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悪女妃伝説―1

今日・明日忙しくしております。

すみません。

ささやかで、どうしようもないSSSを、おおくりいたします。

行き当たりばったりですが。…
気分は「嫁が可愛すぎて、どうしよう」シリーズです。


【バイト妃】

* * * * * * * * * *
悪女妃伝説―1
* * * * * * * * * *

―――陛下は

ほんとうの、紳士だと常々思う。

ただのバイト妃である私を、大切に、大切に
扱ってくださる。

この方を困らせたくない。
足手まといになりたくない。

だから。

陛下が私に求めることなら、
なんだって、叶えてあげたい。

小さいことでもいいから。
何かを求めてもらえるって、嬉しい。

私のできることを
一生懸命、こころをこめて
頑張ります!!


「…妃よ?」

「はい?」


前髪ごしに、
陛下の視線を感じちゃう…。

陛下の香りにつつまれて、
頭がくらくらする…

「…なぜ、目をそらす?」


陛下の口元がすぐそばで。

低く声が耳元に熱っぽく響く。

…み、耳が…熱い…

カーッと熱が上がる。

…は、…恥ずかしい…

でも。

…ここは…
陛下の方を……



夕鈴は、

黎翔の胸元に添えたまま
プルプルと震えてしまう手を
必死に…押さえこみ…

大きな目に浮かんだ涙を、
こぼれない様に必死に見開いて。


上目づかいで、そっと見上げた。

「…はい。 陛下」




 きゅーーーーーーんんっ…!!!! 



心の中で、ツッコミ
←(きみって、ぜったい、悪女だよ)

(おしまい)


*
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悪女妃伝説―2

日本人のソウル・ドラマ(?)水戸黄門のような安心の定型テンプレを用いて
どうしようもないSSSを、おおくりいたします。

行き当たりばったりは続く。

気分は「嫁が可愛すぎて、どうしよう」シリーズです。


【バイト妃】

* * * * * * * * * *
悪女妃伝説―2
* * * * * * * * * *



―――陛下は

ほんとうの、紳士だと常々思う。

ただのバイト妃である私を、大切に、大切に
扱ってくださる。

この方を困らせたくない。
足手まといになりたくない。

だから。

陛下が私に求めることなら、
なんだって、叶えてあげたい。

小さいことでもいいから。
何かを求めてもらえるって、嬉しい。

不肖ながら汀夕鈴!

今日も、
私のできることを
一生懸命、こころをこめて
頑張ります!!



それは、夜半になって、急に冷え込みが厳しくなった、ある日のこと。


「陛下…?」
いつものようにはにかみながら、夕鈴が口火を切った。

「なあに? ゆーりん」
黎翔は膝の上に囲い込んだ夕鈴が
真っ赤になって見上げてくるので、
読んでいた巻物から目を離して
嬉しそうに見つめ返した。


「…どうして、いつのまに
こーゆーことになってるんですか?」

夕鈴はますます、カチコチに固まる。

黎翔は、びっくり眼で夕鈴に問い返す。

「…どうしって。
ゆーりんが、もっとバイト妃、頑張るって
いうから…でしょ?」

「…でも。
陛下…。
私、重いですよ?

お疲れの陛下を、ますます疲れさせちゃったら…
バイト妃失格です…」

夕鈴はますます居心地悪そうにモジモジした。

黎翔は真剣に打ち消す。

「そんなことないって!
ゆーりん、ぜんぜん重くないよ?」

「…そうですか?」

「ゆーりんがこうやって傍に居てくれると
暖かくて…。

急ぎの確認の巻物だって
なんだか、どんどん読める気がするなぁ…」

「…あったかい、ですか?」

「うん。」

「…じゃあ…もう少しだけ…」

「うん!頑張って読んじゃうから
その間、ぼくをあっためててくれる?」

「…では…」

夕鈴は顔を真っ赤にして、そっと黎翔の背中に手を回し
キュッと抱きしめた。


「…陛下っ!
私、がんばって
あっためてますから…

急いで、巻物
読んじゃってください~~っ!!」






 きゅーーーーーーんんっ…!!!! 



