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秘すれば花なり(5)最終回

100万HIT記念、凛さまリクエスト「女官長と夕鈴の出会い」
最終回です。どうぞ^^

【オリキャラ】【ねつ造】【裏方】
密やで静かなエンディング。

* * * * * * * * * * *
秘すれば花なり(5)
* * * * * * * * * * *

「これ全部『妃宛て』ですか…」

最近なんでか贈り物が増えているのよね…とお妃様は不審げなお顔でつぶやかれる。

「――今まで送られてきたのは暗殺者だったのに…
どういうこと!?」

無邪気に首をかしげる妃の横で控える女官長は
聞いているような聞いていないような、いつもの穏やかな微笑みのまま佇んでいた。

* * * * * * * * * * *

隠密の浩大には、後宮に住まう女たち至近には近づけない。

平静、妃の外周を守り固めるのは、部屋付きの女たちということになる。

もちろん、後宮で最も気位の高い地位であるから、
その職についているのは
国中から選び抜かれた容姿、貴族の家柄、文化教養に通じ作法を心得た生え抜きの者たち。

その女官の長たるが、この美しき人、静麗。

歳は妃の倍以上も離れているということだが、
抜けるように白い肌は白磁のようにつややかで
黒々と滴る黒髪を結い上げ、端正な顔立ちにしなやかな肢体。
あくまでも気品あふれたなめらかな立居振舞は流れる舞のようですらあり。
文化、教養、医学、幅広いジャンルに造詣深く。

配置が代わり、後宮を取り仕切る女官長自らが唯一の妃付きになってすぐの頃は
なにかにつけ妃がぽかんと口を開けてうっとりと見惚れていたものだ。


生まれ育ちの良い女官や侍女らにかしずかれ、非常に居心地の悪い思いをしていたのが当の妃、夕鈴

『お妃教育のお時間です』とメガネの上司に呼び出されるたびに、彼女はびくりと震え、ため息をついた。
(だって妃なんて、柄じゃないもの…)
人に聞こえないよう、ブツブツ愚痴るものの、李順という人物が仕込めば、それなりにそれらしくなってくるもの…。
いつしか徐々に妃らしく…だがもともと彼女は白陽国の王都乾隴の下町で育ったちゃきちゃきの町娘。

冷酷非情の狼陛下の、唯一の妃というのは表向き。
その実は、縁談除けの臨時妃であり、敵をいぶりだすための囮もその本業に含まれる、という。

「もちろん、その分お手当は弾みます!」

『狼陛下の唯一』と煽れば腹にイチモツ持つものは面白いように群がった。

最近では「やーいやーい、ひっかかった~」
と心の中で道化るほどに余裕もあった

神経が麻痺するほど、暗殺者は引きも切らず
…そういう意味では囮として彼女は非常に優秀なバイトだった。

彼女の直属の上司である李順からすれば
危険手当の高給で釣れば、代わりはいくらでもいるもの、と
――高を括って採用したはずだったのに。

正直、李順にすれば「万が一」があろうと痛くもかゆくもない存在
いつでも、誰でも、代わりがきく――それがバイト妃だった。

なのに、冷酷非情の国王がそうは思わなくなってしまったのだ。

李順の目論見は見事に外れてしまった。

国王の心の中は見えない。
しかし、なにやら嫌な予感ばかりが李順の胸の中に広がってゆく。

そして、短期バイトの予定がずるずると長引き。

――またタイミングよく、あの妃はやらかすのだ。
よりによって、とびきり貴重な白磁を壺を割ってしまうなどと…李順は頭を抱えたものだ。
だが、国王は?
不本意な李順からすれば、心外なほどに
心から嬉しそうにしているではないか。

短期のつもりが、いつの間にか長期化し
そして国王は単なるパーツ(部分)であるべきバイト妃に入れ込みすぎた。


真面目なバイト妃にしても、そうだった。

あの方は、手の届かない人。
あれは演技だと、
ドキドキするのはいけないことだ…と必死に心に蓋をしながら、
いつのまにか惹かれてしまった、――好きになったらダメな人。


冷酷非情の狼陛下にとっても、いまだかつてなかったこと。

いつでも切り捨てられるはずの彼女が
いつのまにやら「代わりのない存在」になってしまっただなどあり得ようか?

実に宜しくないと、側近にしかめつらをされ
自分らしくないと打消し。

なのに、秘めたる心の底で、
彼の心は変化していった――。

* * * * * * * * * * *

静麗が「唯一の妃」付きになったのも
誰から見ても表向きなんら不思議はなかったし
李順も後宮管理人も、すんなりと首を縦に振ったものだ。

だがその人事異動の裏には
国王のたっての願いが込められていた。

夕鈴の知らぬところで
妃の守りの砦が築かれたことに、国王は安堵したものだ。

静麗、いやリーリーは
王家を守護する暗闇宗家の血族の生み出したる不世出の才人であり
その表のたおやかな姿から想像もつかぬほどに洗練された殺人テクニックにより
伝説の死神と呼ばれて久しく
掛け値なしに抜き身の刃のようなその真の姿を知る者はこの世にわずかしかいない
国王の秘中の秘たる伝家の宝刀だった。

伝説の死神は、そばにいることすら
誰にも気づかせない。

「――暗殺者が減ったのは、
排除するより、取り入ったが得策と思い始めたか」と王自らに言われれば
丁度そういった頃合いでもあったから、
妃も素直にうなずき安堵したものだった。


