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[日記]

このブログを間借りさせていただいている
大家さんのfc2さんに
『サービスの終了?』という噂が流れていると知り
ちょっとショックを受けています。

6月頃の事件を発端に
ホームページサービスの動画サービスが問題となり
9月30日、捜査が入ったとか…
――断片的なゴシップ情報だけで、流言で惑わされてはなりません、が。

一部には全サービス終了の危機、とあおるむきもあり
万が一の場合に備え、
早々のバックアップやブログ移転も考えなければならないのかと
少々気が重い今日この頃です。

ブログサービスに関して、
現段階では特にインフォメーションもありませんが
もともと無料サービスを利用させていただいておりますので
大元の方に何かあれば、一蓮托生、雲散霧消です。

また、それとは全く別の理由で、
現在(不本意ながら)公開内容を絞っています。
寂しく思ってくださる常連の皆様には、本当に申し訳ありません。

できれば波風立てたくないという思いで
いたしかたなく現状のような運営をさせていただいておりますので
どうか暖かくお見守りいただければ幸いです。

桂花かおる清々しき秋の日を
一日一日愛おしみながら。

どうか皆様も健やかにお過ごしくださいませ。

*


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秘すれば花なり(2)

100万HIT記念、凛さまリクエスト「女官長と夕鈴の出会い」です。


【オリキャラ】【ねつ造】
女官長目線。

* * * * * * * * * * *
秘すれば花なり(2)
* * * * * * * * * * *


たとえ心を伴わなかったとしても
上っ面の『笑顔』を浮かべることは
何ら苦労はない。


それは、幼い頃から叩きこまれた作法の一つに過ぎない。

私の姉、弟と伴に
幼いころから厳しい訓練を課せられ
ありとあらゆる教養を身に付けさせられた。


真の姿を見せることなく
もう一人の自分を演じ切るのは
今や息をするよりも容易いことであった。


貴族子女として官吏として王宮に士官する表の顔と、
草としての裏の顔、二つの顔を、持っている。


わたしは、草。

二つの顔を持ち、まぎれ、ひそむ。

ただ一人の主上のため
「その時」に備え、決して本質を人に見せることはない。


表の顔は貴族でありながら、
王家の「裏」を支える一族の宗家に生まれた。

お仕えする主のために
誰にも知られず忍び草として周縁にまぎれ、
諜報活動、破壊活動、浸透戦術、暗殺など
『影』の役目を請け負った“家”

皮肉にも
そんな暗黒宗家の歴代に於いて
最も色濃く血を引き継いだといわれたのは、女の私。


――人は私を「伝説の死神」と呼ぶ。

この世で地獄を見たければ、私の瞳を覗くが良い。
見た者は全て、お望み通りあの世へ送り出そう。

リーリー。

誰もが震え怯え
決して口にしてはならぬ名。




「ねえ、お母さん。リーリーって、どんな人なの?
美人? ――それとも、とっても不細工なの?」

「しっ! 
彼女の顔を見たいだなんて、とんでもない!
それに、リーリーの名を口にしては、いけませんよ?
なんでも一里四方の全てを耳にし、瞬時に現れる化け物だそうだから…。
決して口にしては、ダメ。
彼女の顔はこの世の誰も、見たことがないそうよ
見たら最期、皆、地獄の門をくぐってしまって、
この世には生きていないのだから…」

「きっと、恐ろしい顔なんだろうね。
見たら心臓が凍ってしまうくらい…」

「…さあ、お前たちも、もうおやすみなさい。
伝説の死神に、魅入られるまえに
眼を閉じて、お布団で寝てしまいなさい?」
…と。

今ではそんなふうに
すでに各家庭で母親が子供たちを寝かしつけるため
語り継がれているという――。


* * * * * * * * * * *

李順殿に連れられ、庭を横切り四阿へと向かう。

正直、陽光は好まぬ。
だが仕事とあらば仕方はない。

そもそも後宮の『女官長』と言う立場は
真昼間に陽光にさらされるのは不本意であるが
国王陛下直々のお達しとあらばいた仕方がない。

うつむいて従う。

池畔には涼やかな風がそよぎ、我が主上は凛と立ち尽くす。

その傍らの女性に私は紹介をされた。

「これから、君の世話をする女官長だ」

目の前には、質素な成りの若い女性が立っていたい。

李順殿がイライラ、ハラハラされるのもなるほど、と頷ける。
あまりにも『王宮とかけ離れた少女』だったから――。

『国王が身分の氏素性の知れぬ低い身分の妃を突如王宮へ』
『国を傾ける悪女』
『父王と同じ轍を踏む愚王』

…そんな噂がちらほらと市井でも流れ始めていることは知っている。
それらが主に悪意を持つ者により、意図的にまき散らされた情報であることも…。

――だが私は、そんなことはどうでもよかった。


私は私なりの方法で、彼女の氏・素性はすでに調べを付けていた。

我が主の傍に置かれる人物であれば、それは私にとって必要欠くべからざる一手順にすぎず、あくまで独自に調べをつけていた。

だから、李順殿から詳しい説明を受けることはなかったが

彼女が、下町の娘であることも、その家族構成も。
彼女がたまたま採用されたバイトであることも。
下町での交友関係も、父親の背負った借金も、弟の成績も――。

もっと深いところまで、一通りの情報は持っていた。

まあ、彼女が町娘であろうと、大貴族の愛娘であろうと
私にとってはどうでも良いことだった。

私は、私の役目を、淡々とこなす。

それは私が草として役目を全うする上でもっともささやかで、最も大切なルールであった。


「お初にお目にかかります。わたくし静麗と申します。
お妃様、これからわたくしが一身を賭して貴女様のお守り申し上げます――」

深々と礼を尽くす。

儀礼上、主上の定めた妃を遇するに、それは当たり前の作法だ。


微笑む。


――多分、私は心の底から笑うことを知らない。

だからその微笑みが本来あるべきように、あくまで自然に行われるべく
私は常に細心の注意を払っているのだ。

私は後宮を束ねる女官長として仕官している。
これまで、長い間下積みを経てこの地位に就いた。

李順殿も、その点について何も疑う余地は無かろう。
私は貴族の娘で、後宮に身を捧げた、いわゆる『嫁き遅れた古参』の一人に過ぎない。

…そう、あくまで自然に見えるよう、私はキャリアを積んだということだ。

だから、たとえ心が空であろうと
私は全てを完璧にこなすことができる…はずだった。


私が礼をした時、
妃、という町娘はいきなり私の手を取って、跳びはねた。

「女官長さん、
これから宜しくお願いいたします!!」

曇りなき眼は、まっすぐに私を見つめた。

思わず私はドキリとした。

その眼差しはあまりにもまっすぐで、
眩しすぎた。

嬉しそうに私の手を両手で包む。

「仲良くしてくださいねっ!」

手を取られ、つよく揺すぶられ…

その温もりと、流れ込む血脈の波動に
私はクラクラとめまいがする思いだった。


私にとって
血の持つ因子のその人たる本質は、素通しで
手を触れれば隠しようがない類のものであった。


だから、それまで私は
人に触れることを好まなかった。

人の持つ害毒に、身を汚すことを好まなかったから――。



ところが、この「偽妃」の持つ波動は透明で、
他を侵すことがなかった。

それどころか
闇の住人である私ですら、そのあまりの心地よさに魅かれてやまぬ甘露をたたえ…まさに彼女は『泉』であった。


だから、思わず
私は心の底から『笑った』のだ。


「はい。
何事も御心のままに
お任せくださいませ」

と――。




胸が暖かくなる、心の底からわき上がる『笑顔』というものの存在を――

この日、
私は、この夕鈴という
狼陛下の唯一の妃に、教わった。



*

[日記]引っ越し準備

こちらのブログを置かせていただいている
大家さんのfc2さんの方で
運営先行き不透明をうけ
早めのお引越しを検討中です。

バックアップは案外かんたんでした。

管理画面左のツールバー
「ツール」→「データバックアップ」の「全ての記事」を選択してクリックするだけ。

自動作成されたテキストデータを、パソコンのどこかに保存。

あとは(新しいお引越し先)ブログのお引越しツールで『インポート』。
以上で終了…なーんだ。
お引越し苦手な私はとってもドキドキしてたんですけど。
意外に簡単でしたよ

お引越し先
いろいろ検討したのですけれども

とにかく、
「お引越しが楽」な無料サイトで

あまりアフィリエイトが多くなく
使い勝手の良さげなところ…。

ということで

とりあえずライブドア・ブログにお宿を借りることにしました。

(アメーバブログさんもよかったのですが
記事の文字数制限があったり、
fc2ブログで折りたたんでいる追記等が、引き継がれないということで
ためしにやってみましたが、断念です。)


ライブドアブログさんは
バックアップデータをそのままインポートするだけで
画像もそのまま自動的にお引越しできるし。
ほとんど記事の引継ぎは問題なさそうな感じです。

テンプレートはすっごく少なくて、選択の余地はあまりなかったですけどね。
暇があったらトップに絵を入れたり、カスタマイズ?

(とはいえ保守優先で
今回はそのあたりは二の次で妥協いたしました)

カテゴリーの並び順がめちゃくちゃになってるので
それくらいは手動で直そうかな、…と。

自分でこつこつ作った「もくじ」は
ページのURL自体が変わってしまうので
独自ドメインで運営されていた方以外は
これはもう、仕方なさそうです。

すごく簡単にお引越しできました。

いろいろご不安をお持ちのブロガーさんにご報告まで。

詳しいことを知りたい方は、
FC2ブログからライブドアブログへのお引越し方法
http://blog.livedoor.jp/staff/archives/51863040.html
をご参考まで。

なお、お引越し先の規約や禁止事項は、お使いの用途と照らし合わせて
ご確認くださいませ。

まずは、近々お引越しするかもしれません、の
ご報告まで。


*

[日記]帝の至宝 7巻感想

[日記]
感想だけです
つぶやいてるだけです


昨日
2014年10月3日発売の「帝の至宝」第7巻 最終回が収録されています。

何度読んでも…泣けます。
甘くて
せつない…


おめでとう。
志季、香蘭。

読み切り!?
――ぜひぜひ!!

ところで、ペーパーって?

入ってないです…!?


そんな満ち足りた7巻だけど
さよならが寂しい。

*

秘すれば花なり(3)

100万HIT記念、凛さまリクエスト「女官長と夕鈴の出会い」です。


【オリキャラ】【ねつ造】


* * * * * * * * * * *
秘すれば花なり(3)
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朝。
かしずく我々よりも先に「おはようございます」と頭低くあいさつをする妃。

女官、侍女らはたいがい貴族の出であり
自分たちですら下々の使用人にそのようなことをしたことがないものだから、
まさかそのような妃がこの世にあろうとは思いもよらず、
最初は誰も戸惑うという。

だがこの部屋付きの者はみな慣れていた。

妃は誰よりも早く起き、誰の手も借りずに身支度を整えている。
うっかりすれば、カタカタと朝いちばんから動き出し、部屋の片づけまでしかねない。

侍女や女官達は選りすぐられた有能な者たちばかり。何一つ不足のない淑女の鑑のような者たちも、ときおり密やかに言葉を交わしては日々の仕事の励みにしている。

―――地獄耳の私に届くとも知らず。

「…朝、お妃様が寝惚けたお顔を一度拝見してみたいものですわ」

「あら、それはダメですっ!
お妃様の愛らしい寝顔をご覧になれるのは、陛下だけの特権ですもの!
恥ずかしがりやのお妃様のために、陛下がご遠慮されていらっしゃることを私たちが勝手に覗いてはなりませんわよ」

「わたくし、午後のお勉強の巻物を広げたまま、うつらうつらされてるお姿は拝見したことがございますの。とても愛らしゅうございました」

「…かと思えば、
櫃の底から引っ張り出した質素な衣裳を身に着けて
この間は庭の落ち葉を掃いていらっしゃるものだから…
わたくし慌ててしまいましたわ、本当に」

「…ああ、あの。
『これだけの葉っぱが集められるのなら、秋のたき火が楽しみですね。お芋があったら焼けるのに』…とおっしゃった、あの時!」

「お妃様のお気持ち通り、すぐお芋が出せればよかったですわね…」

「秋になって、翌朝落ち葉のたくさん積もりそうな日には。
今度こそ必ず、お芋を用意しておきましょうねっ!」

「もちろん、わたくしお妃様に負けないよう早起きして、
先に落ち葉を集めておきますわ」

そう言いながら侍女たちは笑いさざめき合う。

「ねえねえ。あの柔らかい栗色の髪を編み込み、
高く結い上げて、琥珀と金の髪飾りと合わせるとしたら、
添えるお花は何がよろしいかしら?」

「赤!大輪の紅いお花がよろしくてよ?」
「白いお花も清楚で、陛下がお気に召すのでは?」
「それなら紅色と淡い黄色織のお衣裳を重ねて…」
「帯は…?」
「金糸銀糸を織り込んだ、あの」
「きっと、お似合いよね」
ため息をつくと、

