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忘却の岸辺(16)

ご無沙汰いたしました
今日のお仕事終わりました~

ちまちま打ってたんですけど
なかなかアップするところまで…で(汗;


【ねつ造】【ネタバレ】【ブラック無糖】

重苦しくって昏い黎翔さまのターン。
すみません――。
コクを濃縮。

ああ、糖分が欲しくなってまいりました――


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(16)
* * * * * * * * *

任州と蓉州の国境を隔てる大河の上流の
荒々しい急流の渓谷に、この町はあった。

失った記憶の鍵をにぎる克右と合流の約束をしていた浩大の情報をもとに
国王、珀黎翔は視察先から任州へと足を延ばした。

折しも王弟を王都に呼び戻すかどうかで王宮は二派に分かれ争いがおきていた。

賛成している最大勢力の柳大臣、そして反対している氾大臣は
王が視察地から予定外の行動にでることを
――つまり、問題の核心である王弟問題と直接向き合うこと――を想定し、
先回りをして蓉州との州境のこの地を会談の場所として選んでいた。

またもし万が一国王が動かなければ、自分たちの行動によって水を向ける腹積もりであったに違いない。

なにしろ、会談のセッティングは隙なく整っていたのだから。

一方、国王の黎翔は、王弟の扱いをめぐる王宮の諍いを諫めるでも結論を出すそぶりも見せるでもなく静観していた。

なにがうごめき出すのか――

王宮の闇で
誰が、どのような謀略を張り巡らしているのか。

誰とだれが裏で繋がり、
浅はかな貴族にどのような口当たりの好い餌をバラ撒き煽動するのか。

それら、ありとあらゆる薄汚い技ーー

が、どのように暴露されるのやら…と
黎翔はむしろ楽しみにしていた。

それよりも今、
彼の心を占めているのは

この現状を憂いて自分が事前にとった『手段』のことについて。

こうなることを予測し、自分はなにか大切なものを手放した――。

そこがどうにも腑に落ちない。

黎翔は、自分を割り切った男だと思っていた。

物でも人でも、
何一つ自分は縛られるつもりはないし、
まして執着するなど。

いざというときには割りきれる
自信も覚悟もあるつもりだった。

自分が背負ってきたもの。

王の子、として
物心ついたときから
生まれついた場所を受け入れなければ始まらなかった。

正直なところ、
自分の身にも、生きることにも
執着はない。

そう
いつ死んでもよいとすら
黎翔は思っている。

しかしただ死ぬだけも間抜けすぎる。

生まれてきたからには、何か甲斐が欲しかった。

「楽しませてくれ」
投げやりなようだがそれを願った。

まだ子供で、無力であったころから、
黎翔はありとあらゆる敵の罠に囲まれていた。

――それがたとえ近しいものであっても。
相手が誰であっても、
どんなときでも。
『気を許す』ことは危険だった。

優しい笑顔と甘い言葉で自分に取り入り、
居心地よく懐まで忍び込む。
永遠に続くかのような安らぎの日常は、
ある日一気に瓦解するのだ。

実際、彼に取り入るものは
皆、例外なく敵だった。

力なき王の庶子に
下心なく近付く者は皆無だった。

騙されるのは、愚かだと…。

笑いながら毒を入れる者ばかりに囲まれていれば
『無条件に自分以外のものと心を通わす』など
この世にはあり得ないことだと、
幼い黎翔は諦め確信していた。

信頼は、唯一、契約によって生じる。

互いの命をささげ、
逃げ隠れもできないほど深いところで交わす約束だけが、相手と自分をこの世に縛る――。

身も心も命まるごとを預けられた以上、その見返りとして結果を残し、彼らを満たし応える責務を全うせねばならなかった。

有能な家臣の助力を得るために交わした契約によって、がんじがらめにこの世に縫い止められた今の自分の体は維持しなければならない。

王の子に生まれついた立場。
いつのまにか、自分の体は己だけのものではなくなっていた。
第一条件として、まずこの身を保たねば…生きていなければ話にならない。

――だからそのための鍛錬は欠かさず、抜け目なく生きる術は人並み以上に身に着けてきたと思う。


荒れた国を掃除する。
それは楽しかった。

権力を欲したことはないが
醜い争いに巻き込まれながらも、戦うことで自分がいる証を立てた喜びは小さくはなかった。

生き残ったその事実が、強く賢い者の証で
その力が彼を国の統治者に押し上げた。

強く武力に秀で、誰からも恐れられる王。

だが、黎翔個人としては
その脳力を自分以外の何かとの結び付きのために
発揮するつもりはさらさらなかった。

