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忘却の岸辺(20)完

最終回。
暗いお話にお付き合いくださり、ありがとうございました。

【ゾーン※増量中】【過去~未来まであまねくねつ造】【微妙にネタバレ】【甘甘】
※ゾーン、超集中状態の至高体験(ピークエクスペリエンス・ゾーン・フロー)、であるからして、モノローグがたとえ5ページだろうが10ページだろうが、一瞬なの!ったら一瞬なの。


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(20)完
* * * * * * * * *

ねえ、母上。

茜色の夕焼け空に浮かんだ雲のことを覚えている…?
辺境の北の地の空気は澄んでいて

秋の日の落ちる間際は、それは見事な夕焼けが広がり
世界は血の色のように染まっていた――


『ぼくいなければ
母上は、幸せだったの――?』

母は困ったようにその問いに答えることはなく
ただ瞳をほんのりと曇らせ、私の頭をなでた。

『黎翔が、
私の幸せのすべてよ。
それだけは、決して
忘れないで』

そう言いながら母上は
あの日を境に、私のことを忘れ去った。


薬をあおり
苦しみ這いずり回り、闇をのたうちまわった挙句、
美しかった母は、見る影もない別人となり
私を忘れた―――。

あの人はすべての幸福を手放し
封印したまま、狂気の世界の中で疲弊し

やがて、自ら首をくくってこの世を去った。


首筋の、赤い縄のあと――
苦悶の中で
忘れ果てたはずの私の名を
最期に一度だけ、呼んだのだった

ごめんね、黎翔…

たしかに、そう、つぶやいた。

どうしてこれを忘れていたのだろう…と思いながら
黎翔は多重に重なる世界を別の視点から覗き込んでいた。


あの日、幼い私の
目の前で起きた凶事。

冷たい母の手。
苦しみぬいて歪み引き攣ったその白い顔は

すべて自分のせいで起きた出来事と思いこんでいた。

静まり返った西日の北の地の寒さに震えながら

母の首筋の赤い縄痕を
小さな私は見つめていた――



私が生きている限り
幸福は訪れない。

一時に圧縮された記憶が、体の中を嵐のように通り過ぎた。

後悔、
自分の存在への罪悪感。

にもかかわらず、黎翔は
混乱の中に見出した小さな光にむけて
思わず手をのばさずにはいられなかった。


――ごめんね、黎翔…

頭の中でこだまする声。


「…母上
――わたしを
許してくださいますか?」

黎翔はその幻影に詫びた。

過去と現在をオーバーラップし
混乱の極みにある黎翔の目前で、

いままさに
夕鈴は
微笑み
落ちて行く。

黎翔が手にしていた、後継者を晏流公と指名したその大切な覚書を
自由になる口でくわえ、もぎ取ると
そのまま、壊れ落ちた橋桁の上から谷底へと吸い込まれる。

黎翔にとって
その瞬間は、まるでスローモーションのように
ねっとりと感じた。


もどかしい
もどかしい
体と心を縛るもの


『今までずっとあきらめていた。
私には、望むことすら許されない
手に入るはずのない、幸福だと』

黎翔の心をきつく縛っていたのは、
身分低き美しい妃が、時の王の何もかもを虜にしてしまったことと
その二人の間の王子として生まれた自分の出生ゆえの運命で。

父は母のため国を揺るがし
母は私のため命を絶った

父母ともに不幸に陥れた
自分という存在。

それは逃れられない業であった。

そんな自分だから、
幸福など、望むことすら許されないと
黎翔は信じていた。


『…そう。たぶん、私は物心ついた時から、思いこんでいたのだ。
私は幸福になど訪れない…幸福など求めてはいけない、と。
幸せになる術などないと諦め、全てを切り捨てていた。

それは、たんなる呪縛に過ぎなかったのですか――?』

母が父を堕落させ
王が妃や後宮のために国を傾けた。

国民から見れば、
それが事実。

自分はその二人の結実であり、負の象徴なのだ。

その過去の負債を立て直すために
国を立て直し、後宮のいままでのあり方や王宮の闇を払しょくするためには
強く誰からも恐れられる王でありたい、と選択した

その道の中に
黎翔自身の『自分の幸福』というものは一切含まれていなかった。

だが、それは、真の王の道だったのか――?

黎翔は膨大な負の記憶の奔流の中で、一つの光を見出したのだ。


推し量れない何か
見えないものの中にも
…小さな真実が潜んでいることを。

このような“自分”のためにも、
未来とか、
小さな希望とかを
この世の中のどこかに、潜み隠し置いてくれているとしたら――!?

