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忘却の岸辺(5)

少々最近の設定を取り入れております。
コミックスはの方には、ネタバレ注意。

【ネタバレ】【ねつ造】

消滅は
悲しみ、と救いをもたらし…


* * * * * * * * *
忘却の岸辺(5)
* * * * * * * * *

世継ぎの君なき国王、珀 黎翔。

「王弟殿下を王都に呼び戻すべきでは」

「いやいや、すでに臣下に下ったお方を、何をわざわざ今さら…」
と、
王弟の扱いに王宮は真っ二つに分かれ、紛糾していた。


黎翔は冷やかにその論議に水をさした。

「いずれ、誰かが継ぐにせよ。
まずは白陽国が確固たるものでなければなんとしよう。

今の己らのように
たかが一人の子供の扱いで国を二分し、いがみ合い、争えば、
国力を削ぐことに繋がろう。
その隙に諸外国に狙われたらどうする?
万が一にも国を亡ぼされれば
名ばかりの継承者など何の意味も持たんぞ?」

「しかし、陛下!
あなた様に後継者がいないのは事実。
国民の安寧のため、どうされるおつもりか、お考えをお聞かせ願いたい!」

重鎮の一人が口火を切った。
周りはみなうなづいている。

「そうだな…どうしても聞きたい、というのであれば。
まずは我ら一丸となりこの国をたてなおし、盤石な国政が実現した暁に、教えてやろう」

と、冷たく言い放った。

* * * * * * * * *

日々精力的に、仕事に対して貪欲な狼陛下。

「―――李順?
どうした」

「陛下がご熱心にご政務に当たられるのは何よりですが…。
本気を出されると、それはそれで周りが辛いですね…」
李順は苦笑した。

政務室の面々は疲れていた。
だが、遣り甲斐で得る喜びの方がそれを上回っていた。

つまらないものを出せば一瞥もくれられず、容赦なくやり直しをさせられた。

だが、鋭い意見、新しい提案・手法は、適正に評価された。
まこと、惰性の政務ではなく生産的な取り組みと結果を求められた。

有能な者ばかりを集めている部署であるからして
誰もが陛下のご期待以上のものをお出しせねば―――と張り切った。

だが、新しいやり方というのは時に『敵』を産む。

『うまみのある』立場を手放したくない者というのは居るもので、
古い因習どおり暗黙の契約により、私利私欲を肥していた輩にとって
そこに光をあて暴かれることは、避けねばならぬことであった。

そういうわけで、
精力的に国政に尽くす賢王を目の上のたんこぶと疎む輩は日に日に増えた。

狼陛下はそれらを力で抑え込み、時には実力行使も辞さなかった。

――民のための、正しい国政を――と、尽くせば尽くすほどに
国内に敵を増やすとは、まこと皮肉なことであった。

獅子身中に虫ありのことわざ通り、
貴族や官吏といった国政を預かる支配階級社会の大物から小役人まで
王の庇護下に居て恩恵をあずかりながら、逆に仇なす者は後を絶たなかった。

* * * * * * * * *

そのころ
夕鈴は遠い地に居た。

宰相や州長官といった人々に助けられ、匿われ、遠い土地でたくましく暮らす夕鈴。

その彼女が唯一胸に秘めている希望、それは
『陛下にいつか会って、自分の気持ちをちゃんと伝えたい』 
という願いだった。

その時のために今は努力する時と彼女はとらえている。

自分の目で見て、聞いて、判断したい。
綺麗なことも、そうでないことも。

そういう思いから、王弟の住む地を訪れたいと思っていた。

晏流公に会って、どうなるのか―――それは夕鈴本人にも分かっていない。

しかし、
家族とか、兄弟とか、友達とか。
そういった価値観が「陛下と私は、生まれ育った環境が違うから、まったくかけ離れている」
と、分かれば分かるほど、
「陛下の悲しみの正体」を知りたい気持ちは募るばかりで、
夕鈴は自分の目で見て判断したかったのだ。


