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忘却の岸辺(13)

失っても、見失わない夕鈴。
無くしたものを探して、旅に出る黎翔。

本当に大切なものは、目には見えない――by さん・でぐじゅぺり


【ねつ造】
※夕鈴は元気に暴れてます。陛下も無気力から脱出傾向。

* * * * * * * * *
忘却の岸辺(13)
* * * * * * * * *

夕鈴は必死に馬の背にしがみついていた。
普段馬になんて乗ったことないから、あちこち痛み、辛いが
夕鈴にはそのように贅沢なことは言っていられなかった。

任州に滞在していた夕鈴たちの耳に隣州まで国王が来るという噂は届き、
一目見ようと視察がてら立ち寄るという寺まで覗きにいったのだが

夕鈴たちの目の前で、元妃そっくりの替え玉が引き出され
国王は妃の存在に気づかず、謀反者の成敗の際、一緒に手にかけてしまった。
民衆の目の前で起きた出来事は
多くのものは人々は狼陛下の恐ろしさを目の当たりにし、
また妃を探すことに躍起になっているその筋の者たちには
妃の容貌に関する余計な知識を仕入れさせることになった。


身辺警護についていた浩大は、夕鈴を克右に任せると言い残し姿を消し、
克右と夕鈴は宿を襲われ、身を隠しながら逃げている。

注意深く逃避行をする二人は隣町までの移動にようやく荷馬車に乗せてもらい落ち着くが
その荷馬車は賊に襲われ、手綱を握っていた馬主は不意を突かれ命を落とした。

克右の不意打ちの告白に動揺しながらも、夕鈴は自分の中に「誰かに嫁ぐ」という選択肢はなかった。

忘れられようと、忘れたくない。
それは人がどう、ではなく、自分の覚悟なのだ。

忘れたくないのだから、他はない。
それよりも、周りの人たちを危険に陥れているのは、自分という存在に他ならなかったし
今ある目の前のことに対して、必死に対応してゆくことが先だった。

克右が背で夕鈴をかばい、単身で五人に立ち向かったとき
夕鈴はただ守られるだけでいていいわけがない、私にできることは――とすぐさま頭を巡らせた。

荷馬車から転がり落ちた台の影に、押し付けられるように伏せさせられた夕鈴は
必死に手探りであたりをかき回す。
手ごろな木箱があった。ツボでも入っているのだろうか、かなり重たい。
夕鈴は構わず立ち上がると、よっこらしょと重たい木箱を持ち上げた。

賊のカシラと、馬に乗った手下の二人と対峙していた克右はぎょっとした。

目の端に、頭上高々と重たそうな木箱を持ち上げ仁王立ちしている夕鈴の姿をみて思わず
「おい、伏せて――!」と克右は叫んだがその時にはすでに遅く、
夕鈴は克右の方めがけて、思いっきりそれを投げつけた。

木箱は克右の左側にいたカシラに見事命中し、ガツン、ガチャンと音がして地面に落ちて箱が割れた。
昏倒したカシラを助け起こそうともう一人が馬から飛び降り、駆け寄った。
夕鈴の投げた木箱の中には油ツボが入っていたらしい。
木箱は当たった衝撃でバラバラに壊れ、中のツボが割れてあたり一面油が飛び散り、助けに入った男は油に足をとられて滑った。

「おっ、おい…! …やってくれるな」
ニヤリと笑いながら克右はすばやく懐に手をいれると、火打石を取り出す。
横に飛びずさりながら手際よく火花を起こし、火種を移した一つまみの綿花をポンと投げると、ボッと音をたてて炎が回った。

荷馬車と賊の間には炎の壁ができ、五人の男たちがひるみ、どう仕掛けようかと考えあぐねているとき、夕鈴は敵のカシラが乗ってきていた馬の手綱を握っていた。

「克右さんっ! 逃げましょう!」
克右はもう一人の賊の乗っていた馬を素早く捕まえ振り向く。
腰まで裾をめくりあげたズボン姿の夕鈴が、鐙に足をかけ自力で必死に馬によじ登っていた。