妃の話し相手にと勧められ
氾家の姫君が後宮に足しげく出入りするようになったのも
公人でもなければ、後宮に紛れ入ることができない状況であったからと
夕鈴妃は知る由もなかった。


「草」の価値は、一生に一度で
その真の姿を知られたら、草としての価値はなくなる。

だから主命ある「たった一度」のその時以外
仮面をはずすことはできない宿命を背負っている。


殺気があれば手加減はしない。

だがそうでなければ
女官長という仮の仮面をかぶった草の立場では
命に係わらない範疇と思われれば
自然の流れに任せなければならないことも多い。

静麗の目の前で起きた、あの事件。
――紅珠姫との散歩中に後宮の池に落ちたときも、そうだった。


黎翔は躊躇することなく
彼女の後を追い池に飛び込んだ。

激昂のまま紅珠姫の責を厳しく問えば
妃に「怖い」と言われてひるみ
「大丈夫ですから」と押し切られた国王。

ただ花を抱きしめる主の姿に
機械のように冷静であるべきリーリーの冷たく動かぬ心の奥底が
ほのかに暖かく染まり
満たされる心地がしたのであった。

* * * * * * * * * * *


月のない夜
黎翔は窓辺にすすむ。

朔月の真の闇夜

音すら吸い込む濃密な闇は凝縮したように当たりを覆い尽くす。

そこに
来ている。
気配がする



「――どうだ?」

黎翔が闇に問いかければ
すぐさますぐ近くから女の声が返る。

「変わりなく」

リーリーの怜悧な声を聞くのは久しぶりだと、黎翔は口許を緩めた。

「よい働きぶりだな」

「お褒めに預かり…」

「…これからも任せる」

「かしこまりました」
影に溶け込み表情は窺い知れず。

黎翔には
黒髪をなびかせ佇む白い横顔も
子供のころの記憶と寸分たがわぬ今の彼女の容貌が
見えている気がしていた。

普段静麗女官長として、ここ後宮で眼にする姿と
同一人物とは思えない気配を押し殺しつつ
彼女は闇の目を見開いていた。

漆黒のその大きな瞳に捕らえられれば、闇夜すら、あたかも昼間の野原のように見通すも造作ない。

黎翔は幼いころより
秘された彼女の真の姿を知りながら
生き延びているこの世に数少ない一人であった。


「一つだけ」

リーリーの冷たい声は、特に大きな声でもないのに
妙にクリアーで直接耳元か脳に話しかけられるような気がする。

「なんだ?」
少々の緊張をも伴いながら、だが懐かしい死神の声。
黎翔にとってはスリリングな楽しみのうちでもあった。

「万が一にも
あなたさまと
二つに一つを迫られるようなことあらば?」

王家を守護を定められた暗闇宗家に生まれ
王のためにのみ、草として長い齢月を潜む彼女にとり
主上ただ一人が絶対の対象であり
それ以外、
たとえ肉親であろうと親しき友であろうと
命令あらば切り捨てる。

彼女にとり、主その人その一つの命に勝るものはない。

「…その時は――」
黎翔の言葉を待つ。




「――花を。
守れ」

ややあっての返答に
死神は、重ねて確かめる。

「…私は。
ただ一人の主、
『王』のためにのみ
この世に在る者」

「…ならば、我が花を守るが
それと同義だ――」

黎翔は笑った。

「あれは、心臓に悪い。
…私を殺す気かと――目が離せない」

クックと笑いながら、黎翔が目を細める様子をリーリーは見ていた。

「池に落ちた時は、心の臓が止まった。
私を生かすがお前の仕事…であろう?」


「まこと」


あなた様にそのような存在ができたこと
嬉しく――
とは、
リーリー口にはしなかった。

その瞳はいつしか静麗のもので
やさしい微笑みを浮かべる女官長のものへと戻っていた。


口にせずとも王は偽妃を想い
妃は抱いてはならぬと思いつつ、恋を募らせる。

まこと忍ぶれど
秘すれば花なりと

「私の及ぶ限り、お供仕りましょう」

心地よい風が吹きぬけて
もう誰もそこにはいなかった。


王がその瞳を閉ざせば
すでに残るは花の香りばかり――。



<終>

---
「秘すれば花なり」とは
室町時代に猿楽師世阿弥が
父、観阿弥の教えにもとづいて書いた理論書「風姿花伝」の一節で
「秘密にすることが人を魅了すること(花)につながる」という意味だそうです。


原作沿いでコミックス1~3巻あたり?のパラレルに当たる内容で書いてみました。
女官長(リーリー)のお話、楽しんでいただけましたら幸いです。

すこし長めの短編(中編?)、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


*
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凛さま

リクエスト、ありがとうございました。
女官長さんのお話、喜んでいただけてうれしかったです。

またこっそり横切るかもしれませんので
よろしくお願い申し上げます(笑

くまねこ様

女官長さんと夕鈴の出会い、最後までお付き合いくださりありがとうございましたm(_ _)m

---
王の環は、印刷所さんから直送だったのですが
配送連絡のあと、しばらく到着の連絡がはいらず
ちゃんと届いたのかしらとかハラハラしました。
繁忙期で裁くのが大変だったのだと思います
御待たせしたそうで申し訳ありませんでした
でも読後感想いただけて、とても嬉しかったです。ありがとうございました。
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