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忘却の岸辺(14)

消えた妃を血眼で探す賊らに襲われ、かろうじて逃げ出した夕鈴と克右。
二人は浩大との約束の地をめざし…

【ねつ造】【ジビエ】
※夕鈴と克右が戴いてる食材は、他国ではごく普通の食材ですが現代日本人としては一般的に口にするものではありません。
お気に召さねばスルーでお願い申し上げます。


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(14)
* * * * * * * * *

――浩大と、なんとかして合流を。

約束の地、蓉州(ようしゅう)との州境にほど近い任州(じんしゅう)のある町をめざし、
夕鈴と克右は先を急いでいた。

軍部の克右にとって乗馬は慣れた移動手段であったが
夕鈴にとり馬での旅は思った以上に辛く、体のあちこちが痛い。
疲れがたまると、ついつい滅入って愚痴っぽくなる。

振り切った賊から奪った馬は
脚が速く体力もありよく訓練された良い馬だったし、
装備もしっかり鞍の横に結び付けられていた。

夕鈴と克右を襲ったのは、野党や山賊の類とは違う――と克右は感じていた。

貴族、それも軍部に属す上官クラス以上の…将軍を
顎で動かせるような大貴族。
そんな相手を敵に回している――。

* * * * * * * * *

その日二度目の休憩で馬から降りる。
夕鈴はさすがにホッとした表情でお尻をさすった。

任州は水の都ともいわれ、
大きな河川が州を横切り
豊かな実りを土地にもたらしていた。

克右は自分の馬と、夕鈴の乗っていた馬の手綱を引き、
馬たちを上手に土手から川岸まで誘導して降ろす。
馬はごくごくと水をのみ、その様子を見ていて思わず夕鈴が自分の喉の渇きを思い出した。

緊張に緊張をかさね、お腹がすいたことすら忘れていた。

「火をおこして食事にしましょう」
克右が手慣れた様子で簡単な炉を切り、食事の支度を始めた。

夕鈴は馬の上流で手と顔を洗いうがいをする。
馬は喉の渇きを満たすと、あたりの青々とした土手でのんびりと新鮮な草をはみだした。

「何度か危ない橋は渡ったが、
娘さんも度胸がついたな」

「そ――そうですか?」
夕鈴はあの日以来、克右とさりげなく距離を置くようになった。
克右は苦笑すると、ボコボコ凹んだ鍋を炉の上に乗せ、湯を沸かす。

気さくで優し気な一面のある克右は有能な軍人でもあったので、
心の内面を表に出さず、任務として黙々と働いた。

夕鈴にとって『自分のお守り』が彼の職業上の任務であることが、
少々心の重荷となっていた。

「……危ない橋だから、
浩大に会えて無事が分かったら。
あとは私一人でもいいですよ?」

夕鈴は膝を抱えてつぶやいた。

克右は聞こえなかったフリをして、敢えて返事をしなかった。

ガサリ、と草影で音がする。
(…敵?)
ハッと剣呑な表情で振り返ると、草陰に大きなカエルがいた。

「なんだ…カエルですよ。
克右さん、安心してください」

夕鈴がホッとした声を出すと、克右はすぐさま音を立てずに移動した。

あっという間にそのカエルを捕まえた。

克右は手にした大きなカエルを夕鈴に見せびらかした後
小さなナイフを取り出すと
夕鈴の目の前で器用にツルリと皮をむいた。

「一品おかずが増えましたぜ」

克右が笑うので、夕鈴も思わずつられて笑った。

こんな風に、カエルやらヘビやら虫でも
生きてゆくためには肉を食べなければ体が持たない。

大カエルは御馳走だ。
調味料も油もなく、ただ焼いただけだったけれど
カエルの足は美味しかった。

野山の動物も虫も美味しい食材だと夕鈴は知り
『命をいただいて生き延びさせてもらっている』と感じる。

陛下もこんなふうに、反乱軍と戦っていらしたときは
野山で空腹を満たされていたのだろうかと思いをはせた。

こんなふうに、素朴なものを口にして
兵士たちと舌鼓をうったのだろうか―――。


後宮ではそれはそれは綺麗で美味しい料理ばかり目にした。

夕鈴にとっては目が回るほど豪華な食事で、
下町にいたら一生口にも目にすらすることのない
山海の珍味が食べきれないほど
毎日目の前に山のように盛られていた。

特に宴のときはすごく。
――なのに陛下はそれを前に、ちっとも嬉しそうではなかった。

陛下は時折ごくまれに料理人をねぎらったり
贈られた珍味への礼を口にしたことはあるが
それはあくまで義務として必要のあるときに限られ、
彼の心の底から発せられた言葉ではなかった。

