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忘却の岸辺(18)

ようやく書けました。御待たせしました。

ネタバレ+妄想創作で、かなりのねつ造設定、お許しください。

【ねつ造】【ネタバレ】【シリアス】
黒幕がそのヴェールを脱ぐ――。
李順、方淵、水月の見守る中、ついに夕鈴と、黎翔の再開…!?


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(18)
* * * * * * * * *

蓉州より迎えた使者を別室に下がらせた後、王弟の扱いをめぐり白陽国の重鎮たる大臣らが喧々諤々と揉めていたその最中に、李順の袖のなかに投げ込まれた文。

李順は素早く目を通してみれば

「花落知多少
館の裏の橋まで」

と意味深な文面。

「花落つること知んぬ多少(いくばく) ぞ、とは有名な漢詩の一説…。
どれだけの花が散ったのかわからない、とは
脅しでしょうかね…?
それにしても、いつの間に。誰が…」李順は眉を顰めた。

王弟を王都へという一派の大臣が、激昂したあげく反対派の氾史晴大臣に硯ごと墨を投げかけた。頭に血が上り騒然とする大臣らの間に割って入った李順の袖に、冷静に文を投げ込むとは…あまりに意地が悪い。

嫌な予感がした。

黎翔に伝えるべきかどうか一瞬迷ったものの李順はすぐさま伝えた。

ただの脅しであればよいが、
この文に暗示された「花」が、万が一にも黎翔が手放した花であったら?


王は花を隠した。

王宮の悪い夢から隔離し、誰の手にも触れさせぬため。


――黎翔は、自らの記憶すら手放したのだ。
それほどまでに、大切にいつくしんだ唯一の花。
万が一にも、王宮の誰かが彼女を見つけ出すなど――あってはならないことだった。

ただの町娘の彼女を大切に思うがあまり
胸の痛みから逃げ
代えの利かぬ王の命を天秤に懸けた。

喪失感すらまるごと失ったはずなのにもかかわらず

あの方自身にとっても、
今まさに『知りたくてたまらない、何か』である
失った核心。

文のことを言えば、あの方のこと。
必ずご自身で確かめようとなされるだろう。

だから李順は保険をかけるために、方淵と水月の二人を伴った。

そして文にサラリと目を通した黎翔は、李順が予想した通り、無言でここに来た。

蓉州と任州を隔てる川。

その切り立った縦谷に掛けられている吊り橋の向こう側から
渡ってくる人がいる。


「陛下」

「男が――来るな。
奴か? 手紙の差出人は」

「おそらくは」

「…李順? どうした」

「…いえ」

男は、もう一人を伴っており
それが黎翔に知覚できないというのなら
おそらく、やはりそうなのだろう。


* * * * * * * *

つり橋を半ば過ぎまで
ゆっくりと渡ってきたその雅な男。
連れの女が一人。

旅姿の娘。
小さな二つの髷を頭上に簡素に結い上げた明るい茶色の髪は、背に流れて揺れる。
茶色い瞳は瞬きもせず、こちらを見つめていた。

囚われ、腕を縛られ。
ずっと被せられていた布を取り外されたとたん、
女の瞳に映った景色は眩しすぎた。

橋の向こうに見える景色。

女は思わず自分はもう死んでしまったのか、
あるいは夢の続きを観ているのに違いない、と思った。

「…陛下?」

遠く離れていても、見間違えない。

だって、私はずっとあの方をおそばで見ていた。
足音がすれば、あなたではと、毎日、毎日。
ひと時たりとも忘れることなく
あなたのために、私は居た。

だから、見間違えるはずは、ない――。

(陛下、あなた、ですね?)