そんな…
密着したら…



無さそで ありそな
ゆーりんの ××××の××××がっ…


心の中で、ツッコミ

←(きみって、ぜったい、悪女だよ)

(おしまい)


*

安心の展開※・テンプレ定型文を用いることにより、リフレインの力強い説得力を狙った、シリーズ。…としておきしょう ←

※例)日本人のソウル・ドラマ(?)水戸黄門のようにお話のパターンが決まっているお話ですね…??


(単なる手抜きSSSだ、とは
決してツッコんではなりません、よ?)


ええ。明日まで。
本当に忙しいんです。

ごめんなさい。


*

黒猫

* * * * *
黒猫
* * * * *


…みゃあ みゃあ とかすかな声が聞こえてきた。

――子猫?

テラスから庭に出て、あたりを見回したが、声が小さすぎてどこから聞こえてきているのかがよくわからない。

部屋の中に入ると、庭にいた時よりは少し大きい声のような、気がする。

『床下かしら…?
王宮の床下なんて。
どこから入り込んだの?』

聞こえてくる方角に向かって祈るように
『迷子になって、出られなくなってるの?
はやく出ていらっしゃい?』
と、心の中で願ってはみるのだが、いつまでたっても鳴き声は続く。

「どこに居るのかすらよく分からないのに…
どうやって助けたらよいのかしら…」

それ以上は、どうしようもないと夕鈴は手をこまねいた。


こんなとき、浩大が顔を出してくれたら…と思いつく。

饅頭をこれ見よがしに盛り付け、窓際の机に置いて、窓からチラチラと外をうかがうが、こういうときに限って彼は現れない。


早朝から聞こえた鳴き声は、お昼過ぎになっても続いた。


断続的に届く、その切ない微かな鳴き声が、次第に疲れ、掠れていくことを、夕鈴はひどく憂慮した。

もう、半日…。

夕鈴はついに机の上の鈴を手にした。

本当は、人を煩わせたくなかったのだけれど…。

チリン…と鈴を鳴らすと、奥からハイと声が返る。

「夕鈴さま、お呼びですか?」

「あら?…女官長さんは」

ニッコリと微笑んだその人は、いつも女官長さんの脇で控えている上席女官さんだった。

ああ、そういえば。
「明日はわたくし、所用があり他出いたし、お傍を離れますが何卒お許しください」と女官長さんの言葉を思いだし、あらためて女官さんに向かって尋ねた。

「あの。猫の声が」

古株の女官さんは少し困った顔で頭を伏せた。

「…お気に触りましたでしょうか!!
大変申し訳ございませんっ!

…朝から人をやって、声の主を探させているのですが」

「あ、いえ。
気に障るというより…
可哀想で気になって。

―――そうなんですか。
探してくださっていたんですね」

「床下も覗かせましたが見つかりません。
どうやらお妃さまのお部屋の近くから聞こえるようなのですが
『お妃さまのお気に触らぬよう静かに、遠巻きに』と指示していたこともあり
どうにもハッキリとは居場所が分からないと」

「それでは、しかたありませんねぇ…」と夕鈴はふぅっとため息をついた。

そのとき
シャリン…と微かな先ぶれの鈴の音がして振りかえると
陛下がそこに。


「どうした?」
あの方は厳しい瞳で、何事かと女官の方へ低い声で尋ねた。

「申し訳ございません!」

「陛下。猫の子が迷い込んだようなのです。
朝から声が聞こえますが、
どこに居るのかも分からず助けてやることができません。

ずっと鳴きどおしで
少しずつ弱っているのか、
声が掠れてきて…。

心配していたのです」

「妃の居る後宮に、猫の子が紛れ込む…?
なんという不手際を」

ジロリと睨まれ女官長代理の女官さんは肝を冷やした。

『たまたま今日、女官長代理を務めることになったに…
ほんとうについていない…』と、生きた心地がしない。

「ならば、私が探そう」

と、突然上着をはだけ諸肌になった。


いきなり、脱いだ~~~っ!!

 きゃー 狩人モード全快のまなざしっ!!


夕鈴は慌てた。

「へ、陛下~~っ!

