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プロポーズの日2014

今日6月2日は
プロポーズの日、らしいです。
プロポーズの日に寄せて。
すべりこみ。

【たぶんバイト妃】

* * * * * * * * * * * *
プロポーズの日2014
* * * * * * * * * * * *

それはいつものような夜。
陛下はいつものようにお仕事でクタクタで
私はいつものように茶器を揃えおいしいお菓子を用意していた。

「ただいま、夕鈴―――」

人払いを済ませると、さっそく陛下は小犬にもどり
ちょっとはにかみながら、にこっと笑った。

「―――なんだか、嬉しそうだね?
今日は何か、いいこと、あったの?」

当然のように、私を膝の上に招き、
抱えるように包む。

今日、侍女さんたちと庭を散歩したこと。
咲き染めの淡い桃色の薔薇(そうび)が美しく、思わず侍女さんたちが恋占いを始めたこと。
八重崎の花弁が多すぎて、なかなか占いの結果が出なかったこと…
「…恋占いって、みんなでやると、ちょっとどきどきしちゃいません?」
つい熱が入って真顔で陛下のお顔に近づきすぎた。
クス、と笑われ。
…あ…。やだ。
話、…えっと、話の続きを―――早く。

「えっと…陛下。それで。
―――お見合いすることになりました」

「そっか…それはよかった――― えっ?」

陛下はガタリ、といきなり立ち上がったので、
私は陛下の膝の上から転げ落ちそうになった。

陛下はあわてて私を抱え上げ、鼻先スレスレのところまできれいなお顔を寄せて覗き込んだ。

「…っと、ゴメんっ!」

誰からも、冷酷非情な狼陛下、と呼ばれている人なのに。
「お見合いっ?
誰と―――!?」
陛下はきれいな瞳をまん丸に開くと、急にオロオロとしはじめた。

「…あのその。
そんな風に真正面から問われるとちょっと。恥ずかしいんですけど―――あの…老子の…ご紹介で」

(老子?―――いつのまに、あやつ、
そのような話を―――!?)

「ダメっ!!!」
ギュッと目を伏せた陛下は、力づくで私の両肩をひきょせる。

ながいまつ毛が私の頬にちくちく触れてくすぐったいけど、
息もできないほどぎゅうぎゅうと私を抱きしめるものだから
しばらく一言も発することができなかった。

「絶対―――ダメ!
そんな、うさん臭い話」

「う、うさん臭くなんか、
ない、ですっ
ちゃんとした、お相 手 ―――で…
へっ、へーか!!
く…くるっしいです…」

ハフハフと空気を求めてあえぐ私に気が付き
ようやく陛下は腕の力を緩めてくれた。

「ごめん…でも」
だらり、と力を落とし、黎翔は夕鈴を長椅子に下ろして、その隣に座り直した。

「でも…。陛下?
自分のことは一番、自分が分かるものです。

人には立場っていうものがあって。
自分の身の丈に見合った場所に落ち着くのが、一番幸せだって…
誰だって、最後には悟るべきなんですよね。

どんなに夢を描いても―――
分別を持って、時には現実を受け入れないと、ですね。

年齢も年齢ですし。
もうあまり選択肢、ないですよ(笑)

だから、あの―――
心から祝うって…
その、できません、か―――?」

「―――ダメ!」

「あの、せめて、もう少し詳しくお話だけでも聞いて―――」

黎翔が、憤然と立ち上がる。

「―――っ」
そんなに、怒ることですか―――?

「絶対に
許さない」

冷たい赤い瞳で射抜くように見つめられ
私は痺れたように動けなくなった。


一回だけドクンと大きく弾んだ心臓は
そのあと脈打つを忘れたように、時が止まった

「―――だって…お年頃なんですよ?
申し分ない、立派なお話で―――」

…いきなり、唇を奪われた。

「―――なっ?…んっ!!」

力づくで、強引なそれは、鼻も頬も一緒くたに
かじられるように押し付けられて
…狼に、食べられてるような気がした。



ようやくドンと胸を突き飛ばし、二人の距離を空ける。

羞恥心で神経が焼き切れそう。
なの視線に入った自分の指は、血の気が引い青白く見えた。

はあ、はぁ…と荒い息づかいに、正気が戻ってくる。
震える指先で口許をぬぐった。

「―――絶対に許さない!」

「は…え?
――何?」

「だから、君が見合いをする、と―――
それももう先々まで決めたような口ぶりで…」

「え―――?
ちが…」

「ぼくのことなんか―――
置いて
行ってしまうつもりなんだ―――」

「違います!
どうして陛下を置いていくとか、いかないとかのお話になるんですか?
全然関係ないじゃないですか―――!」
「違わない!!」
「違いますって!!…」
「僕のことなんか…嫌いなんだ
―――嫌われるようなことばかりしてるから」
「だから…、」
「夕鈴は、僕のことなんて嫌いなんでしょ?」
「へーかは、関係ないでしょ?!」
「やっぱり、僕のこと、嫌いなんだ」
「嫌いなわけ、ないじゃないですかっ!」

「じゃあ、僕と結婚して!」

―――え?

はい?

それって、プロポーズって、やつですか?

あわあわと蒼白になっている間に、
もう一度抱き寄せられて、今度は優しく口づけされた。

「私が先約。―――だからその見合い話はぶち壊す」

「陛下。ホンキですか…?」
「―――嘘や冗談で、求婚できる?」
「…いいえ。陛下はそんなお人じゃ…」
「本気だから。お見合いは止めて―――」
「あの、陛下?
お見合いは、だから。
私付きの―――侍女さんの話ですよ?
20歳になってしまって、嫁き遅れたってずっと気にしてた…
彼女の話じゃ、なかったんですか?
私、仲人するんです…
どんな様子か今から楽しみで―――」

やおら腰をさらわれ、すたすたと部屋の奥に―――
「きゃっ…!」


「妃が仲人をするというのなら、
我々がもっと仲良くなっておく必要が
あるな。
人生の先輩として―――」


(おしまい)
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雨乞い

ブログ1周年記念 3本勝負、3本目
―――――――――――――――――
シエル様
"胸キュン陛下×夕鈴(浩大ピンチ)"
バイトでもいいし、未来設定で夫婦になりお子までいる設定どちらでも構いませんが、陛下が賊に襲われ浩大が命の危機に!ってなり、夕鈴が陛下が命の危機に!と勘違いで、ラブラブ展開に発展
―――――――――――――――――

シエル様、ありがとうございました。


【バイト妃】【ちょっと流血しますよ】【痛い】

* * * * * * * * * * * *
雨乞い
* * * * * * * * * * * *

「―――これは大切なご公務ですからね?」
李順さんにジロリと念を押された手前、嫌です、とは言えなかった。

ため息をつきながら、重たい妃衣装にさらに上着を重ねる。
なにもこの季節にこんな正装しなくても―――ただでさえ妃衣装は重たく暑い。

その日もとても日差しが強く朝から汗ばむほどで、昼にはさらに気温が上昇しそうな予感だった。
何週間も雨が降らず、あちこちで干ばつの被害が報告されはじめ、慣習に従うべしという卜部の奏上を重んじる老臣たちの勧めもあり、国をあげて雨乞いの儀式を行うことになった。

もっとも近代的な考え方である黎翔は、占いを信じて雨乞いを執り行うなど、はなからやりたくはなかったのだが、荘園領地を抱える貴族らの声を無視することもできなかった。

儀式を執り行うともなると参列する側も大変である。
国王夫妻も精進潔斎し、雨が降るまで最長一週間の雨乞い行事に立ち会わねばならない。

「もっと簡素な衣装では―――」
「様式、支度は細かく取り決められており、勝手はなりません。
万が一にも雨が降らず、それが妃の不備や勝手な振る舞いのせいだと言いがかりでもつけられたら―――どうします? バイトのあなたはいいかもしれませんけれどね。陛下のお顔に泥を塗るおつもりですか?」
そう言われてしまえば、シュンとするばかり。