あれほど会いたいと願ったあの人がいるとは思いもよらず
夕鈴は夢かと思った。
瞬きをする。
目頭の奥に、痛みと、しょっぱい涙がこみ上げる。




川岸で男たちに捕らえられ、意識を失った。
浩大とも、克右と離ればなれになってしまった。
訳も分からず、布を頭からすっぽり被せられたまま馬車に乗せられたことまでは覚えている。
首筋がいたい。首に縄をかけられ、思いっきり引きずられた痕。
…あの時は、窒息するかと思った。

幸い息を吹き返し「ああ、生きている」と夕鈴は安堵した。
だがいつまでもそのあとはひりひりと痛み、捕らえられ身動きできぬままどんな恥辱を与えられるのかと気が気ではなかった。

それが突然、これだ。

「陛下…!」
声を出したつもりだったのに、さるぐつわをかまされた口からは
くぐもった声が漏れるだけ…。



李順は、橋の正面からその男をジッと見据えた。
相手の手の内にある「花」が――今こそ何であるか確信をする。

最悪の状態にあることを知った。


男の頭に乗ったつば広の被り物から垂れた布は顔に影を落とす。
川風に翻り、チラチラと見え隠れするその男の輪郭、細い顎と雅な体つきに、
李順は見覚えがあった。

「あなたでしたか…」
李順は静かながら低く、力のこもった声で尋ねた。

夕鈴は手荒なことをされたに違いない。
(ここで怒ってはなりません。心を乱しては相手の思うツボ)と李順は心を抑えた。


橋を渡りきることなく
岸まで三分の一ほどの距離を残して、男は立ち止まった。

「陛下。
わざわざお呼び立てして申し訳ございません」

黎翔は無言だった。

どこを見るともなく遠い目をしていた。

「お分かりになりませんか?
あれほど愛おしんだというのに
…冷たいお方だ」

男は手元の女をチラリと見て、
くっくっと笑った。

「さあ。
妃というのは、儚い立場でございますな。
わが妹も…まさにそうでございました。
大貴族の娘に生まれ、蝶よ花よと愛されたあの麗しい妹が。
王の子を、しかも男児を生みながら。
ああして今は片田舎に引っ込まされ
一臣下の母に落とされ
誰からも顧みられることなく
打ち捨てられる…。

あれほど美しく、華やかな都に似合う者もいないというのに」

男は傘の端を指で持ち上げた。
美しい顔立ちは、雅な生い立ちを忍ばせた。

「わが妹、蘭瑶を。
あなた様の弟君、晏流公を。
――どうか都にお呼び戻しくださいませ。
わが君よ、どうか私の願いをお聞き届けください」

「ほう…?」
黎翔は目を細めた。

李順はこれは願いでも何でもなく、単なる脅しではないかと
静かな二人の間にピリピリとした空気を感じていた。

「わが願い。万が一にもお聞き届けいただけない、とあらば。
いつでもこの手の中にある『花』は手放せるのですよ?
この川の流れは急流で。
ここから落ちれば、どうなることか――
花一輪。あまりに、もろく儚い存在にございます」


ああやはり、と李順は思った。

蘭瑶はさる大貴族の娘で、華やかな生い立ちを歩んだ。
その兄、目の前のこの男も。
先々代の王の時代には羽振りよく暮らしたものであった。

だが、時代は乱世となり、武力に優れた王が台頭した。
冷酷非情の狼陛下。即位後、早々に内乱制圧、内政粛清を行い、名実共に中央政治の実権を掌握した王。
腐敗した貴族文化は徹底的に一掃され、この男の家門もかつては栄華を極めしも、
いまや一貴族の平凡な地位へと押しやられているのであった。

「晏流公の扱いの詮索はともかく。
なぜ蘭瑶を王都へ呼ばねばならぬのだ」

黎翔は冷たく言い放った。

「…それは、あなた様の大切な花を。
あたら散らそうとは、お思いにはなりますまい――?」


男は引きずるようにつれている女を黎翔の方へよく見えるように引き立てた。

「そのようなものは――知らぬ」

黎翔は答えた。


『知らぬ』

その時、夕鈴はズキン…と胸を射抜かれたかのように動きを止めた。

氷に心臓を閉じ込められたように
夕鈴は希望のすべてを失った。


黎翔の瞳は、夕鈴をとらえていなかった。


(狼陛下のときだって。
たとえ冷たい視線であっても、
あの方の眼は
まっすぐ私を捕らえていたのに―――)