猫は美味しくありませんよっ?!
獲物ではありませんからね~~っ!!!
絶対、殺してはなりませんからっ!!」

「…ならば、
生け捕りならよかろう?」

赤い目を光らせ、ニヤリ、と笑う。

どうにも狩人の血がうずくらしい。


彼の御方は、目をつぶり耳を澄ますと、フムとあたりを見回し
そろそろと夕鈴の私室の居間と寝室を隔てる壁に近づく。
壁に耳をあて暫く音を聞いていたかと思うと、コツコツとノックするように丹念に壁や周辺の床をあちこち叩いてみる。

黎翔は手ごたえを確認すると「斧を」と声をかけた。

「…お、おのっ?!」

夕鈴は両手を拝むように握りしめ、眼をみはった。


女官長代理は冷静に「は」と小さく返事をすると、
すぐさま手に斧を持った宦官を連れて戻ってきた。


「どのように?」と宦官が斧を構える。


「…いや、私がやる」

黎翔は、宦官が奉げ持った斧を右手で掴みあげた。

軽く2、3度ふるい重さを確かめると
彼の御方は流麗な装飾が施された壁に向かい
軽々と振り上げると躊躇もなくバン!と斧を打ちおろした。


2度、3度振りおろし、メキメキ、バキバキと大きな音が鳴り響く。

その間夕鈴は両手で耳をふさぎ、驚きで飛び出しそうな眼をひんむいてその姿をみつめていた。


黎翔は端板をバリバリと手でめくると長い腕を穴の中へ突っ込む

どうやら、増築のときに壁と壁の間に、雨どいのような細い隙間があり、
そこに迷い込んでいたらしい。

増改築を繰り返した広大で複雑な後宮のつくりの細部は、今や誰も把握していない。


彼の御方は手が届かないと、メリメリと装飾を施した美しい壁を容赦なく引っぺがす。


『…ああ、この修理代。いくらになるのかしら…?

 もしかして、…もしかしなくても

 私の借金に、加算ってことに???』


と深いため息をついたとき、夕鈴の眼に、壁の穴に肩や頭まで突っ込んでいる、黎翔の逞しい背中が目に入った。

「ああっ!
そこ、ささくれだってますよっ!?

陛下ったら、ハダカに、素手でっ…
危ないじゃないですかっ!!

…木片のトゲは鋭いですから、お気をつけてくださいっ!!」

と言っている間にも、黎翔はヒョイと黒い何かをつまみあげて意気揚々と笑った。



「妃の部屋へ忍び込む不埒者を捕えたぞ!」

得意満面の笑顔を夕鈴に振りまく。

「ああ、よかった!
陛下も、猫さんも、ご無事で!」


黎翔は、
(私の獲物ゲットより、
この猫の心配をしていたのか?)と、一瞬ムッとした。


振り向きもせず斧を宦官に差し出す。

恭しく斧を奉げ持ち、宦官が部屋を引きさがると
黎翔は黒い子猫の首筋をつまみあげたまま、スタスタ歩きだした。


「あっ!

どこへっ!?

…見せてください!!」


夕鈴は、思わず背中に飛び付いた。

「…つっ!」

うっすらと汗をかいた黎翔の地肌の弾力を感じ、夕鈴は電撃が走ったように手を引いてあとじさった。


(~~っ!!!
うっかりハダカのへーかに、抱きついちゃった~~!!)

