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忘却の岸辺(10)

お盆、みなさまご家族と静かにお過ごしくださいませ。

【ネタバレ】【ねつ造】

辛いことは重なるもの。

逃避行の最中の、それは冗談の慰めか、優しさか。
【克右×夕鈴】のターン。
※CP注意

* * * * * * * * *
忘却の岸辺(10)
* * * * * * * * *

運よく辻馬車を拾うことができた。
だがしばらく行くと、克右は
「ああ、すまん。そこで降ろしてくれ」と言って、すぐに乗り捨てた。

元妃を安全な場所まで連れ戻すことが最優先だった。
克右はできうる限り注意を払った。

途中人通りの多いところを徒歩で通り抜け、わざと急に店を冷やかすふりをして立ち止まり、緩急をつける。不審な行動を取る尾行がいないかどうかを確認する。またどこへ向かったか形跡を残さないため、辻馬車は方向を何度も変え、乗り継ぐ。
軍部の加え諜報部の経験が生きていることに、克右は苦笑した。

少し歩いて遠ざかり、また離れたところで馬車を拾う。
そんなことを何度か繰り返し、途中で克右はふいっと大きな宿屋に立ち寄った。

「大きな宿ですね。今日はここに泊まるんですか?」

「いや、ちょっと用事があってな。
すまんが一緒に来てくれ」

物珍しそうにあたりを見回す夕鈴に、克右はひそひそと耳打ちした。

「…すまんが、あんまりキョロキョロしないでくださいよ?」

ああ、そうだった、と夕鈴は恐縮し、目立たぬよう外套を目深にかぶって伏し目がちに克右の後ろについてゆく。
そこは駅伝の宿泊設備や交通手段としての馬つぎを提供している大きな宿屋で、逓送(ていそう)物も扱っていた。

店に入ると克右は
「ちょっとここに座っててください」
と一角に置かれた椅子を指差し、思い出したようにさらに付け加えた。

「…絶対、誰に声かけられても相手しないように。
もちろん、他人のうわさ話なんぞに、くちばしなんか挟まないでくださいね?」
と念を押した。
潜入調査で、二人で飯店を回ったとき、狼陛下の悪口を聞けば片っ端から説教に回った彼女のことを思い出して、克右はそう付け加えた。
身に覚えのある夕鈴はコクコクうなずいた。

克右は奥を覗き、店の主人に声をかける。
すると主人は一旦奥に引っ込み、手には小さな紙包みをもってきて、克右に渡した。

克右はサイフを取り出し、金を渡す。
それから隣町に行く馬車はないかと尋ねた。

そんな調子で、塩梅よく隣町までの定期便の荷馬車に乗せてもらう手筈を克右は整えた。

「さ、行きましょう」
用事が済むと、克右は待たせていた夕鈴に声をかけ、店を出た。

馬車が発着する広場までの途中、人気の少ない立木の下で克右は立ち止まった。
そしてやおらさりげなく夕鈴の死角に入る。
くるりとあちらを向くと、素早く手にしていた小さな包みをあけた。
しばらくうつむいて何かを熱心に見ると、すぐにガサガサと荷物を包み直し、懐にぎゅっと入れた。

