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王子と乞食(2)

【パラレル】【年齢操作】
青慎10歳、夕鈴6歳、几鍔9歳、李翔10歳、李順13歳。
100万HIT記念、聖瑠桜さまリクお題の続きです。

宜しければ、つづきをどうぞ――。

* * * * * * * * * * * *
王子と乞食(2)
* * * * * * * * * * * *

白陽国の王都、乾隴の都。
ここは下町章安区、表通りからずいぶんと奥へ入った庶民の住む界隈の一角に、汀家のぼろっちい家はあった。

カン、カン、パカン!

裏庭でまき割りをする兄と、その周りをうろちょろする妹の姿。
「あはは、おにーたん!」
「夕鈴、危ないよ?」
コーン、パン!
一息ついて、青慎は手斧を置くと、汗を拭いた。

「夕鈴ってば、危ないから離れてるんだよ?!」

「わたし、運ぶ~!」

薪を手にいっぱい抱え、薪棚のほうへとよろよろ歩き出す夕鈴。

「夕鈴、そんなに持ったら重いし、
ああっ、それじゃ前がみえないよ――」
と青慎が言ったはなから、夕鈴は足元につまづいて、薪ごとドシンと尻餅をつく!

「あ~っ!」
青慎は慌てて夕鈴の元に駆け寄ると
夕鈴は薪を放り出し、ビエーン!と大きな声で泣きながら青慎の襟首に抱きついた。
「…よしよし。痛いの、痛いの、とんでけー!」
泣きじゃくる夕鈴に、青慎は優しく背中をとんとんする。
「…夕鈴、手伝ってくれて、ありがとうね?
…痛いところは、ない?」
青慎にしがみついた夕鈴は、ヒックヒックと泣き止む。

「もう、痛くない? 痛いの飛んでいけー」
兄の優しい手に癒され、夕鈴はようやく笑みを漏らした。

「痛いの、痛いの、とんでった…。だいじょーぶ。
にーたま、大好き!」

青慎はちょっと困ったように眉尻を下げ、愛らしい夕鈴の頭を撫でてやるのだった。

青慎は10歳、妹の夕鈴は6歳。二人は仲良し兄妹で、青慎は妹の夕鈴を目に入れても痛くないほど大事にかわいがっている。


近年、周辺の国々では小さな争い事が続いており、白陽国もご多分に漏れなかった。

白陽国の台所と呼ばれる豊かな穀倉地帯の南州一帯で、昨年イナゴが大発生し、それにあわせたように日照り、飢饉と、国内の食糧事情は厳しく、物価は上がるばかり。
首都、乾隴の下町にまでそのしわ寄せはきていて、どの家でもやりくりは厳しかった。

汀家では三年前に母が流行り病で亡くなり、長男の青慎が、家のことや夕鈴の面倒をみていた。
お節介な近所のおばさんは、ちょくちょく汀家に顔をだしては、
「岩圭さんや、女手のない家じゃあ困るだろう」と、見合い話を持ってやってくる。

だが父、岩圭は持ち込まれる縁談すべてを断った。

役人の父親はのんきな人だったが、ときどき月を見上げては「かーさんや…」とつぶやき、ポロリと涙ぐんでいることを青慎は知っている。
だから、なるべく心配かけまいとして、家の中のできることは全部青慎が引き受けていた。

青慎は優しく賢い子供で、勉強が大好きだった。
目標は「お父さんのように立派な官吏になること」。
そして、できれば上級職の試験を受けてみたいと思っていた。

小さい妹のお守りをしながら家事一通りをこなす毎日。
自由に好きなだけ勉強するのは、青慎にとっては夢のまた夢。
また、上級管理職を狙うためには、庶民には高値の花である高価な書物を何冊も勉強しなければならなかった。
(もう少し、レベルの高い塾に通ってみたいなぁ…)と思いつつも、家計簿でどんなんりやりくりし、切り詰めても、今は生活するので精一杯だった。