黎翔は、
祈った。

「こんな私でも
――手をのばしても、良いのですか?

――許してくださいますか?」

脳裏に浮かぶ母の幻影。

それは母を亡くして以来、初めて
黎翔の中で、くっきりと像を結んだ。




すっと白くなり
目の前の彼女の顔が重なる。

こんな時だというのに。
君は笑うのか――

「ゆう、りん…?」

君に笑っていてほしいと、
君の笑顔だけが見たくて――

失った過去と意識が繋がる。

擦り切れ喪失したはずの情報のかけらを
つなぎ合わせ再生するきっかけが訪れ――

黎翔の中でそれは一度に再生され
膨大な情報となって再び甦ったのだった。

目の前の彼女の像に五感は再び解放される。

* * * * * * * * *

それは、長い長い時間のようだったにもかかわらず
現世の時間に置き換えて、ほんの瞬き一回分にすぎなかった…

黎翔の時は、動き始める。

彼の瞳は、彼女を捕らえ
微笑んでいた彼女は黎翔の変化に気が付き、
安堵し泣きそうに顔を崩し、落ちていった。

「夕鈴――っ!」

黎翔は叫んだ。


橋桁を思いっきり蹴り、落下速度を増す。
手を伸ばす。

不思議と、恐怖はなかった。

自分の意志で、手を伸ばす――もう、二度と失わない。


風を切るビョウビョウという凄まじい音の中、恐ろしいほどの速度で落下することよりも
君を、再び得ることができる喜びの方が大きかった。

風に立ち向かう鳥に見えた

衣の端を捕らえる。
腕任せに手繰り寄せ、とっさに頭を胸に抱きしめ抱え込んだ瞬間には
もう水面に突っ込んでいた。

晏流公を後継者と認め、国王が署名をした書は
風に引き裂かれ、水流にもまれ、散り散りとなった。


人質となった妃は―――
王は―――

李順は一瞬の出来事に硬直しながらも
ザブンと水柱が高くあがり水飛沫が吊り橋の高さ近くまで届くのを見届けた。

手負いの方淵が自分の剣を握り締め橋に取り付き駆け出した。

李順が方淵の背中へ声をかける
「陛下の御命令です、捕らえるのです!」

「はっ!」

男は橋の反対方向、反対側の岸辺にむかって走り出した。

「この期に及んで、逃げるつもりですか――!?」

その時、
蓉州側から、一人、大柄な男が走り寄ってくるのが見えた。
李順が目を細め注視すると、すぐに容姿から味方と分かった。

「…克右! 良いところへ――」
李順は声を上げた。

「捕らえろ――!」

克右と方淵に両岸から挟まれ、逃れる術もなく男は身柄を確保された…。


* * * * * * * * *

苦しい…
肺が痛い。
手足がちぎれそうなほど冷たい―――

陛下…

水の下は暗い

水の中は上も下も分からなくて
激流にもまれて、苦しかった。
最後の息は、とうの昔に吐き切った。

川底の何かに引っかかっていて、動けない。
手足すら、動かせない。

陛下、陛下。


ああ、お迎えなんだ。
黄泉の世界はどんなところだろう…。
もう、頑張らなくていいんですね―――


君の務めを果たしたと
もう一度。
最後の口づけをくださった

混濁する意識と引き換えに
体はふわふわと浮遊するような感覚で
魂ごと引っ張りあげられて、明るいところへ…


さようなら。


…陛下。

どうか。

私は、いつだって
陛下の味方でしたよ…
よく頑張ったねって、褒めて、ください――





――ゆうりん

ゆうりん

陛下の声が聞こえる。


「ゆうりん!?」
え――陛下?

がばっと身体を起こせば、
目の前でたき火がたかれている。
私は陛下に抱きしめられていた。

「うそ――!?」
…っていうか、近すぎる。

「動くな」
狼陛下の怒ったような声で私は思わずびくりと体を固くする。

「陛下!? ほんとに」と尋ねると

「ああ」
とだけ短く答え、陛下は力を緩めてはくれない。

「陛下、苦しいです…。
ってことは、私…生きてますか?」

まだ半信半疑。
やっぱり、都合がよすぎる。
もしかして、死んでしまったのかもしれない。

「――ああ」

陛下の声が震えていることに気が付いて、
私はおろおろしてしまう。
そうだ、陛下は私のことを忘れて…だから。

「…あの、失礼ですが、その」

「――」
陛下は、私をギュッともう一度抱きしめると、頬を鷲掴みにして荒々しい口づけをした。

安堵と、切なさで、無性にしがみつきたくなった。
私が必死で抱き付くと、陛下は急に優しくなって
さするように私の背中をなでるから、そのたびに私の眼からはポロポロと涙がこぼれた。

