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秘すれば花なり(3)

100万HIT記念、凛さまリクエスト「女官長と夕鈴の出会い」です。


【オリキャラ】【ねつ造】


* * * * * * * * * * *
秘すれば花なり(3)
* * * * * * * * * * *

朝。
かしずく我々よりも先に「おはようございます」と頭低くあいさつをする妃。

女官、侍女らはたいがい貴族の出であり
自分たちですら下々の使用人にそのようなことをしたことがないものだから、
まさかそのような妃がこの世にあろうとは思いもよらず、
最初は誰も戸惑うという。

だがこの部屋付きの者はみな慣れていた。

妃は誰よりも早く起き、誰の手も借りずに身支度を整えている。
うっかりすれば、カタカタと朝いちばんから動き出し、部屋の片づけまでしかねない。

侍女や女官達は選りすぐられた有能な者たちばかり。何一つ不足のない淑女の鑑のような者たちも、ときおり密やかに言葉を交わしては日々の仕事の励みにしている。

―――地獄耳の私に届くとも知らず。

「…朝、お妃様が寝惚けたお顔を一度拝見してみたいものですわ」

「あら、それはダメですっ!
お妃様の愛らしい寝顔をご覧になれるのは、陛下だけの特権ですもの!
恥ずかしがりやのお妃様のために、陛下がご遠慮されていらっしゃることを私たちが勝手に覗いてはなりませんわよ」

「わたくし、午後のお勉強の巻物を広げたまま、うつらうつらされてるお姿は拝見したことがございますの。とても愛らしゅうございました」

「…かと思えば、
櫃の底から引っ張り出した質素な衣裳を身に着けて
この間は庭の落ち葉を掃いていらっしゃるものだから…
わたくし慌ててしまいましたわ、本当に」

「…ああ、あの。
『これだけの葉っぱが集められるのなら、秋のたき火が楽しみですね。お芋があったら焼けるのに』…とおっしゃった、あの時!」

「お妃様のお気持ち通り、すぐお芋が出せればよかったですわね…」

「秋になって、翌朝落ち葉のたくさん積もりそうな日には。
今度こそ必ず、お芋を用意しておきましょうねっ!」

「もちろん、わたくしお妃様に負けないよう早起きして、
先に落ち葉を集めておきますわ」

そう言いながら侍女たちは笑いさざめき合う。

「ねえねえ。あの柔らかい栗色の髪を編み込み、
高く結い上げて、琥珀と金の髪飾りと合わせるとしたら、
添えるお花は何がよろしいかしら?」

「赤!大輪の紅いお花がよろしくてよ?」
「白いお花も清楚で、陛下がお気に召すのでは?」
「それなら紅色と淡い黄色織のお衣裳を重ねて…」
「帯は…?」
「金糸銀糸を織り込んだ、あの」
「きっと、お似合いよね」
ため息をつくと、

「もうそれは飾り甲斐のある御方なのに!!
それなのに、お妃様ったらすぐ遠慮されてしまうんですもの!
なんてつつましやかなんでしょう」

「そうなのよ、お妃様ったら本当に恥ずかしがり屋さんなのよね。
まるで御身を気になさらないんですもの。
もっときれいに整えて差し上げたいわ。
陛下にご覧いただくのが、楽しみですこと!」


―――なるほど。

慎ましやかで勤勉な彼女は愛されている。

たいていの女は衣裳と宝石で身を飾りたてる魅力に取りつかれるものなのに
不思議なことに、彼女はそういったものには一切欲を示さない。

逆に、そのそっけなさに担当者は燃えるらしい。

女同士が虚栄を張り寵を競いあった過去の後宮と、
今彼女の周りにある空気は異なる。

仕える者にとっても
各人のやる気を引き出し、達成感を感じられる職場であるといえなくもない。


駆け引きや足の引っ張りあいとは無縁の
素朴な生活感を、王は愛でておられる。



「静麗女官長に命ずる―――」

私の仕事は『花守』。

誰よりも近く、彼女を守り、砦となれ。



後宮の女官長という役職と
主命と
二つの努めを果たす。


* * * * * *

こちらの部屋付きになった以上、直接お声を交えるのも、触れるのも、第一に私の仕事。

彼女が目を覚ます前からお傍に控え、お目が醒めるのを察する。

手を取れば、その日の体調も分かる。
今朝は寝不足でお疲れのご様子。

「お顔をお拭きいたしましょう」

湯気の上がる桶で手布を絞る。

湯気をあげる手布を顔元に差し出すと、従順に彼女は目をつぶる。

「いい香りですね…」と鼻をスンスンされる。

「迷迭香(マンネンロウ)を浸しております。すっきりお目覚めになり、お元気がでるように、と」

「…え?」
妃は顔を赤らめ、目の下を抑えた。

「…夜更かししたの―――わかっちゃうものですか?
ちゃんといつも通り起きれると思ったんですけど…まさか目の下にクマとか出てます? 
わあ、まずい。そんな顔してたら李順さんに叱られちゃいますよ」

