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忘却の岸辺(6)

昨晩は書きながら寝落ち。
書き足してようやくアップ。

入り乱れて嘘八百ですけれど、若干本誌設定も取り入れております。
(コミックス派の方はネタバレ注意)

【ネタバレ】【ねつ造】

失ってしまった、
それは
もう二度と。
還らないのだろうか――

なにもかも
痛みすら、彼方に。


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(6)
* * * * * * * * *

「陛下のご様子は―――?」
「周宰相。…お変わりありませんよ。
もうすっかりお元気になられ
あれ、あのように、ご政務にもご熱心にとりくまれ
――― 一臣下として
文句のつけようもございません」
きちんと片付いた書簡の山に視線を投げかけ、李順は乾いた声で笑った。

「陛下は―――お変わりになられましたな」

「そう、かもしれません」
李順は宰相から目を背けた。

「明日から四日間ほど、ご公務で他出と伺っておりますが
陛下のご体調の方は―――」

「問題ありませんよ。…宰相、何かご心配でも?」

「いえ」

周宰相の言葉の真意を、李順は言葉の裏で推し測っていた。

李順は綺麗に机の上を片付けると、もう一度がらんとした政務室の隅に目をやった。
いまは何も置かれていない床に、西日が差しこむ。なんだか無性に寂しかった。
そこには以前小さな椅子が置かれており、陛下の唯一の花が時折訪れては、長い時間じっと座って居たものだった―――。

李順自身、認めねばならなかった。
「…陛下が、お変わりになった―――そうお感じになるのでしたら、その通りかもしれません。
陛下は一つの悲しみ乗り越えられ、お強くなられた、と。
そう。受け止めてはいただけませんか?
たとえ以前と何かが異なったとして―――実害はありませんから」

「実害…?」

「なによりも、今。こうして以前にもましてご機嫌麗しくあらせられることが―――我ら臣下としてもお慶び申し上げねば、と…」

「我ら臣下に取って、陛下の御代が平安であれば何よりまさる喜びはございません。
ただ、静かな湖面とは裏腹に、
水底の奥に広がる混沌と、嵐の予感が―――」

「…また。周宰相のいつもの予言ですか?」
李順はあえて笑って見せた。
「特段心配は無用です」

周宰相の顔は血色が悪く、いつもと変わらぬ乾いた声で答える。
「たとえ表面上穏やかにみえたとしても…
つじつまが合わないのが―――人という生き物の難しいところでございますれば」

「それこそ、周宰相の気の回しすぎですよ。
重ねて申し上げますが、陛下はお元気です。…ご心配されませんよう」

「そうでありますように。
―――では、私はこれにて。
道中の無事を心よりお祈り申し上げております――」


* * * * * * * * *
夕鈴は買い物に出たついでに、ふとある噂を耳にした。

「国王さまが、この隣の州においでになる―――?」

「ああ、なんでも、隣の州ではさ。去年おととしと2年間、大水や災害が続いてねぇ、
それでも税金収めなきゃ許されないってんで、ずいぶんゴタゴタ続きだったんだけど、今回州長官と領主が替わったから、その視察だってウワサだよ」

聞き耳をたてていた夕鈴がつぶやく。
「隣の州―――」
腕を組んで考え込む夕鈴。

「…連れてってやろか?」
隣にいた浩大がポロリと口を滑らした。

夕鈴は浩大の襟首をつかんだ。
「―――知って、たの?」

「うーん。まあ、情報は」

「連れてって」

「…でも、直接会うとかは、―――きっと無理だよ?」
「構わない。…私も、まだお会いできない。
でも、チラっとでも―――ううん。一緒の場所に居て、同じ空気を吸えるだけでも、いい」

「お妃ちゃんのことだからさ。
…どうせ行くってきかないんなら
最初から案内したほうが。楽だからな」

浩大は笑った。

* * * * * * * * *

隣の州とはいえ、女連れで移動するのは大変だった。
ましてや身分を隠し、目立たぬように、もめごとに巻き込まれないように――。
細心の注意をはらっていても、若い女というだけで目を引いてしまう。