何かと深く情を結び、気を取られるつもりはない。

それは何度繰り返しても裏切られ続けたことで――正直、無駄なことだと黎翔は知っていた。

無駄な情は、判断を誤らせる。

彼を取り巻くすべて…血縁であろうと、命を狙う者ばかり――。

そんな中で生き抜いてきた、力なき子供が
やがて冷酷非情の狼陛下と呼ばれるに至った背景は、
情を切り捨てていたからこそ。

情に溺れなかった酷薄さに助けられ
今まで生き抜いてこられたにすぎない。

『楽しませてくれ――そうでなければ、切り捨てるまで』

黎翔は飢えていた。
生きる喜びの糧に…。


今も昔も、そんな自分は、変わらない。

だから
自分の心の領域に
誰かを許し
必要以上に情けに流された自分という存在があったという事実が
黎翔には信じられないことであった。

『そこまで私を変えたものは何なのだ――?』

必死の思いで捨て去ったものを
切望するなど、皮肉だ――。

浩大から話を聞いて以来、
以前の自分が禁忌を冒してまでも忘れ去ろうとした何かについて黎翔は考えていた。

忘れなければ生きてゆけないと自ら思いつめ
絶対に選ぶはずがないと思っていた手段
――亡き母が選択し、憎んでも憎み切れないほどの嫌悪を持っていたという
掟に背く方法――
に自分が踏み切った、というそのことが。

そこまでして忘れることを選んだ自分がいた、という事実。

今度は、それが何だったのか分からないことでイライラとしている。

その大切なものにまつわるすべて…。
見えない、聞こえない。

そんな不思議な現象が起きていることすら、自分は分からない。

真っ白に何もかも失った。
それこそが、記憶を失う前の自分が欲した『何か』であったはず。

いま、自分が仮にも王として、責務を全うするに遺憾ない状態でありながら。

――知りたい。
私は、何を失ったのだ?

自分が壊れ、死と渡りあう危険を冒しても、忘れたかったこととは、――何なのか。

* * * * * * * * *


「ああ、陛下。このようなところに――」
黎翔がめずらしく窓の外をボンヤリと見ている姿に気が付き、李順は声をかけた。

「さ、そろそろお支度を。今日は頭の痛い一日になりそうですよ」
李順はぼやいた。

「浩大は?」

「克右と落ち合う場所へと向かいました」

「…私は置いてきぼりか」

「この状況では仕方がないでしょう。…浩大には克右らをここに連れてくるよう伝えてありますから。どちらにせよあなたがお望みの通りとなりましょう」

「望み?」

「あなたは会いたいのでしょう?」

「会いたい…?」

「あなたが手放した……」

「いあ、李順。
――正確には、少し、違うな」

「違うのですか?」

「すまん。分からんのだ、私にも。
何を失ったのかすら、
いまだに何も分からない」

「…そうですか」

「だが、
知りたくてたまらんのだ。
以前の私が、そこまでした、という“もの”が――」

「…知ったところで、どうなるものでもないと。
そうはお思いになりませんか?
あなた自身が切り捨てた過去を
――今更、とは?」

「今の私には見えず、聞こえず。
…そんなものを、どうしろと?
一旦自ら手放し、捨てたものに追いすがるとは、まるで愚かの極みだな」

「…さあ。
聡明な陛下がお分かりにならないことでは――。
わたくしにもそれは分かりかねます」

「そうだな。以前の私なら、切り捨ててきた。
だが――割り切れないことにこれほど引かれるからこそ、今はただ。
素直に知りたい、と思うのだ」

「特殊な…秘薬の作用にございますから。
老子にも調べさせましたが、もとより博打のような…。
例の秘薬の効果は不確かすぎるうえ
幸運にも一度失った記憶を再び取り戻した例は過去にない、と――」

「承知している」

「見えなくなったものが、見えるようになったことも――
聞こえなくなったものが、聞こえるようになったという例も、
一つも、見つけることはできませんでした」

「そうか」

「あなたは、もうお忘れになったのです。
姿も、形も、言葉も」

「…そうらしい」

「あの日。
あなたはお見えにならなかった。
傍にあっても、分からなかった…」

李順は肩を震わせた。

――ああ、陛下。
あなたの判断は正しかったはずなのだ。

妃としての資質も条件も
何一つ持たぬ彼女を
見逃した。

これ以上の最善の策はないーー

なのに。

あなたは最も大切で
この世でたった一つのものを。

あなたへの天から与えられた恩恵
――幸せ、を。

手放しておしまいになったのでしょう…

おそらくは。


永遠に。







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