恐縮する様子がまたお可愛らしい。

「…大丈夫ですよ、ほとんど目立ちません」

昨晩、陛下はお見えにならなかった。
だが妃は長くお待ちだったのだろう。


このところ陛下はお忙しい。

一昨日、後宮を覗かれたときも、陛下がこのお部屋へご滞在された時間はほんのわずか。
すぐに李順殿からお呼び出しがかかり、
追い立てられるように王宮へお戻りになってしまったから、
さぞお妃様はお寂しいに違いない。

「この暖かい手布をお顔にしばらく当てて…
蒸気で蒸らすようにすればすぐにお顔の色もよくなりましょう」



『わたしの優しい兎―――』

脳裏に、あの方のつぶやき声がよみがえる。


いま、私の手の中にあるのは、
優しくて、小さな動物。

暖かい肉には血が通い、脈打つ。
弱々しいと思えば、たくましく。
少々凹もうが、呆気にとられるほど『元気』。

暗闇の住人の私にとっては眩しく、ためらわれるほどに生に満ちている。

妃の目の周囲に、薬草を浸した湯で絞った布を当てている間に、すばやく手足も清拭する。

なされるがまま、人に体を扱われることに慣れていない妃は、ムズムズと身をよじり、今にも逃げそうな勢いだ。
『自分でできますから!』とのど元まで出かかっているのが分かるが、そこはお任せいただかなければ…。

「世話をされるのも、狼陛下の花嫁の御役目。
どうかリラックスしてお任せくださいませ」

「…はい」
小さく返事。

観念したように脱力する彼女に「すぐ、お慣れになりますよ」と苦笑する。

お体を拭き終え、目にかけた布が冷める前にはずすと
すっとした空気に目をぱちぱちと瞬かれる。

「…さあ。宜しいですよ
もうすっかり目立ちません」

太鼓判を押せば、パアっと笑顔が返る。

「よかった!」
そういって手布をはずすと、彼女はにっこりと笑った。

「とにかく、私は元気ですから!!
あまりみなさん、心配しないでくださいね?」

チラッと奥に控える女官や侍女らに気遣うご様子。

「はい」

その言葉にホッとされたご様子。

「…では朝のお支度を」

私が軽く手を打てば、
待ち構えていたように侍女たちが妃を取り囲む。


* * * * * *

早朝よりご政務を済ませられた陛下は
お昼にお戻りになるという。

「東の花園で、妃と一緒に散歩をご所望」
と通達があれば、一同支度にとりかかる。

咲いている花の情報を庭師から聞き取り
映りのよい色合いの衣裳を整え
装飾品や傘、靴…と女官たちは腕によりをかけるのだ。

「本日の装い、花々に囲まれてもお妃様の愛らしさを引き立てるよう、コーディネートしてみました。如何でしょう」

選び抜いた重ねを、得意げに妃の眼前に披露する。
侍女たちが捧げ持って並べられた品々は美しい組み合わせだった。

だが妃は口ごもった。

薄紅色の鮮やかな衣裳を見つめ、じっとりと汗ばんだ視線を落とし、
「…それはちょっと派手すぎませんか? ただお庭を散歩するだけなのに…」と、相変わらず妃の反応は消極的。

「そんなことはございません!
陛下の唯一のお妃さまといたしましては
これでも質素すぎるくらいでございます」

「…それに、宴でもないのに、ジャラジャラこれ見よがしなかんざしを付けていては
浪費癖の妃と、みなさんにご反感を買いそうです(なにより李順さんに怒られそうで…!!)」