そう。
陛下にとって『口づけ』は、借金返済の肩代わりの時と同じ、
私への支払いで――
陛下が私にたいして、何か負債があるとでもいうのだろうか…。


「…陛下、怒って、ます?
私、私…何か悪いことをしてしまいましたか――?」

涙の止まらない私を、陛下は優しくなで続け、何度も口づけた。

「君が無事で、よかった――」

…怒っているわけでは、なさそう――。

私が手をのばして、陛下の額の前髪をそっと整えて差し上げると、陛下は私の手をつかんでその甲に口づけ、陛下の頬に摺り寄せた。

「…あの、陛下。どうしてそんな風に。
その」

「君を、失わずにすんで――良かった」

陛下が良かったとおっしゃるのなら、良かったのだろう。
でも。こんなときまで女ったらしするところは、やっぱり陛下で…。

「陛下。よかったです――
あの書類がなくなってしまえば…」

陛下は私の頬を捕らえると、目を覗き込んだ。

「無茶だ…夕鈴。
あんな書の一枚や二枚」

「え?」
…あんな、とは。
それこそが、陛下が私に対して負い目に感じているものだと思っていたから
私は思わず当てが外れた。

では、陛下の口づけは、なにの代価――?

「君以上に大切なものなど、
この世にはなにも無いのに――」

陛下は相変わらず大げさで。…だから私にとってはいつもそんな言葉に勘違いさせられて、ドキドキしてしまうの。

「…大好きな、陛下のお役にたてれば。
私は本望ですよ」

自分で言っておきながら、恥ずかしくて
私は思わず真っ赤になった。

陛下がぐっとつめよって…
はっと気が付くと、私は乾いた薄絹一枚しかまとっていないし、
陛下はほぼ裸だった。

「~~~~~っ! あのっ
そのっ、なんですかっ、この格好!!?」

思わず正気に戻る。

「…川に落ちて二人ともずぶぬれで…」
「はいっ!?」
「川の水が冷たくて、君は氷のように冷たくて、息も絶え絶えで…」
「はいぃぃぃぃっ??」
「浩大が下流に駆け付けたが、乾いた衣類は手持ちのその薄絹一枚で…」
「き、き、着替えさせたって…ことですか? きゃーー」
「み、み、見てないからっ!
その、人命救助優先だって!
信じて、ゆーりんっ!」