「もうそれは飾り甲斐のある御方なのに!!
それなのに、お妃様ったらすぐ遠慮されてしまうんですもの!
なんてつつましやかなんでしょう」

「そうなのよ、お妃様ったら本当に恥ずかしがり屋さんなのよね。
まるで御身を気になさらないんですもの。
もっときれいに整えて差し上げたいわ。
陛下にご覧いただくのが、楽しみですこと!」


―――なるほど。

慎ましやかで勤勉な彼女は愛されている。

たいていの女は衣裳と宝石で身を飾りたてる魅力に取りつかれるものなのに
不思議なことに、彼女はそういったものには一切欲を示さない。

逆に、そのそっけなさに担当者は燃えるらしい。

女同士が虚栄を張り寵を競いあった過去の後宮と、
今彼女の周りにある空気は異なる。

仕える者にとっても
各人のやる気を引き出し、達成感を感じられる職場であるといえなくもない。


駆け引きや足の引っ張りあいとは無縁の
素朴な生活感を、王は愛でておられる。



「静麗女官長に命ずる―――」

私の仕事は『花守』。

誰よりも近く、彼女を守り、砦となれ。



後宮の女官長という役職と
主命と
二つの努めを果たす。


* * * * * *

こちらの部屋付きになった以上、直接お声を交えるのも、触れるのも、第一に私の仕事。

彼女が目を覚ます前からお傍に控え、お目が醒めるのを察する。

手を取れば、その日の体調も分かる。
今朝は寝不足でお疲れのご様子。

「お顔をお拭きいたしましょう」

湯気の上がる桶で手布を絞る。

湯気をあげる手布を顔元に差し出すと、従順に彼女は目をつぶる。

「いい香りですね…」と鼻をスンスンされる。

「迷迭香(マンネンロウ)を浸しております。すっきりお目覚めになり、お元気がでるように、と」

「…え?」
妃は顔を赤らめ、目の下を抑えた。

「…夜更かししたの―――わかっちゃうものですか?
ちゃんといつも通り起きれると思ったんですけど…まさか目の下にクマとか出てます? 
わあ、まずい。そんな顔してたら李順さんに叱られちゃいますよ」

恐縮する様子がまたお可愛らしい。

「…大丈夫ですよ、ほとんど目立ちません」

昨晩、陛下はお見えにならなかった。
だが妃は長くお待ちだったのだろう。


このところ陛下はお忙しい。

一昨日、後宮を覗かれたときも、陛下がこのお部屋へご滞在された時間はほんのわずか。
すぐに李順殿からお呼び出しがかかり、
追い立てられるように王宮へお戻りになってしまったから、
さぞお妃様はお寂しいに違いない。

「この暖かい手布をお顔にしばらく当てて…
蒸気で蒸らすようにすればすぐにお顔の色もよくなりましょう」



『わたしの優しい兎―――』

脳裏に、あの方のつぶやき声がよみがえる。


いま、私の手の中にあるのは、
優しくて、小さな動物。

暖かい肉には血が通い、脈打つ。
弱々しいと思えば、たくましく。
少々凹もうが、呆気にとられるほど『元気』。

暗闇の住人の私にとっては眩しく、ためらわれるほどに生に満ちている。

妃の目の周囲に、薬草を浸した湯で絞った布を当てている間に、すばやく手足も清拭する。

なされるがまま、人に体を扱われることに慣れていない妃は、ムズムズと身をよじり、今にも逃げそうな勢いだ。
『自分でできますから!』とのど元まで出かかっているのが分かるが、そこはお任せいただかなければ…。

「世話をされるのも、狼陛下の花嫁の御役目。
どうかリラックスしてお任せくださいませ」

「…はい」
小さく返事。

観念したように脱力する彼女に「すぐ、お慣れになりますよ」と苦笑する。

お体を拭き終え、目にかけた布が冷める前にはずすと
すっとした空気に目をぱちぱちと瞬かれる。

「…さあ。宜しいですよ
もうすっかり目立ちません」

太鼓判を押せば、パアっと笑顔が返る。

「よかった!」
そういって手布をはずすと、彼女はにっこりと笑った。

「とにかく、私は元気ですから!!
あまりみなさん、心配しないでくださいね?」

チラッと奥に控える女官や侍女らに気遣うご様子。

「はい」

その言葉にホッとされたご様子。

「…では朝のお支度を」

私が軽く手を打てば、
待ち構えていたように侍女たちが妃を取り囲む。


* * * * * *

早朝よりご政務を済ませられた陛下は
お昼にお戻りになるという。

「東の花園で、妃と一緒に散歩をご所望」
と通達があれば、一同支度にとりかかる。

咲いている花の情報を庭師から聞き取り
映りのよい色合いの衣裳を整え
装飾品や傘、靴…と女官たちは腕によりをかけるのだ。

「本日の装い、花々に囲まれてもお妃様の愛らしさを引き立てるよう、コーディネートしてみました。如何でしょう」

選び抜いた重ねを、得意げに妃の眼前に披露する。
侍女たちが捧げ持って並べられた品々は美しい組み合わせだった。

だが妃は口ごもった。

薄紅色の鮮やかな衣裳を見つめ、じっとりと汗ばんだ視線を落とし、
「…それはちょっと派手すぎませんか? ただお庭を散歩するだけなのに…」と、相変わらず妃の反応は消極的。

「そんなことはございません!
陛下の唯一のお妃さまといたしましては
これでも質素すぎるくらいでございます」

「…それに、宴でもないのに、ジャラジャラこれ見よがしなかんざしを付けていては
浪費癖の妃と、みなさんにご反感を買いそうです(なにより李順さんに怒られそうで…!!)」

…どうご説明しようと平行線。

「お召しになれば、きっとお似合いですのに…」
困ったように女官が肩を落とす。

行き詰まった空気の中で、私が「…確か」と声をあげれば

「…なんですか?」と妃は反応する。

「そういえば、陛下が。
…このあいだ。『薄紅色は愛しい妃によく映える』とおっしゃっておられましたね。
陛下のお好み通りにされれば、さぞお喜びになるのでは?
かんざしはこちらの小さめのものになさって
その代り髪留めをこちらのお妃様のお気に入りの蝶の形のものにいたしましょう
いかがですか?」

「そ、そうでしたっけ?」

妃はうーんと考えこまれる。


私は職業柄、見てみぬふりをすることが上手。

職業柄――というより
たいていの貴族や名門に生まれたものは
そうだ。

そして、誰も本音を顔に出したりはしない。

上っ面の作り笑いで塗り固められられているから
王宮という場所は、うまく回っているにすぎない。


でも、このお妃様は
お考えが素通しで、目が離せない。

(あの人はなんでも褒めちぎるから…。
でも。
あの人のことだから…
『ぼくの言ったこと、覚えてくれてたんだね』って、
パタパタ子犬の尻尾を振って、喜んでくださるかもしれないし…)

「…それならお言葉どおり、
この薄紅色のお衣裳で…」

と渋々ながら、ご納得いただけた。

陛下のことを思われがあまり、ご自分のポリシーを曲げ
必死に妥協したのであろう。

彼女の頬は脳内の葛藤そのものに紅潮して
恥じらいすら、美しい。


『わたしの優しい、兎』と
あの方が愛でるお気持ちがよく分かる。

ああ、私も鈍ったものだ。

私は手段を選ばぬ、情を知らぬ精密機械。
たとえ肉親であろうと冷静に手にかけられるプロであるよう育てられたこの私が。

死神と呼ばれたこの私が、たかが少女に目を奪われ、
骨抜きだ――。


だが、それもまたよかろう。
そのために私はここに居る。


「薫香は、花の香り。
さりげなく、ほのかに焚き染めてありますから

さあ、お支度を――」

手を取れば、妃はそれに応じた。



(つづく)
*





『女官長さんがどうやって教養を身につけたか』…
チラっとコメントに寄せていただきありがとうございます。

女官長さんが子供のころのお話は、単行本「てすさびの 総集編」に書き下ろした「流花」というお話の中に少し出てきます。貴族の子女として教養を身につけるため、習い事やその他いろいろ仕込まれている麗が子供のころ出会った初恋の人との切ない恋のお話。

―――あ? 以前どこかに
「悲恋ものは短編SSの『還らずの時』1本しか書いたことがなかったのでは」とか書いてしまったかもしれませんが、訂正です。上記の「流花」も悲恋ものでした。
(正確にはオリジナルキャラクターのお話なので「狼陛下の悲恋もの」には当てはまらないかもしれません)

あとは…
幼い浩大たち兄妹を引き取り、幼い陛下と北の地で過ごしていたころのお話は「海棠の郷」というシリーズで少し書いたこともあります。これは、リーリーの知識技術を次世代に伝える「師」としてのお話だったような気がします。(また何かの折に発掘したいかなあ…です)

などなど。

書いたことはあるのですが、もうずいぶん遠い昔になってしまった気がしますね…
ときどき思いだすのは懐かしいです。


多くの方のお気持ちはそうではないと分かっていますが
波風を立てずに、と願うと
引くことしかできません。



どなたかの思い出の中に、一かけらでも残っていれば
幸せです。


*

秘すれば花なり(4)

100万HIT記念、凛さまリクエスト「女官長と夕鈴の出会い」です。


【オリキャラ】【ねつ造】【微糖】【微活躍】

伝説の死神の仮の姿、女官長さんが
ほんのちょっぴり活躍(小手先)。


* * * * * * * * * * *
秘すれば花なり(4)
* * * * * * * * * * *

薄紅色の衣裳に金色の帯を締め
領巾をなびかせた妃。

遠くには宮殿の楼閣をのぞみ
なだらかな丘陵の花畑を渡る風は香しく。
宮の渡りの階からゆっくりと女官長に手を引かれ降りてくる姿を
黎翔はまぶしげに見つめていた。

「愛しい私の妃よ。
今日の君はまるで花の精か桃源郷に住むという仙女のようだな」

甘い言葉で出迎えられた妃は、恥ずかしそうに頬を染め
困ったような笑顔を団扇で隠す。

(みなさんにそそのかされて、こんな格好で来ちゃったけど。
たかがお散歩に誘われたくらいで、
こんな着飾って――派手だと怒られないかしら?)

黎翔の後ろに立っている、上司のメガネが冷静にこちらを見つめているのが気になってしょうがない。

「薄紅色の衣も、髪飾りも。よく似合っている」
王は嬉しそうだが、李順の表情は一切変化がない。

(あ。――李順さんのメガネ、今、光らなかった?)
やはり着飾りすぎた、しまった、と夕鈴はギュッと目を閉じる。

「では、参ろう。東の花園まで…」
「は、はい」と答えながらも、夕鈴はモジモジするばかり。
黎翔が手を伸ばすが、夕鈴は目をつぶったまま。

女官長は妃の手を引き、差し出された主へと妃を引き渡す。
「…あ。あの」
(ち、近いんですけど――)
妃が身を縮めれば縮めるほど、王は二人の距離を縮め

妃の顔を覗き込んだと思えば、いきなり抱え上げた。
「ん? ――どうした」と問う。

(ぎゃっ!? みなさん、見てるんですけど、恥ずかしいんですけど!)
こんなときでさえも、周りに人がいれば『仲良し夫婦演技をしなければ』と必死な夕鈴。

かくなる上は、このみっともない顔をどこかに隠すしか――

夕鈴はぎゅっと顔を黎翔の頸筋に埋め、心情を吐露した。

(へーか! 李順さんが、怒ってます!)
(…は?)
暖かい妃の吐息を首筋に感じ、黎翔は気をよくした。
甘い狼陛下はますます妃を抱きしめる。

(後ろから、李順さんが睨んでますって!
こんなにチャラチャラ着飾って、浪費家の妃って思われてません?
それか、かんざしでも落としやしないかとハラハラしてるのかも…)

(…そんなことはない。よく似合っている)

ボフン、と湯気をたてる妃を、なだめ愛でる王。

いつまでたっても二人の世界は継続中。
散歩どころか一歩も進まない。


そんなお二人だけの時間を邪魔してはなるまいと
周りの付き人たちは
皆一様におもわず漏れそうになるニコニコ顔を必死に噛み殺した変な顔をしている。

さりげなく遠い目で視線をはずし、待ち続けていた。

李順は無表情を崩さないが、
そんな様子をみて、ますます沸点は上昇中。

あまり長い間二人がひそひそと睦み合っているものだから
ついにしびれをきらした李順が、コホン、と
黎翔の背中で咳払いをした。


この間、その先の繁みの中に潜んでいる人物がいた。

つい先日、国王から処罰を言い渡された男。

名家の次男坊であったが、怠け者で、チンケな贈収賄で出世を願い、管轄地においてゆすりたかりまがいの搾取を行っていたことが明るみに出た。
出世の道を立たれ、家名に泥を塗ったと家からも放逐された。