時間をかけてようやく支度が整い、陛下の元に挨拶に訪れる。

儀式のための古典的な装束を身に着けた陛下の立派なお姿におもわず見ほれてしまった。

「わが妃はいつにもまして美しいな」
そう言葉にされると、嬉しいような―――照れるような。

陛下はこんなに暑くても汗一つかかず、涼しいお顔。

王族に生まれ育った国王様だし。場数も踏んでるから当たり前といえば当たり前。
さすが、というえばそうなんだけど。

私のよりさらに重たそうな衣裳をサラリと着こなすあたり
なんだか―――悔しい。

だから私も衣裳が重いとか、暑いとか、文句をいうまい、と心に決めた。

儀式を執り行う王宮広場の中央には広い祭壇が築かれ天幕で覆われている。
いよいよ雨乞い儀式が行われる。

白い天幕で仕切られ、あちこちで焚かれた護摩の煙でがもうもうとする祭壇には国中から集められた僧侶が整然と居並ぶ。鳴り物で儀式の開始が知らされ、長い長い文言から始まった。

最初は興味深く見つめていたがそれもほんのわずかな間だった。

苦しんでいる民のためとはいえ、雨が降るまでひたすら祈祷を続ける苦行を執り行うというのは大変なこと。
早朝の暗いうちから執り行われた初日最初の儀式が無事おわったのは、もう昼過ぎで、それだけでもへとへとだった。

「これからは坊主どもの読経を唱え続けるんだ。法力を頼みに雨が降るまでは、これを七日七晩、か―――。
…長丁場になるかもしれない。夕鈴、君はあまり無理をしないで―――
交代の時間でしっかり休んでおいで」

カラカラに喉が渇き、それでも飢える国民のため、と思えば我慢もできた。

「いえ、大丈夫で…す―――」

クラリと思わずめまいがしたその瞬間、
シュっと小さな風切り音がして、何かがかすめた。

―――え?と気が付くと、天幕にブスリと矢が刺さっている。
陛下は顔つきが変わった。

「賊だ―――! 出会えっ!」

「王の天幕に、弓引く不埒物を、ひっとらえよ!!」

辺りは大騒ぎになった。

陛下が私の肩を捕らえ、抱き寄せる。

「夕鈴、怪我は?」
「いえ―――」

「―――お妃様、大丈夫ですか!?」
李順さんが駆け寄る。

雨乞いの祭壇まで大混乱。
集められた僧侶たちは騒然としはじめた。


陛下がすばやく私に声をかけ、心配そうにのぞき込む。

「夕鈴、痛いところはない?」
「どこも―――」

実害はないけれど、私は緊張で酸素不足に陥りそう。

「かすったが無傷のようだ」
「…やだ、めまいがしなかったら―――当たって、た?」

いまごろになって、ガタガタと震えが走る。

「安心して…夕鈴。
―――李順、妃を安全な場所に」
「は」

儀式用の剣しか身に着けていなかった陛下は、すぐさま脇に置かれている愛刀に手を伸ばし、
その間にも矢の撃ち込まれた角度から敵の位置に見当をつけ、私をするりと李順さんのほうへ押し出した。

「すぐ戻る―――」
「あ、陛下っ!!」
私には、陛下の動きが止めらえなかった。
いつも、何の役にも立てなくて―――。

「―――陛下っ! お待ちくださいっ!!
警備兵を揃えてから、陣頭指揮を…」

「浩大、いるか―――?」
「っほいほーい!」

人が多すぎて―――混乱の中、何も見えない。
戦いとは縁遠い僧侶はパニックを起こし、怒号と悲鳴が飛び交った。

賊が誰なのか、どこにいるのか、何が目的なのか―――

敵がいると思われ、警備の者らが向かった方角とは全く反対の、裏をかいた茂みがガサガサ揺れ、大きな影が飛び出した。
はっと気が付いたとき、天幕のすぐ傍に血走った目の一人の荒坊主が立っていた。

雨乞いに呼ばれた立派な装束の僧侶らとは異なり、汚れすさんだ破戒僧。
仁王立ちになってその大きな体を熊のように誇示し、太い腕で私を指さした。

「雨乞いなど―――

そもそも、狼陛下が妃の言いなりになって
国政をおろそかにするから
罰が当たったんだ―――

傾国の悪妃を退治すれば
天も雨を降らせよう―――!
悪妃こそ、生贄にささげるがよい―――」

そう言って、薙刀用の朴刀長器を振りかざした破戒僧は
当たり構わず跳ね飛ばし、私の方へ向かって切り込んできた―――。

「夕鈴っ!―――」
陛下!?

「お妃ちゃん―――!!」

* * * * * * * * * * * *

李順さんや周りの人が私を守り、もみくちゃにされながら視界の端に血しぶきが上がった


「陛下っ!」
「陛下ぁああ―――!!?」
周りから声が上がる。


「―――陛下の身に?」
私は息が止まりそうだった。

やだ―――

「夕鈴殿―――見てはいけません」
李順さんが鋭く低い声を出したけど、目を閉じられない。

賊が取り押さえられ、人垣が切れたとき。
数名が折り重なったその場に
陛下が血まみれで、片膝をついて、愛刀でかろうじて体を支えていた。
白い、古式ゆかしい儀式の衣裳が―――赤く染まっていた。

「へ―――陛下ああああっ!!!」
私は思わず駆け出して、陛下の側へとはしった

すぐそこが、なんて遠いの?
たった10数歩しか離れていなかったのに―――
陛下は…
今日の儀式の妃衣装は重たくて、動きにくくちっとも前に進まない

やだ―――陛下!

ようやく陛下の側にたどりついた。
手をのばし、陛下の頭を胸に掻きよせギュッと抱きしめる。

「―――夕鈴…?」

陛下の声に、ホッとする。

「大丈夫ですか?
すぐお医者さまを―――
気を確かに―――しっかりしてください」

「心配するな。大丈夫だ」

「でも、すごい出血です―――動かないでください
どこをやられたんですか?
すぐ手当を―――」

「浩大だ」

「へ?」

「いや、儀式用の服が重くて。
足を取られ膝をついた途端切り込まれ。
浩大が盾になった
あいつは―――?」

「え…浩大?」
ときょろきょろと見回すと、浩大は1、2間ほど跳ね飛ばされて、腹のあたりが大きく割けて血まみれだった。
怪力に任せて朴刀長器で薙ぎ払われたのかかなりの大怪我だ。
さすがに浩大。
腹を抑えて「いってー!!」と叫びながらも、上体を起こし「―――ちっ、やられた」と冷静に自分の腹を見下ろした。

「陛下は大丈夫です―――」

浩大には本当に悪いけど。陛下が無事だ、と分かった途端
私は緊張の糸がほどけ思わず、ワンワンと泣き出した。

陛下の頭を抱きしめたままどうしてよいのかも分からず

「陛下、陛下、よくぞ御無事で―――!
浩大、痛かったわね、痛かったわよね―――でもありがとう」

そう言いながら、涙があとからあとから出てきて。
抱えた陛下の頭に頬ずりして泣いた。

「しっ 心臓が止まるかと思いました―――!
陛下が切られたと思った途端
生きた心地がしませんでした―――」

ヒックヒックとしゃくりながら、陛下の頭をわしわしと抱きしめた。


切られたのが陛下ではなく浩大と知ってちょっぴりホッとした事実に対し急に罪悪感が湧いてきた。
思わず尋ねる。
「こっ、浩大は―――?」

「あちらで手当を受けてる。大丈夫そうだ。
ほら、手を振ってる―――」

よかった…。

まだまだ涙は尽きなくて…。でもそうこうしているうちに
突然、ゴロゴロ…と遠雷が鳴り響きい、あれよあれよという間にビュービューと強い風が吹いて。
そのうち空からパラパラ、パチパチと白い雹(ヒョウ)が降ってきた。