…どうご説明しようと平行線。

「お召しになれば、きっとお似合いですのに…」
困ったように女官が肩を落とす。

行き詰まった空気の中で、私が「…確か」と声をあげれば

「…なんですか?」と妃は反応する。

「そういえば、陛下が。
…このあいだ。『薄紅色は愛しい妃によく映える』とおっしゃっておられましたね。
陛下のお好み通りにされれば、さぞお喜びになるのでは?
かんざしはこちらの小さめのものになさって
その代り髪留めをこちらのお妃様のお気に入りの蝶の形のものにいたしましょう
いかがですか?」

「そ、そうでしたっけ?」

妃はうーんと考えこまれる。


私は職業柄、見てみぬふりをすることが上手。

職業柄――というより
たいていの貴族や名門に生まれたものは
そうだ。

そして、誰も本音を顔に出したりはしない。

上っ面の作り笑いで塗り固められられているから
王宮という場所は、うまく回っているにすぎない。


でも、このお妃様は
お考えが素通しで、目が離せない。

(あの人はなんでも褒めちぎるから…。
でも。
あの人のことだから…
『ぼくの言ったこと、覚えてくれてたんだね』って、
パタパタ子犬の尻尾を振って、喜んでくださるかもしれないし…)

「…それならお言葉どおり、
この薄紅色のお衣裳で…」

と渋々ながら、ご納得いただけた。

陛下のことを思われがあまり、ご自分のポリシーを曲げ
必死に妥協したのであろう。

彼女の頬は脳内の葛藤そのものに紅潮して
恥じらいすら、美しい。


『わたしの優しい、兎』と
あの方が愛でるお気持ちがよく分かる。

ああ、私も鈍ったものだ。

私は手段を選ばぬ、情を知らぬ精密機械。
たとえ肉親であろうと冷静に手にかけられるプロであるよう育てられたこの私が。

死神と呼ばれたこの私が、たかが少女に目を奪われ、
骨抜きだ――。


だが、それもまたよかろう。
そのために私はここに居る。


「薫香は、花の香り。
さりげなく、ほのかに焚き染めてありますから

さあ、お支度を――」

手を取れば、妃はそれに応じた。



(つづく)
*





『女官長さんがどうやって教養を身につけたか』…
チラっとコメントに寄せていただきありがとうございます。

女官長さんが子供のころのお話は、単行本「てすさびの 総集編」に書き下ろした「流花」というお話の中に少し出てきます。貴族の子女として教養を身につけるため、習い事やその他いろいろ仕込まれている麗が子供のころ出会った初恋の人との切ない恋のお話。

―――あ? 以前どこかに
「悲恋ものは短編SSの『還らずの時』1本しか書いたことがなかったのでは」とか書いてしまったかもしれませんが、訂正です。上記の「流花」も悲恋ものでした。
(正確にはオリジナルキャラクターのお話なので「狼陛下の悲恋もの」には当てはまらないかもしれません)

あとは…
幼い浩大たち兄妹を引き取り、幼い陛下と北の地で過ごしていたころのお話は「海棠の郷」というシリーズで少し書いたこともあります。これは、リーリーの知識技術を次世代に伝える「師」としてのお話だったような気がします。(また何かの折に発掘したいかなあ…です)

などなど。

書いたことはあるのですが、もうずいぶん遠い昔になってしまった気がしますね…
ときどき思いだすのは懐かしいです。


多くの方のお気持ちはそうではないと分かっていますが
波風を立てずに、と願うと
引くことしかできません。



どなたかの思い出の中に、一かけらでも残っていれば
幸せです。


*
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ぴょんさま

コメントと優しい勇気を
ありがとうございました。

女官長さんのお話は
それほど長くないとおもいますが
今しばらくお付き合いいただければ幸いです(´ω`*)

ほんとうにありがとうございました。

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ろん様 Re: はじめまして

わざわざコメントにお立ち寄りいただけて、
ご丁寧に暖かいご感想いただけて、本当にうれしいです。
元気いただきました。
ありがとうございました。

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凛さま ~流花~

「てすさびの 総集編」の「流花」、
お話の中にちょっとでてくる、程度だったかなとは思いますが
リーリーたち三姉弟は、裏稼業の訓練以外にも
教養とか習い事も一通り受けていたようです。
さぞ忙しかったとおもいます。

あのお話はほんとうに泣けるから…
私も読み返すと泣いちゃいます(笑 ←

ろん様 Re: はじめまして

ご訪問、ありがとうございました
ご心配おかけして申し訳ありませんでした。
励ましの温かいコメント、とても有難く嬉しかったです
こちらこそお礼申し上げます
本当にありがとうございました。
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秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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