国王を逆恨みし、何とか一矢報いたいと、
こうして庭で待ち伏せをしていた。

だが、妃を抱き上げた国王は、なかなかこちらへ近づかない。

あと30歩(ぶ)ほどの距離。
もう少し引きつけなければ、奇襲はできない…。

窮屈な格好で花木の繁みにもぐりこみ、腹ばいになり息を潜め
固い地面に身を伏せている間、
繁みを彩る赤い花と緑の葉影越しに、
イチャイチャしている国王の姿だけを凝視していると
無性にイライラとしてくる。


男は腹が立って仕方がなかった。
「散歩とかいいながら、あんなところで抱き合って…
ちっとも近づいて来やしない!」

恥ずかしげな妃の耳元に王が何かを囁くと、
妃は身をよじって、ますます王の胸に頬を摺り寄せる。

そんな彼女の髪や手に触れ、
ちょっかいをかけまくって困らせる王。


『狼陛下が、なんだーー!
卑しい妃に執着し、
堕落しきった愚王め、
貴様に、私の何が裁ける!?」

男のイライラは沸点を超える。



待ちあぐねた挙句、もういっそ、ここから飛び出して…と
決心を重ねた時。

ブワっと風が通りすぎ、
ガサガサっ木々の木の葉を揺らしながら、妃の裾を巻き上げた。
ちらりとのぞいた妃の白い足に、王はすかさず手を当てた。

「(ぎゃ~!)へっ へいかっ
お戯れを~~っ!!」
一際大きな、悲鳴交じりの妃の声が上がり
ハハハ、と国王の大笑いが響き渡った。

風が吹いた瞬間、繁みに潜む男の耳元で
繁みがガサっと大きく揺れ
ポタリ、と赤い花が一輪落ち

男はそのまま気を失った――。



静麗女官長が、そそと立ち上がり
バタついて乱れた妃の衣裳の裾を直した。

「陛下…。
そろそろお進みいただいても…」


「うむ、悪かった。
そんな魅力的な白い足は、私以外の誰にも見せないでおくれ?
君が愛らしすぎるのが悪い。
妃よ、機嫌を直せ――?」

甘い狼陛下に翻弄しつくされ
憤慨し、真っ赤になった妃は総毛だっていたが

黎翔はニコリと笑いかけ
妃を抱きかかえたまま大股で歩き始めた。

「へいかー、お散歩なら
私、自分の足で…!」

「よい」

「陛下が疲れてしまいますっ!」

「こちらの方が、気が休まる――」

のんびりと散歩をする二人の後ろから、
そろそろと付き人たちも目を伏せたまま移動をする。



風の仕業に紛れて、地面に落ちた一輪の赤い花。
広い後宮の庭に、一輪の花が散ろうと
だれも気にもせず。


繁みの中には気絶した男が一人。

いずれ浩大が回収するだろう――。


何があったかは
黎翔とその有能な隠密以外、分かる者もなかった。



風にたなびく女官長の袖から小さな礫が打ち出されたなど、
いったい誰が気に留めよう?

なにしろ目にもとまらぬ速度で飛び出して
30歩(≒約40m位?)も離れた繁みの中に潜む人間の額を
正確に手加減して当てるなど、人間業ではなかった。


――そんなふうに、
表面的には穏やかに
今日も妃の安寧は守られる。


狼陛下の花嫁は
密やかな恋心を秘めたまま

狼陛下に愛でられる。



*


秘すれば花なり(5)最終回

100万HIT記念、凛さまリクエスト「女官長と夕鈴の出会い」
最終回です。どうぞ^^

【オリキャラ】【ねつ造】【裏方】
密やで静かなエンディング。

* * * * * * * * * * *
秘すれば花なり(5)
* * * * * * * * * * *

「これ全部『妃宛て』ですか…」

最近なんでか贈り物が増えているのよね…とお妃様は不審げなお顔でつぶやかれる。

「――今まで送られてきたのは暗殺者だったのに…
どういうこと!?」

無邪気に首をかしげる妃の横で控える女官長は
聞いているような聞いていないような、いつもの穏やかな微笑みのまま佇んでいた。

* * * * * * * * * * *

隠密の浩大には、後宮に住まう女たち至近には近づけない。

平静、妃の外周を守り固めるのは、部屋付きの女たちということになる。

もちろん、後宮で最も気位の高い地位であるから、
その職についているのは
国中から選び抜かれた容姿、貴族の家柄、文化教養に通じ作法を心得た生え抜きの者たち。

その女官の長たるが、この美しき人、静麗。

歳は妃の倍以上も離れているということだが、
抜けるように白い肌は白磁のようにつややかで
黒々と滴る黒髪を結い上げ、端正な顔立ちにしなやかな肢体。
あくまでも気品あふれたなめらかな立居振舞は流れる舞のようですらあり。
文化、教養、医学、幅広いジャンルに造詣深く。

配置が代わり、後宮を取り仕切る女官長自らが唯一の妃付きになってすぐの頃は
なにかにつけ妃がぽかんと口を開けてうっとりと見惚れていたものだ。


生まれ育ちの良い女官や侍女らにかしずかれ、非常に居心地の悪い思いをしていたのが当の妃、夕鈴

『お妃教育のお時間です』とメガネの上司に呼び出されるたびに、彼女はびくりと震え、ため息をついた。
(だって妃なんて、柄じゃないもの…)
人に聞こえないよう、ブツブツ愚痴るものの、李順という人物が仕込めば、それなりにそれらしくなってくるもの…。
いつしか徐々に妃らしく…だがもともと彼女は白陽国の王都乾隴の下町で育ったちゃきちゃきの町娘。

冷酷非情の狼陛下の、唯一の妃というのは表向き。
その実は、縁談除けの臨時妃であり、敵をいぶりだすための囮もその本業に含まれる、という。

「もちろん、その分お手当は弾みます!」

『狼陛下の唯一』と煽れば腹にイチモツ持つものは面白いように群がった。

最近では「やーいやーい、ひっかかった~」
と心の中で道化るほどに余裕もあった

神経が麻痺するほど、暗殺者は引きも切らず
…そういう意味では囮として彼女は非常に優秀なバイトだった。

彼女の直属の上司である李順からすれば
危険手当の高給で釣れば、代わりはいくらでもいるもの、と
――高を括って採用したはずだったのに。

正直、李順にすれば「万が一」があろうと痛くもかゆくもない存在
いつでも、誰でも、代わりがきく――それがバイト妃だった。

なのに、冷酷非情の国王がそうは思わなくなってしまったのだ。

李順の目論見は見事に外れてしまった。

国王の心の中は見えない。
しかし、なにやら嫌な予感ばかりが李順の胸の中に広がってゆく。

そして、短期バイトの予定がずるずると長引き。

――またタイミングよく、あの妃はやらかすのだ。
よりによって、とびきり貴重な白磁を壺を割ってしまうなどと…李順は頭を抱えたものだ。
だが、国王は?
不本意な李順からすれば、心外なほどに
心から嬉しそうにしているではないか。

短期のつもりが、いつの間にか長期化し
そして国王は単なるパーツ(部分)であるべきバイト妃に入れ込みすぎた。


真面目なバイト妃にしても、そうだった。

あの方は、手の届かない人。
あれは演技だと、
ドキドキするのはいけないことだ…と必死に心に蓋をしながら、
いつのまにか惹かれてしまった、――好きになったらダメな人。


冷酷非情の狼陛下にとっても、いまだかつてなかったこと。

いつでも切り捨てられるはずの彼女が
いつのまにやら「代わりのない存在」になってしまっただなどあり得ようか?

実に宜しくないと、側近にしかめつらをされ
自分らしくないと打消し。

なのに、秘めたる心の底で、
彼の心は変化していった――。

* * * * * * * * * * *

静麗が「唯一の妃」付きになったのも
誰から見ても表向きなんら不思議はなかったし
李順も後宮管理人も、すんなりと首を縦に振ったものだ。

だがその人事異動の裏には
国王のたっての願いが込められていた。

夕鈴の知らぬところで
妃の守りの砦が築かれたことに、国王は安堵したものだ。

静麗、いやリーリーは
王家を守護する暗闇宗家の血族の生み出したる不世出の才人であり
その表のたおやかな姿から想像もつかぬほどに洗練された殺人テクニックにより
伝説の死神と呼ばれて久しく
掛け値なしに抜き身の刃のようなその真の姿を知る者はこの世にわずかしかいない
国王の秘中の秘たる伝家の宝刀だった。

伝説の死神は、そばにいることすら
誰にも気づかせない。

「――暗殺者が減ったのは、
排除するより、取り入ったが得策と思い始めたか」と王自らに言われれば
丁度そういった頃合いでもあったから、
妃も素直にうなずき安堵したものだった。


妃の話し相手にと勧められ
氾家の姫君が後宮に足しげく出入りするようになったのも
公人でもなければ、後宮に紛れ入ることができない状況であったからと
夕鈴妃は知る由もなかった。


「草」の価値は、一生に一度で
その真の姿を知られたら、草としての価値はなくなる。

だから主命ある「たった一度」のその時以外
仮面をはずすことはできない宿命を背負っている。


殺気があれば手加減はしない。

だがそうでなければ
女官長という仮の仮面をかぶった草の立場では
命に係わらない範疇と思われれば
自然の流れに任せなければならないことも多い。

静麗の目の前で起きた、あの事件。
――紅珠姫との散歩中に後宮の池に落ちたときも、そうだった。


黎翔は躊躇することなく
彼女の後を追い池に飛び込んだ。

激昂のまま紅珠姫の責を厳しく問えば
妃に「怖い」と言われてひるみ
「大丈夫ですから」と押し切られた国王。

ただ花を抱きしめる主の姿に
機械のように冷静であるべきリーリーの冷たく動かぬ心の奥底が
ほのかに暖かく染まり
満たされる心地がしたのであった。

* * * * * * * * * * *


月のない夜
黎翔は窓辺にすすむ。

朔月の真の闇夜

音すら吸い込む濃密な闇は凝縮したように当たりを覆い尽くす。

そこに
来ている。
気配がする



「――どうだ?」

黎翔が闇に問いかければ
すぐさますぐ近くから女の声が返る。

「変わりなく」

リーリーの怜悧な声を聞くのは久しぶりだと、黎翔は口許を緩めた。

「よい働きぶりだな」

「お褒めに預かり…」

「…これからも任せる」

「かしこまりました」
影に溶け込み表情は窺い知れず。

黎翔には
黒髪をなびかせ佇む白い横顔も
子供のころの記憶と寸分たがわぬ今の彼女の容貌が
見えている気がしていた。

普段静麗女官長として、ここ後宮で眼にする姿と
同一人物とは思えない気配を押し殺しつつ
彼女は闇の目を見開いていた。

漆黒のその大きな瞳に捕らえられれば、闇夜すら、あたかも昼間の野原のように見通すも造作ない。

黎翔は幼いころより
秘された彼女の真の姿を知りながら
生き延びているこの世に数少ない一人であった。


「一つだけ」

リーリーの冷たい声は、特に大きな声でもないのに
妙にクリアーで直接耳元か脳に話しかけられるような気がする。

「なんだ?」
少々の緊張をも伴いながら、だが懐かしい死神の声。
黎翔にとってはスリリングな楽しみのうちでもあった。

「万が一にも
あなたさまと
二つに一つを迫られるようなことあらば?」

王家を守護を定められた暗闇宗家に生まれ
王のためにのみ、草として長い齢月を潜む彼女にとり
主上ただ一人が絶対の対象であり
それ以外、
たとえ肉親であろうと親しき友であろうと
命令あらば切り捨てる。

彼女にとり、主その人その一つの命に勝るものはない。

「…その時は――」
黎翔の言葉を待つ。




「――花を。
守れ」

ややあっての返答に
死神は、重ねて確かめる。

「…私は。
ただ一人の主、
『王』のためにのみ
この世に在る者」

「…ならば、我が花を守るが
それと同義だ――」

黎翔は笑った。

「あれは、心臓に悪い。
…私を殺す気かと――目が離せない」

クックと笑いながら、黎翔が目を細める様子をリーリーは見ていた。

「池に落ちた時は、心の臓が止まった。
私を生かすがお前の仕事…であろう?」


「まこと」


あなた様にそのような存在ができたこと
嬉しく――
とは、
リーリー口にはしなかった。

その瞳はいつしか静麗のもので
やさしい微笑みを浮かべる女官長のものへと戻っていた。


口にせずとも王は偽妃を想い
妃は抱いてはならぬと思いつつ、恋を募らせる。

まこと忍ぶれど
秘すれば花なりと

「私の及ぶ限り、お供仕りましょう」

心地よい風が吹きぬけて
もう誰もそこにはいなかった。


王がその瞳を閉ざせば
すでに残るは花の香りばかり――。



<終>

---
「秘すれば花なり」とは
室町時代に猿楽師世阿弥が
父、観阿弥の教えにもとづいて書いた理論書「風姿花伝」の一節で
「秘密にすることが人を魅了すること(花)につながる」という意味だそうです。


原作沿いでコミックス1~3巻あたり?のパラレルに当たる内容で書いてみました。
女官長(リーリー)のお話、楽しんでいただけましたら幸いです。

すこし長めの短編(中編?)、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


*

SSS あやとり

お仕事で疲れた体を癒す糖分を少々。
もう何がなんだかラリった一発書きにて失礼です

明日はスパークですね
ご参加される皆様、どうかHAPPYにお過ごしくださいませ!