「ぎゃ!」
祭壇周りにいた僧侶たちは頭を守り、四方八方に飛び跳ねた。

あっけにとられながら、両肩を支えられ周りの人に助け起こされた私は、ようやく陛下の頭に回した腕の力が抜けた。私の胸に埋めていた陛下が顔をあげて、ニコリ、と笑ったその笑顔を見て、またしがみついて泣いた。

雹(ヒョウ)の当たらない天幕の下まで担ぎ込まれ、椅子に座らされたけどまだ涙は枯れなかった。
そうしたら今度はもくもくと黒雲が立ち込めたかと思ったらザンザンと大雨降り始めた。

「―――夕鈴の涙が、雨を呼んだのかな?」

「ば、ばかなこといわないで―――」
ひっくひっくと泣き続ける私。



「心配してくれて嬉しい

でも、もう泣き止んで―――」


そう言って、陛下は私に
優しくキスをした。


―――雨がやむまで。



(おしまい)



現地視察

ブログ1周年記念 3本勝負、4本目 ←すでに3本勝負じゃない。

―――――――――――――――――
風花さま
"明るい系陛下×夕鈴"
(跳ね兎、たじたじ狼、腕の中)
―――――――――――――――――

風花様、ありがとうございました。

明るい系の陛下、といえば、李翔さんが思い浮かびます。
舞台は下町、も定番ですが、今回はお二人の旅の一コマで…。

【バイト妃】【微糖】

* * * * * * * * * * * *
現地視察
* * * * * * * * * * * *

―――勝手に連れ出した。

私も、時には勝手気ままに過ごしたいのだ。

やるべき務めはすべて果たした。
いいや、やるべき以上、すでに済ませたぞ、文句なかろう。

先回りで精力的に仕事をした分、
少しくらいは、許せ―――。


当初から李順の組んだ公務の予定は、隙間なくびっしりと埋まっていて、
そもそも「遊び」「観光」といった要素など、どこにも見当たらなかった。

にもかかわらず、私は妃をこの視察に同行させていた。

それは、たまたま、というよりも、
密かな目的があったのだけれども…。
それは内緒。

とにかく私は王宮の大臣ら、例のうるさ方の面々を半ば強引に押し切る形で、妃を連れて視察に出た。

この公務で最も比重が大きかったのは、国境付近の穀倉地帯の治水事業。
かなり大がかりで時間も資金もかかるこの事業はようやく実現化へ向けて動き出したばかりでぜひとも見ておきたいものだった。

ところが今朝がた。
予定現場へ行く途中の橋が晩の大雨で流されてしまい、現地が混乱しているので今回の一行による視察は見合わせてほしいと延期の願いが届いた。
というわけで、もともと半日でも隙間をつくって強行軍突破しようと練っていた私にとっては願ってもないチャンスだった。

―――国王の急病。
ちょっとした体調不良など、誰にでもある。
旅先での疲れで倒れたことにして、束の間の休暇を楽しむことに決めた。

実は密かにガイドも手配済だ。
視察団本部には李順を残しておく。
病気の国王の代わって長官らと塩梅よく采配するだろうし―――。

せっかくのデートの邪魔はされたく、ない。

「夕鈴、少し、外に行かない?」
「外、ですか―――?」

朝餉の後、散歩にでも行くのかと思ったんだろうな。
君は「はい、喜んで」と軽く誘いを受けた。

* * * * * * * * * * * *

浩大の御する小さな馬車。
とくに裕福でもない中流貴族の物見遊山、といった風情に仕立ててある。

「へーか!?
ちょっと外へ、といいながら―――馬車で遠出して
大丈夫なんですか?」

「視察、だよ? 川辺の」
「視察、ああ、そうなんですか…でも
私、陛下のお仕事に、足手まといなんじゃ…?」

「まあ、視察って言っても。内内なものだから」

「内内…?
―――あの…、李順さん、には…?」

「うーん。まあ、内内だからね―――」

「―――!?」
夕鈴の胸に嫌な予感がよぎる。

「もう、来ちゃったし。
君に見せたいものが、あるんだ」

この時期だけしか見られないという時期、場所、情報等を確保するため、現地にはガイドを手配してある。

小さな町にあるたった一つの旅籠を兼ねた飯店。
昼食の時間に、そこで落ち会う、と連絡していた通り、奴は現れた。

小さな飯店だったが庶民的な料理はどれもおいしそうで、すでに机の上には乗りきらないほど並べられている。
浩大は遠慮して隣のテーブルについている。

「ご無沙汰しております」
「克右、ご苦労」
「…陛下、ありゃ。今回は娘さんもご一緒ですか―――?」

克右は、仰々しくない程度に丁寧な礼をすると、克右は浩大の卓についた。

浩大は早速小さな声で情報を伝える。
「…おい、軍人さんヨぉ、この方は貴族の李翔様! そんでもって、奥さんと一緒に旅行中。
あんたの役どころは李家出入りの商人。今回の旅の案内人だってサ―――
いいかい?」
奥さん、といわれ、夕鈴は口いっぱいにほおばっていた湯を思わずごくん!と呑み込んだ。
「熱っ!」
「―――大丈夫か? やけどは? あーんして見せて」
顎を指でクイと引かれ、口許を覗き込まれた夕鈴は赤面した。
「ち…近いです!! 李翔さんっ!!」

「―――相変わらず、仲の宜しいことで」
二人のやり取りを少し遠巻きに、目を合わさないように気遣う。

「腹ごしらえをしたら、行くぞ?」
「行くって? 遠いんですか?」

「日暮れ前までに、少し山の方へ移動しないと―――」

* * * * * * * * * * * *

連れてゆかれたのは山の近くのせせらぎ。

「ここで、この時期にだけ見られる景色があるんだそうだ」
「へぇ…確かにきれいなところですけど。
特に変わった風にはみえませんが?」

「そうだね。今は―――
もう少し暗くなると見えるはずだ」

川べりから見上げると、少し離れた小高い野原に浩大と克右の二人がいた。
少し大きめのテントを一つと、小さなテントを二つ設営している。

「何の準備ですか?」
「暗くなってから移動するのも危ないから、今日はここで野営する」
「野営? 私は初めてです」
「そうか。女性には慣れなくて、申し訳ないけれど…」
「わたしは、どんなところでも平気ですよ?」
ニコニコ笑いながら、物珍しそうにテントを張る様子を見学していた。

馬車から荷物を下ろしたり、てきぱきと二人は働いていた。

「そういえば―――その景色というのを、陛下はご覧になったことがあるんですか?」
「いや。話に聞くばかりで。一度この眼で見ておきたいと。
それなら君と、と 思ってね。少し無理をさせたな」
「あなたがいてくだされば…大丈夫、です」


いつの間にか自然とつながれた手。
『二人で川風になぶられながら、陛下とこんな会話をしてるなんて、まるで…デートみたい』と夕鈴はドキンと胸が高鳴った。

「もうそろそろ、日が暮れる―――。
団扇を持っていくといい」

ガサガサと草をかき分ける音がして、ガラスのランプを手に、克右と浩大が川べりまで降りてきた。

「では、こちらの方へ」

先頭に立った克右の案内で、川に沿って林の奥へと一行は進んだ。
宵闇迫る薄暗がりの中、ぶらぶらゆれるランプの淡い光と、繋がれた手だけを頼りに進む。

「ここら辺り、で見られると聞いてますがね…」

そう言って、立ち止まる。
息をひそめて辺りを見回していると、あちらの岸辺でチカ…と緑色の明りが揺れた。
「あそこ」
ガサガサともう少し進む。
「暗いから。足元に気を付けて」
陛下の腕がのびてきて突然腰を引き寄せられ、ドキドキした。

あっという間にとっぷりと日は暮れ、残照が空から消えると、辺りは一気に暗くなる。
すると、草地ぜんたいに、ぼんやりとした緑色の小さな灯が。
…それはよく見ると動いたり、ふわふわ飛んだりする。