黎翔は真っ赤になって、固まった。

黎翔は両手を宙に浮かせている夕鈴を振り返ると

「…なにもそのように…」

と、軽いため息をつきながら
猫をつまみあげているのと反対の腕を素早く夕鈴の腰にまわした。

「…見たいか?」

ニヤと笑う。

上半身ハダカの黎翔に腰を引き寄せられた夕鈴はたまらず、両手で顔を覆った。

「いえっ、いえっ!?
いいえっ! 断じて陛下のハダカを…じゃなくってっ!!
あっ、はいっ!!
ねっ猫っ!
猫が見たいですっ!!!」


「…ん?
私の身体ならば、どことなりと。
すみずみまでも。
いつでも見ているではないか…
そのように照れることはないぞ?」

…と、顔を傾け夕鈴の首筋に唇を寄せると、
妃の愛らしい耳に低い声でヒソとつぶやいた。

夕鈴は…わなわなとふるえ

「ね、猫ですっ!!」

と怒ったような声で言うので精いっぱいだった。
黎翔は、わななく妃の朱に染まった耳たぶを鼻先でもてあそぶように、美しい顔をすりつけた。

「…何だ。
賊の…命乞いか?」

「ですからっ!! ―― 賊ではありませんっ!!
可哀想な迷子の子猫ではありませんかっ!?」

黎翔は夕鈴が必死に伸ばす腕を封じ込めスルリと身体をかわし、つまみあげた黒猫をブラブラと妃の眼の前で振り子のようにもてあそぶ。

「…陛下ぁっ!」

そろそろ本気で怒りそうだな…と気配を感じ、黎翔は仕方なく黒い毛玉を夕鈴の手のひらに載せた。

「…仕方がない。
私の獲物なのだが」

黎翔は残念そうにドサリと長椅子に腰かけた。


夕鈴は黎翔の膝の上に拘束されたままだったが、
黎翔が猫を素直に渡してくれたのが嬉しくて掌の黒い毛皮をそっと両手で包み、見つめていた。


なでなですると黒い毛の塊は、大きな耳をもたげて「ミィ!」と鳴いた。

「…か、可愛いですね!
あでも、一日鳴いていたから…お腹がすいたかもしれません
何か与えても、よいですか?」


とにかくこの猫の腹を満たしてやりたい思いで一杯にだった夕鈴は上目づかいで、国王陛下にお伺いをたてた。

夕鈴が夢中になっている姿をじっとみつめていた黎翔は

「…その願いをかなえたら、
私の願いも叶えてくれるのか?」

「はいっ!
私に出来ることでしたら
なんでも」
夕鈴は無邪気に答えた。

「――本当に?」

「はい!」
胸を叩いて太鼓判を押した夕鈴に

「…では。
妃の部屋の壁の修繕が終わるまで、しばらく。
私の部屋で、毎晩。
眠りつくまでずっと
その猫のように、私を撫でていてくれるか?」とつぶやいた。





―――― もちろん。
その後、後宮の妃の部屋の壁の修繕は…

念入りに念入りに、
日数をかけて行われたことは云うまでもない。



(おしまい)

*


---いまごろ、タグをだしますよ。

はい。

【ラ族狩人】


今回は、狼のまま狩人モードスイッチが入ったラ族陛下をお送りしました。


合言葉は、狩人な「ラ族陛下バンザイ\(^o^)/」

[日記]狼陛下の花嫁 スピンオフ特別編 感想・ネタバレ注意

2013年11月8日発売 
(LaLa12月号増刊)LaLaファンタジー掲載
「狼陛下の花嫁 特別編」の感想です。


ネタバレ含みますのでご注意ください。





* * * * * * * * * *
表紙を含めて8ページの短編。

夕鈴に仕えるお二人の侍女さんたちの視点で綴られます。

『後宮に住まう妃』の印象から常にかけ離れた
大変行動的で大胆な言動のお妃様を見守る萌え話。


「ここにいらして以来、侍女さんたちを驚かせてばかりのお妃様」が
陛下と仲良くイチャイチャしているのを楽しみに見守ってる侍女さんたちがラブリー(*´-`)
いやもうまさに、共感しまくりでございましたの。(笑)



誠にもって二次小説書き&二次らーさんの萌えツボを押さえたまくった、

…ともうしますか

本家本元がお手本を見えてくださった、
としか思えない一作にございましたことですよ♪(/ω\*)


可歌先生、ありがとうございました!

*

[宝物殿]とんとん様より【天使と悪魔】1

11月9日のとんとん様のお誕生日にイラストを送らせていただきました。

せっかくなので『再掲載にあたり、元の作品を私のブログでご紹介させていただけませんか』とお願いしたところ、こころよくとんとん様がご諒承くださいました。

そういうわけで、とんとん様の「天使と悪魔」シリーズより第1話を、皆様にご紹介させていただきます。


可愛い悪魔ちゃん夕鈴と、エセでエ■な天使陛下をご堪能ください。

では、どうぞ♪




とんとん 作
初出:07月26日 21:43
* * * * * * * * * * * * * *
天使と悪魔 【休日デート①】
* * * * * * * * * * * * * *



「どうして・・こんな所にいなくちゃいけないの!」
ピンク色のグロスを塗った唇から漏れ出たのは、不満だらけの言葉。
それを告げられた当の本人は、全く応える風でもなくにこにこと笑顔を返した。

「え?だって約束したよね?今日一日僕の言う事に従うって」
「~~~だからって!」
叫ぶと同時にどんっと拳をテーブルに叩きつける。
その勢いでテーブルの上のカップが揺れて中身が零れてしまった。
すぐさまエプロン姿の店員がふきんを持って駆けつけてきた。