【原作沿い】【SSS】【微糖】

* * * * * *
あやとり
* * * * * *


いつものように夜。
後宮を訪れた黎翔は、
唯一の妃とすごろくを楽しんでいた。

夕鈴が手を動かすたびに、チラチラと垣間見える
袖の隙間から、妃の手首に赤い糸が幾重にも巻き付いていたが気になってしょうがない。

その間にも、ゲームは終盤戦に入っている。
「…二、二、二、出ろ――!」
夕鈴がサイコロを握った手に念を込め、賽を振れば、みごとに二の目が出て、
夕鈴が上がった。

「…やった!
勝ちました」

黎翔は残念だ、という表情をしながら、あらためて先ほどから気になっているものを指差した。

「…ねえ、夕鈴。その赤い糸って、何?」

夕鈴は、えー?と声をあげて、
ああ、これ、ですか!
さっき、毛糸を見て、思いだしながらやってたんですが
へーかがいらしたので、慌てて手に巻き付けたまま
すっかり、忘れてました、という。

「えっと、それで、何をしてたの――?」
小犬のほほえみで尋ねれば

「へーか。あやとりってご存知ですか?」
と唐突に尋ね返された。

黎翔は「え?」と目を丸くした。

…糸か。そういえば、昔子供のころ
時間つぶしに凝りまくった時期もあったかな――。

勝負のついた双六台を横へどかすと、
夕鈴は手首に巻いていた長い糸をクリクリっととりはずし、両手の指にかけて、広げて見せた。
「この糸で遊ぶんですよ?」

あやとり糸を広げて、夕鈴は得意満面。

夕鈴は(へーか、やっぱりこんな庶民の遊びなんてご存じないんだわ)と思ったのか。
妙にお姉さん風を吹かせて、いろいろ得意げにやってみせてくれる夕鈴の姿がかわいくて、嬉しくなった黎翔は、そのままうなづきながら説明を聞いていた。
「こんなふうに輪にした糸を指にひっかけて
いろんな形を作る遊びなんです。
単純なんですけど…これはこれで、結構奥が深いんです。
今日はうっかりはまっちゃって…」

と夕鈴はくりくりと糸を操り、
「まずは、箒、でしょ?
これは簡単なんですよ。
それからハシゴも、1段から、順番にお見せしますね?」
とブツブツいいながら、
器用にいろいろな型を作って見せてくれる。

「…それで! ここからなんですが。
どうしても、一人でうまくできないんです――
へーか、すみませんが
手を貸してください!
ほら、私の小指にかかってる糸に、
へーかの小指をひっかけてですね…」

言われたとおり、従順に手を動かす。

次はここから内側の糸をかきわけて
こちら側につまんでください――、と
額をよせて、覗き込む。

促されるがままに黎翔が手を貸せば
夕鈴は「――ん、ん! できた!!」と花がほころびるように笑みを浮かべる。

「やった!
できました!!」

とはしゃぐ姿が、あまりにも可愛らしく

「…わが妃は欲がないな」
と黎翔が笑えば

「ヘーカのお手をお借りするなんて、
この国一番の贅沢です!」
と夕鈴は鼻息荒く答えた。

…贅沢?
そんなんじゃ、ない

黎翔は少し意地悪な気分になった。

「あやとりって、一人でやるものなの?」
と尋ねた。

「いろいろです。
連続して一人でいろいろな型をつくるのもありますけど、
二人で交互にとりあって対戦する『二人あやとり』もあります。
こうやって最初に作った型から、次の人がうまく糸をとっていって
相手の手から外して自分の手の中で張っるんです。
その時形が崩れたりほどけちゃったら、負けです」

「ふうん
面白そうだね」

「…陛下、退屈じゃありません?」

「うん、楽しいよ。もっと教えて」
と無邪気に声をかければ、
「じゃあ、教えてあげるから、優しいのからやってみましょうよ!」という。

「うん、お願い」

夕鈴は『簡単ですから、初めてでも、すぐ覚わりますよ』といいながら始めた。
黎翔は長い指を器用に動かし、夕鈴の指示通りに糸をすくう。

彼女の細く手白い指が、目の前で糸を操る様子に、黎翔はじっと見入っていた。

指が触れ、また離れる。
真剣な夕鈴は、意に介さない。

すぐに難易度は上がって行った。

「へーかって。
実は…負けず嫌いですね」

「…そうかな?」
ハハ、と笑う。

「そうですよ。
全然、負ける気ないじゃないですか!
もう私も手加減しません!」と宣戦布告する。

「…え?
じゃあ、もし夕鈴が勝ったら、なにか私におねだりしてくれるの?」
黎翔は嬉しそうにパタパタと尻尾を振った。

なにしろ、欲のない妃は、
黎翔に「ねだる」ということがない。

「…おねだりは、しません。
ただ…こうして一緒にあやとりしてくださるだけで
十分ですよ」
と夕鈴は顔を赤らめて答えた。

「じゃあ、…私が勝ったら、ねだっても、いいの?」

「陛下にねだられて、私が叶えられるものがあるとは思えませんけど…」

「大丈夫。
じゃあ…かなえてね?」

「私にできること、ですか――?」
困惑し、恥ずかしげに見上げたその瞳に見つめられ
ふいに黎翔はきゅん、と胸が痛んだ。

――黎翔は、思わず自ら墓穴を掘ったと悟った。


夕鈴の手元にある糸に小指を絡ませて、引き寄せる。
「――そのように
綾でからめとり、
夫を操るとは。
君は、罪な妃だな」


「え?」

みごと兎の両手をあやとりの糸ごと絡め取った狼は
そのまま瞬きもせず、至近距離に顔を近づけた。


「ここから、
…どうしたら、よい?」

「…っ。て
へーか…
そんな繰り方しては…
続きません――」

「続けられない?
もう、ダメなの?」

ダメ、と言われれば、何か方法を考えて
続けなければ、と思う負けず嫌いの妃。

「いえ。
その
…続け、て…ください」

兎が真っ赤になって答える。

黎翔は意地悪にも指を絡めたまま、形作る。
吐息までかかりそうな距離で二人は見つめ合ったまま。

「…君の番だ?」

「で、できませんよ!へーか
…手を。離してくださらないと
続けられません」

いたたまれず、夕鈴は視線をそらした。


「できない――?」

…手を握って
見つめ合って。

赤い糸で絡め取られた二人の間に
自然と引力が働いた。


黎翔は、
ゆっくりと顔を近づけて

「――そうか。
…では。遠慮なく褒美をいただくとしよう」



*

甘い口づけだったでしょうか?

[日記]ボツ

台風一過、青空はひんやりと
よるは寒いくらいでコートが欲しかった…(ぶるぶる)です。

ショートショートをと思ったのですが、
なんだか萌えない…。
A4で4、5ページ書いてみたけれど、お蔵入りにしようかと…
締めとオチが降りてこないのですよ。


リクがまだお一人残っているのですけど
なかなか手つかずで申し訳ありません。
のんびりでほんと、御免なさいね~



駄文
どうしたものかと。

* * * * * * * * *
ボツ話
* * * * * * * * *

いつものように、人払いをした後宮で
二人、双六をしていた。

いつもなら、
負けん気を出して必死にサイコロの出目を祈ったり
一喜一憂する君なのに、
なんだか今日はおとなしい。

ふぅ…とため息が聞こえて
僕は我慢できなくなって…。

「もう、――止める?
私といても、たいくつ?」

と聞いてしまった。

「あ、いいえっ!
そんな訳じゃ…
ヘーカといるのは楽しいです」

うそだ、口ばっか。

双六の盤を脇へ払って、机越しに君の手に、手を重ねる。
触れた途端、驚いたような瞳。

「何が君の心を捕らえている――?
私には言えないことか」

狼の声で尋ねれば、慌てて手を引っ込めて笑う君。

「ほんとに。なんでもありませんってば!」

笑う――? でも、それは。
君が『お妃様スマイル』って自分でも言ってる
いわゆる営業用ってやつだ。

「何でもないのなら、
なおさら、聞かせてほしい
いったい何が君の気にかかっているのか?」

君は観念した様子で、
ぽつりぽつりと話し始めた。

「――頑張っても
頑張っても、
報われないとき、とか。
…すごく落ち込みません?」

「――え?」

切り出した君の言葉が、思った以上に深刻で、
私は思わず顔を上げた。

「良かれと思って…
本当に一生懸命やっても
全然意に介してもらえない上に、
ダメだって評価されて――」

夕鈴は机の上に置いていた両手をぎゅっと握り、
震えながら顔を伏せた。

私は思わず、机に手をかけ、立ち上がる。
ガタンと椅子が傾く。

「いったい誰が!?
――そんな理不尽な対応を
君に?」


「だからっ!――」
夕鈴は急にこちらにクルリと向き直り
ダン、と机をたたいた。

「――老子のお部屋っ、
老子がいない時にさせてくださいっ!!
いっくらやっても、きれいにする端から汚されて――
あまつさえ、浩大まで尻馬にのって!
李順さんがチェックに来るときには元通り以上に汚すもんだから…
あの部屋のお掃除、ダメ出しばっかで
私ちっともお給料もらえないんですよっ?!」


「…は?」

そういう、逞しい理由で考え込んでいるだなんて
思いもよらなかった。

ポカンとして、私はしばらくの間ジッと彼女の顔を見つめて過ごした。

この無言の時間。
徐々に彼女の顔には変化が訪れた。

なにやら、私の方に熱い視線が注がれるのだ。
――改善案を期待されている?
なんだか、ひしひしと感じる。

「…アー。では、いっそのこと。
焼畑農業みたいに、
老子に部屋、2部屋与えて
ローテーションにしよっか?
部屋は死ぬほど余ってることだし

片一方の部屋を掃除している間、
もう片方の部屋に老子に居てもらう――というのは」

「それって、汚れる部屋が2倍になるってことですか――?」

「…やっぱり。
被害は、少ない方がいい、かな?」

「当たり前ですっ!!」
と彼女は叫んだ。

「じゃ、こんな方法は――?」


(切れっ放し)

*



今日の脳みそでは
甘くならなさそうでダメダメでした。

続きリレーしてくださる方がいらしたら
よろしくお願い申し上げます
m(_ _)m




超月(スーパームーン)

面白かったですよと
さりげなく
あなたの
そんな一言が嬉しいです。
ありがとう。




【ねつ造】【少し先】【再会】【微糖】

* * * * * * *
超月(スーパームーン)
* * * * * * *


解雇したバイト妃が
よりによって晏流公の元から王都へ戻った、という報告をうけた国王

「晏流公の元、から――?」
とつぶやくと、
一瞬、空中に放電でもしたかのように室内の空気を小さく震わせた。

報告をしていた側近は、
どんな反応が国王から返ってこようと耐えるつもりで
心身ともに防御の姿勢を取っていたつもりではあったが
その一種独特な緊張から逃げることは適わなかった。

「それで、今。どこに?」
と問えば

「さすがに後宮にすぐ戻すというわけにもならず。
王宮からほど近い屋敷に
仮に身を寄せていただいております」

「…どこだ」

「――今から、まさか?」

「馬鹿な。仕事を放り出していくわけがあるものか。
彼女のバイトは終わった。
とうの昔に、
…切れている」

李順はホッとした表情で、緊張していた肩のこわばりを緩めた。

「道理をわきまえておいでなら
まこと結構なことですよ、陛下」

正確には
――切れている、ではなく
切り捨てた。――のだ。

この方は、冷酷非情の狼陛下と呼ばれし恐ろしき王。

今まで通り、切り捨てる、とその言葉通り。
王本人が、自身をそういう男だと言いきりながら
ガラにもなく、狼は獲物を見逃した。


李順は報告ついでに、彼女の保護されている館の場所を告げたが、
黎翔は無表情なまま、再び筆を動かしつづけており
聞いているのかいないのかすら、李順には判断がつきかねた。

黎翔はその後も
あれほど寵愛を示した臨時妃の動向について何一つ尋ねることなく
目の前にある限りの仕事を黙々とこなした。


自室に戻る。

積みあがった懸案事はさばいてもさばいても
増えこそすれ一向に減る様子もない。

王とは、そういうものだ。
そう、あらねばならぬと、
自分自身、疑うことなく努めてきた。

なのに
苦しい。


自室の窓から外を眺めるに
王宮の瓦に夕焼けが美しく反射し
雄大な空を雁の群れが渡る。


ふらふらと、黎翔は立ち上がる。

厩へ足を向けると、舎人が何事ですかと血相を変えて駆け寄る。
愛馬に鞍を置いてくれと頼めば
もう夕暮れ、すぐに暗くなりますよと押しとどめられる。

構わぬ、夕月を見にそこまで行くだけだ。と言い残し
半ば強引に鐙を蹴り馬を歩かせた。


月見、などと――
星見を占星術師が今日はことのほか大きな満月が上がると言っていた。
ぼんやりとそんなことまで思いだす。

なんでも詰まっている頭だ、
そんな知識クソくらえ

何もかも知ろうと、手に入れようと
ただ一つ、
彼女の笑顔はもう手に入らない。


「…見せて」

もう夕暮れ時で、ひんやりとした風が吹いていた。
ちぎれた薄雲が流れて、上がったばかりの月にまとわりついていた。
大きくて不気味なほどの月。

月に重なるのは、彼女の笑顔。

もういちど、顔を。
君の笑った顔を、見せて?

