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忘却の岸辺(15)

黎翔と浩大は、李順、補佐官、武官らとともに任州へと足を延ばし、
一方夕鈴と克右は、追っ手から身を隠し、任州をめざす逃避行を続ける――。

【ねつ造】【夕鈴受難※】【渋】
※ちょっと暴力シーンがあって痛いです。ご注意ください。
そして、ちょっと今回は渋い出演者が多いです…。


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(15)
* * * * * * * * *

夕鈴は自分の脆さを、涙を、恥じた。
出立前にこのみじめな顔を、洗い流してしまわなきゃ――

いそいで川岸を目指して駆け寄った。

馬が少し興奮していた

だが、その時の夕鈴は泣き顔を克右に見られた恥ずかしさで
一刻も早く冷えた川の水で涙を洗い流してしまいたいとそればかり考えていて
周囲の変化を気に留める余裕もなかった。

川岸には少々起伏があり、背の高い草が多い茂り足場が悪かった。

カサ、と目の端で生い茂る草が揺れたとき
夕鈴はまた大カエルでもいるのか、とチラと思ったものの
ゆるんだ足元を踏み外さないよう気を使っていて
周囲への注意力が足りなかった。

そのとき、背後で克右が大きな声を上げた。

「――おいっ! …」

声が聞こえた瞬間、
背後から大きな手がニュっと伸びてきて、腰から乱暴に網をかけられ、腕ごと体の自由を奪われた。
夕鈴はつんのめり「きゃあっ!?」と声を出す間もなく、頭から荒い麻袋をかぶせられた。

夕鈴は目の前が暗くなり、麻布の粗い隙間からかろうじて光のある方向が分かるだけだった。
叫ぼうとしたが、袋の上から首元に太い縄を巻き付けられ、ぎりぎりと締め上げられ声もでない。
恐怖と息のつまる恐ろしさに血が逆流した。

「叫べば、くびり殺すぞ!」
おぞましい脅しの声が聞こえた。

両側から荒々しく体を抱え上げられ
ひょいと体が傾き宙に浮いた。

「――やぁ や、やめて――!」
必死に声を絞り出し、ばたばたと足を激しく動かす。

体を網でぐるぐる巻かれ体の自由を奪われた夕鈴が、見えない相手に抵抗する術はたいして残っていなかった。
頑丈な相手は夕鈴が少々暴れようとビクともしなかった。

首を絞められた夕鈴は、刻一刻と血が溜まる。
パンパンに鼓膜が膨らみ今にも爆ぜそうなほどで、あまりの苦痛に夕鈴は慄いた。
腫れた血管で締め上げられ、耳の中で拍動の音がドンドンと鈍く響く。
まるで水の中で聞く音のように、どこかから克右の怒鳴り声が聞こえた気がした。

克右さん!?
――遠くて きこ、えな。――い

「や、やめ――」

苦しくてもがく。
だが、自由にならない。

今にも窒息した脳は破裂しそう。
夕鈴は新しい息を求めパクパクとあがくが
新鮮な空気は少しも体に入ってこなかった。

少し離れたところから、別の男の声がした。

「馬鹿野郎、締め上げすぎたら商品価値がなくなるぞ?
あの方は、無傷で連れて来いとおっしゃったんだっ!
殺しちまったら金にならんどころか――オレたちが殺される!
キサマ、その女の首に縄の痕なんかつけやがったら……」

「おっと、そりゃ、申し訳ない!」

ゴリゴリと耳元で音がしたら、急に体をひっくり返され、
驚いた夕鈴はかろうじて自由な足をしっちゃかめっちゃかに動かした。

「あばれるんじゃねえ!
ほどけねえじゃないか!」

無理やり首に巻き付けられた縄を引っ張られ、夕鈴は首が抜けるかと思った。

荒々しく体を扱われるのは我慢がならないが、それで窒息する苦しさから解放されるのなら――と夕鈴も必死で耐えた。

すると、首に巻き付けられていた縄が緩んだ。

今度は一気に解放され、狭い血管を我先にと血が下る――

一気に圧力が下がり、意識が薄らぐ。
必死にあえぎ新鮮な空気を求めるが、麻布が口に吸いついてうまく息がすえない。

もみくちゃにされて、ガクガクと世界が回る。
相手は自分をかかえて走ってるのか
それとも、馬――?

視界を奪われたまま眩暈と苦痛で頭が朦朧とし、
恐怖の嵐の中で夕鈴は気を失った――。


* * * * * * * * *

「陛下。いかがいたしましょう――?」
氾大臣がやわらかいほほえみを、部屋の最奥の座に座る主へ向けた。

「ご会談の日時は―――これにてよろしいでしょうな?
明日早朝、蓉州の使者がまいりますれば、
王弟君の処遇について、正式なお返事を――」

「柳大臣。そのように急かずとも。
まずは王弟陛下の人となりを知り、
話し合うことが重要でございましょう。
何事も急激な変化は避けるべき。
次の段階に至るかどうかは、まずはそれから考えることであり
一つ一つ手順を踏む必要が我々にはあるのでは?」

慇懃な会話が、珀黎翔の眼前で続けられていた。

「手順を一つ一つどころか…。
お前たちとここで合流するとは思ってもいなかったがな」

珀黎翔が、任州(じんしゅう)を訪れることはもともと旅程には組まれてはいなかった。
それにも拘わらず、なぜこの男たちはこの任州の州都閑積(かんせき)からさらに奥まった辺鄙なこの場所にいるのか――。