「にーたま、今一番、何が欲しい?」
夕鈴が花のような笑顔で、摘み取った花を差し出す。
「うーん、書物、かなぁ…
ううん、お花が欲しいや。
ちょうど、この白い小さなお花が、一番欲しかったんだ」
そう言って、青慎は妹の差し出した小さな白い野の花を受け取った。
夕鈴は小さな顔を太陽のように輝かせて笑った。

「いつでも、にーたまの欲しいもの。
ゆーりん、探してくるからね?」

青慎は夕鈴の頭を撫で、二人はしばらく並んで座っていた。

(やっぱり、上級職を受験しようだなんて、高望みなのかなぁ…)
ふぅ、と青慎はため息をつく。

* * * * * * * * * * * *

そんなある日。
朝一番に干しておいた洗濯を取りこんで、妹の夕鈴と一緒に畳んでいると、
「おーい!」と声がした。

親友の几鍔君だ。

「青慎さん、いるか?」

「ああ几鍔君? いるよ。入っておいでよ」

「がく? おいでよぉ」
大きな声で返事すると、夕鈴もかわいい声で真似て返事をする。

おもわず青慎はくすっと笑ってしまう。
六つになった夕鈴は、こんなふうに僕のまねをするのが大好きなんだ。

「おー、青慎さん。ひさしぶりー」

「しぶり~」
青慎よりも先に、夕鈴が答える。

夕鈴が笑顔で駆け寄り、鍔君の手を引いて家の中に迎え入れた。
「久しぶりって。几鍔君、昨日も会ったとこだよね」
青慎は笑って、洗濯物を片し終え、几鍔を出迎える。

几鍔は大きな右手に重たそうな包みを持っていた。
小さな夕鈴がチョコチョコと几鍔の手を引いたものだから、几鍔は思わずバランスを崩して、ドシン、と尻餅をついてしまった。
几鍔は手に持っていた包みをとっさにかばったため、腰をしたたかに打ってしまったようす。

「…て。て、ててて」

「…痛い? 痛いの、がく。
痛いの、痛いの、とんでけー!」
夕鈴はいつも青慎にされているように几鍔をギュッと抱きしめて、一生懸命背中をさすり、慰める。

几鍔は思わずカァっとのぼせ、
みるみる赤面した顔を背け、
思わず小さい夕鈴を突き飛ばしてしまった。

「い、痛くなんか、ねーぜ!」
ドン!と力まかせに突き飛ばされた夕鈴は軽く吹っ飛んで、コロンと転がった。

「ギャーん!
ああああああああ~~ん、ああ~ん、ああ~ん!!」
驚いた夕鈴は大きな声で泣き叫ぶ。

几鍔はオロオロしながら…、
…でも素直にもなれない。
呆然として、泣きじゃくる夕鈴に背を向けた。

青慎があわてて夕鈴を抱きかかえ、二人の間に割って入った。

「すまん、青慎さん
――あの。
夕鈴のやつ、怪我は…」

「…大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから。気にしないで、ね?」
青慎は几鍔にも同情した。

少し前から几鍔は、なんとなく夕鈴を意識していて
ふっと可愛いなぁ…って顔をすると、そのあとハッとなって、
ギッと恐ろしい顔で睨む…という不審な行動が見られた。

(うん、わかる。だって、うちの妹、こんなに可愛いもんなぁ…)
青慎はそう思っていた。
(可愛いって思ってたら、素直にそういえばいいのに…。
本当に、几鍔くんって不器用なんだから)


几商店の跡取り息子の鍔は、家では「坊ちゃん」と呼ばれ、出入りの奉公人から大切にされ、威勢の良く肩で風切る几鍔の後ろからはいつも男連中が取り巻いて「アニキ、アニキ」と慕われている。
なぜか幼い頃から一つ上の大人しい青慎のことを尊敬していて、昔からちょくちょく家に遊びに来る彼のことを、青慎も無二の親友のように思っている。