かつて、目と目があえば微笑み返した。
妃にだけは甘い甘い狼陛下。
子犬のように自分にだけ見せた笑顔。
不思議な色を帯び、燃えた赤い二つの宝石。
凍り付く思いで突き放された、あの時でさえ…

陛下は、私を見ていた。


なのに、今は
まるで水か空気を素通しするように
一切、『見て』くれない。

存在を否定されることは
生きている甲斐をも一瞬にして失わせた。


(陛下は
…私を知らない)

夕鈴は、一縷の望みを捨てきれていなかった。
だから、その事実を目の当たりにすると絶望で心がきしんだ。


『あの方は薬の力で己の中の記憶を消した。
彼女の姿形はもちろん、存在すら認識できない。
すべてを失った』

浩大の言った通り。

…ああやはり、と思いながらも
希望を失った心に落胆は大きくのしかかった。

打ちひしがれた夕鈴が、視線を落とした。



男は慌てるそぶりもなく、しばしの無言のあと、
ようやくゆったりと話を継いだ。


「さすが冷酷非情の狼陛下といわれるお方。
沈着冷静なポーカーフェイスは
まこと、お見えでないかのごとく…。
さすがわが君とおたたえ申し上げましょう。

…がしかし、
巷にはよく似た『まがい物の花』も出回っている昨今…
どうぞお近くまで。しかとご確認いただいてもようございますよ…側近殿?

まあ、かつては後宮に一輪、咲き誇った花といえど、
少々汚れたままにて気が引けますが…
元々出自卑しい女なれば、さして見劣りもいたしますまい。
…今日のところはお許しいただきたい」

頭はボサボサ、旅装姿で砂埃にまみれ疲れ切った様子の夕鈴は、明らかに略奪され暴力を振るわれたに違いなく、李順はそれが酷いことでないよう心を痛めていたものだから、猶更に男の言葉は李順を刺激した。

(それほどに、狼陛下の妃を…辱めたいのですか?)
李順はギッと思わず男を睨んだ。

「おや…恐ろしいお顔をなさる。
それとも。
あちらに潜んでおられる、お付きの方々に面通しを願いましょうか…?」

男は、フフフと優雅に笑って、少し離れた木立を指差した。

方淵と水月は少し離れた橋の見通せる木立の陰から息をひそめて様子をうかがっていたが、男にこちらのことを察知されていると知りギクリとした。

そもそも潔い方淵は、逃げも隠れもする気はない。
そこまで言われては、と木の影から姿を現す。

水月は「はぁ…」と小さくため息をついて、続いた。

「ああやはり。
今を時めく両大臣のご子息――政務室補佐官の御二方でしたか。
これは都合がよろしい。
なにしろ、かつて後宮を独り占めしたお妃さまの大のお気に入りで、
かつて恵花宴の手柄をたてられご出世されたお二人だ。
贔屓厚く愛でられた間柄、
よもや真贋を見誤ることもございませんでしょう…」