急に子犬になっても…目の前の陛下裸体のインパクトは強すぎて、
両手で顔を覆う。
もう目をつぶっているしかない。

「…ちょっとまって。
その前に。いまさっき、ゆーりん、なんて?」

ガクガクと肩をゆすぶられ、思わず薄目を開ける。

「え? ですから、なんでこの格好なのか、ですか?」
指の隙間から漏れ見える陛下に、赤面が止まらない。

「その、前!」

えーっと…何の。
ああ、確か、赤面した話のそもそもといえば…

「陛下のお役にたてれば…? のとこ、ですね?」

「その前っ!」

「君以上に大切なものはこの世にないって、陛下が…」

「――その次っ!」

「…大好きな、陛下のお役に――」
再び私はボッと赤くなった。

再び、両手で顔を覆った。
陛下はその手を押し広げるようにして、私の顔を覗き込む。

「それは、――本当?」

「し、し、臣下として、お役にたつのは、とうぜんです――!」

「臣下じゃなくて…」

「ああ。そうですね。
私ただの庶民ですし…
…バイトは解雇されましたし。
じゃあ、一国民として――ですか?」

黎翔はバイトを解雇、という言葉に顔を曇らせた。

「一国民、じゃなくて。
…君は、夕鈴は―――?」

「…一国民じゃなくって…
私?」

「うん」

あんまり悲しそうで。
真剣に陛下が私を見つめるものだから
私はやっぱり、言えるうちに言っておこうと決心を固めることができた。

「――実は
陛下に、一つだけ、お伝えしたいと思って
旅にでました」

「…」
陛下は無言で…。
私が何を話すのかと様子をうかがっているかんじ。


「あの。こんなこと言って、陛下を困らせるってこと
よくわかってるんですけど――やっぱり。
言って玉砕するのが筋かなって――だから、私
あの…その」

「困らせる?」

「庶民の私なんかに
こんなこと言われても
陛下がお困りになるだけって
よく分かってるんです
でも
私、――陛下が
――す、」

「す?」

「……

……
…き」

私は居たたまれず、顔を覆った。

陛下はそんな私を無言で抱きしめて――。



…ああ、ダメだった。
やっぱり。
私の初恋は、終わった――と。



聞こえないように、息をそっと吐き切った――。


「…好き?」
「え」
「…ほんとに――好き? 私のことが」
「…あ、はい。あの、その変な意味じゃなくて…」
「どんな意味って、好きは、好きでしょ?
夕鈴はぼくのこと、好きって――
それ、ほんと?」

「…あ。はい」
私はもういたたまれなくて、両手で隠した真っ赤な顔を見られないように伏せた。

陛下は胸に私を抱き寄せて、頭にチュっと口づけを落とす。

「よかった」

「――え?」

「私には、手に入るはずのない幸福だと――そう信じこんでいたのに」

陛下がもう一度手を伸ばす。
私の指を、一本一本、はがすように開けてゆく。
これ以上なく嬉しそうに微笑む陛下の姿がそこに在って

「君に嫌われたら、どうしようかと悩んでいて――」

「悩み…? え? 陛下が?」
「狼陛下は嫌われ者だし
それに、君に嫌われることばかりした。
――君に好かれるはずもないと」

「すっ、好きですっ!!」

私はもう半分やけになって答えた。
陛下はくすっと笑って。

「…ねえ、夕鈴。もう一度、君との時間を私にくれる――?」

「私、陛下のお傍にいても、
本当にいいんですか――?」

「それが私の、望むところだ」

私は、何とも言えない安堵を味わった。

「それが陛下のお望みなのでしたら――」
私が目を伏せると、陛下はこつんと額を寄せた。

「夕鈴。私はどうやら、
君無しでは――生きていけそうにない」

そういって、息もつけぬほどの口づけが降ってきて
ようやく唇が離れると

「…愛してる」とつぶやかれ
また息苦しいほどの抱擁で私を捕らえた―――。

まるで恋人みたいだと、思った。

「ヘーカ。おかしい。
そういうのは、恋人に――」

「…恋人だろう? わが妃よ」

唇を指で触れられ、もう一度口づけをねだられた。
だから、もう…私はとめどもなく与えられる陛下のそれを受け入れるだけで精一杯だった。


そして突然、嵐はピタリとやんで
ふと見返すと真剣なまなざしで陛下が私を見つめていた。

「こんな私が、
幸福を手に入れることなど、
許されるのか――」

まるで答えを聞くのを恐れるように。
それでも答えが聞きたいと、陛下は私の言葉を待っていた…。


「あなたはこの世に許されないものなど、ありませんっ!
私の大切な王様。…あなたが不幸になったら
…それこそ、私が許しませんっ!」



たぶん、これは夢か。

それともやっぱりさっき、死んでしまっているのかもしれない、と
私はもう一度考えながら
陛下の長い長い抱擁と深い口づけを受け取った。




そのすぐ後、
李順さんが馬車を仕立てて迎えに来た。

浩大が知らせたらしい。

暖かい衣類、温石、飲み物…。
次から次へと渡され、シッカリ着こまされながら、その間中ずっとガミガミ叱られながら川下からほど近いにもかかわらず、馬車に揺られた。

注意深く人払いをしてひっそりと宿舎の館に戻ると「あなたはここにはいないはずの人ですから」と陛下の部屋に留め置かれた。

私はその夜を、陛下とすごした。



その後、王宮にもどっても
私は陛下のお傍らから離れることはなかった。

その後、晏流公と蘭瑶様を王都にお迎えすることになった時には
私は正妃の立場をいただいていた。

それに関しては柳大臣、氾大臣の後見により誰も口出しできなかったそう。

私と陛下の間には可愛い御子に恵まれ、その後、陛下は改革を行われ後宮問題はとりざたされることもなくなった。

美しく華やかな蘭瑶さまは、王都での生活をご満喫されていらっしゃる。
息子大好きな蘭瑶さまの溺愛ぶりはどうやら妹大好きな兄上と同様御血筋のようだったみたい。
捕らえられた蘭瑶さまの兄君はその後、地方でのご職務を長い間全うされ、つい先日王都へと戻ったと聞く。
方淵への謝罪を聞けたことで、私は陛下にお願いをしたのだった。
蘭瑶さまを思うお気持ちゆえの行為にもう一度チャンスを与えてほしいと…。

