FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

忘却の岸辺(12)

痛くて辛いお話に、お付き合いいただき恐縮ですが。
やっぱり今回も痛くて辛いお話なのです。
どうか皆様は、元気で健康的にお過ごしくださいませ。


【ねつ造】【痛い痛い】
※陛下の過去の話をねつ造しています。
直接的な暴力シーンはありませんが、非常に血なまぐさいお話です。
特に浩大が盛大に流血していますので苦手な方はご注意ください。

* * * * * * * * *
忘却の岸辺(12)
* * * * * * * * *

暗闇の淵の中をゆるゆると意識が登ってきた。
それとともに指先の激痛が襲ってくる。
(……チっ。何枚剥がされたんだっけ?)

鼻先にタラリと滴った液体がカサカサの唇を湿らせた。
ペロリと舐めれば塩っぱく鉄臭い、独特の味がする。

(あーあ。眼が覚めちまった)

浩大は混濁する意識の底から這いあがる。

指先だけでなく本格的に体中から一斉に激痛が湧きあがった。
重たい身体に力を入れ、首を動かそうとすると、あちこちが軋むように痛む。

「目が覚めたか?」

聴き慣れた声に、浩大はスンと鼻を鳴らし返答した。

「あんたが看病とか――ずいぶんとゴーカな待遇だね、今度は」
浩大は乾いた声でククッと笑い、ゴフッとむせた。
しばらくゲフゲフと辛そうな咳をし、「いちちっ」と文句を言いながら気管に詰まった痰を吐いた。
胸が大きく上下し、ようやく呼吸が整う。

黎翔は顔色一つ変えず浩大を見下ろしていた。

「…お前としたものが。ずいぶんと甚振られたものだな」

「早めに意識を失った方が上等だろ?
口を割れば即、お迎えだし。
……口を割らなきゃ、まだ次がある」

浩大に命があるということは、敵に情報を与えていないということだ。
黎翔は目を細くし憂いを含んだ唇の片端を吊り上げる。

目の前の浩大はボロボロだった。

浩大は敵の隠密に捕らえられ拷問を受けた。
それは殺すためというより、彼が知り得た情報を、なんとしても口を割らせるため、最大限の苦痛を与える類のものだったようだ。

「お前が持っている情報は――、
それほどに魅力的なものだったのだな」

単独行動していたとはいえ、浩大を捕縛できる力量の隠密らを抱えているという時点で、かなり大きなバックが付いていると考えられる。
大貴族か――人を殺めることを生業とする腕の良い輩を雇い囲えるだけの財力のあるもの。

浩大を助け出し取り戻したのは黎翔付きの隠密だった。
黎翔が失った自分の記憶の鍵を握る浩大に追っ手を掛けてたのが逆に幸いした。
浩大救出のために大勢が血を流し、手加減もできず敵は皆、息絶えた。

「あんたも訊きたいんだろ?
――おんなじことを」

確かに、黎翔こそが、
浩大を責め立て拷問を加えてでも、吐かせたかったのだ――。

一旦は冷静さを装い、見逃した。
だがどうしても湧き上がる焦燥感に耐えられなくなった。
――だから、追っ手をかけた。

浩大が真夜中に訪れて以降
不整合な自分の記憶について
イライラともどかしい思いに黎翔は炙られ続けていた。

私の失ったものは何か
浩大は私の知らない何を知っているのか

「相変わらず。
血なまぐさい業を置き去りには出来ぬのだな
私は――」

浩大。
目の前にして思う。

すさまじい拷問を受け、それでも口を割らなかったお前は
何に忠誠を立てた――?

過去の私か。
それとも
私の失った記憶を守るため?