「蛍、という虫だそうだ」

「わぁ…!」
思わず歓声をあげた。

暗闇が増し目が慣れると蛍の放つ淡い光が鮮明になる。
直ぐ近くにもよちよちと歩く蛍。

ふわふわととんだ蛍がすぐ目の前を行き交い、鼻に留まる。
「夕鈴の鼻が、光ってる…!」
プッと吹き出す陛下。

宙を舞う蛍の動きにあわせ団扇であおぐと、その団扇に一匹の蛍が留まった。

「へーかっ!! ほらっ!! 捕まえましたよっ―――!?」

「お嬢ちゃん、虫かご、いるかい?」
克右さんに、細い竹組に薄い紙を貼った小さな虫かごを渡される。
渡された虫かごの中に一匹入れてみると、かすかにアンドンのように光った。
「…きれい」
「そうだね」
お思わず陛下の手を握ると、陛下も手を握り返した。

あたりを見回すと、浩大らしき人影が持っているアンドンはもう相当数の蛍が集まっているようで、
光を放ってきれいに見えた。
浩大はひょいひょいと器用に素手で捕まえ、しかも速い!

「へーか!!
もっと、たくさん集めましょう!!」

つい競争心を煽られる。

団扇で草むらをあおぐと、蛍がふわりと飛び立つ。

「あ、あっち、あっち!
へーか、あっちの方に、もっとたくさんいますよ!?」

陛下の手を引いて、駆け出す。
その途端くぼみに足を取られ、転びかけたところを抱きかかえられる。

「ほら、足元に気を付けて!」
「へーか! そんなふうに抱き上げられていたら、蛍が捕まえられません!!」

「だって、君は転びそうだったんだよ?
川にでもおちたら、どうする?

―――君こそ、蛍のようにどこかに飛び去って行ってしまわないかと…
私は捕まえるので必死だ」
陛下はクスクスと笑った。

「私は―――飛んだりしませんよ?」
「どこにも?」
「どこにも―――行きません」
「では、私の腕の中に居て」

「―――今は蛍を…!」
「うん、でも。
…ちょっと寒い、かな」

「た…確かに。
日が暮れて少し寒くなってきましたね」
頬が染まるけれど。声が震えないように、普段通りに何気なく応えるふりをする。

「夕鈴、あったかい。ちょっとだけ―――こうしていて」
「…」
嫌、とは言えない。

あちらでは、虫かごに集めるために、浩大と克右さんが蛍を追っている足音がするのに―――

私たち二人は暗闇に紛れて蛍の舞う中、抱きしめ合って
お互いの体温を感じていた。

* * * * * * * * * * * *

「成虫の蛍の寿命は、数日の命だそうだ」

そう聞くと、なんだか申し訳なくなって
そのあとたくさんは集められなかった。


テントに戻ると、大きいテントと小さいテントでひと悶着。

私は当然、小さいテントで一人で寝るつもりだったのに、
「そんな不用心なことはできない」と首を縦に振らない。

浩大が二カっと笑って「見てて、見てて!」と呼び止める。

大きなテントの中に、浩大と克右さんの二人で集めたたくさんの蛍を放してくれた。

「お妃ちゃん!!
これはなかなか見られない景色だよーん?」

「蛍?」

「明日になったら、帰してやるから…今晩一晩だけ。
このテントは大所帯だ」

…ほらね? 二人っきりじゃないから、大丈夫
―――と言いたいのか、最後まで陛下は我を通した。

結局私と陛下の二人が大きいテント、浩大と克右さんがそれぞれ小さいテント、ということになった。


テントに入ると、暗闇に蛍の放つほのかな光が乱舞して、この世の者とは思えない幻想的な様子だった。
すぐ傍に陛下がいて、ギャッと声を上げそうになったけれど、
「し―――っ! 叫び声でも上げたら、奴らが飛んでくるよ?」
と口をふさがれた。

テントの中に胡坐をかいた陛下が
「もたれていいから…座って?」と私の手を引いて、座らせる。

背中があったかい。

「どう?」と横から覗き込む陛下の瞳に、キラキラ蛍の光が反射していた。

「―――じゃ、じゃあ、今晩は、寝ません!」

「え?」
「こんなに綺麗な景色。一晩中でもみていなかったら、勿体ないですから!」
「…たしかに。勿体ないね。
君との時間は―――貴重だから
ずっと、一晩中。
蛍をみながら、おしゃべりしていよう」

「はいっ!」


それから、あれやこれや。
いろいろな他愛のないない話を、いっぱいした。

陛下の胸に持たれかけた背中が暖かくて
つつみこまれた肩が暖かくて。


寒いね、

―――そうですか?


いつのまにか、手を握られて。
握り返して。


こんなの、ドキドキして。
眠れるわけがない―――

だから、大丈夫。
一晩だって、二晩だって…

―――ずっとおしゃべりしていようと決心していたのに


やっぱり、いつの間にかうとうとと寝てしまった。


* * * * * * * * * * * *

次の日宿営地に戻ると、やはり
二人の前に恐ろしい李順さんが仁王立ちしていた。

「…あの、視察に連れて行っていただいて―――
やはり、まずかったでしょうか…?」
私が首をすくめると

「…ちょっと待って。
夕鈴。
―――デート、じゃなかったの!?」
と、陛下が少したじろいだ様子で私を振り向き、
ヘンなところに真顔で突っ込みを入れた。

「―――え?

…デート

だったんです か―――?」

(また…! このヒトはっ
李順さんの前で、なんてたちの悪い冗談、言い出すんですかぁっ!!)
と、私が呆れて陛下を見返すと、

陛下は真っ白な目になった。

「で、ホントのところ。
デートだったんですか?」

と李順さんがすかさず確認を入れる。


「―――いや、
視察 だったようだ」

と陛下はお答えになった。


(おしまい)





風花様、ありがとうございました。




[日記]帝の至宝 最終回(仲野えみこ)感想・ネタバレ注意

2014年6月10日発売 LaLa DX7月号の早売りを本日6月9日ゲットです。

お気をつけください。
以下はネタバレを大いに含む日記です。
好まれませんようでしたら、そっとブラウザバックいただければ幸いです。
失礼お許しください。

ぴら、と表紙の次の折込カラーに次回LaLaDX(9月10日発売)があって
真っ先に目が留まってしまった…

なんと! 次号のララデラには、
本誌から出張で可歌まと先生の「狼陛下の花嫁」のスピンオフ、特別編が掲載です~~!!
(買う、ぜったい買う!! ) ←このところ、毎号かってるけど。より気合が入りますね。


ちょっとモチベが高まって、冷静になりました。
―――だって。
帝様の最終回が予告されてからずっと、なんだかちょっと鬱々と世界が曇って見えてしまった
それくらい、今日という日がくることが怖かったんです。

志季、そして香蘭。
大好きなお二人の、大好きなお話の結末

早く読みたい、だけど知りたくない。
終わるということが悲しくて、切なくて、寂しい。


でも、読まずにはいられない。

ついに、迎えてしまった最終回。

えーん
えーん
…どれほど心の中で、泣いたか。


さあ。覚悟は決めました。
果たして―――。


続きを読む

ばか

ブログ1周年記念 3本勝負、最後5本目です。

―――――――――――――――――
みほこさま
退宮したあと、李順さんに知れずに本物になり陛下の子を出産する
―――――――――――――――――

みほこ様へ



【人知れず、本物】

* * * * * * * * * * * *
ばか
* * * * * * * * * * * *

さようならを言う間も無かった。


目が醒めたときは
私はその日があなたとのお別れだなんて
これっぽっちも思っていなかったのに…。

もう、お終いにしよう。

それは、その時あなたが考えうる中の
最良の選択肢だった―――はず。

* * * * * * * * * * * *

さようならを言われたくなかった。

突然
君が大事な存在だと気付いてしまったとき
私は君とのかなうはずのない幸せのひと時を過ごすなど
これ以上残酷なこともないと思ったから…

もう、お終いにしよう。

それは、今私が考えうる中で
最善の選択肢だった―――はず。

―――そして、最悪の選択肢だった。

* * * * * * * * * * * *

多忙で死ねるのなら、それは私にとって、救いだ。
せめて気が狂えば。

生きる楽しみも目的もなく
砂を噛みしめるような毎日を
呪縛されたこの場所で過ごすだけ。

陰謀も、黒い邪な影も。
私を食い潰せるのならやればよい―――

せめて、楽しませてくれ。
それがせめてもの私にとっての『娯楽』となろう。

夕鈴、君がいたら
ここに
私のこの腕の中に

私の中にあった君の温もりは
とうの昔に散じた

冷えた心臓は止まらない
私の胸には黒い黒い血が滴っているというのに

馳せる思いすら
戒めるべきもの。

手放して
いや突き放して。
ここから締め出しておきながら

私の中からは締め出せない


君という存在が
…ただの駒の一つにすぎなかった君が
なぜ私を占める?


