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忘却の岸辺(3)

壊れかけの陛下は
踏みとどまり…

【ねつ造】

* * * * * * * * *
忘却の岸辺(3)
* * * * * * * * *

緊張感に包まれた執務室。

影のように官吏は行き来し、
その奥には姿勢をただした国王が
いつものように座っている。

素早く書状に目を通し、
筆を手に取りさらさらと書きこみながら一言

「この点だけは今一度見直せ。
後は詳しい話を聞こう。
―――担当者を呼べ」
厳かな声が響く。

「は、ただちに」
と汗をかきながらホッとした表情で下がる官吏。

次に控えていた者が前に進み出て、粛々と書面を差し出す。

国王はチラと目を通した途端に
「馬鹿者」と書類をはじいた。

オロオロとする官吏は肩をすくめ
それでもすがるように必死に問う

「大変に急ぎの案件でございますれば…
申し訳ございません!
お、畏れながら、どこか不備でも―――」

「急いでいるのなら、尚更。
どこに不備があるのかも分からぬのならば、その首から上は飾りだな」

じっと睨みつけるその視線の先。
今まさに『無能』のレッテルを張られた官吏は蒼白を通りこし青黒い顔で、指一本動かすこともできず固まった。

周囲は息もできぬ緊迫感に縛られた。

「―――陛下。その件は私が預かりを」
李順が横から助け船を出し書類を受け取る。
官吏は頭をさげ、唇を噛んだ。

「…まともなものを、回せ」
「御意」

* * * * * * * * *

ここしばらく狼陛下は政務に熱心で精力的に励む姿勢をみせている。

テキパキと諸々の案件を的確に裁くその力量は
誰から見ても計り知れぬもので、
およそ一人の人間がなしえることではないと感嘆するばかりだった。


「…少し、ご休憩を?」
李順が促す。

「ああ、そんな時間か…」

黎翔はおとなしく李順の勧めにしたがい、立ち上がる。

「では、しばし鍛錬場に行ってくる。―――今日は、槍の名手、絽将軍の相手をする約束だ」

「鍛錬場まで…わざわざ?
私も机の上を片付けましたら―――」

傍らの李順の机には、中途半端で大至急見直し指示を出すべき書類が山のように積まれている。

「子どもでもあるまいし。
──いちいちお前がついてこなくとも、よい。
気晴らしに軽く体を動かしたら、すぐ戻る」

「では、私の代わりに、だれか伴の者をお連れください」
李順は食い下がる。

黎翔はあたりに居並ぶ官吏の列を見渡し、すぐ近くに立っていた方淵に目を止めた。

「…ならば方淵を連れてゆく。
安心しろ」

軽く黎翔が視線で同意を求めると、方淵はすぐに諾と肯いた。

「今日は少し暑いですし、
御政務の残りもありますので
鍛練は短時間におとどめください」

いや、心配なのは政務が滞る事ではない。
政務は順調すぎるほどに処理されているのだから──

むしろ、鍛練といいながら必要以上に身を削る王自身を案じ、
口実にしているのに過ぎない、と李順自身認めている。

「──ああ」
口うるさい側近の言葉など、馬耳東風とばかり
手を払って国王は振り返りもせず歩き始めた。

「どうか、ご無理なさらず。
ああ、それから。本日の御予定ですが。
蒼玉国からの使者が、夕刻前には──」

はっとした李順が言葉を切る。

 ××前には

黎翔は聞き取れなかった言葉を確認しようと
一瞬立ち止まった。

「…いつに──と?」

「いえ。
この後の予定もビッシリ詰まっておりますから
できるだけお早目に」

李順はジワリと汗をかいた。

黎翔は拘泥する様子もなくさらりと流し
軽やかに足を踏み出した。

「まあ、よい。槍の相手がまっておる。
早く、鍛練上に行かねば──
ついて来い、方淵」

「はっ」
方淵は黎翔の後に付き従った。

李順は皆の前で同様を見せられるはずもなく、深々と頭をさげて国王を見送った。

「では、行ってらっしゃいませ」

「──李順。心配するな。
仕事から逃げようなどとは思っておらん。
―――役目はきちんと果たす。大丈夫だ」

そういって、狼陛下は珍しく笑った。

* * * * * * * * *

政務室から出てゆく国王の背に変化がないことを李順は注意深く見届ける。

李順は『あれ』以来、黎翔の生活環境の基盤を整えることに目立たぬ腐心をしていた。

―――あれ、とは。
乱心した王が監視の隙をついて怪しげな秘薬をあおり、
三日三晩混沌の中で苦しみもがき続けた事件―――のことである。

幸いなことに、毒を飲み下したとたん王が正気に戻り、
早い段階で薬のほとんどを吐き出し自ら解毒に応じたため、命に別状はなかった。

だが一歩間違えば、いまこの場にいる聡明で強い王は永久に失われたであろう。

摂取されたわずかな量ですら
毒の効力が発揮されている間の地獄はすさまじく
あの苦しみようはただ事ではなかった。

老子と李順。二人だけのこととし、
一切口外してはならぬとただちに箝口令を敷いた。

…嵐が過ぎ去るのをただひたすらに祈り続けた三日間。

仕える側の身にとりあれほどの拷問もない。
二度と立ち会いたくはない惨状だった。

――だが三日三晩が明ければ症状は潮が引くように去り、