克右はむつかしそうな顔をし、唇を噛んだ。

宿から逃走するため被せられた克右の外套を相変わらず夕鈴はかぶっていた。
伊達メガネをかけ男物の外套の隙間からそっとその様子を見ていた。

克右の渋顔をみて、夕鈴は様子がおかしいと感じた。
「どうか、しましたか?」

「…いや? 荷馬車乗り場はもうすぐで―――」
克右は声をかけられ笑ったが、その様子は無理しているようにも見えた。

「あの。何か…?」

夕鈴が重ねて尋ねようとしたが、その時克右は急に大声を出して、広場の反対側に止まっていた馬車を指差した。

「あの馬車だ! 急ごう、もう出発するみたいですよ」
二人は慌てて馬車に駆け寄る。

幌をかけた狭い荷馬車の中で、二人は向かい合わせに座っていた。
荷物の隅に乗せてもらっていることもあり、窮屈なのは仕方がない。

克右に額をよせ、夕鈴はヒソヒソと話しかけた。

「……あの。何度も辻馬車を乗り換えたりして。
ずいぶん用心深いんですね」

「まあ、なあ」

「さっきの宿屋さんで、何か受け取ってました?」

「ああ……うん。そうだな。
土産物を一つ」

なぜか克右は言葉を濁した。

「土産物って、それ。
浩大からの―――連絡、でしょ?」

夕鈴は思い切って言ってみた。

「…どうっていうことのない土産ですよ」
克右は懐のそれを手で押さえると、ことさらに明るく言って見せる。

「浩大からの―――でしょ?」

「―――ええ」
克右は仕方なく、認めた。

「何て…?
浩大はどうしたの? どこにいるの」

「さあ、そいつは分からんなぁ」

「じゃあ、どうしてそんなものを?
何かの連絡手段じゃないんですか?」
夕鈴の矢継ぎ早な質問を受け克右は返答に詰まった。

「教えてください?」

夕鈴は、強い口調で望んだ。

「うーん」

「浩大はなんて? 
……私には、言えないこと?」

「できることなら。教えたいとは思わんね…
実のところ」

「克右さん。
私は自分の足で立って、
自分の目で見て
自分の耳で聞きたいんです…。
もう隠し事はしないでください。
どんなことであっても
何事も、己の目で見て理解し、
判断すべきと―――私はあの方に教わったんです」

「……そうですよ、ね―――」
克右はため息をついた。
ついに観念して、小さな紙包みをあけた。

「旅先で夫婦がちょっと買うようなもんで。特に珍しいもんじゃあないでしょう」

それはどこにでもあるような小さな土産物の魔よけの壁掛けで、それ自体はどうというものでもなかった。

「それだけじゃないでしょ?」

克右はもうこれ以上抵抗はしなかった。
結び紐の房の中に、細く巻いた薄い紙が入っていて、克右は大きな手で器用にそれを取り出し、広げる。

「三日後、例の場所で落ち合えなければ、気にせず先に戻れ。
あの方は薬の力で己の中の記憶を消した。
彼女の姿形はもちろん、存在すら認識できない。
すべてを失った」

夕鈴は言葉を失った。

しばらくたってようやく声を絞り出す。

「……これって
どういう、意味ですか?」

「さあなあ。書いてある通り…
細かいことは、オレにも分からん」


「―――すべてを失った?」

夕鈴は青ざめ、カタカタと震えた。


―――忘れてしまえ…

そういったあの人が
一番傷ついた目をしていた。

私を突き放したくせに、
優しく私の涙を唇で拭った


「……なあ、娘さん」
思い切ったように克右は夕鈴に声をかけた。

「は?」
克右はすぐに視線をはずし、馬車の中で自分の足元をじっと見つめていた。
馬車の中は狭く、向かい合わせの席は思った以上に近い。


「この旅を無事終えることができたら
―――」

「はい?」

「嫁に、来ないか?」

「―――え?」
突如突拍子もないことを言われた夕鈴は、一瞬頭が空白になった。

「ま、なんつーか。
参戦してみよっかと」

克右はニカっと笑った。

「じょ、冗談はよしてくださいっ、こんなときに―――!!」
夕鈴は体から火が噴くほどの思いで肩を震わせた。

「こんなときだから、さ―――
ナンパしてみよっかと。
おっと?
オレ達、旅の夫婦だったか…そっかそっか
ナンパする必要なかったな」

カラカラと克右は笑った。

「こ、克右さんっ
克右さんは大人だから!
そういうタチの悪い冗談、こんな時にスラスラ出てくるんですね
…冗談か本気なのかわかんなくて
一瞬、焦りました!」

「…まあ、娘さん、元気だしてくれや。
まあ、そうだな。
また、いつか。
その気になったら、ホンキにしてもらって構わん」

視線をはずした克右の横顔を、夕鈴は穴が開くほど見つめた。

(―――え?)

夕鈴は狭い馬車の中で、ぐるぐると目が回る思いだった。


*
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聖璃桜さま Re: 積極的な克右、好きです。

こんばんは^^
いつもありがとうございます。

> むつかしい』とは、『難しい』と同意語でしょうか。
> もしかしたら、方言でしょうか。

お訪ねの件ですが、
私は普通に使っておりましたので
方言なのかどうかググってみました。

もともと語源的には「むつかしい」が本来で
関東で派生した「むずかしい」が現在は標準語として定着し
常用漢字でも正則は「むずかしい」
備考欄で「むつかしい」の使用も認められているらしいです。

「むつかしい」は関西弁、としているのも見かけましたが

中部地方では普通に使ってますし。

関西に限らず割と西日本では広く使われているということです。


特に、司馬遼太郎先生らは好んで「むつかしい」を使われるとのことで
また年配の方も「むつかしい」という言葉を使うそうです
(私も、年寄りなのね←)


それで
私自身は、どちらも使います

今まで特に意識したことはないですけれども
若干ニュアンスが違うような感覚はあります。

「難しい」は
「この算数の問題は難しい」
等のように複雑さ、レベル、難度を目安としてる時

「むつかしい」は
「それはむつかしいなぁ(難儀だなあ)」などのように
単純な難度に加え、心理的な壁とか葛藤があるある時など

に、自然に使い分けているような気もします…。


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