君は幸せか?
私を忘れてくれたか

私は忘れられない

「ばか」

胸の奥で
懐かしい君の声がした。

「へいかの
―――ばか」

と。

* * * * * * * * * * * *

では
君の望む通り
馬鹿になろう。


私は気が狂ったのだ。

―――そう思ったら、
楽になった。

だからあっけなく
君の声に忠実に従った。

国のことも
人のことも
私のことすら
どうでもよい。

体はこれまで何度もかいくぐった抜け道を記憶している
頭は狂っていようと、さほど問題はなかった

馬はとびきり賢い。
そして私は馬鹿だ。
何とも言えない取り合わせだなあ、と笑っているうちに
君の家が見えた。

私は馬鹿だから
君の立場も
家の人への配慮も
なにも出来たものではない。

君は私の顔を見るなり
「―――ばか!」と言って泣いた。

「うん、私は馬鹿だ」と君を抱きしめた。

さらうように、君を馬に乗せて
離さなかった

「ばかです」
「うん。君の言う通りだ」

どこに行くとか
何をするとか
何も考えつかなかったけど
君が私の腕の中にいるだけでよかった。

だいぶん遠くへ来てしまった。

馬が汗をかいて、水と草をやろうと
小川の側の水車小屋に立ち寄った
下馬して馬の手入れをすると、心地よい疲れが襲う

粉ひき小屋の中を覗くと
ひんやりとした土間になっていて
片隅に藁が敷かれていた

何も話す言葉がなかったから
私たちはコトンコトンと絶え間なく続く音を聞きながら
君の髪の匂いをかぎ、
肌を引き寄せ、頬の柔らかい感触を確かめる

たまらなくなって、口づけをしたら「ばか…」とまた泣かれた。

私の襟に両手でしがみ付いて君が泣くから
私は二人が溶けてくっつくんじゃないかというくらい強く抱きしめて
そのまま激情を止めることができなくなった。

* * * * * * * * * * * *

「優しくしたかったのに…」
とつぶやくと

「や…優しかったです」

君は俯いたまま、顔を背けた。

引き寄せると振り切るように立ち上がる。
すばやく身支度する君は裾をこれ以上ないほど神経質に掻きよせ、きつく帯を結んだ。

「…戻る?」
はだけた私の衣を見えないフリする。

「…きっと、みんな心配してるから…」
気もそぞろな様子で、目を合わせない君。

「私は心配していないが?
―――むしろホッとしている。
…君の最初が、私で」

敷物にしていた上着にかすかに残る赤い印を見て
彼女は息が止まり、赤面した。

「…ばか!!
―――そ。そんな上等な仕立ての良い絹を
台無しにしてしまって…」

「だって。君は私のものだから―――構わない」

「これでいいんですか?」
「うん」
「…嘘つき」
「嘘じゃない」
「うそ。―――きっと困ります」
「困らない」
「…困りま」
君の口を塞ぐ。

君の本音は、違うでしょ?
―――知ってる、私は。

だから、それ以上。言葉は要らない。

言い訳しなくてよい。
私は馬鹿だから。…聞かないよ。

今は、私を満たして―――?
馬鹿みたいに、君がいいんだ。


* * * * * * * * * * * *

「一週間も、どこに…!」

泣きながら青慎が飛び出してきた。

言えない。
「ごめんね、心配かけて―――」

これからも、きっと心配かける。
ごめんね、青慎。

* * * * * * * * * * * *

汀家の娘が父なし子を身ごもったらしい、という噂は
下町でもちきりとなった

次第に大きくなる腹はかくしようがなく
「やはり噂は本当じゃねえか」
「ふしだらな娘だ」
「片親だから…」とヒソヒソという輩もいたが
彼女の人となりを知る友人は「よしな」と眉をひそめた。

几家の女主人「悪いようにはしないよ」と内々に援助を申し出たが、
娘はきっぱりと断った。

「一人で生んで、立派に育てます」

頑なな娘を、口の悪い幼馴染は散々になじる。

「てめ、父なし子が何と言われてもいいのか?
子供の身にもなってみろい! てめえの不始末を…」

「不始末、じゃないから。
ただ、―――馬鹿なだけ」

「ああ、そうか、てめは馬鹿だ」

「そうよ。馬鹿よ
―――だって。
馬鹿な人の子だもの」

「その馬鹿てえのは、だれだ?
―――まさか」


「あんたに言う必要なんてないじゃない!」


* * * * * * * * * * * *

ウワサなんて、怖くない。

こんなことで傷つくようなヤワじゃないわ。
これでも、私。その昔、プロ妃、やってたんですもの。

命の危険だって、へっちゃらだったし。

言われないのも、言われるのも
私は傷かない。


―――あの人の言葉だけが、ホント。


…待つのなんて、べつに辛いことじゃない。
指折り、待てることが嬉しい。


ほんと。
誰にも言い訳なんて
言う必要なんて、なかったのよ?


だって。
馬鹿なあの人は、
本気で迎えにきちゃったから―――。


―――想像、つくかしら?
この下町に。
こんな大行列で。

ただの庶民と、
産まれたばかりの赤ちゃんを。

本気で
仰々しく
迎えにくる律儀で馬鹿な王様が、この国に、居るだなんて…。
―――誰も信じるわけ、ないでしょ?



正気じゃないわよ

ほんとうに―――馬鹿な王様…!!
ばかすぎて。
涙で、あなたがちゃんと見えないじゃない…


「夕鈴。―――おかえり
待たせた。
もう、何も
心配するな」

ですって?


…ばかですよ。
本当に。―――陛下




お願い。
ばかなあなた。
今、この世で一番幸せな私たちを、

抱きしめてください。



(おしまい)






みほこ様、ありがとうございました。


フォーギブ ―Forgive―

初出:2014年06月11日22:29 (転載)

SNS 33333HIT御礼 キリリク
大変長らくお待たせいたしました。
2014年5月20日に、おふみくださったUサマよりリクエストを頂戴しております。

―――――――――――――――――
USAさま
「黎夕で互いに辛く最後は幸せになるお話」
―――――――――――――――――


USA様へ捧げます


【暴力シーン】【辛】【微糖】

すみません。いたいけな子供(モブ)が痛い目にあいます。ご注意ください。

* * * * * * * * * * * *
フォーギブ ―Forgive―
* * * * * * * * * * * *

夕鈴はこわばったまま、光の無い虚ろな瞳で私の方を見つめていた。
血まみれの子供は妃の足元でピクピク悶絶しながら、フシュウと異様な音を立てて肺の中のすべての息を吐き出した。


「―――私に…
花を…くれた、だけ…ですよ?」

公務で養護施設を訪れた妃に、花を差し出す子供。
いつもなら微笑ましい光景の一つに過ぎなかった。

出迎えの役人。お定まりの堅苦しい挨拶のあと、
整列させられた子供達の歌声が響く。
代表と思われる施設の子供数人が、花や贈り物を手に手に妃へ捧げ感謝を述べる。

妃は子供たちを一人一人、抱きしめたり握手をし、一言二言交わしながら励まし慰問を続けている。

そのとき、違和感があった。
何か違う―――?