「兄王に命を狙われた、陛下…?
兄弟で憎しみ合うの―――?」
その事実はショックでなかったといえば、嘘になる。

王族がそういうものだ、といわれれば
頭では納得しなくてはならないと思うのだが
どうしても自分には分からない。

「だって、私は弟、好きで好きで、たまらないんですよ――?」

『そう。
だって陛下は、
私が青慎のことばっかり構っている様子を
嬉しそうに、くすぐったそうに見つめていた――』


「陛下だって、家族仲良く暮らす、そんな環境にいれば、
きっと、お兄さんや弟さんが好きになったはず―――」

冷たい狼でも。あの人の目は優しかった―――。
誰からも怖れられ、嫌われるなんて、それはわざと、そう演じているだけ。
あの人の瞳は、いつだって悲しくて、温もりを求めていた。
だから。きっと―――。

  …陛下。 人を信じて?
  遠くに行かないでください。

夕鈴は、遠ざかるあの人に心の中で必死に手を伸ばす。

『少しでも、あの人に近づきたい。
近づける方法が、どこかにあるはず。
私だけじゃなくって
あの人からも。
冷たい心の扉を開いて、出てきてほしいから。
冷え切ってしまったあの人の心を溶かし
人の世の温もりの世界に一歩踏み出すきっかけが。
きっと、どこかにあるはず…』

―――祈るように願うからこそ、
夕鈴は晏流公のことが放っておけなかったのだ。


「私を突き放して。
酷いこと言って、傷つけて。

なのに、私のこと心配して。
周宰相も、荷長官も、浩大も、李順さんも―――みんな
優しくしてくれるのは、
やっぱり陛下が甘やかしてくれてるから、ですよね…?」

『そんな風に大切にしてくれたから。
こんどは私が陛下に気持ちを届けたい』と

『たとえ玉砕したって』

あなたが好きだから
あなたのために何かしなきゃ、と

それは、前に進む自分自身の覚悟。

陛下は、―――遠い
なら、私あなたのところまで進もう。


夕鈴は胸に誓う。

「陛下。必ず会いに行きます。
待っててくださいね―――」と。


* * * * * * * * *

遅くまで政務室に灯が点いている。

「では、お先に」

「お疲れ様でした」

方淵は書類に埋もれていた頭をあげ、先輩に挨拶を投げかけた。

「御機嫌よう―――
…って言っても、私の機嫌は、最悪」

水月の手からパサリと書類が滑り落ちる。
彼は意識を保つため、小さく頭を振った。

「ああ…みんな帰ってしまった…。
どうしてこんな遅くまで。
私が君に付き合わなきゃならないんだい…」
水月はため息をついた。

「ぬかせ。お前の仕事を私が手伝ってやっているんじゃないか!
私こそ、とんだとばっちりだ!」

「こんな夜は…笛が吹きたくてたまらないんだけど、ねぇ」
水月はふわりと笑い、もう何もやる気がなさそうだった。

方淵は、他の者が皆帰ってしまったのを見計らうと、手元の書類を伏せ、
水月の方へ向きなおった。

「―――水月」
「…何か?」
真剣味を帯びた方淵の顔に、若干戸惑いながら水月は微笑んだ。
方淵は眉根に皺をよせ、慎重に当たりの様子を伺い、立ち上がり忍び足で窓や扉の外に誰もいないことをもう一度確かめた。
改めて座り直し、水月に向かう。

「―――陛下は、おかしい」
「そうだね」
ニコリと笑う水月。

「はぁ?」
こともなげに水月に即答され、
方淵は話の腰を折られたようでむっとした。

「おかしくなければ、こんなに仕事なんてできないさ」

「馬鹿をいえ。そのような怠け者は、お前だけだ―――そうではなく」
「いや。
今の陛下は…何かが欠けていらっしゃる。
そう言いたいんだろ、君は?
まあ――僕には何が欠けてるかまでは、分からないけどね」