「大丈夫ですか?」
「ありがとう。大丈夫です」
にっこりと爽やかな笑顔をむけられて、瞬時に店員の少女は真っ赤になった。
「あ、あ、新しいお茶をすぐお持ちしますから!」
「そんな・・貴女の様な気のつく素敵な店員がいて、この店に来てよかった」
その言葉に店員はうっとりとした表情になり、目の前に座っていた相手は苦虫をつぶしたような表情になる。

「――――この、エセ天使」
店員が去ってからポツリと呟いた言葉に、今度もまた笑顔がかえってくる。
「嫌だな?僕はちゃんと天使だよ?エセだなんて・・・・本物なのは君が良く知ってるハズでしょ?だから・・・・僕の事を狙ったんでしょ?」
「~~~そうよ!だから、さっさと約束守りなさいよ!」
「じゃあ、君も約束守ってくれなきゃ」
「守ってるでしょ!あんたの言うとおり、ちゃんとこんな格好で、こんな場所で、ちゃんとあんたにつきあってるじゃない!」
先ほどよりも強い力で拳が再びテーブルに叩きつられた。

「――うん。よく似合ってるね。その格好。いつもと少し違ってるけど、それも又魅力的だよ」
「~~~~~」



『大天使の翼を一枚奪ってくる』

それは、仲間とした売り言葉に買い言葉の喧嘩からだった。
散々お前の様な半人前の悪魔には天使の側に行くことも無理だ、と鼻で笑われて、ムキになって言い返しているうちにそんな約束をしていた。

几鍔め!見てなさいよ!どんな手を使っても絶対天使の羽もぎ取ってあいつの目の前に付きつけてやるんだから!!


そう意気込んで天使の領域の天界に忍び込んだ。
もとから、それほど力のある悪魔じゃないことは自覚している。要領も悪いし、お人好しで悪魔らしくない悪魔だってことくらいはわかっていた。どの天使が自分が適う相手だとわかることもできないので、一番最初に出会った天使に挑もうと決めていたのだ。

―――やっぱり、相手を間違えたかしら・・・


じとり、と相手を睨みつけても、やはり全く応えることなく、相手は優雅に新しく届いたお茶を飲んでいた。


「・・・本当に、あんたにこの下界で一日付き合ったら・・・羽、くれるのよね」
「やだなあ。約束したでしょ?仮にも天使は嘘つかないよ?」
「本当ね?」
「―――君は、本当に悪魔らしくないね」

なんとなく顔をあげたら、相手はじっと自分を見つめていた。
その赤い瞳が、昏い光をたたえているようで、一瞬背中に悪寒が走る。
「な、なに・・・?」

不意に指をとられる。
その行為の意図が分からず呆気にとられながらその動きを見つめていると指先に温かい何かが触れた。

「!!!」
「―――君の様な悪魔がいるのなら・・・堕ちるのも悪くないかなとか思ってしまいそうだよ」



や、やっぱり、このエセ天使――――!!!


自分の指先に唇を押し付けたままそう呟いた相手に、心の中でそう怒鳴りつけることしかできなかった。


131109-b02




エセ天使がエロ天使になりそうになりました。
えっと
ほのぼのデートはどこですか(泣)




とんとん様の天使悪魔パロ、いかがでしたか?