まだ幼さが残る愛くるしいその姿。
小さな体にひときわ大きな白い花束を抱え、
張り付いたような笑顔を浮かべ走り寄る子供は―――なぜか異様な殺気を身にまとっていた。

「ダメだ、その子供を止めろ!」

とっさに叫ぶ。だが誰も子供の殺気に気が付かない。

妃へあと1、2歩というところで
子供は花束の中に隠し持っていた短剣を妃に振りかざした

私の身体は、考えるよりも先に動いていた。
鞘から抜き放たれた刃は子供の体を容赦なく―――薙いだ。

* * * * * * * * * * * *

妃をねたむ者が仕掛けた罠は、妃の心に大きな傷を残した。

目の前で、一撃のもと、剣で薙ぎ払われた子供。

躊躇も手加減もそこにはなかった。


そのことを
誰に対して憤(いきどお)るべきや―――?


妃は、ただ 自分を責め、心を閉ざした。

* * * * * * * * * * * *

君は少しやせた。


あの日以来、部屋から一歩も出ない妃を見舞う。

唇を噛みしめる青い顔。
指先を小刻みに震わす

話しかけても、返ってくる言葉はない。

―――君は、二度と私と、目を合わせないつもりか?

君との絆まで、私は剣で断ち切ってしまったのか。



言い訳はしない。
説明すべきこともない。

君のため
子供を切った。

それが、事実だった。


* * * * * * * * * * * *

白い花が咲いていた。

私はそれを手折り、持って行く。
妃はその花からも目を背けるだろう。

それでも、私は持って行くのだ。

今日も。
君は許してくれないだろう。


だから、私は白い花を持って行く。

「―――李順。妃をここに」

風通しの良い四阿に、妃を呼び出す。
庭に出るのは嫌だと散々手こずらせはずだ。
なにしろ、あの日から一歩も部屋から出ていないと聞く。

だが、私はこの国の王で
誰一人、私の命に逆らうことは許さない。

その権力を使ってまで、君に嫌われようとは―――私もずいぶんと自虐的だな。

ずいぶんと待たされた。
「大変お待たせいたしました」侍女が額が擦り切れるほど地に頭を叩きながら代理の挨拶を述べた。

卓の上に置かれた白い花をチラリと見やると妃はギクリと身を固くし、
青い顔のまま口を開く気配もなかった。


「よい。
…支度には、時間がかかるものだ」

私は許し、人を払った。


風になぶられ、そのまま時を過ごす。

「そういえば。
支度に時間がかかるものが他にもいたな
―――李順?」

声をかけると、すぐそばで李順が「…は」と返事をした。

白い花束をかかえた子供がそこに連れてこられた。


一、 二歩、後じさりした妃の顔がさあっと青ざめ、
動悸においつかない呼吸が口から漏れた。

唇を震わせ
「あな、たは… あの時の、子?」と
かすれた声でつぶやく。

「無事、だったの…?」

大粒の涙が妃の瞳を洗い流し、再び光を取り戻した。


こどもは、コクン、とうなづいた。

「その子に。
やり直しを、させてやってくれ―――?」

子供は、ゆっくりと白い花束を両手で差し出す。
差し出した腕に、巻かれた包帯が見える。

「―――生きていてくれて、よかった」

夕鈴が泣きだして、子供を抱きしめた。
子供は一瞬、ビクと緊張が走らせ、そのあと抱きしめられた心地よさに次第に脱力していった。

「―――ごめ、んなさい」

自然と涙が流れた。

子供の目に、作り笑いでない、自然な微笑みが浮かぶ。


「お姉さん、悪いんじゃ、ないんだね?
父さんや母さんが死んだのは
お姉さんのせいじゃ、ないんだね―――?
僕知らなかったんだ。

悪い妃のせいで、父さんや母さんを殺されたって―――
子供なら、悪い妃に近づいて天誅を加えられる。お前が英雄になるんだって…

だまされたなんて知らなくて。
そんなこと信じてた僕が、悪かったって―――

ほんとに、ごめんなさい」


「人の言葉をうのみにする純粋な子を利用し。
真っ白な心を暗闇で書き換える、悪い大人もいるのだ―――

一旦歪められた価値観をただし、
心を白く戻すにはちと苦労が要る…

―――待たせた」

白い花束を受け取り、夕鈴は子供の頭をなぜた。

「ありがとう」

頃合いをみて李順が
「―――要件はすみましたか?
では、こちらにいらっしゃい」
と子供を引き取った。


李順が子供を連れてゆくのを見て、夕鈴は尋ねた。


「…あの子は、これからどうなるの?」

「しばらく更生施設に入ることになる
もともとは純粋で、正義感の強い子だそうだ。
そこをたちの悪い大人につけ込まれた
―――しばらく観察は必要だが、
勘の良い子だと気に入り墨将軍が引き取りを申し出ている」

「墨将軍、が?
―――なら、安心ですね」

夕鈴は、本当に久しぶりに、笑った。


「…もう心配ない」

「はい」

「―――では、私は政務に戻る
君も疲れただろう。
安心して、あとはゆっくり休むがよい」

事務的な口調で要件を済ますと、黎翔は立ちあがった。
背を向ける黎翔に、夕鈴の胸は痛んだ。




「―――陛下」



「…」

振り向かずに、歩き始めた

その背中に、夕鈴は駆け寄り…おずおずと袖を引いた。



「私は、あなたを傷つけてしまったんですね?」

黎翔は冷たい狼の表情のまま自嘲的にフッと軽く嗤いを漏らした。

「私が君の目の前で子供を切り
君の心を傷つけたのは事実だ。
―――気にすることではない」

「私が謝る番です」

「謝る―――?
そんな必要はない」

「こっちを向いてください!!」

黎翔は向かなかった。

夕鈴は黎翔の前に回り込むと、背伸びをして、グイッと黎翔の両頬に手をあてた。

「へーかっ!」

「!?」


「泣きたかったら…泣けばいいんです!」

「―――私は何も…」


「でも―――

私は。
泣きたいんです」

「あ…」
黎翔の胸に、夕鈴は顔を押し付けた。


「泣いても、いいですか?」

「―――あ、あ」

どうしてよいのか、分からず、だらりとしていた手に気が付く。

「私は、今
陛下に、慰められたいんです!!」

夕鈴は少し怒ったようにつぶやいた。


「…では。
私が、触れても、いいのか?

口も
きいてくれなかったくせに―――」

「口をきけなかったのは。
自分が不甲斐なくて悔しかったからです。

陛下が嫌いなわけではありませんし…
陛下にされて嫌なこともありません!