美味しいのか、まずいのか。
――何がお好きで何がお嫌いなのか。
陛下がどう感じていらっしゃるのか――
傍で見ていても、夕鈴にはさっぱり分からなかった。

そのくせ夕鈴の手をとり、口づけをするときは
うっとりとした甘い表情で…
「君がいてくれれば、幸せだ――」と。

まるで極上のお酒に酔っぱらったように
スラスラと極端な美辞麗句が次々と口から出てくるものだから、
夕鈴は赤面するしかなかった。


――『君がいてくれれば』
あの人はそう言ったのに。

夕鈴の脳裏によみがえる、後宮での日々。

あの人が何を好きなのか分かんないから。
陛下のために、必死にお好きなものを探した。

ようやく情報を聞きだして
陛下がお好きだとおっしゃる『甘いもの』『可愛いもの』を一生懸命作った。

李順さんの採点は厳しくて
「あますぎる」だの「形が少し悪い」だの
及第点が出ることはほとんどなかったけれど
へーかはいつだって極上の笑顔でとろけそうに喜んでくださった。

『君の作ってくれたものなら、なんでも美味しい』
――って。

ほんとうに嬉しそうで…あのお顔がみたくって。

そんなにお好きならって
いっぱい作って、陛下を驚かせようって――思っていたのに。

あの日、あの方は
私を抱きしめた。

疲れきった表情のあの人をなんとか元気づけたくて
私は尋ねた。

『お茶をいれましょうか? 陛下。
何か欲しいものはありますか?』

あなたは答えた。

『君がいてくれれば、他に何もいらない』

可愛いお菓子も豪華なお料理も。
何一つも口にしていないくせに
幸せそうに、笑った――。


君がいてくれれば、他には何も…って?
君がいてくれれば…って。
それ。
なんの冗談ですか?

うそつき!!


居ちゃだめだって、決めたのは――あなたでしょ?

「…側にいさせてくれなかったのは……!」

つい不満が口をついて出てしまった。

「――は?」

カエルの後脚の骨の周りをしゃぶり咥えていた克右は、
突然夕鈴が怒りにまかせて叫ぶのを、目を丸くして見つめていた。

しまった!と現実に引き戻った夕鈴は背筋を正した。

「えっと。…側にいたほうが良かったかい、お嬢さん?
そこじゃあ、鍋が遠いか?」

「あ、あのっ。料理じゃなくてっ!!」

夕鈴は顔を真っ赤にしながら憤慨している。
だがその目は克右を通り過ぎて、遠い空に向けらえていた。

「…あの方の、ことですかい?」
――克右はため息をついた。

「…っちっ 違っ!!」
慌てて彼女は打ち消したが、
その憤慨ぶりを見れば見るほど、
克右の言葉は的を射ているとしか思えなかった。

「…違わないですよ
そうでしょ?」

克右は炉に向かい、静かに熾火をつついた。

「ちがわ…ない、です。
そう。
――側に…いさせてくれなかったのは
へーかです」

一瞬表情が掻き曇ると、夕鈴の目には大粒の涙が浮かんだ。

ポタリと涙が落ちた。

「あんなに。
『君がいれば幸せだ』って――
どんな食べ物より
どんなお菓子より
幸せだって。

嬉しそうにしてたくせに。

…忘れちゃったって?」

夕鈴の目からぽろぽろと涙がこぼれ、足元の草地を湿らせた。

「――」

「記憶を消したって。
すべてを失ったって
――ソレ、何ですか?」

あの方を思って泣く彼女をどうにも慰めあぐね、
克右は距離をとったまま遠い眼で音を立てて爆ぜる炉の炎を見つめる。


「……あのお方は
今まで満たされることがなかったんでしょうな。

飢えを満たされ
それを再び奪われるのは――なによりも恐ろしいものだ」

ぽつりと克右は口にした。

二人はシン、と押し黙った。

「――さ!」
克右はおもむろに炉に水をさし、火を消すと立ち上がった。

「ハラが満ちたら、行きましょうや!」

克右はテキパキと片づけを始めた。
跡を付けられないよう痕跡を消す。

「……はい」

夕鈴もノロノロと立ち上がった。

――でも。まだ
わたしは浩大に会って
あの人のことをきちんと聞きたい。

それから――?

自己責任だなんて大ミエ切っておきながら
克右さんと浩大の二人を危険にさらして。
私一人では何一つできずに、守られてばかりで…

だけど。
馬に揺られて、お尻がどれだけ痺れようと
まだ前に行きたい。

この道の先に、何があるのか分からない。
分からなくても――


「どっちにしても。
こんなところで、泣いてるわけにはいかないんだわ!!」

ゴシゴシと涙を袖で吹くと
夕鈴はもう一度顔を洗うために川岸まで走って行った。


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