さばさばとした口調は小気味よく、硬派な几鍔だが、実は女が苦手。
めっぽう照れ屋で、色恋については超・純朴。

(意識してるくせに…正直になれないんだよね)と青慎は分析している。

そんな几鍔に無邪気な妹はチョコチョコと近寄り、
そして最近はときどきこんなふうにアクシデントが発生していた。

「妹に悪気は、なかったんだよね…ごめんね。
うちの夕鈴が突然飛びついて…」
青慎が謝ると、几鍔はぶんぶんと首を振った。

夕鈴が落ち着いて、大丈夫そうだと分かると、几鍔は目に見えてホッとした。
「ほんとに、すまん」
もう一度謝る几鍔。

「…いいって――」
青慎は夕鈴の瞳を覗き込むと、妹に優しくお願いをした。

「夕鈴、仲直りしてあげてくれる?」

「がくと、仲直り?」
大好きな兄の願い。

青慎の頸をきゅっと抱きしめ、まつ毛にまだ涙が光る夕鈴が
几鍔の方を振り向いてそろ~っと手を差し出し、小指を立てた。

「がく。仲直りの指きり」

几鍔はぐっと一呼吸おいて覚悟をきめると、
彼女の小さな小指に自分の小指を絡ませた。

「なっかなおりー」と夕鈴のつぶやく音頭にあわせて、二人は軽く手を振った。

カカカカカーっと赤くなる几鍔を見て見ぬ振りする青慎。
「おっ終い!」夕鈴はご機嫌を取り戻した。

几鍔は仲直りの指きりがすむと、チッと口では言いながら
ささーっと手を引き青慎の方へと向き直った。

「で――これ。借り物だけど」
几鍔は大事そうに抱えていた包みを、ぐっと青慎の方へ差し出した。

「?」
青慎が手を伸ばし、首を傾げながら受け取る。
布包みをほどくと、書物…。

「…論語?
――これって、もしかして…」

「青慎さん読んでみたいって言ってた本、これだろ?」

「官吏になる勉強には、四書五経が絶対いるんだけど――
こんな貴重な本、几鍔君、どうやって?
いったいどこから――」

「…李ってやつに、借りた」

「…借りた?」

* * * * * * * * * * * *

几鍔商店が出入りしている上取引先の貴族の李家に、ある日ついでがあってババ様に連れてゆかれた几鍔。
「仕事の話が済むまで、ちょいと年頃の子供同士、遊んでおいで」と李家の息子たちを紹介された。
兄の順は13歳。官吏登用制度の上級職の上位合格を狙う秀才で、日々勉学に励んでいるという。

世間体を取り繕った挨拶が一通り終わり、さあ子供たちで自由に、という段になるや途端、順はメガネの奥でちょっと冷たい感じの視線でチラリと几鍔を見返すと
「…では、私は勉強がありますので」とそそくさと引っ込んでしまった。

几鍔は一瞬白けたが、もう一人の弟、翔とは意気投合した。

「翔は、勉強しなくていいのか?」

「…私?
勉強もするが…しょせん順はいい顔をしない。
――私は、なんというか…この家では腫れ物だからな…」

「――ハレモノ?
なんだ、お前、アニキに嫌われてるのか?」
几鍔は訳も分からず、オウム返しをした。

「嫌われているというか、いやむしろ大切にされているが…なんというか他人行儀なのだ」

「ふうん――?」
几鍔は『考えたところで貴族ってのはよく分かん』と思考放棄し、さばさばと話を切り替えた。

「よく分かんないが、とりあえず、外で遊ぼうぜ!」

二人は中庭の方から外に出た。
窓があって、先ほど「勉強する」といって自室に戻った李順が見えた。
ここが李順の部屋らしい。

「――げ!」
几鍔は声をあげた。

「げ?」
李翔は不審な顔で几鍔を見返す。

「…あんなに、いっぱい書物が…!!」
几鍔が驚くのも無理はない。李順の座っている机の周りから何から、どこからどこまで足の踏み場がないほど部屋は書物で埋まっていた。

「――あんなに本があるのは、見たことないぜ!
おい、本っていうのは、相当高価なものなんだろ?」
几鍔は呆然としていた。

「…まあ、そうなんだろう。
だが受験生というのは、たいていあんなものだろう。
出世のためには試験に良い点数で合格しなければならないから、な。
…頭脳明晰な順は、家の期待を一身に背負っているんだ」