―――遠慮なく、どうぞ!」

耳が真っ赤だった。

顔を埋める彼女を、そっと袖で包みこむ。


「陛下。ごめんなさい」

涙声で夕鈴は詫びた


黎翔は大きな掌で、そっと彼女の背中をなぜた。

「…いや」

「ごめんなさい」

彼女の背中を抱きしめた。

「…ごめ、な…さい」



黎翔は夕鈴にだけ聞こえるよう
彼女の耳元にそっと唇を寄せて

「―――許す」

と小さくつぶやいた。




(おしまい)






USAサマ
ありがとうございました。



炎と燃え盛る私の

本日6月12日は「恋人の日」だそうで
SNSコミュのお祭りが開催されております。

なんとなく多忙だし、書けるかな…と諦めかけていたのですけれども、
白友の某Rっこさんにお尻を叩かれて、提出したブツでございます。

-------
コミュのお題: 恋人  『好きだよ!ばか!!!』 
-------

【パラレル】【捏造】

--------<設定>
・黎翔…現国王の王弟。反乱鎮圧軍の総指揮官。
・夕鈴…白陽国版ジャンヌダルク。女だてらに戦装束に身を包み最前線で活躍する。
・几鍔…国王の圧政に苦しみ立ち上がった民衆を束める反乱軍のリーダー。 (名前だけしか出番なし)
・兄王…悪政により国民を苦しめたらしい。決起した民と武力対決するも───。(いた、だけ)

初出:2014年06月12日12:18 

* * * * * * * * *
炎と燃え盛る私の
* * * * * * * * *


その時。大銅鑼の音が遠くで鳴り響いた。
時の声が上がる。
それを聞いた民衆軍は口々に叫んだ。

「国王の首を、とったぞ―――!
民衆軍の、勝利だ!」

「残った貴族の奴らは皆殺しだ
根絶やしにしろ…!!!」


王宮の奥深くで、反乱鎮圧軍の総指揮官たる氷の男と相対していた白陽国のジャンヌダルクは、男たちの野太い声を背に、ジリジリと間合いを詰めた。

「王は、落ちた。
お前も―――投降しなさい!」

背の高い、黒い鎧で身を覆った敗軍の将は、兜をむしり取り、ガチャンと投げ捨てた。

短い黒髪を揺らし、軽く頭を振る。

こんな時だというのに、その男は自然体で、
赤い瞳を涼し気に細め、口の端を少しゆがめて一言だけ返事をした。
「…断ったら?」

夕鈴は手に持っていた短剣をつきだす。
黎翔は長剣でその剣先をスルリとかわし、まるで赤子をあやすように夕鈴を弄ぶ。

「私も、お前たち民衆が忌み嫌う、王家の一人だ。
いまさらお前たちに必要とされるとは思わんがな―――」

「私は知っています。あなたは、横暴なる王を何とかしようと―――
我々民衆との和を取り持つために必死に働いていたことを」

「それを言ったところで。
結果はこれだ。
そして、私が今まで何をしてこようと―――暴徒と化した今のお前たちが、冷静に耳にするものかな?」

クスと黎翔は笑うと、鮮やかな剣技で夕鈴を傷つけることなくさばいた。
クルリと背中を向けさせられ「あっ!」とバランスを崩した夕鈴の背中を
黎翔は掌でドンと押しやった。

勢いづいた夕鈴は扉の敷居を踏み越え、廊下に転げ出た。

「―――几鍔の元へ帰れ。
そして、私のことは―――
忘れろ」

「…あっ! 何をする気?」

黎翔は、重たい扉を素早く締めようとした。
夕鈴は必死に短剣をねじ込み、扉を閉めさせまいと抵抗した。

隙間から、赤い瞳が除く。
「―――行け」

「…行きません!」

黎翔は怒ったような表情をし、扉を押す力を一瞬緩めると、
反対の手で夕鈴の胸ぐらをつかんで引きずり上げた。

「鎧をまとおうと―――お前は、女だ」
「…な、何を」
片手とはいえ、すごい力で夕鈴はギリギリと締め上げられ脂汗を浮かべる。
黎翔に締め上げられ宙づりにされていて、浮いた足をじたばたするがどうにもならない。
両手をかけて締まる首をなんとか緩めようとするが、息がつまり眼の奥が赤くガンガンとしてきた。

扉の隙間は体一つ分に広がり、黎翔はその隙間からもう一本の腕を伸ばし、彼女の胸当てを止める帯に剣先を突っ込むと、ジリ、と切り裂いた。
彼女が身に着けていた装束の胸をわしづかみ、一息にむしり取る。

厚手の手袋に覆われた大きな手で、夕鈴の顎から頬をクシャリと握り上げると、
荒々しい口づけを施し、胸元までイヤラしく夕鈴の体を、舐めた。

夕鈴は羞恥と怒りで息を止めて目を見張る。

彼女にしっかりと見せつけるよう目の前で黎翔は赤い舌をさらし、最後に、ペロリ、と自分の口をなめ上げた。
胸元があらわになった彼女は、窒息の苦しさと戦いながら辱めに悔し涙を浮かべ…

突然、黎翔はドサリ、と彼女の足を地に下ろす。
ゲホゲホと息をつく彼女を冷静に上から見下していた。

「憎みたければ、私を憎め。

戦場に女がいれば、みな同じだ。
気が狂った男たちにどうされるか―――敵も味方もないぞ?

この後は、血の匂いで麻痺した男たちが、
欲にまみれ簒奪と破壊を繰り返すだろう―――」

黎翔は、ふい、と横を向き、遠い目をした。
それは見えないものを見て、聞こえない音を聞こうとしているのだろう。

ドカドカと足音が響いた。
それまで以上に辺りは騒然としはじめた。

怒号が飛び交う。

『火事だ―――』
『火の手が上がったぞ』
「誰だ、火を使ったのは―――」
「馬鹿者が!! 宝が燃えてしまうぞ!」

黎翔は、夕鈴を扉の外へトン…と軽く押し出す。

「…早く行け」

夕鈴は、はぎとられた前を両手で隠し、涙を浮かべていた。

「―――行け」
黎翔は最後にもう一度そういうと、ギイイイ…と扉を閉めた。
だが、夕鈴は短剣の刃を扉にこじ入れていた。

力いっぱい、両手で隙間を広げる。

緩んだ隙間に肩を押し込み、タックルをかけて必死に扉の中へ上半身をねじ込むと、夕鈴は手を伸ばし、叫んだ。

「あなたが…
好きなの…!!―――バカ!

一人で、死なないで!!」


(ここまで)




タイトルは仮オストロのお歌から(全然話と関係ないけど)

現代なのか過去なのか
中国なのか西洋なのか
服装や設定はお好みで妄想してください

-------

失礼いたしました。

恋人の日。
どうぞ萌をお茶うけに、まったりとお過ごしくださいませ^^


*

続・フォーギブ ―Forgive―

【バイト妃】【甘】

* * * * * * * * * * * *
続・フォーギブ ―Forgive―
* * * * * * * * * * * *

夜遅くに訪れた後宮。

「お妃様はお疲れのご様子で、
先にお休みになられました」

こんな遅くまでは起きてはいまいと思った通り、
君は目をつぶって寝台に横たわり、静かな寝息を立てていた。

…君の顔を見たかったんだ。

私は君を起こさないように最善の注意を払い、寝台の隅にゆっくり腰を沈めた。

手を伸ばせば、君がいて。
額にかかる淡い髪を梳けばさらさらとした感触。

私は臆病だから、そんな小さな手ごたえでようやく君の存在を検められる。

すぅすぅ…と繰り返される小さな吐息。
君の目の下にはうっすらと隈ができている。

─────これまで、さぞつらい思いをさせてきたのだな、私は。
今、ようやく安らかな眠りを君が得たのなら幸いだ。

小さな手が力なく頬の横にあって、
私は触れてもよいのか散々迷った。
だけど、君の手に触れたかった。

その時、小さな声で
「へいか…」と呼ばれた。

それは単なる寝言だと分かっていたけれど
それでも君が私を呼んでくれているのなら嬉しい。

私はつい手を伸ばし、君の指先触れた。

ぴく、ぴくと指先がまさぐるように私の人差し指を探し当て、
きゅっと握りしめられた。

「へいか…」
無垢の微笑みが追い打ちをかけ、私は思わずどうしてよいのかわからなくなった。

無防備な君に、それはずるいと知りながら
口づけを落とす。

そっと窺いながら。

しかしこんなふうに盗むように口づけをするのはよろしくあるまい
瞼を閉じた君に失礼だろうと、私も目を閉じて
もう一度、今度は君の柔らかい感触を味わいながらゆっくりと口づけた。

指先を握りしめた手がぴくぴく手と動くと、不意に意志をもってきゅっと握りしめられる感覚に、私は目を開けた。

そこに、硝子玉のような目をパッチリ開けた君がいて
二人、瞬きもせず視線を合わせた。

意識が朦朧としていたであろう君。

次第に君の瞳の中に意識がよみがえり、くっきりと視点を結んだ。

かぁっと、みるみる頬に色味がました君は
口づける私を避けようと、私の胸を両手でドン、と力任せに押した。

そのまま口元を両手で押さえると、くるりとうつ伏せになって、私の視線から逃れた。
頭を振って必死に現状把握に努めている。

「あの、えーと。
…先に寝てしまってすみませんでした。
ご政務でお忙しいから、とお言伝いただいたので────まさかおいでになると思っていなくて…」
もごもごと枕に顔を伏せ、君は言い訳をしている。

「もう遅いから寝ているとは思ったんだが
君の様子が気がかりで」

なぜ私は言い訳めいた言葉を口にする?