だとすれば
唯一の主たる私にすら渡そうとしないお前は、有能な守り人だ。

私はそんなお前を信じたのだろう。
失う前の私は、そうしたのだ。

「……」
黎翔は長い間沈黙した。

浩大はお岩さんのように腫れた片目を指で触れ、瞼を開けて目が見えることを確認する。
爪をはがされ腫れ上がった指先はそれでもまだ肌の感触を伝えた。
「オレで済むなら、まだいい――」
浩大はペッと口の中の泡にまみれた固いものを吐きだす。

「――行ってやんないと」
寝台から上半身を起こした浩大は黎翔を真正面から見返す。

「私は、……何を失った?
お前はそれほどまでして
なぜ行く?」

「――知りたい?」
浩大の腫れあがった不気味な顔を更に凶悪にゆがめた。

「……」

複雑な表情をしていたくせに
黎翔の瞳があまりに透き通って見えた。

浩大は、あの日、母の死を見送った少年の眼を思いだした。

今のあんたが。
以前のあんたとどう違うかなんて、わかんね。

だけどさ――
オレ。

やっぱり、
アンタのことも
あの子のことも
放っておけないのかもしんないな…。

浩大は、せっかく起こした上体を、もう一度力なく床に横たえた。
胸の上で腫れあがった血まみれの手を組むと
ジッと痛みをこらえるように目を閉じた。

「忘れたくて、忘れたくて――。
あんたが何度も悩んで、悩みぬいて。
あんたは、あの薬を飲んだんだ――」

「薬?」

「昔。むかーしのことだ。
あんたの母親が手に入れた、秘薬だよ」

「ははう…え?」

「忘れちまったか?

あんたとオレは、あの日、見ていた。
長い間病気のように伏し、痩せ衰えた舞姫様が。
……オレたちの目の前で。
商人にひそかに取り寄せさせたあの毒薬を。

いとおしげに指でさすり
すがるように見つめ
瓶のふたをあけ、口をつけ、半分を飲み干した。

毒はすぐに舞姫様の体をめぐってさ――
地獄だった。

…この世でこれほどの苦しみがあるものかと
オレ、あんな恐ろしい景色って見たことなかったんだわ――。

子どもだったあんたの前で。
苦しんで、
苦しみぬいて
のたうち回ったんだ。

国一番の美女とまで言われたあのひとが――

それから一か月、苦しんだあげく、
ようやく舞姫様は、一つだけ
ささやかな願いをかなえた。

たった一つの記憶を手放して。

毒に蝕まれ、
最期は衰弱して息を引き取ったよな…
そんなことまで…あんたは忘れちまったのかい?」

「母うえ…が…?」

「あんたは同じ穴のムジナだ」

あの人が忘れたかったことはなんだったのか。
そこまで浩大は口にできなかった。

あの時。
あの人は
失った。

――黎翔 という何もかもを。

我が子という
この世で何にも代えがたい、大切なものが

この世で一番大切で
一番愛しい
一番必要な存在が

彼女にとって
生きてゆけないほどの苦しみをもたらしていたから…。

あの人は、悲しみと、苦しみから逃れるため
手放した。

黎翔という、何もかもを。

目の前に居ても、見えない。
声を、聞かない。

文字としても
言葉としても
絵姿をみても、
見えていないふりをしていた、あの人。
涼しげに、透明な顔をして笑っていた。

――いや、あれは、見えない振りじゃない。

「黎翔」という情報の何もかもを失って、
認識していなかったのだ。

それはあたかも空気か水のように透けて
彼女の脳は「黎翔」という情報を認知できない廃人になったのだった…。


「母の無残な死の戒めに…と
残り半分の薬を
あんたは、持っていたんだよ。
あんたは
あんたの母親が選んだ道を
あれほど侮蔑し、恨み、後悔していたくせに。
同じようにアレを飲むことを選んだんだ――?」