配役上、克右が夫役、夕鈴が妻役。それが一番自然だった。
旅の役人夫婦に扮した二人に、浩大が従者役で付き従う。
そうして隣の州まで馬車で移動した。

便宜を払ってもらったおかげで、スムーズに旅は進んだ。
しかし国王の視察があるという日程はあまり表ざたにはされていなかったにもかかわらず、王が視察の合間に立ち寄るという寺には多くの野次馬が出て、警備が大変厳しかった。

人垣にもまれ、三人は徒歩で移動していた。
王を一目見ようと、寺の境内はすでに人がいっぱいだった。門の外まであふれた人で参道は埋め尽くされ、夕鈴たちはその中で前も後ろも人垣にかこまれ立ち往生している。

「――どうして、こんなに警備が厳しいの?」
「うーん」
浩大が言いにくそうに言葉を濁した。

「この州が、災害や飢饉に見舞われて、重税で苦しんでいたって話――は」

「あ、ちょっと小耳に…。
灌漑用水の着工や、民のための病院もできるって…。
苦しんでいた民に救いをもたらすなんて、陛下はご立派だと思います」

「そうだよね」
浩大はなんだか意地悪そうに笑った。

「…なんで、そんな風に笑うの? 浩大」

夕鈴はチリっと痛みを感じた。
(――私には、見えていないんだ。だから…)

シュンとなった夕鈴に、優しげに克右が説明をした。

「ですから、お嬢さん。
これまで民を泣かせてまで集めた税金の行く先がどこだったか、
という話なんですよ。
――陛下はこのたびその膿にメスを入れ、
患部を切り開いた、というわけです」

「それはとても良いことだと思います。
悪いことを改善するのが、よくないんですか? 
ここにいる人たちのほとんどは、
陛下のなされた政によって重い税金から解放されたってことでしょう?」

「長い因習の中で行われた搾取という行為ですから、ね――。
その改善には、さぞ恨みもかうことでしょうなぁ」

夕鈴はようやく事の次第が飲み込めてきた。

「じゃあ、この厳重な警備って――」

「逆恨みをする輩がいないとも限らないってこと――かな」

浩大がさりげなくあたりの気配を読んでいた。
夕鈴は暗い顔をした。

「それって陛下が狙われている――ってことですか?」

「正攻法で狼陛下に手出しするなど、
そうそう簡単に行くことじゃありませんよ。
陛下の剣の腕前の前には何人たりとも敵わないですし。
陛下をお守りする近衛の精鋭部隊ときたら、
列強の諸国が本気をだしたって打ち破れない壁です。
…ただ、万が一にも、そういうことがないように
造反を防ぎ、民が巻き込まれないように
――という姿勢を示しておいでなのでしょう」

「そう、ですか」

「それにしても、この警戒では、
――陛下のお近くまで行く、というのは
むつかしいですね。
せっかくここまで来たのに」
克右は寂しそうに笑った。

庶民と王の、遠さを知る。
あんなにも近くで過ごしたのが夢みたいな話で。

その声を聴き、お顔を見て、触れられて――。
一緒に過ごした時が、なんと貴重なものだったか、思い知らされる。

「会えなくても、いいんです。あの方のお近くに来られただけで」
夕鈴は、言った。

* * * * * * * * *
国王は州に入るなり、休む間もなく公務に当たった。

州朴の庁舎を回り、長官や各部署の担当者と目通りし、すぐさま現場へ足を運ぶ。
灌漑用水の着工の視察。式典への出席。飢饉の状況を聞き、穀類を安く回してもらえるよう隣州に協力を呼びかける。病院を回り、遺児らが身を寄せる寺を回り――。