続きはWebで → 白陽国SNS とんとん様の日記「悪魔と天使シリーズ」へ 

*白陽国SNSは会員制。ご入国登録ください。
怖くないわよ? ←なんだか兎臭いもとい胡散臭いですね。


*

[日記]狼陛下の花嫁 第52話感想・ネタバレ注意

早売りをゲットです。

ネタバレあらすじ&感想レポート。


2013年11月22日発売 月刊LaLa12月号掲載「狼陛下の花嫁 第52話の感想。
ネタバレ含みますので、コミックス派の方はご注意ください。


* * * * * * * * * *

扉絵は、夕鈴が縁台みたいなベンチに座って帽子をとって足をぶらぶらくつろいでる絵。
あおりは、「ドタバタお忍び視察中!! 少しは心落ち着きたい---!?」


今回のお忍びで陛下が愛に来た相手が弟だと判明し、衝撃をうけた夕鈴

『闇商人に関する情報収集のお手伝い』といいつつ、二人でデートです。

ちらちら見つめる夕鈴に、
今日も甘々を続けるつもりの陛下全開。

夕鈴はバイト妃についてはこんなに甘っつ甘のくせに実の弟さんについての説明がすっごくあっさりして淡白だったと不思議がっています。

弟さんは11、12歳らしい。
陛下が辺境に飛ばされた後の子、という話。

李順さんに聞いても
通常思い描くような兄弟関係とは大きく違う
王より領地を与えられた臣下の一人
「そういうものだと認識しなさい」と冷たい。


夕鈴なら青慎のこと1日だって話していられるのに、
王様って難解…と。


二人を送り出した克右さんと李順さん。

噂を聴くたびいろいろ心配になったもんだが
冷静な陛下が随分と情の写りそうな娘さんを気に入ったもんだ、
あの方が寂しくないのなら
あの娘さんはなかなか悪くないんじゃないか?

と克右さんはいいますが
李順さんは
「そんなに簡単なものでもありませんよ…」とため息を。


陛下がこれほどにも頑なに側に人を寄せつけないことには
何か難しい背景でもあるのかなぁ…
とつい、考えさせられてしまいます。

そのあとのお二人のイチャイチャぶりはもう。
夕鈴が目移りしたおたまをプレゼントしたいとかでもめたり。

このたびの間『狼』ばっかで疲れないかと心配する夕鈴が
もっと人のいないところに行った方がいいですか?

なんて聞くから、
陛下はにっこり いや大丈夫だ
とかいいながら
ふ-- 最近のうさぎは罠の仕掛け方が巧妙だな とか
爆笑ですね。


デートの最後、いかにも悪そうな人たちに絡まれて
浩大が出てきて
デートの終わりにいっちばんいい雰囲気のとこに突入とかバカだろ、とかぶつぶつ言いながら
あっという間に全部片づけてしまうのもだから
陛下が「わかっていてなぜ私の分を取っておかない」と突っ込んだり。
カッコいいギャグ満載です。

一瞬で夕鈴に見えない遠くを見つめて
そのまま手の届かない場所まで行ってしまいそうな遠さ

『いつの間にか時間だけどんどん進んで…』という
浩大のフラッシュバック。

おもわず陛下にギュッとしがみつく夕鈴

怖がらせたかと陛下が誤れば
夕鈴は「貴方がいて下さったら 怖いものなどありませんから」と殺し文句
陛下はドキドキ。
ああ、今は二人きりか、と夫婦演技をする約束だったことを思い出しながらも

『そばにいて』『側にいさせて』と思いがあふれて出して
あまりにかわいらしい顔ですがる夕鈴を
つい抱きしめてしまう赤面した『素』の陛下がかわいい…
TmT、ああ、ついに…陛下、ご自分のお気持ちに気が付かれたかしら…?

そこにお定まりの李順さんの気配。
夕鈴はぱっと離れてゆらーんと引き裂かれるわけです。

ああ、いいところだったのに…


李順さん
少々裏から手を回して、明日の午後
『弟君』と都合をつけちゃったらしいですよ。

「…お前、いい仕事するな」
と陛下微妙な顔してます。

いつのまにか
自分の中で
演技と本音が混ざって溶けてしまった夕鈴…

恥らう夕鈴と

ちょっと赤くなって、困ったような表情でカリカリ頭をかく陛下
↑ ↑ ↑ 今までみたこともないような陛下の表情!?

次回の進展を超、期待、です。




次回は2本立て50ページ!?
「お忍び視察編、いよいよクライマックス!結末は」

それほどドロドロすることなく、
あっさりとお忍び視察編は終わりそうな予感です。



休憩中なの
まだお仕事の途中なの。

今日はまだこのあと夜まであるから。
とりあえず、ざく--っとあらすじだけ入力です。

誤字脱字などまた改めて訂正しますね…。


では♪

雪うさぎ-1

23000HIT御礼

10月17日頃、キリの良いカウンターをお踏みくださった風花さまからのリクエスト。
-------------------
【お題】
「陛下×夕鈴で、雪が降っているけど暖かく感じるお話(設定はおまかせ)」