馬は賢くて、彼の指先がかかる手綱を通して、彼の意を汲む。
土を押し固めた路を軽妙に蹴る振動だけがあたりを包む。

暮れなずむ黄昏時
かすかな残照で赤く照らされた静かな往路は
まるであの世とこの世のあわいの世界のようだった。

その時。
黎翔は馬の耳がぴくと動いたのを見逃さなかった。

突然人が細い横道から飛び出してきて、
馬の進路のすぐ前を遮った。

「…!」
黎翔が軽く手綱を引き絞れば、よくよく調教された馬は
即座に主人の意を解し、横走りをしながら接触を避け、動きを止めた。

飛び出してきたのは、小柄で長い髪の少女

栗色の髪は頭上で2つの髷が結われていた。
町娘の簡素な衣を身に着け、手には何か包みを抱えていた。

馬に引っかけられそうになったにもかかわらず、
意に介すふうもなく、一目散に走り去る。


もう門が閉まるというのに――
こんな時間に、娘一人で…


もしや。
いや
まさか――

空気が圧縮されて、息ができない。

黎翔は心臓が止まりそうだった。

慌てて娘の後を追って馬を走らせ、
その娘の前に回り込んだ。

横になった馬体で行く手を塞がれ驚いた娘は、
抱えた荷物で身を固めながら

「何するのよっ!?
ちょっと、危ないじゃない!」
と気丈に叫んだ。

ああやはり。
この声は―――

馬体から上半身をスレスレまでかがめ
女の顔を覗き込む。

「夕鈴、か?
――顔を、見せて」

彼女は、あっけにとられたように大きく目を見開いた。

へっ…!?

と叫ぶ声が聞こえたより早く、
馬上から彼女の体をさらった。

へっ…× ××× …ぎゃっ!?

相変わらず、あられもない大声に

よしんば夢であろうと再会を分かち合うこの瞬間に――と
黎翔はぷっと噴き出す。

ジタバタと抗う暖かい肉塊。

現世とあの世との境目だろうと。
超月の見せる幻影であろうと。
今、手放すことはできない。


夕鈴?


むちゃくちゃに抱えて、強引なことをしたものだから
短い裾は乱れて、髪は逆毛だって、
彼女はぶるぶると震えていた。

抱きしめて。
髪を指ですいて、撫でつける。

額がうっすら汗ばんでいて
大きな瞳は月の光を反射していた。

もう、黄昏も終焉を迎え
あたりはぼんやりとした月明かりに照らされた世界だったけれども
君の顔だけは
くっきりと白々と浮かんで見える。

赤い唇も。
こころもち上気した頬も。
変わらなくて、ホッとする。


いつのまにか雲はすっかり流れ去って
月ときらめく星々が空に浮かんでいた。


ごめん。
夕鈴。

一人にして、ゴメン。

ダメなんだ
君がいないと。

狂おしく抱きしめて
許しを請う。


軽い抵抗があって
彼女は王を押し返す。


ダメですよ
そんなこと言っちゃ。


この期に及んで
距離を置こうと必死な彼女に
彼はすがった。

彼女が頑固なことは
これまで嫌というほど知らされてきた彼にとって
正念場であったのは確か。


なのに、兎は。


私は、玉砕覚悟なんです。
陛下に好きって、一言だけお伝えできれば
本望なんです――と。


抱きしめる腕の力が緩んだ。
彼女を束縛する必要はもうない

泣くなんて可笑しいや
アハハと笑って
阿呆みたいに笑って。


一緒だよ。
「玉砕なんか、させない」


腕の中に君がいれば
もう、寒くない。


「ねえ、夕鈴。
笑って――」


超月。
こんなに明るい夜はないな。


君は何を願う?


このまま奪い去りたい。
君が欲しい
全部。


*

いじわるなひと。1

【3巻あたりの世界観】【ねつ造】【オリキャラ】

* * * * * * ** * * *
いじわるなひと。1
* * * * * * ** * * *


後宮に美しく咲く花々。

「お妃様の御話し相手に
わたくしが?」

「ああ、そうだ。
くれぐれも粗相のないように」

「はい、お任せ下さい。お父様」

私が後宮に住まう「狼陛下の唯一の妃」のお話あいてとして
後宮を訪問する機会を得たのは、父上の仕組んだこと。

お妃様をかばって傷ついた父は、
手当を受ける間、心配そうに付き添う妃にこれ幸いに、と同情をひく。

「陛下は我ら臣にお心を開かれません。
ご覧くださいませ、かつてあれほど華やかだった後宮も
いまやあなたお一人。
陛下が人を遠ざけるの百歩譲っても、これでは貴女様まで気がめいってしまうのでは。
さぞ寂しくお過ごしのことでしょう――」

付け込む隙だらけの
田舎者丸出しの妃だという。

「あなたが楽しくお健やかにお過ごしになることこそ、ひいては陛下の御ため」
そんなふうに取り入って、半ば強引に取りつけた状況はありありと目に浮かぶ。


* * * * *

「氾青珠でございます
どうぞ青珠とおよびください」

わたくしの顔を見て、見惚れてしばらく声も出ない。

これが、狼陛下の唯一?
――大したことのない。

十人並みといってもよい容貌。
立居振舞もなにやらとってつけたようにギクシャクとした感は否めない。
お里が知れるというもの。

間を埋めるために極上の笑みで微笑みかければ
――何? 
あわあわと慌てているばかりで
言葉も出ないではないか。

ドギマギしているその様子。
真っ赤に頬をそめて…
まるで、恋。

こっちがこっ恥ずかしいから、やめてほしい、その反応。

だがしかし、紅珠の笑顔に心とろけぬ者もあるまい…
それは誰よりも私がよく知っている。
仕方がないことかもしれない。

裾がはためく。
あわく諧調をつけ裾に行くほど曙色に染め上げ
手間暇かかる細やかな刺繍を随所に施し、なおかつ軽い。

…ふうん。紅珠。いつもよいセンスだね。

双子の君だが、こういうところはいつも感心する。

紅珠がデザインした原画をもとに
金糸銀糸をふんだんに織り込んだ最高級の生地を織らせ
蒼玉国で一流の職人に仕立てさせた衣裳。

本当は紅珠が着るはずだったのだけれども。
前の晩からの徹夜あけということもあり
朝から機嫌が悪く、
「今日はぜったいわたくし参りません」と駄々をこね出てこない

「青珠、お願い」と泣かれてしまえば…
わたくしが可愛い紅珠の涙に抗うことなどできようか。

わかっている。紅珠は、ただ
明日のイベントに間に合わせるため、原稿を書きたかっただけなのだ。



私は、氾青珠。14歳。
紅珠の双子の兄。
同じ日に生を受け、見た目そっくりな二人。

我々が生まれた日。
氾大臣家初の姫誕生、ということで父上は大いに喜んだそうだ。

娘ばかりを溺愛する父親の様子を見ていた母君は心配をした。

「紅珠、紅珠」と父上が双子のうち娘の紅珠ばかりかわいがるものだから。

母上は「青珠がこれでは可哀想」と
…そして悪戯心もはたらいて

「お前も父上とスキンシップしておいで」と
私に女装をさせ、交互に私と紅珠を入れ替えたそうだ。

父上がまったく気づかず頬ずりしているのを見た母上は安心し、
そのうち『青珠を、へたに男扱いしない方がよいのでは…』と思ったらしく
私を紅珠と同じように女の格好で育てたのであった。

「母上は、私を女としてずっとお育てになるおつもりだったのですか」
とある時、何気なく尋ねたところ
「ある程度歳をとれば男の姿に戻そうと思ったのだけどね。
あんまり二人とも愛らしくて、なんとなくそのまま」
おほほ、と笑った。

そんなふうに、ユルくなるのも仕方がないといえば仕方がない。

長男の水月兄さまはのんびりしすぎた人柄で「陛下が怖いから」と出仕をしぶるものだから、父上も立場上頭をかかえるありさまだったし。
次男は次男で表にでてこない。

だから私があまりしゃしゃり出るわけにもゆかず、
常に一歩も二歩も引いた立場で物事にあたるうちに
なんとなく女装のまま人生の大半を過ごしてしまった。

もちろん、男の姿に戻ることもあるのだけれど…
最近では父上も公認なものだから、案外気楽に女の格好を楽しんでいる。


* * * * *

あんまりお妃がのほほんとしているものだから
ついつい意地悪な気分にもなる。

琴は水月兄上仕込みで、得意の一つだ。

「お恥ずかしゅうございますわ
まだまだ未熟者で」

嫌味に聞こえぬよう、紅珠のような笑顔を振りまく。

ざわざわとしていたあたりを払う威圧感。
わたくしは分かる。
陛下がこちらに向かっていらっしゃることを。

その途端、噂の狼陛下が現れた。

妃が私を紹介すれば

「ここに来る途中、琴の音がきこえた
よい腕だな」
とお褒めの言葉を頂戴する。

(け、あたりまえだろ)
思わず胸の中では返答するが

「妃をよく楽しませてくれ」

「はい
精一杯努めさせていただきます」

思いっきり可愛い顔をする
そう――目の前の紅珠が、いつもするように。

そんなふうに、陛下の気を引いて。
紅珠がきたとき、イチコロに仕留めてもらえばよい―――。


「お妃様は琴を?」
「いえ、私は聴く専門です!」
へんな返答をするからブッと吹き出してしまいそうになるのを抑えるのに内心必死。

「そういえば、いつもご衣裳も可愛らしいですよね」
そんなふうに褒められれば
それは紅珠の選んだものだから、当然です、と思わず胸を張りたくなってしまう。

可愛い紅珠。私の、半身。
君がどれほど聡明で、どれほど愛らしく、どれほど綺羅綺羅しいか。

そう。この世で一番かわいいのは、紅珠、君だと
わたくしは世界に触れ回りたいほど――君のことが大好きだ。

「蒼玉国の後宮で流行っているデザインですわ…」と
説明にもついつい力がはいってしまう。

「お妃様も陛下にお願いなさってみては?
きっと素敵ですわ!」
といえば

「陛下は国のため民のため華美な生活はお控えですから
私もわがままを言うわけにはまいりません」
とくる。

――変わってる。

「男の方って
甘えられるのもお好きなもの
…ですわ」
とちょっと近くにすり寄れば
真っ赤な顔をしてドギマギしているものだから
この妃はイジリ甲斐がある。


…唯一の、妃?
――にしちゃ、男慣れぜんぜんして無い…?

と、この時。
わたしはふと感じてしまった。


この妃は、男をしらない――と。


*

[日記]感想

日記です

御気分を害すると思われるのであれば
このままそっとブラウザを閉じてください。


The sentence causes various impressions and feelings to each reader.Wise you would abandon the option of reading these now , if there is a possibility that Harm badly mood Read the following sentences.You should understand it.Nevertheless, if you are than that feel the need to leave a negative comment after having read the following text , you must follow the rules.If you reveal the name and tell fairly, I promise that I cope with you sincerely.
























