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忘却の岸辺(9)

お盆休みに入りました。
みなさまお元気でお過ごしですか?


【ねつ造】


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(9)
* * * * * * * * *

浩大は帰ってこなかった。

私は明け方まで、眠ることはなかった。
たぶん、それは克右さんも同じだと思う。

身動きすれば、克右さんが気遣うとおもったから
寝返りを打つこともできず、ただ息をひそめていた。

ふかふかの寝台の上なのに。
ジッとしていることがこれほど辛いとは思わなかった。

ギシリ、と扉の方に向きをかえる。

黒い塊のような人の姿が暗闇に慣れた目の端に入る。
克右さんはずっと扉の脇で刀を担いで座り続けていた。

「――ずっと同じ姿勢で、疲れませんか?」

私の声は、静かすぎる室内の中に、思った以上に大きく聞こえた。

克右さんは優しい目をして笑った。
「… 慣れてる」

私は守られることに慣れすぎていて
護る人の辛さを本当にわかっていたんだろうか――。

「ああ、お嬢ちゃん。もう起きてるんなら…話は早い。
悪いが身支度をしてくれるかな?」

「……? あ。はい」

強張った体をそっと伸ばしてみる。
あちこち凝り固まって、痛い。

克右さんは私に『おはよう』とは言わなかった。
お互い眼が醒めていることは知ってたんだったら
それならそうと、もっと早く声をかければよかった…。

ゴソゴソと衝立の裏で着替える。
「何か、あるんですか。今日は」
「いや、何だか。お客さんらしい」
克右さんも大きな伸びをした。

「お客さん? ――こんなに早朝に? まだ陽も上がってないですよ」
「陽の上がらぬうちに用のある輩、なんだろうな」

私は思わずビクリと震えた。
…それなら、と急いで着替えを続けた。

「浩大は?」
「帰ってこない」
浩大は気配を消すのになれているから、もしかしたら帰ってきているのに姿を見せないだけかと思ったけれど…。
「やっぱり? もう少し待った方が」
「いや、すぐここを出た方がよさそうだ」
「浩大、置いてくんですか?」
「…あいつのことだ、すぐ追いつくだろう」
克右さんは軽く屈伸をしたりして体を動かしほぐす。
テキパキと持ち出す荷物を手に取った。
「どうして、そんなに急ぐんですか」
「昨日、陛下を覗きに行った寺かなぁ…。後つけられたかもしれませんね」
「あと、を?」
「替え玉の妃――ありゃ、あんたにそっくりだったじゃないか。後宮の奥に咲く王だけの花――。
普通ならその顔さえ知らない妃とはいえ、知ってるものは居るってことだ。
そんであんたを探してる奴らは、血眼でそういう条件にあてはまる容姿の女を探してるってことで…。昨日、あんたをあそこに連れてったのは間違いだったかもしれん」
克右は頭を掻いた。
(間違いだった、かもしれん。あんなところを、お嬢ちゃんに見せるつもりはなかった――)
「……」
「とにかく、移動中、その伊達メガネは絶対はずさないでくださいよ」
机の上に置いてあった、黒い丸メガネ。
この旅に出る、と決めたあと届けられた荷物…荷長官が一式整えてくださった心配りの品の中に入っていた。

ああ…確かに。
王宮の掃除でも、こんなふうに変装してた。
でも、たとえメガネをかけていても、掃除婦の姿をしていても、
陛下はすぐ見破って…私をからかったっけ。

陛下ご自身、王都に下りるときはいつもメガネをかけていた。
メガネかけるだけで別人になれるのなら

陛下の「変装といえばメガネ」という習慣は、もしかしたら荷長官の元で育ったから?
それとも陛下がそうされてるのを知っていて、荷長官はわざわざ入れてくださったのかしら…。どちらにせよ、理解のある御方の協力があって、今の私の行動が成り立っている。

――みんなを振り回して――
私は何をしている?

その時克右さんが切羽詰まった低い声で急いで荷物を抱えた。
「――着替え中、すまねえ、ちっと急いでもらえるか?」
「はい」
私はその緊迫感に気おされて、昔の思い出にひたっていた頭をプルプルと振りはらう。

「こっちはダメだ。そっちから、出る」
「窓から?」
「二階の望楼の張り出し廊下から回り込んで、外に出よう」
「…はい」
克右さんが私にバサリ、と私に外套を被せた。
埃っぽい男物の外套は大きくて、引き摺りそうな長さだった。
陛下の香りと違う――と思った。

「すまん、少し我慢してくれ」
克右さんは申し訳なさそうな顔をした。

「いえ、すみません」
シュッと寝具のしわを伸ばして、立ち上がる。
ほんとうはもっと周囲の片づけをしたかったが、克右さんのそぶりから、それほど悠長な暇はなさそうだとあきらめた。

そっと窓をあけ望楼の廊下へ出てゆく。柱の陰から辺りを見回す克右さん。
「よし、こっちだ」
手招きされ、腰を低くして後に続いた。

まだ暗く、そろそろ明け方で東の空がほのかに明るくなりはじめていた。
馬車のつなぎとめた厩まで、静かに誰にも見とがめられず移動できれば――。

「だめだ、こっちは見張りが立ってやがる。馬は使えない」
仕方なく裏通りの方へ回り込む。

「こっちこっち。移れるか?」

克右さんが四つ這いになり大きな背中を踏み台にする。

わたしがどうしようか躊躇っていると
「遠慮せず、乗れ!」と克右さんが小さく鋭い声をあげた。

ごめんなさい、と謝りながら沓のままその背を踏む。

(人の背を踏む、というのは辛いことね――)とその時思った。

欄干を乗り越え、柱から大きな立ち木に渡る。すぐ後を克右さんが追いかけてきて、手取り足取り指示をだしてくれたので、穏便に枝伝いに目立たぬように地面に下りることができた。

「――こっちだ」
克右さんは用心深くあたりを見回し、先に進む。


私はどうして、ここにいるんだろう。
私の我儘で、この人たちをこんなところまで連れてきてしまった。

――浩大は帰ってこない。
克右さんは、足手まといの私を連れて逃げている――

浩大は国王の身辺を守る隠密で、克右さんは軍部や諜報部といった部署で
国王がその腕を見込み頼りにする、有能な人たち。

その人たちが、庶民の私のワガママに付き合わされて、身を挺す――

土足の沓で踏まれようと、その誇り高い背中を差し出し。
昼も夜も私を守るため、固い床で座って明かす…

 わたしは妃じゃないのに――?

そのとき、克右さんに着せられた大きなマントの裾を踏み、
私はつんのめってしまった。

「…おいっ、気をつけてくれよ!」

克右さんが慌てて私を助け起こしに駆け寄る。

四つ這いから膝立ちになり両手に食い込んだ砂利を払い立ち上がる。
パンパンと膝の前についた泥を叩く。

「……ごめんなさい」

伊達メガネごしに自分の手がにじんで見えた。

「急ごう」
克右さんが手を差し出した。
――一瞬、陛下の手のように見えた。

…おいで、ゆうりん!

あの人は笑って、かろやかに手を差し出した。
あの人と居れば、どんなことも怖くなかった。


だけど今はなぜだか、怖くて、悲しくて。
前に進むのが辛かった――。



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