浩大は目を開けた。

「――そう だった の か」
黎翔は難しい顔をしながら神妙に聞き入っていた。

「そんな風にしてさ。
死ぬ思いで選んだ手段で、必死になってようやく忘れたのに。
――今更じゃん?
なあ、ヘーカ。
あんた
本気で、それ、知りたいのかよ?」

浩大は、傍らの黎翔をにらみつけた。
浩大の燃えるような挑戦的な瞳を直視し、
黎翔は自問自答した。

知りたくない、といえば嘘になる。

以前の私が、そこまで思いつめ、
命を天秤にかけ、正常とはかけ離れた方法を選択してまで
忘れたかったものとは――何なのか

知りたい

だが知りたくない。

「知らないから、今あんたは楽に息ができるんだ」

「…あ?」

「あんたは、楽になれたんだよ。

大事すぎて
大事すぎて
切り捨てなきゃ
あんた、死ぬ以上に苦しみ続けたんだ――

それでも、知りたいのか?
――覚悟あんのかよ」

「覚、悟?」

「アンタ、生きる気があるかって
聞いてるんだ!」
浩大は怒鳴った。

「生き…る 気?」
半ば唖然とした表情で黎翔はその問いを復唱した。

「――だろ?
だって。
オレにはさ、あんた。
自分じゃ無難にやってるつもりかもしんねーけど。
全然、生きてる風に、見えねーんだもん
あんた
何のために生きてるんだ?」

「そう、だな――
今の私は
ただ死ぬまで
この世に在る体なのかもしれん」

黎翔はクククと自嘲的に笑い、
やがて肩を大きく震わせて笑った。

笑いが収まると、あたりの雰囲気は一転した。

浩大は背中にゾクリと走る冷気を感じ、
一瞬身を縮める。

紅い瞳は浩大を圧し
飢えきった狼陛下が顔をもたげた。

冷静かつ酷薄な表情で舌なめずりすると
短く鋭い命令が発せられた。


「聞かせろ――浩大」


*

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

┃q・ω・∪ こんにちは♪


陛下。
とうとう聞く覚悟を決めたんですね!

でも陛下の母上様は我が子を忘れる道を選ばれていたんですね…。
∪´・ω・∪ カナシイ

No title

 いつも楽しく読ませていただいてます。
ハッピーエンドが大好きです。陛下と夕鈴には幸せになって
ほしいです!続きが気になってしょうがないです・・・。

桃月さま Re: ┃q・ω・∪ こんにちは♪

陛下、一歩前進ですが…
二歩進んで三歩下がらないようですね… (←?)

名無しの読み手様へ

ありがとうございます
お返事遅くなりすみません

個人的にはハッピーエンドに受かって欲しいのですが…
お二人とも勝手に動き回りますので
どちらに滑るやら――(汗;)

これからもよろしくお願い申し上げます











検索フォーム
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
カレンダー
08 | 2018/09 | 10
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
プロフィール

おりざ

Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

アクセスカウンター
ただいまのご来訪数
現在の閲覧者数:
ありがとうございます
■(キリ番)カウンターでキリのよい番号に遭遇された方はお気軽にご一報ください^^

■オフ活動■ おりざの本[織座舎] 一覧 → こちら
陛下の花園へようこそ
~ご注意~
≪以下あらかじめご了承のうえ、本サイトをお楽しみください。≫

・原作者様ならびに出版社様とは一切関係ございません。
・此のブログは日々の日記並びに二次創作作品の倉庫、管理人本人の自由な自己表現の場です。
・この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件、史実などにはいっさい関係ありません。また原作と異なる設定など、表現、その他多数捏造あります。

・二次創作の場です。
・ブログ内容に関する苦情は受け付けておりません。出来る限り注意は払う意向ですが個人的表現の場という位置づけの運営上、万人に対して万全を保障するものではありません。
・読む際は各作品の冒頭の説明・ご注意等にてご判断ください。読後いかなる不都合が生じても当方はその責任を負いかねます。

・ご感想お待ちしております。

・当ブログ内の作品の著作権はブログ管理人に属し、無断コピー・無断転載は固く禁じます。
Twitter
 
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。