短い滞在期間の中、黎翔はめまぐるしく次から次へと目の前の一つ一つに取り組んでいた。

立ち寄ると情報が先に流れていた寺の境内は、民に埋め尽くされ、警備が大変そうだった。

公務を済ませたとき、その事件は起こった。

寺の境内の端。
人払いをしていたにもかかわらず、数名の男たちが侵入した。

今回不正を暴かれ、粛清を受けた官吏とその一派――。

男は女を一人連れていた。
「この恐ろしい独裁者が――」
男は叫んだ。

「いたずらに武力を振るい、古き良き因習を踏みにじる――
英雄気取りの若き王よ」

男たちが引き立てる手の中の女を見て、
李順はぎくりとした。

「どうだ。見ろ!
 お前の唯一の妃、とやらだ――
我々が手に入れた、お前の最愛の――」

(夕鈴、どの――?)
李順は眼球が血走るほど眼圧を高め、
視線の先にあるその姿を凝視した。

髪の色も髪型も、服装も。
顔つき、体つきさえ――
遠目であれば、あれほど見慣れた自分でも一瞬今違うほど、似ていた。

ざわざわと「妃だ」
「王が隠していた唯一の妃だ――」
「いや、すでに死んだと聞くが」
「まさか――確かにあの姿は妃…」
と、王の身辺を守る気高き近衛、警備の者たちも
一瞬判断に虚を突かれ、混乱が生じた

「構えろ!」
黎翔が叫ぶ

「お待ちなさい!」
李順の緊迫した声が飛んだ。

黎翔は無言のまま、薄笑いを絶やさない。

造反者は声を振り絞って叫ぶ。
もう逃げ場はない――富も権力も失った彼は、
せめて王に一矢報いることだけを願っていた。
すでにその顔には狂気を帯びたすらいた。

「狼陛下――お前も、大切なものを失う悲しみを、知るがよい!」

男たちは妃を盾に、手に手に武器を構え、王に向かって襲い掛かった。

正攻法で、王をしのぐのはむつかしい――
ならば、汚い手を使うまで。

敵ははなから潔く勝負する気はない、
泥臭かろうと、相手の命を取ればよいのだ…戦は。

捨て身の造反者に、王の警護はすきを突かれた。

しかし李順は見逃さなかった。
『境内の敷居をまたぐとき、女は敷居に載った――』

「私が自ら妃教育を施した方が、
たとえどんな時であろうと
敷居を跨がず足で踏みつけるなど。
そのようなことは決していたしません――」

李順は即座に『その女が夕鈴ではない』と判定を下した。

だが、王の周囲を固めていた数名の側近、近衛は知っていた。
王が愛した唯一の花の容貌を。

誰の手にも触れさせなかった花――
どれほど大切にいつくしんだか――
彼女を失ったのち、どれほど王が痛ましいありさまだった。

王の近くにいたものほど。
王が愛した唯一の花の記憶は、彼らの記憶の中に刻みこまれていた。

だから本人とうり二つの偽妃こそが王の愛した花だと信じた者たちは、
その女を盾に詰め寄る男たちを、誰もとどめる術がなかった。


しかし、国王は穏やかに前を見据えていた。

間近まで接近を許した賊を、情け容赦なく冷たい瞳で見下した。

その手は正確に、冷静に。
腰に帯びた剣に伸びる柄を握りしめる。
瞬間、ギラリと真紅の瞳に闇が注がれ、恐ろしい冷気があたりに満ちた。
「何をいっておる。馬鹿者が――」

王には、彼を阻む盾など、何も見えていなかった。


忘却の彼方に、置き去りにしてしまった、影。

何も感じない、何も見えない。
『夕鈴』という存在も、形も、時間も、なにもかも――。
彼にとって、それは虚無と同じだった。


そこに「妃」とうり二つの女がいようと、いまいと、
空気のように存在を感知していない彼の眼には、
ただ造反者の姿しか映っていなかったのだ。

そして王は振り下ろす。
酷薄な刃を――。


その場に詰めかけていた王の視察を待ちわび詰めかけていた民人は、目の当りにした。

「王は、元妃を、斬った――」

あたりは一瞬シンと静まり返ったあと、
こんどは地響きのようにうなりをあげ騒然とした。

夕鈴はそこに居た。
陛下が替え玉の妃ごと賊を粛清したそのとき、その場所に――。


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