今は政治の舞台から一線を退いている家門の男の言いぐさには
少々とげが含まれていた。

「…」
方淵はむすっと唇を結び、すたすたと陛下と李順の方へと向かった。

「では、お二方。ゆっくり、花検めをされてはいかがか。

…ああ、腰のものはそこへ置いて。
万が一にも襲われてはたまりませんから

…とはいえ怪しげな動きがあれば
このように不安定な橋の上でございますから。
わたくしの手元が怪しくなって、いつ何時、
大切な花を川へ落としてしまうやら…」

くくく…と男は薄い唇をひきつらせながら嗤った。

方淵は腰に佩いていた剣の下げ緒を解き、地面に置いた。
「おい、お前…!」

方淵ににらまれ、水月は答える。

「もとより無骨な武器は身に着けてなんかいないよ。」

「…懐の」方淵が睨む。

「え? 懐の笛も手放さねば、だめなのかい?
いやだな…大切な楽器を、地面に置くだなんて――」

「笛も――。遠慮いだたきましょう。
仕込み暗器など、常套手段ですから」

水月は悲しそうな顔をして方淵に倣い、笛の入った金襴緞子の袋を地面に置き、橋に向かって歩きだした。

「他に武器等ございませんでしょうな?」
しつこく確認をされ、方淵は
「武官でもないのに、そうそう武器を持っていてたまるか!」と正面切って抗議した。

「結構。ではどうぞこちらへ」
水月と方淵が橋の袂へと辿る。

「おい、ぐらぐらするんだろ?
私は高いところが苦手なんだ。
…君から行けよ」
水月は小さい声で、方淵の背中をツイと押した。
方淵はむっとしながら水月の方を振り返り、キッと睨むと一言小さくつぶやき、前を向き直って先に橋を渡り始めた。
水月もたどたどしく、揺れる吊橋を後から渡る。


夕鈴は、近づいてくる方淵と水月をじっと見つめていた。
方淵は怒ったように目を吊り上げ、夕鈴の顔を見つめた。

(馬鹿者…馬鹿者…馬鹿者―――!)
方淵の眼は怒りで燃えていた。

黎翔と李順はずっと無言で二人を見送った。

方淵と水月の緊張した面持ちをみるにつけ、黎翔はそこに『花』と呼ばれる人物がいることを認識するのだが、頭の中ではイライラと金属的なきしむ音が小さく続き、頭痛がするばかりで、一向に視覚情報はまとまらなかった。

小さな声で黎翔は李順に尋ねた。

「本当に、そこに誰か?」

「陛下…お分かりに、なりませんか?」

(陛下は、本当に分からぬのですね…。
お見えには、ならないのですね?)

李順には、たとえ遠目であっても、分かる。
花検めなどせずとも、あれは夕鈴本人であると確信していた。

(陛下を見つめたあの瞳は――間違いありません。
悲しいかな、あの、小娘ですよ)と、李順はため息をついた。

ぎいっ…

ぎいいいい…

つり橋をきしませながら、方淵と水月は、男達の方へと進む。

方淵と水月が近づくにつれ、夕鈴は泣きそうな顔になった。

いつも以上にしかめっ面をした方淵が来てくれることは、
安堵とか懐かしい、というより
むしろ辛い。

(なぜ、捕まる!!
なぜ、そのようなところで
陛下の足を引っ張る―――!?)
と、
方淵に自分が責められていると感じ、
夕鈴は胸がつぶれる思いだった。


水月はとても硬い表情で
いつものように優しい笑顔を向けてはくれなかった。

(水月さんにまで…私は見捨てられた?
いっそ、このまま、自ら身をなげて…)

夕鈴はきゅっと唇を噛んで決心をした。


―――陛下には会えた。

陛下は私のことを覚えていない。

陛下の足手まといになるくらいなら、いっそ…



男を振り切って、いつ川に身を投げようかと
絶望の中の救いはもうそれしかない…と思われた。

なのに、縛り上げられ、しびれすら切れた夕鈴の腕に自由はなかった。

見た目は雅で華奢に見える男だが、
力は男のそれで
女の夕鈴はよたよたと引きずられながらもガッチリと逃げ場がない。

逃げられないのなら、
…いっそ、この人と諸共に――?

だめ――。
陛下を陥れる悪い人? 
でも、晏流公のお母さんのお兄さんだ、って…。
ちゃんと話を聞かないと。
私の勝手な判断でもし、これ以上陛下を困らせることがあったら
……できない。

指をなんとかほぐそうとしたが縄が食い込み動けない。
陛下はとっくに私のことを忘れた。
私のことは、もう二度と目に入らない 
それなのに

逃げることも、死ぬこともままならず、
ただ陛下の足かせになるのが悔しくて―――

夕鈴は涙がにじんだ。


「そこで止まれ」

一間の間合いまで近づけたものの、腕を伸ばしても届かないその距離で男は二人を静止させた。


「さあ二人とも御覧じろ。
この惨めな女が、かつて陛下の唯一の花だったと。
――確かに本人であると
陛下にご報告申し上げるがよい!」

風が男の被り物の布を舞い上げた。
男はまこと涼やかに麗しい顔で、笑った。


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秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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