「やるな」
「…だいぶこの間の旅行で乗り降りだけは、なんとか――」

「よし!」
二人は馬に乗って駆け出した――。


カシラの馬は足の速い賢い馬で、夕鈴は素人ながらただ乗っているだけで克右の馬を追った。
夕鈴は手綱を持ち、舌をかまないように口を食いしばって馬の背に必死につかまるので精いっぱいだった。

「軍馬、だな、まるでこりゃ」
克右はつぶやいた。

並の野党が乗るような馬ではない。

「やはり――」
諜報活動の任についていた克右には、一つ思い当たるふしがあった…。

* * * * * * * * *

「――ご苦労。

分からないということが
だいたい、分かった――」

賢い王にすら「空白」そのものの存在を教える術はなく
もともと教師向きというわけでなく、
負傷中であちこち痛めつけられた浩大にとり
頭脳的労働はあまりに不向きで荷の重い役割だった。

「ま――。今はそんなもんで許してヨ
オレさ、あっちが心配だから。
そろそろ行きたいんだけど――」

「その体で、か?」
黎翔はピクリと眉を吊り上げた。

「あんたの命令、だろ?」

「忘れる前の、私の――だ」

「じゃ、いまのあんたは
反対すんのか?」

「――否。
おまえの好きにしろ」


* * * * * * * * *

「…で、なんであんたがついてくんだ?」

「私の好きにさせろ」

「…っち。あんたいつも
好き放題やってるじゃん――」

「浩大! ――少し口を慎みなさい」
隣に座っていた李順がいさめる。

浩大は口では憎まれ口をたたきながら、
包帯だらけの指で鼻の下をこすりながら、少し眉尻を垂らした。

「…あんただけじゃなくてさ。
なんでゾロゾロついてくんだよ
あんた大事な視察中じゃなかったのか?」

「…その先に用事ができた。

少し先に足を延ばす――
あくまで仕事だ」

「――とはいえ、かなり強引な」
李順はよほどやりくりが大変だったのだろう。
各種調整で奔走させられた殺伐とした表情が未だ抜けきっていない。

今回、黎翔は忍びではなく、公的なオプションとして、側近の李順、政務室の数名、身辺警護の兵らを率い、馬車に浩大を乗せて移動をしていた。

用事というのが、黎翔に届けられた書簡の内容に係わることだろうと浩大はうすうす感づいている。

「…とかいいながら。
万が一のプランとして、李順さんの頭脳にはちゃんと入ってたんでショ」
浩大は頭に手をあてて、目をつぶった。

「隠密のあなたが国王の馬車に乗って移動するなど、
まったく想定外でしたよ」
(仕事もせず、まったく――!)
李順は厭味ったらしく答えた。

「…怪我人だ。目をつぶってくれよ」
哀れっぽい声で浩大はわざとらしく弱々しいそぶりをしてみせた。

「王宮の悪巧みも
私の失せもの探しも
お前の使命も。
すべての運命は、この方角を指差した。
吉と出るか凶と出るか
――鍵となる旅になろう」

黎翔はつぶやいた。


馬車は任州に向かう。

その先には蓉州。
世継ぎ問題で揺れる王宮が真っ二つになって論議している「王弟」が住んでいる地だ――。

政務室の数名の中には、外交を得意とする氾大臣の名代として長男水月が。
そして今一方、双璧の柳大臣も黙ってはおるまいと次男の方淵を同行させた。

それは地方視察に同行させ、研鑽を積まさせるためという理由であったが
本来この顔触れからして、単なる地域視察に同行するには珍しい人選だった。

「予定にないとはいえ、この『突然の予定変更』はみな腹積もりしていたことだろう。
私がここまで来たのだ――。
王宮の連中は、その先に足を向けるはずだと内々ヤキモキしていたはずだ。
ふいと、旅先から足を延ばしたふりで弟を尋ねる――格好のタイミングだと。
その期待に少々応えてみてやろうという気になっただけだ。
ならばせいぜい、立派な舞台を仕立ててやらねばな――。
どんな役者が顔をそろえるか――きっと、面白い趣向を披露してくれるに違いない」

狼陛下は暗い目をして嗤った。



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