続きを読む

狼のーかの花嫁

お久しぶりです。
このところ休みなしで本当に忙しくって、更新が滞りました。
ちょっと壊れかけてますけど、なんとか踏みとどまっています。

リクで残ってるお話も
この間書きはじめたお話も
あるにはあるのですが

――SSの書き方を忘れてしまった(笑。


「リハビリに、軽いものでも…」
うーん。

「ハロウィンだから、カボチャの話、とか?」
…と
考えているうちに、
ツボにはまって
あれよあれよと話の風呂敷が広がりました。

なんだか分からない現パラ。
そしてハロウィンとはまだ何も絡んでいない、という壮大さですが
宜しければどうぞ。



【現パラ】【出会い】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁
* * * * * * *


カボチャ、カボチャ、カボチャ…。

目の前は地平線まで続く、広大なカボチャ畑だった。

「はぁ…行けども畑ばかり、って
こんなとこのことをいうのね――」



2時間前に乗り込んだ電車から一歩踏み出したとき
眼前に広がったのは広大な地平線まで続く1本の路線。

コンクリートを盛り上げただけのプラットフォームには雨をしのぐ小屋すらない。

電柱に切符を入れる蓋つきの缶が一つと、変色した看板。
看板には「ご乗車の方へ。切符は電車内の車掌にてお求めください」という注意書きが貼られ上からかけられたビニールは日に焼けて濁っている。

閑散とした無人駅だった。

「コンビニ一つないのね?」

活気があふれる下町育ちの夕鈴は今までこれほど広い耕作地は見たことはなかった。
「大地主さんが収穫期に若い子を募集してるって聞いて、田舎だろうなとは思ってたけど…
まさかこれほどとは。
でもま、これだけ畑があるなら、収穫する人手も必要ってことよね、たぶん」

良いバイトがあると聞いてやってきた夕鈴。

「…にしても、こんな田舎の畑仕事にしては、
破格のバイト料よね――?
これって。…相当こき使われるってことかしら?」

夕鈴はもう一度、手にしていたメモ紙をガサガサと広げた。

「大地主さんが収穫期の間だけのバイトを募集。
若い女性に限る。時給××××円。
先方には連絡済み。×月×日、××時
面接先:××××白陽×-×番地××
コード:××××
(担当:李順という人)」

父さんのちょっと丸っこい几帳面な字でメモられている。

『コード…?
農地番号か何か?
…なんだか訳わかんなくない?』

胡散臭い――そう思った。

だから、話しの出どころをもう一度きちんと問い詰めた。

相手がのらりくらりの父さんだから、
やっぱり何だかよく分からない終いだったのだけれども…。

その時のやりとりを、思い返す。

「父さんが役所で人づてに頼まれたっていうけど。
…ほんとに大丈夫かしら?
こんなに時給が良いって、間違えじゃないの?」

『いーや。時給の件は、何度も確かめた!
大丈夫だよ、夕鈴や!』

『えー? いくらなんでもこの時給は破格でしょ?』

『そんなことはない、そのあたりは広大な農地の広がる大農園でな。
地主さんは“王様“って呼ばれて、地元のみんなもそれはそれは潤ってるらしい!
猫の手も借りたい収穫期だし、好待遇は間違いなしだ!』
「でも、何で
若い女性?
力仕事なら、男の人手が要るんじゃないの?」

『力仕事は人手が足りてるってことじゃないのかな? 良かったなあ、夕鈴。楽な方の仕事で
えへへ。
こりゃ見逃す手は無いぞ~!』

父さんはそういって、鼻息荒く

『他の人がバイトに決まっちゃう前に
夕鈴や、お前。すぐ面接に行っておいで
またとない好待遇だぞ!』 
と背中を押された。

またとない好待遇――
その一言につられ、勢いで電車にのってここまで来てしまった夕鈴。

「…でも。
あの、おっちょこちょいで、人の良い父さん、よ?
…そんなに調子よく甘い儲け話が?」――と、不安を禁じ得ない娘であった。

『――これは相当こき使われるんだろうなぁ…』と
あちこち世知辛い思いもしてきた夕鈴は、覚悟もしていた

「まあ、頑張るしかないわよね。
なんてったって、青慎のためにはこの冬お金が要るんだから。
辛くっても、割の良いバイトならえり好みしてられないわ」
できの良い弟の教育費にはお金がかかる。
良い塾に通わせているものだから、普段のお月謝に加え、冬に3期予定されている集中講座の代金をまとまって工面するとなると、薄給の下級役人の父の収入だけでは首が回らない。

「青慎、安心して! お姉ちゃん、頑張るから。
がっつり稼ぐわよ!」
と、夕鈴は地平線まで広がる広大な農地の真ん中で、大きな声で叫んだ。



* * * * * * *

ヒッチハイクで農家の軽トラに拾われた。

「本当は荷台に人、乗っちゃいかんのだけど…
警察にみつからんようにな」と言われながら
後ろの荷台に乗せてもらった夕鈴。

延々と続いたかぼちゃ畑。

地平線のそのまた向こう、
その畑の真ん中に、こつ然と現れた、白い建物群。

夕鈴は目を疑った。

白いビル群は近代的で、区画整理された広い道路、瀟洒な街頭、街路樹まで整えられたその一角はまるで映画のセットのようにも見えた。

「な、なんで、こんなとこに――ビル群!?」

「驚いたかの?
ここ、白陽研究都市は今や――王宮ともよばれておる」

ヒョイっとお爺さんがハンドル片手に夕鈴の方を振り返る。

「――王宮?」

夕鈴は胡散臭げにお爺さんを見つめる。

あっという間に軽トラはその都市の中心にあるひときわ高いビルの前に留まった。

キキキッと急停車する時に、夕鈴は荷台から転げ落ちそうになって
思わず必死に軽トラの端につかまった。

「ほいっ、ここじゃ、ここ!
あとは一人で行けるじゃろ?」

「ありがとう、お爺さん」

「お前さん、頑張るんじゃぞ?」

シッシッシと、人をくったように嗤うと、ハンドルを握った老人は軽トラを発進させて、あっというまに遠ざかって行った。

夕鈴はビルを見上げた。

白亜の神殿ならぬ研究棟…。
中に入ると、ウロウロと白衣を着た科学者。
エントランスから入ると、最新の設備のビルはどこもかしこもピカピカで、おちついた照明に囲まれると、外のカボチャ畑とはなんだか別世界のように思えた。

こんな田舎の畑の真ん中に――と夕鈴は驚きを隠せない。

「…と、とりあえず。
面接、よね?」

おずおずと、エントランス正面にあった受付ブースの前に立つ。

「いらっしゃいませ
画面を軽くタッチしてください」
と液晶画面に表示されている。


これでも一応、都会っ子よ?
これくらい使えこなせなくてどうするの!

夕鈴はおずおずと指を差し出し、タッチパネルモニターに
父さんのメモに書かれていた部門コードを入力し
受付画面のボタンを押した――。


* * * * * * *


二人の人間を前に
夕鈴は、硬直しながら青ざめ佇んでいた。


言葉が途切れたとたん、
しん、と静まり返る室内。


「――以上です」


「…」

足元を見ていた夕鈴は、
無言の圧迫を感じつつ、チラリと顔をあげる。

途端に、無表情な鋭い視線に射抜かれ
夕鈴はびくり、と肩を震わせた。

視線の先には冷たい表情をした男が椅子に座っている。
先ほどから手足は冷たくなって、ドクンドクンと心臓の音だけが響いていた。

先ほどから恐ろしい空気に晒されていた夕鈴は

『こんな面接って、あり?
まるで取調べみたいじゃない――』と
ビクビクしながら心の中で反芻していた。

「…と言うわけで、汀夕鈴どの。
あなたにはこの方の嫁として、過ごしていただきたいのですよ」

目の前に座りジッと夕鈴を見つめていた男の傍に立つ男の口から、説明が続けられた。

「――はぁ?」
夕鈴は汗をにじませながら、白目を剥いた。

ビルの最上階をぶち抜いた広大なワンフロア。

落ち着いた室内は重厚かつ簡素な設えでありながら、
どれもこれもお金がかかっているのが分かる。

シンプルなコンピューターが置かれた大きな執務机。

部屋の中央に据えられた、あたかも玉座のような大きなイスに
大農王と呼ばれる黒髪、長身の若い男が座っている。


その視線は冷徹で、凍り付くようなオーラをまとっている。

李順と名乗った男が言葉を続ける。

「――詮索は一切無用。
貴女は雇われていることを伏せ
表面上、嫁として暮らすだけです。
そう難しい仕事ではありません」


(む、難しくないとかの問題じゃないわっ!
――怪しすぎる)

もう一度勇気を振り絞って顔をあげた夕鈴の方を、紅い瞳でジロリと睨んでいる。

背中がゾッと凍り付く思いがする。

『怖い、こわい、こわいこわい!!
…この黒髪の人、何っ?
怖い~~っ!!』


「これまでのご説明通り。
あくまで、この方の縁談除けのための『バイト嫁』です」

メガネをかけたウエーブのかかった茶色い髪を後ろで一つに束ねた、生真面目そうな青年が夕鈴に重ねて冷静にかつ端的に説明を加えた。

ここいら一帯は白陽と呼ばれ、地平線の端から端まで見える土地はすべてこの珀家の持ち物だという。

昔から豊かな風土に恵まれ、農業が盛んな土地、白陽。

兄亡きあとこの土地を受け継いだのが、冷酷非情の狼陛下、珀黎翔と呼ばれる目の前の男の人だと説明された夕鈴は、田舎の収獲バイトに応募した自分が、なぜ今ここにいて、李順という人から有無を言わせず説明を受けているのかも分からず、困惑をしていた。

大農王と呼ばれる珀家の歴代当主の中においても沈着冷静で明晰な頭脳を持つ彼は、世界的にその手腕を買われている…らしい。

行き詰まった兄の経営を引き継いだ珀黎翔は、次世代コンピューターを積んだハイテク耕作機械導入を強みに、やる気を失い荒れ果てていた農地を整備し、新たな開墾をすすめた。灌漑用水路の整備の分野でも成果をあげ、短期間で耕作面積を飛躍的に広めた。
また珀家の所有する広大な土地をバックに農業、畜産、林業のみならず、食品、繊維、燃料のジャンルに手を広げ、精力的に土地改良、育種、バイオ燃料、バイオ医薬品を扱う部門を傘下に取りこみ、多岐に渡って精力的な経営を推し進め、白陽の地を復興させた若き経営者であった。

夕鈴にとって、なんとも壮大な話であった。

「――以上のように、若き実力者である陛下の周りには、このところ縁談話が絶えません。
そこで、『収穫期のこのくそ忙しい時期』だけでも業務に集中できるよう、
けん制として『偽の婚約者』バイトを雇うことにしたわけです」

いっきにまくしたてると、李順という人は、パタン、とフォルダーをとじた。


あまりの話にあきれ返りながらも、李順という担当者と狼陛下の二人のド迫力に気圧されながら夕鈴は呆然と話を聞いていた。

「…ええと。それは、つまり。
バイトで、偽の、お嫁さんを演じろってことですか?」

混乱しながらも夕鈴が少しホッとしながら返答した。
するとおもむろに目の前の黒髪の青年が口を開く。
端正な造作は周囲の空気を凍らせるほど冷たい表情。

「――なんだ、手を出してはいかんのか」

『ゲッ』と夕鈴は吹いた。


こんな顔して、冗談、言うか――!?
それとも、本気ぃ――――???


「…」
ジッと紅い瞳で見つめられ、
夕鈴の背中には汗がダラダラ噴出した。

「短期間でお帰りいただく方です
跡継ぎ問題にでも発展しては少々面倒ですので」

メガネの人が、黒髪の『陛下』と呼ばれる青年に向かっていなす。


「…つまらんな。
せっかく愛らしい兎が来たものを―――」

『なんだか…肉食なかんじ~~~っ!!』

カタカタ震えながら固まった夕鈴。

逃げ腰な夕鈴に、李順が最後のダメ出しをする。

「バイト料は破格の待遇です――」


ハッと夕鈴の表情が引き締まる。

(そ、そうだった――可愛い青慎のために、
お金が要るんだ…!)

夕鈴が踏みとどまったのを見ると、李順は頷き、念を押した。


「では。宜しいですね」

夕鈴は「え、?」とメガネの人に向き直る。

『もう話すこともない、決まったこと』とばかりに言葉を締めくくった。
それは有無を言わせぬもので、夕鈴は自分が生贄に決定したと知った。

「ちょ、ちょっと待ってください。
私、まだこのバイト、
やるともやらないとも――」

「…夕鈴殿?」

李順さんが顔を近づけて、静かにつぶやいた

「ここまで話を聞いて、
あなた
まさか断れるとでも思っていたのですか?」

ピラリと一枚の書類を広げて見せられる。

「…あなたの父上のサインです。
親権者による契約承諾書、それから前金支払い済みの証書です。

今更――逃げられませんよ?」

ざっと目を通すと
汀岩圭が闘鶏場でスった代金の肩代わりを前金として借金した先にドッサリ支払い済み、ということになっていた。

「前金は支払い済みです。
あなたにはその分、しっかり働いて返してもらいますよ」

『ええええーっ! 選択の余地なし?
あの、くそ親父ぃっ!!』

と心の中でちょっと悪い言葉で父をののしってしまった夕鈴。

「では、あと少しこちらも打ち合わせがありますので。
先ほど通したお部屋で、お待ちください」

とポイっと部屋の外に出されてしまった。

面接の前に、しばらく待たされた部屋の方へとぼとぼ歩き始めた。

部屋の外に出ると、あの一種独特な凍えるような雰囲気がようやくほぐれた。
夕鈴は深呼吸をした。

あの、恐ろしい人の、花嫁――?

