなカボチャを探すことができますように」

「え?
私が探すんですか?
大きなカボチャを…?」

「もし、あなたがお気に召したカボチャをみつけたら
ここに持っていらっしゃい。
わたしが月夜の晩に笛を吹いて、もっともっと大きくして差し上げます」

フフフ、と水月は笑った。
あはは、と夕鈴も笑った。

さっきの魚のはなしの延長線上のシャレなのかしら――?

研究者さんって、何考えてるのか分かんない。

水月の言葉が冗談なのか本気なのかわかりかねながらも、面白い人だと夕鈴は思った。

(笛を吹いて、大きく…って。
魔女にでもなったつもりかしら?
でも、水月さん、この人ならやりかねないわね)

夕鈴は一瞬想像して苦笑した。

夕鈴は腑に落ちないことばかりだったけれども、
そろそろ腰を上げるころあいだった。

「お邪魔いたしました。
お茶、美味しかったです。ご馳走様でした」

「――またいつでもどうぞ」

水槽にタコの入ったツボを降ろしながら水月は振り返り、優しい微笑みで夕鈴を送り出した。

水産研究棟を後にすると、もう研究都市の端となり、
夕鈴はついにカボチャ畑のヘリにたどり着いた。

大きなカボチャがごろごろと畑に転がっていた。

大きなカボチャ。
21歳の収穫祭に、形よく、色ツヤよい、大きなカボチャが要るって…どういうこと?

夕鈴の心の中には新たなる疑問が湧き上がる。

あんなに怖かった狼陛下。
コロッと子犬のような優しい笑顔をみせて――

そのくせ、人をだますんだ。

知らない、あんな人のことなんか――!!

プンプン怒りながら、夕鈴はカボチャ畑を突っ切っていった――。


*
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
カレンダー
10 | 2018/11 | 12
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
プロフィール

おりざ

Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

アクセスカウンター
ただいまのご来訪数
現在の閲覧者数:
ありがとうございます
■(キリ番)カウンターでキリのよい番号に遭遇された方はお気軽にご一報ください^^

■オフ活動■ おりざの本[織座舎] 一覧 → こちら
陛下の花園へようこそ
~ご注意~
≪以下あらかじめご了承のうえ、本サイトをお楽しみください。≫

・原作者様ならびに出版社様とは一切関係ございません。
・此のブログは日々の日記並びに二次創作作品の倉庫、管理人本人の自由な自己表現の場です。
・この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件、史実などにはいっさい関係ありません。また原作と異なる設定など、表現、その他多数捏造あります。

・二次創作の場です。
・ブログ内容に関する苦情は受け付けておりません。出来る限り注意は払う意向ですが個人的表現の場という位置づけの運営上、万人に対して万全を保障するものではありません。
・読む際は各作品の冒頭の説明・ご注意等にてご判断ください。読後いかなる不都合が生じても当方はその責任を負いかねます。

・ご感想お待ちしております。

・当ブログ内の作品の著作権はブログ管理人に属し、無断コピー・無断転載は固く禁じます。
Twitter
 
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。