『寒くても2人でいれば幸せ...
そんなお話をおりざさまver.で読んでみたいです。

私の地域はまだ雪は降りませんが、そろそろかな〜と思うくらい
寒くなりました。
おりざさまのお住まいの地域はいかがでしょうか?』

と素敵なリクエストをいただきました。
------------------

私の生息している土地では殆ど雪が積もることがありません。
東京に住んでいたころ、何度か大雪も経験しましたが、年何回か、それも数日で消える程度。
雪はとても珍しく、特別な自然現象、という対象です。

雪への憧れをこめて書いてみたいと思います。

書き始めていまさら冒頭で何ではございますが
雪慣れした方々に、雪生活ノウハウを伺いたいです…。

雪国の暮らしにまつわるあれこれ、思い出、心温まるエピソードetc…。
ありましたら、是非教えてください。(公開取材)←

ライブ連載にチャレンジ
取材の成果によって、連載回数とエンディングが変わるかもしれません、ね?
(…取材に行き詰った場合は、多分3話位の分量です)
楽しく書かせていただきますね。

--------------------

※設定は『中華ファンタジー』の原作ベースですが、行事&世界観はあれこれミックスのパラレルSSということで、ご笑納ください。


【バイト妃】【捏造・パラレル】



宜しければ、どうぞ。


風花さまへ捧げます。


* * * * * * * * * * * * * * *
雪うさぎ-1
* * * * * * * * * * * * * * *


いつものように四阿で黎翔が夕鈴とお茶の時間を過ごしていると、カッカッと聴きなれた沓音が聞こえた。


「おくつろぎ中申し訳ありません。
折り入ってご相談が」

李順が手に巻物を持って二人の間に分け入った。

「…なんだ。李順。
少しは気を利かせないか。
せっかくの妃との時間に、無粋な」


「―――実は、返事の締め切りを見落としていた行事がひとつ。
急ぎご出欠のお返事が欲しいと催促があり」

「何?」

「北方の雪の祭典にどうしても足を運んでいただけないかと要望がありまして…。

これまで陛下がご即位以来、北方へはお出ましになっておりません。

北の州牧は大変残念になっておられ
『陛下の第二の故郷の祭典。是非一度足をお運びください』と
雪の祭典行事にご夫婦そろってご招待が届いております。

いかがでしょう。スケジュール的には調整が付く時期ですし
一度、表敬訪問を兼ねて行事へご出席されては?」

と、李順が水を向けた。

李順なりに陛下が北に足を向けない理由を言外に理解しており、できればこの機会に『夕鈴殿をエサ』にして一度は足をお運びいただき、過去の嫌な思い出を払しょくできれば、という腹づもりがあった。

「…下らん。
わざわざこの季節、雪深い地方に夫婦で視察に行くにしては重要度が低すぎる。
李順、断れ」

黎翔は一刀両断した。

「実は8年に一度の国の祭事、水神祭りにも当たりまして…。
国王陛下にご夫妻そろって是非ともご参加いただきたい、と。
―――夕鈴殿、いかがですか?」
李順は夕鈴の方をちらりと伺った。

夕鈴は、嬉しそうな表情をして、
「え? 私も、いいんですか?
ご視察の旅行についていっても?
お邪魔じゃありませんか?」
と答えた。


「いえそれが。行事的には
ぜひご夫婦そろって、とのご要望で」

李順はわざと事務的に答える。


「…それなら、
私は。

一度、北の地方に行ってみたい気はします…」

頬を染めて夕鈴は控えめに答えた。

夕鈴は以前から密かに『陛下の育った雪深い北の地を一度訪れてみたい』と思っていた。

(もし、行けたら、嬉しいなぁ…。)

夕鈴は想像してとろけるような笑顔を浮かべた。


「そうだなぁ…。
夕鈴も一緒、っていうのなら

…行ってもいいかな」

陛下は夕鈴の嬉しそうな顔をみてハニャと笑み崩れたが、

「うーん、北の州かぁ…」
少し考え込みながら、黎翔は即答を避けた。


「これが行事の概要を記した書物です」
ペラリと李順が巻物を広げる。


夕鈴が目を輝かせて覗き込んだ。

「えーと。
…1週間におよぶ、雪の大祭典。
毎年内外から大勢の観客が詰めかける国内最大級の雪像コンクール。

イベント盛りだくさん。

大通りのパレード、
大道芸、
屋外舞台では“美人・舞姫”による奉納舞い…。
太鼓の競演、各種演武、雪合戦個人戦、団体戦。

夜のロマンチック・ナイト・イリュージョン、百のカマクラに1万個の蝋燭を点灯。

そして旅行者が詰めかける目玉の物産市!
地酒、お菓子、乳製品、農産品、肉加工品、工芸品などお客様還元価格で販売!!
会場ラリーで豪華な特産品が当たる抽選会!
かに早食い大会と大がま茹での毛がに実演販売(数量限定)!!!