弟大好きな私と、息子大好き蘭瑶さまは意外にお話があうものだから、ついつい意気投合し、今はときどきお茶をご一緒する仲となった。

晏流公は自らの御意志で一臣下としての立場を逸脱することなく振る舞い、青慎と同期で官吏登用制度に合格、王宮にお入りになり狼陛下の御代を支える有能な補佐役をめざしていらっしゃる。

狼陛下の御代はますます栄え、盤石な体制へと整ってゆき、今や白陽国の王都は諸外国の中のどの国よりもにぎわう屈指の町となった。
その陰で働く有能なかたがたのご尽力と、そして、なにより陛下ご自身の努力の賜物だと、私は勤労の尊さを子供たちに伝えてゆきたいと思っている。


* * * * * * * * *

あの川は、今でもときどき夢にみる。



「…陛下、
あの時
私のことをお忘れになったって」

川から引き上げられて、陛下に抱きしめられている最中、
本当に自分は死んでしまったと、信じていただなんて――おかしくてつい笑ってしまう。

「忘却の岸辺でこそ、
私はようやく見つけることができたんだ。
大切なもの、を、ね。
夕鈴―――」

そういって、今でも私一人だけに甘い甘い、狼陛下は
正式な夫婦となり、お子がおできになった今でも、
私のことを臆面もなく人前で抱きかかえ、イチャイチャ(以前、夫婦演技と呼んでいた以上のことを)なされるから堪らない。

思わず私もふくれっ面をしてしまうこともある。

だからちょっと意地悪して言ってみる。

「忘れてしまえ―――とおっしゃったくせに」

「忘れられなかった。
君のことだけは」

「うそ、つき…」

陛下はアハハと笑って、いまだにコロコロと表情が変わるものだから、そんな陛下にドキドキしてしまう。
怖くて、ご立派で、愛しくて――せつなくて。
私はいまだに、日々陛下のことが好きで好きでたまらなくなる。


「――本当に大切なものは、
見えないところにあると分かるまで
私は難儀したものだ――」

陛下は、優しい目で私を見つめる。

甘い眼差しにクラクラしながら、私は強がって反論してみる。

「ならば、私の大切な陛下も
私には見えなくなってしまうのですか?
忘れた方がよろしいのですか?」

と問えば

そうだな、それは…と、少々陛下は困ったお顔をされて

「では…ほら、こうすれば。
見えない――」

そういって、
私を抱きしめ、私が思わず目を閉じるのを知っていて唇をふさぐ。

「陛下、ずるい。
…そんなことしたら、
貴方のこと
忘れられません――」


「もう、いいんだ。

忘れる必要なんか、ない。
だって
私は許されたのだから。

私の幸福を手に入れてよいと
君が許してくれたのだろう――?

だから
君はずっと
…傍に居て」

甘い口づけを、一つ。
そして優しい微笑みを、もう一つ。

ともにある限り、
私はこんなにも幸せ。

それが、あなたの幸福であるならば
私もあなたにお返しを。


愛するあなた。

全て、あなたの、お望みのまま。


【完】
*
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┃q・ω・∪ こんにちは♪


∪ノシ>ω<∪ノシ~~~~~~~~~~♪

もう!感動・感涙ですよ!!

長期連載お疲れ様でした(^^)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

桃月さま Re: ┃q・ω・∪ こんにちは♪

ほんと、難儀なお二人です。
最後まで、本当にありがとうございました~!
なんとか甘いところにちょっとたどり着きましたよ…



ますたぬ様

さいごまで信じて待っていてくださり、ありがとうございました。

(あのまま川に流されて「完」とかだったら、
カミソリ送られるところでした…はあ、危ないアブナイ)

LaLa、24日(水)発売で、23日(火)が祝日ということは、
早売り、22日(月)に前倒しでしょうか!?

はっ、ぜんっぜんノーマークでしたっ!!
カレンダーに○しておきますね、ありがとうございました


> 終わっちゃいましたねぇ・・・。連載お疲れ様でした。このお話、切なくて、陛下がどうなるのか、夕鈴はどうなるのか、はらはらどきどき読んでいました。最後はきっと幸せになると信じていましたが、信じていてよかった~。
> 次も楽しみにしてますね~。
> ところで、今月の早売りは22日なんでしょうかねぇ。
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秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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