『――ムリっ!!
あんな怖そうな人の、偽のお嫁さんだなんてっ!!!』

と、クルリと後ろを振り返る。

『断ろう!
辞めよう、今ならなんとか…』
夕鈴は拳を握り締め、足音を立てないように急いで廊下を面談した部屋の方へと戻って行った。


*

Wish all of u a very happy Halloween!

明日のハロウィンまで
模様替え、テンプレート仮装中です




いたずら陛下のことですから、
お菓子をもらっても『やりかねない』と
だれもが期待するところ(←)

それでも
人の好いゆーりんのことですから。
きっと、餌付けするんだろうなぁ…と。

ハロウィン ロリポップ

狼のーかの花嫁(2)

どこまでゆくのか?
はたしてハロウィンにたどり着けるのか?

宜しければどうぞ。



【現パラ】【研究都市編?】【カボチャの謎】【不条理】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(2)
* * * * * * *

夕鈴は振りかえると、もと来た道をソロソロと戻り始めた。
しかしやはり躊躇する。

目に浮かぶのは、今あったばかりの、黒髪の『怖いひと』。


(…怖くて「ムリです」って言えなかった…)

夕鈴はフラフラと柱にもたれ掛かった。

汀夕鈴。17歳。
弟の塾の費用を稼ぐため、割の良いがあると聞いて、
収穫作業真っ只中の広大な農地が広がる
ここ、白陽へ出稼ぎにきたバイト娘。

それが、いきなり「花嫁」になれと来たもんだ。

もちろん、あくまで縁談除けのバイト。
だけど、相手というのが…

――その眼光で人々を屈服させる
他を寄せ付けない孤高の王…

(高賃金にはちがいないのよ…
ああ、でも――)

瞳にはちょちょぎれた涙が浮かぶ。

「~~~~やっぱ
辞めるって言ってこよう!」

バッと顔をあげ、思い切ってもう一度奥へと進む…

(あっちのメガネの人に!!
陛下がいたら、また次の時に――)

どうか、もう、あの怖くて冷たい陛下が、
あの部屋に居ませんように。

祈るような気持ちで夕鈴は廊下を進む。
息をひそめて、足音を立てないように…

部屋の傍までくると、声が聞こえた。

「て
ゆーかさあ」

(ん?)

夕鈴は耳をそばだてた。

若い男の人の、くだけた調子の声。

「この作戦、僕が休むヒマなくない?」

「まだ気を抜かずに!
人払いが済ませてあるとはいえ…」

「だってー」

「彼女にはそれ、ばれないでくださいよ!?」

二人の男性の、会話。
…ばれないでくださいよ、と敬語を使っているのは
さっき、いろいろバイトの説明をしてくれた李順、というメガネの人の声のよう。

…ということは、もう、一人の声――

(ん!?)

この声――

「彼女にも、でしょ?」

部屋からひょいと顔をだしたのは―――

「あ」

「へ!」

紅い瞳の、黒髪の。
長身の男性――

夕鈴は思わずぱちくりと目をしばたたかせた。

「あ――――――
…ご」
「へい、…へ?」
「め――ん!
李順―― お嫁さん、まだいたよー」

やっぱり、さっきの、あの、恐ろしい狼陛下、その人だ!!

「えっ
なっ
…部屋にお戻りくださいとっ!!」

メガネの男の人が慌てて飛び出してきて
夕鈴と目がバチンとあった。

「あああああ、作戦がああああっ」
李順は頭を抱えて崩れるように床に膝をつく。

「やっちゃったー」
黒髪の青年は笑いながら頬を染めている。

「!?」

(さっきの人と
なんか別人なんですけど――!?)

先ほどまでの凍るような空気をまとった狼陛下ではなく、
まわりに小花を散らしながら頬をそめて
人畜無害系のホワホワした空気を醸し出してる…

狼っていうか、

小犬――!


「兄上の代で荒れ果てた土地も、こうして陛下の手腕で盛りかえし、
ようやくこの国本も落ち着いてきた矢先。
みなの関心はもっぱら本家の嫁についてです。
――しかし、嫁をもらって『狼陛下』が実はこんな方だとばれるのはとてもまずい」

ジッとみつめる夕鈴に、にこーと笑いかえす優しげな青年。

先ほど椅子に座って、あたりを凍えさせていた人と同一人物とはとても見えない。

「…つまり『冷酷非情な狼陛下』って…」

夕鈴が確認をすると、メガネの男はシレッとした表情で答える。

「――他国やこの地区の生産者になめられないための
イメージ戦略です」


「縁談断るたび理由きかれて困っちゃってね。
仕方ないから一時しのぎに臨時花嫁(バイト)雇ってごまかそうかと」

『そんな――』
メガネの人が恐ろしい表情で締めくくる。

「今回の件…
うっかりでも口を滑らせたら――」

――契約違反で
 十倍返し!?
そんなばかな~~~!!!

父さんのことだから、もう借金返済に使っちゃったわよ!?


* * * * * * *

「今日はお疲れでしょう。
夕食までゆっくりお過ごしください」

「じゃ、また夕食の時に――」
ぴらぴらと手を振られ、あっけにとられているうちに二人は部屋から出て行った。

呆然としながら、ぽつんと一人残されていると
控室の方からきれいな秘書さんが声をかけてくれた。

「どうぞ、お部屋にご案内いたします。
お持ちになったお荷物は、すでに運び込んでありますので――」


(ぜったい、詐欺よ、こんなの。
表向きっていうのがせめてもの…

――でも。

まんまとはまってしまったのが悔しい!)

夕鈴は腹が立って、駆け出した。

エレベータに乗って1階まで降りる。
無機質なエントランスを一気に駆け抜けて、外に出る。

風が強い。

白亜のビル群の周りはグルリと広大な農地に取り巻かれていた。
無性にカボチャ畑が見たかった。
夕鈴は走った。

だけど、走っても走っても、カボチャ畑にはなかなかたどり着けなかった。
研究都市エリアは広かった。
ようやくビル群の端までくると、今度はガラス張りの温室群が見えてきた。

ガラスが陽光を反射して、きらきらしている。

外からガラス越しに覗き込むと、
白衣を身にまとい黒い髪をポニーテールにくくった細身の男性が一人いた。

バインダーを片手に温室内を歩き回り、何やらカチカチと手の中のカウンターを鳴らしてはバインダーに挟んだ用紙に記入している。

温室の中央には大きな木がそそり立っており、枝々にはたわわに実ったトマトが鈴なりだった。あまりに立派な様子だったので思わず夕鈴は温室内に踏み込んでしまった。

「…トマトって、木の実だったんですね」
夕鈴が感嘆の声を上げた。

のんびりと話しかけたつもりだったのに――

「あなたは馬鹿かっ!!」

とてつもない勢いで怒鳴られ
夕鈴はザクッと胸を切り裂かれたような思いがした。

(見も知らぬ人にむかって、
いきなり、馬鹿か、ですってぇ~? 
この傍若無人男――!)

夕鈴は唖然として男の顔を見返した。

「トマトといえばっ!
学名Solanum lycopersicum、南アメリカ原産のナス科ナス族の多年生植物であろうっ!
トマトは野菜であり、野菜とは副食物として利用する草本類の総称と定義されるっ
そんなことも知らんのか、あなたは」

面食らった夕鈴は、一二歩、後ずさった。

(トマトの学名なんか、いちいち知らないわよ――!!)

関わりたくない人種――だけど、研究に没頭する熱い魂は感じられた。

「…ええと。トマトが野菜というなら、たぶん私もそうだと思っていました。
トマトが野菜で何よりです。
あの――もしよかったら、私とてものどが渇いてるので
その立派なトマト、一つわけていただけませんか?」

これだけあるなら、一つや二つ。
嫌味代として貰ってやらねば――。

夕鈴は内心ピキッと額に筋をたてながらも
あいそ笑いをして、下手に出て見せた。

「何いっ?!」

ポニーテールの男はギッと夕鈴を睨んだ。
そのすさまじい怒気に、またもや夕鈴は一歩後退した。

「それは…私がトマトの水耕栽培でギネス記録を狙っていると知っての嫌がらせか――?
陛下の御為、世界一達成まで、あと3個と迫っているとこの大事なときに――」

なんだか、精神的に疲れたわ、…と夕鈴は白旗を上げた。

「…いえ、そんなに大事なものだったら、結構です」

「のどがかわいているのなら、隣のイケスをのぞけば
ヒマな男が茶でも出してくれるだろう。
私は今手が離せん!」

とポニーテールの男はプリプリした表情で、
――それでもなんとなく親切なことを教えてくれたので、
夕鈴は「忙しいところ、お邪魔いたしました」と言って温室を後にした。

隣のイケス、と聞いたとおり、
温室の隣の敷地にはコンクリートの壁がそそり立っており
太いポンプからザバザバと音をたてて地下水が汲み上げられ、
人工池がいくつも作られていた。

「…イケスって、これ?」

「おや、お客様?」

イケスの端にしゃがみ込んでいた人が立ち上がる。

綺麗な人だった。

淡い栗色の長い髪を背中に流しやさしげで色白な青年。
やはり白衣を着ている。

「餌をやっていたんですか?
…大きいお魚がいっぱいですね」

「ああ、それはニジマスの四倍体のメスですよ…」

「へ?」

「いえ、三倍体とか、四倍体とか、
貴女にとってはどうでもよいことですね…」

ふわっと笑うと「どうです、お茶でも?」と研究棟の方を指さした。

夕鈴は歩き続けでのどが渇いていたので「では、お言葉に甘えて」と、青年の後に続いた。

「突然おじゃまして…」

「構いませんよ?」
ふわりと笑う。

「私は氾水月。魚類の生態を研究しています」

「白陽は農業が盛んな土地だと聞きましたが、魚類の研究もされているんですか?」

「まあ、いろいろ。陛下はさまざまな分野に積極的に取り組まれ、研究にも多額の投資がなされていますから…。
私はのんびりと、ですけどね」

「はあ…。ちなみに水月さんはどんな研究を?」

「月の綺麗な夜にね、魚たちに笛を吹いてやるんです。
そうすると大きくて味の良い魚が育つ、という研究です」

「――はぁ?」

「もちろん、笛に限りませんが…
ようは、質の高い音楽を聴かせることが重要なんです」

「…はあ?」

夕鈴は手元の茶をすすった。
ザバザバとイケスに水をくみ上げる音だけが耳に染み渡る。

「…美味しいです」

研究内容はよく分からないが、
きっと水月さんは心のきれいな人なんだろうな、と思った。

「よかった」
細い指で茶器を扱い、水月はニコリと笑い返す。

「あの私、この白陽には初めて来たんですけど…。
知りたいんです。白陽国の王様と呼ばれる――」

「陛下?」

水月さんはビクッと肩をすくめて、怖そうに青い顔をして眉をひそめた。

(そんなに、怖がられている人なんだ。
あの人――。)

本当の姿を知られないように
『冷酷非情の狼陛下』として振る舞って、
だれからも恐れられているという…黒髪の青年。

「はい」

夕鈴はゆっくり考えながら肯定した。

「どうして? 私はあの方が恐ろしい」

「どうして、っていうか…その、あの」

…縁談除けのバイト嫁、の話はできない。
でも、陛下がどんな人なのか、夕鈴は知りたいと思った。

「お好き、なのですね? あの方が」

「…えっ!?」

水月の言葉があまりにも突拍子のないものだったので、
夕鈴は目を丸くして驚いた。

(――好きもきらいもないでしょ!
いま、詐欺まがいの目にあったばかりなんですけど?)