水月はズバリと言い放った。

「水月―――貴様…」

方淵がまじまじと水月を見返すと、
水月はまるで遠い月を見上げるように天井の向こうに視線を向けた。

「人として、何かを失わないと
ああは、いられない、
…君は、そうとは思わないかい?」

「お前が言いたいことは抽象すぎてよく分からん―――だが。きっとそう云うことなのだろうな」
方淵はブスっとした表情で答えた。

「君は、何に気が付いたの?」
水月は自分の袂をさらさらと撫でつけながら、壁に背もたれ目をつぶった。

「陛下は、…欠けていらっしゃるんだ」

「欠けて?」

「そう――― 『夕』という文字が」

「夕!」

水月には、方淵が何が言いたいのか分かる。

「お妃様、だね…」

「正確には、元妃、だ―――」

方淵は几帳面に言葉を正す。
だが問題はそこではないと互いに了解をしているので、話を先に続けた。

「―――陛下は、夕という言葉が聞き取れない。
この間、軍部のお伴したとき、何度かそれを感じた」

「ふぅん」

「書類の中に、夕の文字を書いた…大切な書類の中に混ぜて。
読む者が見れば、明らかな間違いと分かる―――」

「それは君、すごい度胸だ。わざと間違えた書類を陛下にお見せするなんて―――!」
水月はまじまじと方淵を見つめると、珍しいことに彼のことを直接褒めた。

「馬鹿者、私だってしたくなどなかった…完ぺきな書類をおつくりすることこそ、私のモットーなのだ。
―――だが、私は知りたかったのだ。
へいかの耳は聞かず、
目は見えず。
あの女の存在も何もかもが、消えさってしまったのだ」

「見えない?
それは、わざと読んでいないフリをしているとか?」

「いや、あれは…『無い』んだ
概念もなにもかも―――
まるであっても掴めぬ空気か、流れる水のように」

「空気…水
だから、痛みも感じない―――と。
確かに一時陛下はお妃様を失い、たいそうお悲しみだった…。
そしてある日を境にすっきりと何もなかったかのごとく立ち直られた…。
だけど、本当にそんなことが、できるのかい?
あるものを無くすだなんて―――
何もかも知らないと、感じることすらない『無』に戻すだなんてことが…」

水月は方淵を見つめた。

「さあ、分からん。
…精神の問題なのか、
何か呪術的な強制によるものなのか―――
そういう方法があるかどうかさえ。私の専門ではない」

「ああ、君は―――超現実的だからね。
それに、たとえ陛下がそうであったとして。
現実的にはそれほど何か悪い具合があるわけでもなし」

水月は肩をすくめ、笑った。
その水月の態度は少なからず相手をイラつかせた。
方淵は怒気をあらわにする。

「茶化すな!―――そんなことを今は論じているのではあるまいっ!
たとえ実害がなかろうと!
私は陛下のことを心配してだな…」

「そう。―――何も、問題ない
それが、問題なんだ」

水月はそう言って、言葉以上に真剣な表情で方淵を見返した。

「あの方は、
そのために
一番大切な何かを失ってしまったんだね、きっと」

悲しそうに水月は微笑み、その吸い込まれるような瞳の色を見ているだけで、
方淵は堪らなく胸に痛みを感じるのだった―――。



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非公開コメント

┃q・ω・∪ こんばんは♪


∪´TωT∪ ダー(泣)

方淵はそこまで!
でも、陛下は自分から「夕」の文字を消してしまっているんですね…。
水月サンも気づいてるし。

陛下は夕鈴と再び逢えるときまでに思い出してくれるのかな…?

桃月さま Re: ┃q・ω・∪ こんばんは♪

薬の効果でスッキリ消えてしまった
大切な記憶。

みんな心配してるんですが、

王宮の雰囲気は宜しくなく、何やら面倒。

実害ない件、先伸ばしにしていると
どうなっちゃうのかな~と
気をもんでおります

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知福・惜福・分福さま Re: 陛下のお兄様のお話、心待ちにしておりました。

ありがとうございました。
どうか知福・惜福・分福さまもご家族みなさま
幸多からんことを心よりお祈り申し上げております
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