蓉州は大河で隔てられており、その川の岸辺に大きな町があった。

浩大が克右と落ち合う約束をしている蓉州行きの船着き場の町を目指した黎翔一向は、その少し上流の町に滞在していた。

というのも、国の重鎮たる大臣がそろってこの町に居る、という情報が途中でもたらされたからである。

浩大が『落ち合えなければ先に行け』と克右に指示した合流の日を明日に控え、
氾大臣、柳大臣と相対するとは思ってもいなかった。

約束の地に向かう途中、ということもあり、黎翔として内々の用事に足止めを食う形になっても両大臣とあいまみえるは致し方なかった。

今回の予定外の遠征は、非公式とはいえ側近の李順の他に選び抜かれた近衛の小隊、柳方淵ら補佐官ら公人を同行させている。
普段忍びで身軽な移動を好む黎翔がわざわざ大仰に振る舞った理由というのが、ほかならぬ密会談のセッティングの演出そのものであったから。

国王の視察の予定に入っていない『突然の予定変更』を、みな腹積もりしていたことだろうと黎翔はカマをかけ、その通り王宮のメンツは動き、黎翔の読み通り、いやそれ以上の大役者を舞台の上に引っ張り出した――。

黎翔はシナリオ通り舞台の幕が上がったことを知り、
二人の役者を昏い瞳で見つめ返す。

薄い唇を引き上げ、冷たい声で問いかける。

「お前たちがそろってこのような辺鄙な場所に?」

「それは、会談にもっとも都合の良い場所だからでございます――」
柳義広が答える。

「ほう、会談?」
黎翔はまるで初めて耳にしたかのように表情を変えずに両大臣を冷静に見つめていた。

「王弟殿下のご処遇をお話しあいになる、この国にとってたいそう重要な、話し合いにございます」
氾史晴が付け加えた。

「国の大事なれば、我々王の臣下としてはせ参じた次第」
柳大臣は本日三度目となる同じ文言を慇懃に述べた。

「私が視察先から、気まぐれに足を延ばすなど――誰が想像できるものだろうか?」

黎翔の冷たい口調を、涼やかな目元でいなす氾史晴。
「それはご聡明な陛下であれば。現状王宮を悩ませる問題に、誰よりも早く取り掛かられることとお察し申しあげ。
さすれば我々陛下の臣としてできうる限りの準備をさまざまに巡らせていただいておりました次第」

それに対し、柳義広はいつも通り苦虫をかみつぶしたような鉄面皮を張りつけたまま奏上する。

「蓉州の使者と会うには、任州のこの川のほとりの町がまさにうってつけ。
話がまとまり次第、直ちに王弟陛下と蘭瑶さまもお呼びいただけるよう、雨宣(うせん)にご両名にご待機願うべきかと」

柳の言葉に、氾は異を唱える。
「それは時期尚早――!
それではまるで、すでに王弟殿下を王宮へお迎えすると
決まったかのような口ぶりではありませんか!」

「実際、そうではありませんか。
後宮の花は枯れ果て、若き国王にはいまだ跡継ぎとなる御子もなし。
正当な王家の御血筋をお引きあそばした王弟殿下をお迎えする以外、
他に何か良い打開策でも――?」

柳大臣はつまらなそうに氾大臣を見遣った。

「ご正妃をお迎えになれば済むこと――いやむしろ。そちらが先の話では?」
氾はなにをいまさら、と面白がっているようだ。
その微笑をたたえた口元はあくまで柔らかいが、後に引く様子も一切なかった。

「先のばしにした結果が今ではないのか?
王弟殿下をお迎えし、その後ご正妃から嫡子が生まれれば
その方をお世継ぎとしてご指名なさるにそれに越したことはなく。
現状王弟殿下を王宮に呼び戻するは、いうなれば保険。
王弟殿下にも王都暮らしに慣れていただき、王のお力になるべくご勉学をしていただくことと、ご正妃の問題とは
何ら競合することではござらん」

「正妃問題と、王弟を王宮に呼び戻すは別の問題――とおっしゃるのか?
しかし王宮の日の当たる場所に王弟殿下を引き出せば、持つ力なき王弟を懐柔し己の権力の足掛かりにと目論む、良からぬ考えを持つ者も出てまいりましょうなぁ」
氾大臣は柔らかく笑った。

「なに、王弟を担ぐというのであれば、担いでみれば宜しかろう。
さすればいかなる思惑を誰が持っているのか、我々に各々の腹の内を見せてくれる良い機会となりましょうぞ」

珀黎翔はチロリと狸に視線を走らせた。

「…とは、この際、私に踊れ、と――?」

「王弟殿下の人となりを見定めるは、我らにとっては大切なこと――ただし。
その存在をどう利用しようとしている輩がいるか、知ることも
陛下にとってはまたとない益となりましょう?」

鉄面皮の柳義広は、いつものように、つまらなさそうに言ってのけた。

「お前たち、柳家と氾家は古くより根深い確執があると聞いていたが。
お前たちが反目するふりをしながら、
私まで躍らせようというのは
どういう風の吹き回しだ?」

ムスリとした柳義広を横目に、氾史晴はまるで冗談でも話しているようにハハハと軽い笑い声をたてた。


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