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超月(スーパームーン)

面白かったですよと
さりげなく
あなたの
そんな一言が嬉しいです。
ありがとう。




【ねつ造】【少し先】【再会】【微糖】

* * * * * * *
超月(スーパームーン)
* * * * * * *


解雇したバイト妃が
よりによって晏流公の元から王都へ戻った、という報告をうけた国王

「晏流公の元、から――?」
とつぶやくと、
一瞬、空中に放電でもしたかのように室内の空気を小さく震わせた。

報告をしていた側近は、
どんな反応が国王から返ってこようと耐えるつもりで
心身ともに防御の姿勢を取っていたつもりではあったが
その一種独特な緊張から逃げることは適わなかった。

「それで、今。どこに?」
と問えば

「さすがに後宮にすぐ戻すというわけにもならず。
王宮からほど近い屋敷に
仮に身を寄せていただいております」

「…どこだ」

「――今から、まさか?」

「馬鹿な。仕事を放り出していくわけがあるものか。
彼女のバイトは終わった。
とうの昔に、
…切れている」

李順はホッとした表情で、緊張していた肩のこわばりを緩めた。

「道理をわきまえておいでなら
まこと結構なことですよ、陛下」

正確には
――切れている、ではなく
切り捨てた。――のだ。

この方は、冷酷非情の狼陛下と呼ばれし恐ろしき王。

今まで通り、切り捨てる、とその言葉通り。
王本人が、自身をそういう男だと言いきりながら
ガラにもなく、狼は獲物を見逃した。


李順は報告ついでに、彼女の保護されている館の場所を告げたが、
黎翔は無表情なまま、再び筆を動かしつづけており
聞いているのかいないのかすら、李順には判断がつきかねた。

黎翔はその後も
あれほど寵愛を示した臨時妃の動向について何一つ尋ねることなく
目の前にある限りの仕事を黙々とこなした。


自室に戻る。

積みあがった懸案事はさばいてもさばいても
増えこそすれ一向に減る様子もない。

王とは、そういうものだ。
そう、あらねばならぬと、
自分自身、疑うことなく努めてきた。

なのに
苦しい。


自室の窓から外を眺めるに
王宮の瓦に夕焼けが美しく反射し
雄大な空を雁の群れが渡る。


ふらふらと、黎翔は立ち上がる。

厩へ足を向けると、舎人が何事ですかと血相を変えて駆け寄る。
愛馬に鞍を置いてくれと頼めば
もう夕暮れ、すぐに暗くなりますよと押しとどめられる。

構わぬ、夕月を見にそこまで行くだけだ。と言い残し
半ば強引に鐙を蹴り馬を歩かせた。


月見、などと――
星見を占星術師が今日はことのほか大きな満月が上がると言っていた。
ぼんやりとそんなことまで思いだす。

なんでも詰まっている頭だ、
そんな知識クソくらえ

何もかも知ろうと、手に入れようと
ただ一つ、
彼女の笑顔はもう手に入らない。


「…見せて」

もう夕暮れ時で、ひんやりとした風が吹いていた。
ちぎれた薄雲が流れて、上がったばかりの月にまとわりついていた。
大きくて不気味なほどの月。

月に重なるのは、彼女の笑顔。

もういちど、顔を。
君の笑った顔を、見せて?

馬は賢くて、彼の指先がかかる手綱を通して、彼の意を汲む。
土を押し固めた路を軽妙に蹴る振動だけがあたりを包む。

暮れなずむ黄昏時
かすかな残照で赤く照らされた静かな往路は
まるであの世とこの世のあわいの世界のようだった。

その時。
黎翔は馬の耳がぴくと動いたのを見逃さなかった。

突然人が細い横道から飛び出してきて、
馬の進路のすぐ前を遮った。

「…!」
黎翔が軽く手綱を引き絞れば、よくよく調教された馬は
即座に主人の意を解し、横走りをしながら接触を避け、動きを止めた。

飛び出してきたのは、小柄で長い髪の少女

栗色の髪は頭上で2つの髷が結われていた。
町娘の簡素な衣を身に着け、手には何か包みを抱えていた。

馬に引っかけられそうになったにもかかわらず、
意に介すふうもなく、一目散に走り去る。


もう門が閉まるというのに――
こんな時間に、娘一人で…


もしや。
いや
まさか――

空気が圧縮されて、息ができない。

黎翔は心臓が止まりそうだった。

慌てて娘の後を追って馬を走らせ、
その娘の前に回り込んだ。

横になった馬体で行く手を塞がれ驚いた娘は、
抱えた荷物で身を固めながら

「何するのよっ!?
ちょっと、危ないじゃない!」
と気丈に叫んだ。

ああやはり。
この声は―――

馬体から上半身をスレスレまでかがめ
女の顔を覗き込む。

「夕鈴、か?
――顔を、見せて」

彼女は、あっけにとられたように大きく目を見開いた。

へっ…!?

と叫ぶ声が聞こえたより早く、
馬上から彼女の体をさらった。

へっ…× ××× …ぎゃっ!?

相変わらず、あられもない大声に

よしんば夢であろうと再会を分かち合うこの瞬間に――と
黎翔はぷっと噴き出す。

ジタバタと抗う暖かい肉塊。

現世とあの世との境目だろうと。
超月の見せる幻影であろうと。
今、手放すことはできない。


夕鈴?


むちゃくちゃに抱えて、強引なことをしたものだから
短い裾は乱れて、髪は逆毛だって、
彼女はぶるぶると震えていた。

抱きしめて。
髪を指ですいて、撫でつける。

額がうっすら汗ばんでいて
大きな瞳は月の光を反射していた。

もう、黄昏も終焉を迎え
あたりはぼんやりとした月明かりに照らされた世界だったけれども
君の顔だけは
くっきりと白々と浮かんで見える。

赤い唇も。
こころもち上気した頬も。
変わらなくて、ホッとする。


いつのまにか雲はすっかり流れ去って
月ときらめく星々が空に浮かんでいた。


ごめん。
夕鈴。

一人にして、ゴメン。

ダメなんだ
君がいないと。

狂おしく抱きしめて
許しを請う。


軽い抵抗があって
彼女は王を押し返す。


ダメですよ
そんなこと言っちゃ。


この期に及んで
距離を置こうと必死な彼女に
彼はすがった。

彼女が頑固なことは
これまで嫌というほど知らされてきた彼にとって
正念場であったのは確か。


なのに、兎は。


私は、玉砕覚悟なんです。
陛下に好きって、一言だけお伝えできれば
本望なんです――と。


抱きしめる腕の力が緩んだ。
彼女を束縛する必要はもうない

泣くなんて可笑しいや
アハハと笑って
阿呆みたいに笑って。


一緒だよ。
「玉砕なんか、させない」


腕の中に君がいれば
もう、寒くない。


「ねえ、夕鈴。
笑って――」


超月。
こんなに明るい夜はないな。


君は何を願う?


このまま奪い去りたい。
君が欲しい
全部。


*
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そのまま……すべてを奪い去ってください。

甘いね☆
あま甘……
ごちそうさまでした。



……続き希望←ヲイ

No title

静かな月の光に包まれた空気の中で
息づく陛下の心が、切なくて愛しくて。
(只今陛下溺愛月間です。)
おりざさんの言葉ひとつひとつが
温かくて、優しい気持ちになれました。

願わくばこの二人に祝福を。

さくらぱんさま

続きは…
お二人だけの秘められた世界なのですわっ(*´m`*) きゃっ♪

羽梨様

すてきなコメントをありがとうございました。

祝福を――。
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Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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