(受験生というのは、こんなふうじゃないとダメなのか――)
几鍔は半ば呆然とした。

「…これじゃあ、アイツ。たとえ目を潰したとしても、浮かばれねえなあ」
几鍔は頭を掻いた。

「…浮かばれない?」

「いや。ちっとな――近所のガキが、浮かばれねーな、って」

「近所のガキって。…それ、女の子?
君の大事な人?」

几鍔はぐっとつまり、チっと舌打ちしながら顔を赤らめたので、
李翔はもう少しだけ話を聞いてみたくなった。

「で、その子がどうしたの?」

尋ねられたので、几鍔も話をつづけた。

「そいつんち、親父は下級役人だけど、のんびりしたお父っつあんで。
おっかさんが三年前の流行病で亡くなってからそいつの兄貴が家事や妹の面倒見て。
このご時世だから暮らすだけで精一杯でさ。
兄貴の青慎は頭いいから官吏の上級試験を受けたいって夢があんだけど…。
俺も詳しくは知んねーけど、四書五経とかさ。試験受けるための勉強に、高価な本がたくさんいるんだろ?」

「そうらしいね」
李翔は醒めた口調だった。

――そんなふうに苦労してる奴は、世の中にいっぱいいるよ。
何も特別なことじゃない。
だって。世の中は平等じゃないんだから――。

と李翔は心の中で思ったが、口には出さなかった。

「それで、浮かばれないって?」

「ああ。
でさ。その優しい兄貴が家事で疲れきって
チョイうたた寝した時に
『本が欲しい…もっと勉強したい』って、寝言でつぶやいてたんだとさ。
それを聞いたチビガキのやろうが、何を考えたのか
道で物乞いをやってね――」

「物乞い?」

「乞食は、座ってるだけで、稼ぐじゃんか。
あいつまだたった6つでさ、チビなりになんか考えたんだろうな。
ただでモノやお金が貰えるって、なんだか変に誤解しちまったようで。夕鈴のやつ、モノゴイしてお金ためて、お兄ちゃんの欲のやつしい本、買ってあげるんだって――」

「…」
李翔はそれまでどちらかというと冷淡な対応をしていたのにもかかわらず、急に破顔して笑った。

「それはいいや、兄さんの本のためにその子は乞食をしたんだ」

「笑い事じゃ、ねえ!
――乞食ってのはな…!!
あいつの兄貴、
泣いてさ…
『夕鈴、そんなことしちゃだめだ』って止めたら
『ゴメンおにーたま、ゆーりん、目も見えるし、お手ても足もあるから
お金もらえなかった。
私、目が見えなくなればよかった』って――」

几鍔はグッと詰まった。

「ふうん」

李翔は几鍔の顔を見つめたまましばらく考えていたが、
フイっと走り出し、勉強中の李順の部屋の窓から室内へと侵入した。

「――翔さまっ!
いきなりなんですかっ!? 窓から」

「順、論語をよこせ」

「――はい? …論語?」
李順はすっと手を伸ばすと傍らの書物を引っ張りだした。

「いったい何に?
お勉強ですか?」

李順がメガネをかけなおしている隙に、李翔はその手から書物をするりと抜き取り、また窓から外へと飛び出した。

「――翔、さまっ!?」

素早く窓枠から飛び降りてきた李翔に、几鍔は目を丸くした。

「…オイ、お前んとこは、
アニキが弟のことを『様』付きで呼ぶのか?」
几鍔は李翔の傍若無人な態度にあっけにとられながら、変な質問をした。

「…時々、順はあんなふうに他人行儀になるんだ―――
気にするな。
とにかく、これ」

ぽいっと、書物を渡された。

「四書五経のうちの一冊、論語、だ」

「え?」

「その本を貸すから、
今度その兄妹とやらを連れて
是非もう一度、ここに遊びに来てはくれないか?」

「いいのか?
こんな高価な書物を――」

「…その、夕鈴って子の、
笑顔が見てみたいから――」

そう言って、李翔はニッと笑った。



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