「急に君の顔が見たくなった…
─────いや、
ずっと君と会いたかったのだ、私は」
観念して本音を口にした。

「…今、何してたんですか」
君が言うから
「君が寝言で私を呼び
あまりに愛らしかったから…つい、口づけを。
─────君が嫌なら、しない」

「陛下を? 私が?」

「呼んだ、二度も」

私が真面目に答えると、夕鈴は慌てて布団をかぶって、丸まった。

「ご…ごめんなさい」

恥ずかしさに震えながら、君は謝った。

「謝られるのは心外だ…
私は呼ばれて嬉しかったのに────」

「あの。私」
君がごそごそと布団から顔を出した。
窺うような上目づかいが可愛い。

でも、わざと私は傷ついたように少しふてくされた表情をして見せた。
それをみて、君はさらにしょぼんとしおれる。

「────あの、私」
「…」
「陛下、怒ってらっしゃいますよね?」
「いや」
「だって。あの件からずっと、
私、陛下のことを遠ざけて────失礼なことを」
君は涙ぐんだ。

「それは私自身の行いのせいだ。君は何も悪くない
それに…」
「…それに?」
「私は何度でもそうするだろう。
君を傷つけようとするものがいれば、どんな時でも、誰であろうと
私には一切手加減できない」

夕鈴は手を伸ばして、私の手に重ねた。

「やめて、ください。
私は、そんな価値ないのに」

「価値が、ない?」

私はカッとなった。
そんな私の様子に、ビクリと身を小さくする。

差し出された手が引っ込んで…私は思わずしまったと思った。

「…陛下?
私は、ただのバイトで、ただの囮で…、これは単なる仕事なんですよ?
李順さんはそのために危険手当を付けてくださるんです。
何かあっても、私自身のせいで…
だから、気になさらないでください。
陛下がいちいちお気になさることじゃないんです。

─────今回は、私の態度が悪かったんです。
驚いて、子供が死んだのは自分のせいだと思い込んで
…自分の気持ちが整理できませんでした…。
本当に、────ごめんなさい」

夕鈴が吐き出す言葉を、私は口を挟まずに聞いた。
彼女をきちんと受け止めたかった。

「君が仕事熱心なのは知ってる
─────でも、どうして。
さっき、私のことを呼んだ?」

「え?」

「寝言で、私を呼んだだろう」

「そ…れは」

「へいか、って。呼んだのは誰?」

「それは…私が寝言で呼んだというのなら、
…私だと思います」

モゴモゴとバツが悪そうに答える君。

「どうして?」
「夢─────です、ただの
夢を」
「どんな」
「私は…」
「夕鈴は、夢の中で私は?」
「…私は、陛下を」
「君は、私を?」

引き寄せて、囲い込んで、逃がさない。

「いつも、呼んでいましたから─────
陛下のことを、ずっと」

君は観念して白状すると、
これ以上ないという恥ずかしそうな顔をして、そむけた。
あわてて布団にもぐって隠れる。

君のうすっぺらい砦は、私にとってなんの障壁にもならないとも気づかずに。

布団ごと私は夕鈴を抱きしめた。

「私が───呼んだら。
応えてくれるのか?」
「え?」
「君の夢の中と同じように」
「あの… どうして私の夢の中を?」

そう君が答えるから、
やっぱりそうだったんだと分かってしまった。

私は嬉しくなってしまった。

「では────許せ」

「許すも許さないも
あの子のことは陛下が私のために、してくださったって。よくわかってます
もう何も怒ってなんかいませんし、
そもそも陛下が私に許しを乞うことなんて、何一つありませんよ?」

「何をしても怒らない、と?」
「はい、…?」

私が布団の端をめくって彼女を発掘する。
「では、これは?」
君は抵抗をしないことに気を良くして、両頬を引き寄せて口づけをすると、君は目を丸くした。

「…え?」

「君は、嫌か?」

「あの…なんで。
そんなこと、するんですか?」

「君は私の愛する妃、だから」

「愛する妃って────」

「だから、許せ」


(おしまい)


SSS 罠

* * * * * *
 罠
* * * * * *

庭を散策していた。
見るともなく足元に、白いご飯粒がおちていた.

最初は何だろうと思っただけで特に気にも留めなかった

ところが、また数歩先に落ちている。
目で追うと、やっぱりその先にも落ちている。

後宮の庭のこんなところに
なぜ?────


こんなことをする(許される)人物はそうはいない。

きっと彼女が、何か思いついてやったに違いない。
クスっと笑いがこみ上げた。

彼女はいつも、我々の思ってもみないことをやるんだ。
そこがたまらなく可愛らしい。

…なんだろう。
ご飯粒で、スズメでも呼び寄せようとしているのかな?

なら、この先に罠が仕掛けられているんだろう。

そしてきっと彼女がそこいらに隠れ、息をひそめて
獲物が罠にかかるのを今か今かと待ち構えているに違いない。


ご飯粒が点々と落ちているルートを目で追うと、
だいぶん先までそれはポツリポツリと続いていた。
だが、30歩くらい歩いたところで
プツリと途絶えている。

じゃあ、罠を仕掛けたのはあの辺りかな?

じっと目を凝らすと、器用に小枝を編んで作った、手作りの罠のようなものがチラリと見え隠れしている。

ほら、思った通り─────
君の考えは、お見通しだよ? と、…おもわずニンマリしてしまう。

とすれば、彼女が隠れているのはあの茂みのあたりに違いない。

よし。
それなら、背後から回り込んで、驚かせてやろう。

吹き出したい気持ちをこらえて、音をたてないように忍び寄る。


背後に回り込むと、茂みの中に何か気配。
衣の端がみえた。

かなり使い古された風合いの生地…
─────なんだか、地味な色合いだなぁ。

節約家の君のことだ。
「妃衣装は目立つし、隠れるときもしも汚しちゃったら怒られるし」…とかなんとか
気を回してわざわざ手の込んだことでもしているのかしらん?

ま、いいや。

とにかく─────、罠をかけようとしてる君に
私が罠をかけてやる。
そう思ったらなんだかたまらなく楽しいな。


バサッと背中から覆いかぶさった
「つかまえた!」



「なにすんだ~~!?
このトンチキ野郎!!」

…え?
何、この声。

抱きしめた腕の中から野太い声が─────

あっけにとられて腕の力を少し緩めた。

振り向いたのは、浩大で
私の顔をみて
「─────あ! やべっ」と一言。

そのとき、反対の茂みの方がゴソゴソっと音がして
頭に葉っぱを絡ませた君がひょこっと顔をだし
目を真ん丸にして叫ぶ。

「やだ、陛下っ?!
なに浩大、抱きしめてるんですか───?」



(おしまい)


*


[日記]狼陛下の花嫁 第60話感想・ネタバレ注意

本日、6/23(月)早売りで手に入れました。
恒例のネタバレあらすじ&感想レポート。


2014年6月24日発売 月刊LaLa 8月号掲載「狼陛下の花嫁 第60話」の感想。
ネタバレ含みますので、コミックス派の方はご注意ください。

続きを読む

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秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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