しかし、臨時嫁として雇われて…
このあと誰にどういう経路で話が広がるのかわからない。

今は下手な返答もできない。

(縁談除けのバイトだなんて、無茶言って、人を騙して!
嫌い、きらい! きらい…なはず、
…でも、
あんな優しそうな――)

モジモジしながら、難しい表情で一人百面相をしている少女に
水月は苦笑をしながら答えた。


「――陛下は、おおきなカボチャをお望みです」

「おおきい、カボチャ?」

「形よく、色ツヤよく。
そしてなにより一番大きなカボチャ…です。
なんといっても、
21歳の収穫祭ですから、ね…」

水月さんはそういうと、窓越しに遠く見えるカボチャ畑を見遣った。
夕鈴は飲み干した茶碗とトンと机に置くと、
水月の視線を追って広大なカボチャ畑を見つめた。

「…え、と??」

何がなんだかわからないと首をひねりながら水月の方を振りかえると、
水月の背後の飾り棚の高そうなツボの中から、タコがはい出してきた。

「――タコ!」

夕鈴が驚いて指差すその先を
水月はまったりとした表情で見定めた。

「ああ…この子のこと、忘れていた。
そろそろお散歩は終わりだというのに――」

水月はツボごと持ち上げると扉をあけて、水槽がずらりと並んでいるラボの方へと歩きかける。

「…すみません、まだ世話が残っているので。お茶会はこれまで、です。
あなたがこの白陽で一番大きなカボチャを探すことができますように」

「え?
私が探すんですか?
大きなカボチャを…?」

「もし、あなたがお気に召したカボチャをみつけたら
ここに持っていらっしゃい。
わたしが月夜の晩に笛を吹いて、もっともっと大きくして差し上げます」

フフフ、と水月は笑った。
あはは、と夕鈴も笑った。

さっきの魚のはなしの延長線上のシャレなのかしら――?

研究者さんって、何考えてるのか分かんない。

水月の言葉が冗談なのか本気なのかわかりかねながらも、面白い人だと夕鈴は思った。

(笛を吹いて、大きく…って。
魔女にでもなったつもりかしら?
でも、水月さん、この人ならやりかねないわね)

夕鈴は一瞬想像して苦笑した。

夕鈴は腑に落ちないことばかりだったけれども、
そろそろ腰を上げるころあいだった。

「お邪魔いたしました。
お茶、美味しかったです。ご馳走様でした」

「――またいつでもどうぞ」

水槽にタコの入ったツボを降ろしながら水月は振り返り、優しい微笑みで夕鈴を送り出した。

水産研究棟を後にすると、もう研究都市の端となり、
夕鈴はついにカボチャ畑のヘリにたどり着いた。

大きなカボチャがごろごろと畑に転がっていた。

大きなカボチャ。
21歳の収穫祭に、形よく、色ツヤよい、大きなカボチャが要るって…どういうこと?

夕鈴の心の中には新たなる疑問が湧き上がる。

あんなに怖かった狼陛下。
コロッと子犬のような優しい笑顔をみせて――

そのくせ、人をだますんだ。

知らない、あんな人のことなんか――!!

プンプン怒りながら、夕鈴はカボチャ畑を突っ切っていった――。


*

狼のーかの花嫁(3)

雨の音が静かです。

ハッピー、ハロウィン!
みなさま楽しいハロウィンをお過ごしですか?

(とはいえ、お店のさりげない装飾に接する程度で
実生活上、特別ハロウィンらしいことは何もない寂しい日本人←)


ハロウィンは今日までなのに
今日までには終わらなかった現パラSS。

残念だったらすみません。

【現パラ】【カボチャの謎】【微糖】

* * * * * * *
狼のーかの花嫁(3)
* * * * * * *

夕鈴はカボチャ畑の大冒険を終えて、飛び出した元のビルに戻ってきたとき、外はもうすっかり暗くなっていた。
イライラと迎えに出た李順にさんざん怒られた。

「どこに行っていたんですか!」
「あの、あたりを見ようとおもって…帰り道、迷ってしまいました――」
「…はぁ」と李順は目頭を指で押さえた。
「あなたと夕食をと、陛下は次のご予定の会合の時間まで、ギリギリお待ちだったんですよ?!」

――そんなこと、聞いてませんから…ともいえない。

「こちらは、宿舎の管理人です!」
と紹介されたのは、駅からここまで軽トラに乗せてくれたちんまりとした老人だった。
李順は管理人である老人に夕鈴を任せると「では」と消えてしまった。
「遅かったのう。メガネの小僧にたっぷり絞られたようじゃな」と笑われた。
「あ、駅から送ってくれたお爺さんですよね?
その節はお世話になりました!」
「いやいや。普段あの駅を使う者も少ないでの」
「――え?」
ニコニコと老人は笑っている。
それ以上説明がないので、夕鈴は何がなんだか意味が分からず、少し困ってしまった。

少し話題を変えて夕鈴は話しかけた。
「…ええと、ずいぶんとお忙しそうですね」
「まあ、のう。陛下も側近も、それが仕事じゃからなあ」
「お仕事、ですか」
「お前さんはどこに行っておったんじゃ?」
「途中みた、カボチャ畑を見に行ってきました!」
「ほう」
「…見たこともないようなすっごく大きいカボチャが、ゴロゴロありました!」
「…もうすぐ、収穫祭じゃでのう」
老人は笑ったが、なんとなく少し寂しそうに見えた。
「…えっと。それから。トマトの樹を見て、お魚のイケスの研究室でお茶をいただきました! あと、道すがら焼き芋をごちそうになったり…」
「トマトの温室に寄ったのか。偏屈なやつがおったじゃろ?」
「――いました!
眉間にしわ寄せて、怒鳴られました」
「魚に音楽を聞かせる男には会ったかの?」
「会いました!
もしカボチャを大きくしたかったら、持っておいでって…」
「そうか、そうか。そりゃよかった」
老人はニコニコと笑った。

『何がよかったのか』夕鈴にはさっぱり分からなかったが
張老人が「よくやったの」と褒めてくれたので、
夕鈴の心はほぐれてニッコリ笑った。

ビルの一部が宿舎にあてられているらしい。
大きな職員食堂があったがもう既に営業は終わっていた。
「腹が減ったじゃろ」と布巾をかけたトレーを出され、逆に手間をかけてしまったと夕鈴は悪い気がしてしまった。広い食堂の端でぼそぼそ食べた。

世話人の張元老人は、ここでの生活を大まかに教えてくれた。

(…一人で食べるのは味気ないわね。
でも、あの恐ろしい陛下と一緒に食べるのはもっと居た堪れないでしょうね

正直、怖いモノは怖い――。
コロッと別人のような笑顔を見せられても…。
あの人の偽の婚約者だなんて、ほんとうにできるのかしら…)
と、夕鈴は悶々としていた。

豪華な個室スイートをあてがわれ、ドアから先は男の張老人から身の回りの世話をする女性たちにバトンタッチされた。

(なんの、冗談――?)と思いつつ、過剰な世話に目を白黒する夕鈴。

「お疲れでしょう、どうぞ湯あみして一日のお疲れをお取りください」と勧められる。

「背中をお流しいたします」と言われ、当然のように服を脱ぐのを手伝われはじめた夕鈴は、あわてて両手で前身をブロックし、赤面しながら辞退した。

風呂を出るとふわふわのタオルとバスローブがきちんと畳んで置かれていた。
その横には白いフリルのネグリジェ。

「…これ、着ろっていうの――?」

夕鈴は赤面をしながら胸の周りにバスタオルを巻き付けると、パタパタとバスルームを飛び出し、部屋に戻って自分のボストンバッグに一目散に飛びついた。

手荒くバッグのチャックを開けると、少々くたびれた茶色いパジャマをひっぱり出す。
ベージュの木綿生地に白い兎を染め抜いた愛用のパジャマ。

「…ふう。バイトっていうから
作業着しか持ってきてないのに…」

ボタンをはめて、肩からバスタオルをかけな、濡れた髪にドライアーをあてながらブラシで梳いていると、突然部屋の続の間からコンコンとノックされ夕鈴は面食らった。

「夕鈴さま、陛下がおみえです」

(えっ!?こんな夜に――
もうお風呂はいって…)
泡を食った夕鈴は声も出せず…というより返事をする間もなく扉は勝手に開けられてしまった。

顔を出したのは狼陛下。
夜着の上に藍色のガウンを羽織っている。

「――なんでっ!?」

ガタン、と立ち上がれば

「――なぜも何も
妻の元へ夫が通わぬ法がどこにあるのだ」
と、相手は余裕しゃくしゃく。

5m以上の距離をとって、つねに注意深く結界をはっていたのに、
黎翔はスイと身をかわすと容易く夕鈴の至近距離1mにすべりこむ。

頬を撫でられながら夕鈴は凍りついた。
(――て、貞操の危機!?)

恐ろしい狼陛下の陰の中にすっぽりと納まり
夕鈴は恐ろしさでガタガタ震えが止まらない。

「――初々しいことだ。
妻が恥ずかしがるのでな。
…おまえたち、もう下がってよい
二人きりにしてくれ」

「かしこまりました」
とおつぎの間から声が掛り、さらさら…と人の気配が去って行った。

完全に人の気配がなくなり、シーンとあたりが静まり返った。

「は~~~、肩こったぁ」
夕鈴の傍から離れ、ボスッと長椅子に座り込む陛下。

「あ、驚かせてゴメンね。
李順がとりあえず行っとけってゆーから」
ニコニコしている陛下。

あまりの変わり身の早さに呆然としながら夕鈴は見つめた。

* * * * * * *

――この白陽の土地で今求められているのは、諸外国とも渡り合えるくらい、地域一丸となって引っ張れる、強いリーダー(当主)だから――

『強くて怖い王様を演じているんだ』という黎翔の言葉を聞きながら
夕鈴は他人事ではなく、まるで自分のことのように切なくなってしまった。

(冷酷非情な狼陛下は幻で――
そこにいるのは、
自分とは全然違う自分を演じている
優しい王様。…)

夕鈴は思わず怖さも忘れて黎翔の隣に近づく。

「それって、カッコいいことだと思います!」

夕鈴は思わず熱く語るものだから、逆に黎翔が気圧されるほど。

「ありがとう」

「――そうよね。曲がりなりにも一度引き受けた仕事だもの。
やりとおすのが筋ってものよね。
よぉし、陛下っ!
できることがあったら、バンバン言って下さい!
なんでもやりますっ!
私っ、お給料分は頑張りますからっ!!」

「…うん」
黎翔はクスリと笑い「よろしくね」と彼女の手を取った。

「――あの。
…なんだか、ちょっと近いんですけど?」

「…そう?」
黎翔はニコニコと夕鈴の手に自分の手を絡めた。

「奥さん、なんだよね?」

「え?」

「OKってことでしょ?」

――バッと夕鈴は赤面すると、慌てて立ち上がった。

「…そっ、それはっ!!
あ、あくまで、バイトでっ!
表向きのことです~~~っ!」

黎翔はツイっと手をのばし
立ち上がった彼女の腕を取ると、軽くひっぱる。

夕鈴はポスンと黎翔の腕の中に飛び込んだ。

「なんでもやってくれるって?
…嬉しいなあ」

(茶色のくたびれた普段着パジャマなんか着なければよかった――)と
ふと変なところで夕鈴は冷静になって、後悔した。

「ぱ、パジャマ…」

「…うん?
よく似合ってる。
兎さんの柄、可愛い」

黎翔は木綿の生地越しにやさしく彼女の背を撫でた。

ドキドキと動悸は高まり、耳まで朱に染めた夕鈴は、
思わず相手を押しのけようと抵抗したが、
子犬のような黎翔は見た目に似合わず力があった。

「…え?」

にこやかにほほ笑む青年は何一つ特別に力んだ様子もないのに
クイッと軽く手首を返しただけで、あっというまに二人の距離は縮まった…というより密着していた。

(えっ、ええっ?
近い、近い、近い~~~!!)

抱きしめられた夕鈴は、ほとんどパニック寸前。

まったく身動きもままならず
黎翔の腕の中で釘づけになっていた。


「夕鈴、お願いがあるんだけど」
耳元にささやかれる。

「…なんですか?
藪から棒に」

せめて、言葉だけでも距離を置こうと
必死に他人行儀な言葉で抵抗する夕鈴。

「収穫祭のお祭りまでに。
私に、大きなカボチャを持ってきてくれない?」

「カボチャ?
――いっぱい、畑にありましたよ?」

「ううん、一番のカボチャ。
いちばん形好くて、色ツヤ良い、大きなカボチャが欲しいんだ」

「え?」
どこかで聞いたフレーズ。

――形よく、色ツヤよく。
そしてなにより一番大きなカボチャ――

「――21歳の収穫祭、だから…?」

「え?
――誰かに
何か聞いた?」

「いえ、その。さっき。
散歩してるときに出会った人から、
不思議な呪文みたいな言葉を聞いて――」

「…ふうん?」

黎翔の眼がキラリと光った。

「――夕鈴?」

名を呼ばれて、ドクン、と胸が跳ねた。

「はい?」

こわごわ夕鈴が見返すと、陛下はスッと紅い目を細めて
ジッと夕鈴を見つめていた。

そこにいたのは狼陛下。

夕鈴の額に口づけを落した。

「夕鈴――。
カボチャをくれないと
イタズラするよ?」



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Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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