ケロリと国王は回復した。



…あのころの陛下は、唯一の妃を失いふさぎこんでいた。
精神の歯車がかけたようで、明らかに乱心していた…。

『もっと、私が注意していればよかったのに…』
誰を責めることもできないが、起きてしまったことには変わりない。

陛下の部屋を監視をさせていた隠密によれば

―――陛下は、隠し持っていた古い秘薬を取り出した。
自ら躊躇うこともなく口に含んだが、
そこで正気に戻り、吐き出した―――という。

体に残ったわずかな量の毒の一部が王の体内をめぐっただけで、あの始末だ…。

万が一、王の正気が戻ることなく、飲み込んだ毒薬の全てが体内に吸収されていたなら、どうなっていたのでしょう?

「陛下。あなたは
国を、民を、私たちを
お見捨てになるおつもりだったのですか
正気に戻るのが今一瞬遅ければ
我々は失うべからずものを失っていたのですよ? 
何と恐ろしいことを」

今思いだしてすらヒヤリと青ざめる李順であった。



食事、休憩、睡眠の内容、時間を自分自身で把握し、
一人きり自室にいるときも、勿論常時監視を絶やさない。

深酒できないよう酒類は全て遠ざけ、
求められたとき必要な分だけを差し入れる。
―――心配せずとも、最近の黎翔は酒には一切手を出さないのだが。

どちらかというと現在の心配事は、黎翔が必要以上に仕事にストイックであることや、鍛錬により体を壊さないか、ということであった。

最近の黎翔は仕事を精力的にこなす一方、軍部の方にもせっせと足を運ぶ。
また時間があればひとり黙々と体を動かすのを常としていた。
必要以上に過酷な鍛錬を己に課し、体を鍛えることに熱中しているきらいはあった。

それでも体を動かし汗をかき、過去を忘れ、健全で規則正しい生活が送れているのなら、よい、と―――側近はほっとしていたのである。

「本当に、あの時はどうなるかと」

心配した以上に、元通り。


規則正しく生活し、仕事をこなす。
文武両道の誉れ高き王は、強さにおいても日々鍛錬を欠かさない。
王として尊敬に値する、これほどの賢君もおるまい──。

そして二人きりになれば、
以前同様「小犬」のような振る舞いをする姿も見られる。

なにも、変わらない。

いやむしろ、
生まれ変わったようにリフレッシュした黎翔は
文句のつけようがないほどに
国王として精力的に国の為働いている、といえる。


「―――だが。
あれ以来、一言も
陛下は
夕鈴殿のことを口にされない」

李順は気づいている。

口にしない、のではない。
彼女が存在したことを、知らない──のだと。

それ以外の事は全部覚えているのにもかかわらず
夕鈴のことだけ
なにもかもなかったように
すっぽりと記憶から消し去られ

―――あのバイト妃を雇う前―――に戻っていた。

黎翔は、愛しんだ存在の何もかもすべてを…忘れ去っていた。




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┃q・ω・∪ こんにちは♪


へいかー。良かったよぅ(泣)


………はっ!?Σ∪◎ω◎∪
良くない良くない!

夕鈴のこと忘れちゃ良くないよー(>_<)

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No title

お久しぶりにコメ残します・・・

いやーーーー!!
あまりの苦しさに絶叫してます
なぜ・・なぜ・・・なぜなの?陛下・・・。
思い出すよね・・・うっ・・・・わーーーーん!

苦しい・・苦しいです・・・・。おりざさ~ん。

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桃月さま Re: ┃q・ω・∪ こんにちは♪

表層の心と身体はよくなったんですが、
何かちょっぴり置き去りにされてしまったようです。

でも、そうしないと立ち直れないときって
ありますからね…。

陛下が夕鈴のこと忘れたまま「連載終了!」とかいったら?

きっとみなさんに怒られそうですね。← ドキドキ。


(お名前なし)様へ 

生粋の種族、という扱いですものね…。
国家繁栄のための王の役割、その身に流れる血の継承が第一というのが
王に課せられた義務、でしょう。

おつらい立場だと思います。

ママさま

コメ、ありがとうございます!
とっても嬉しいです

陛下、壊しちゃって
すみません。

本誌が、しばらく辛かったので――― ←

凛さま

いつもありがとうございます。
レスが遅くなって本当にすみません。

大切すぎて、忘れなければいけないほど苦しくなってしまった陛下のお話を
書いてみたいとおもいましたが、かなり辛いことになっております。

側近さんや周りの人の助けがないと、このお方、壊れちゃいそうで心配です。

(お名前なし)さま

> ヾ(゜д゜;)ノ続きはよっ!

すみません~
おしおきじゃなくって
じらしプレイじゃなくて
単なる能力不足です(笑


少ない脳内メモリーと、余暇時間を100%別に振り分けていたので
更新できなくてすみませんでした。

たいへんお待たせしました。


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