…そして最終日の目玉は『雪の女王コンテスト』ですって!」

夕鈴が目を輝かせて見入った。

「夕鈴!
雪の女王コンテスト、出るの?!!」

陛下がワクワクと小犬の尻尾を振った。


「…もうっ!!
コンテストとか、美人さんだらけのところに
場違いな私が出るわけないじゃありませんかっ!!」

と夕鈴はブーっと頬を膨らませた。

「…どちらかと申しますと、
夕鈴殿には、こちらの『雪ん子No.1決定戦』の方がお似合いなのでは?」

と、李順がくりくりっとした童の絵姿が描かれているところを指さした。

「り、李順さんっ!!
いくら私に色気がないからって、それは酷いですっ!!」

「ひどいよ、李順!?
ゆーりんは、雪ん子じゃないよ!?
ゆーりんは可愛いよっ!?
ときどき巧妙に罠に誘うよっ?」

「何が罠ですかっ!?
あーもー陛下はっ!
…そんなことはどうでも宜しいっ!!」

李順は眼鏡をクイッと押さえた。

「ところで、この『カマクラ』ってなんですか?」
夕鈴が指さした。
「ああ。
そもそもは水神を祀る「神の座(かむのくら)」を雪を固めて作った雪洞の中に設え、執り行っていたこの地方独自の伝統行事らしい。

外が寒くても、雪で作ったカマクラの中はけっこう暖かいらしくてね。
今では雪洞の中に火鉢を置いてお餅を焼いたり、甘酒を飲んだり。
ゲームをして過ごす『かまくら遊び』になってるんだ。

この雪の祭典では、特別にたくさんのカマクラを作るみたいだね。
夜、明かりが灯れば、それはそれは素朴で幻想的な風景だろうな」
と黎翔が説明した。

「陛下は、カマクラ遊びしたことがあるんですか?」

「いや。一回やってみたいな、と思ったことはあるけど…
実はまだ一度も」

「そうなんですか…!
じゃあ私、この『雪のロマンチック・ナイト・イリュージョン、百のカマクラに1万個の蝋燭を点灯』っていうの、行ってみたいです…」

「―――陛下がご臨席、ともなれば。
特別席からご覧いただくようになりますが?」

「…え?
特別席?
普通に、みなさんと一緒にカマクラ遊びはできないんですか?」

「…お立場上、いろいろと難しいのでは、と」

「夕鈴。ゴメンね。
いろいろエライ人たちが出てきて
結構大変になっちゃうんだろうね。」

ションボリと落胆した夕鈴は、ああ、と口を閉ざした。

その様子を見て黎翔も困った顔をした。

「…やっぱり、寒い場所だし。
…人がいっぱいのところで不自由な思いをするだけだから、
今回の行事は止め、にしようか?」

と黎翔がボソボソとつぶやく。

黎翔が北の州へ行くことを断りかねないと敏感に察知した李順は

「―――では!!
離宮の傍に、特別にカマクラを密かにご用意させておきましょう。
そこで思う存分、カマクラ遊びをご堪能ください!
その代り、きちんと公式行事にはご出席いただきますっ!!」
と大声を出した。

「…え?
カマクラ遊び。

…できるんですか?」

夕鈴が嬉しそうに、上目使いで李順の方を向き直った。


「――ええ、お約束しましょう!
餅焼き網でも、甘酒でも、なんなりとご用意しましょう!!」

李順が力強く応えた。


「きゃ!嬉しいです。
陛下、カマクラ遊び、できますよ?
やったー、ですね!!」

夕鈴は黎翔の両手を握って、きゃっきゃと喜び、ピョンピョン飛び跳ねた。

喜ぶ夕鈴を見て、ふにゃっと小犬化する黎翔。


「では!
行事出席、でお返事いたします。
―――ご異存ございませんね?
陛下」


李順が取りまとめた。


* * * * * * * * * * * * * * *


こうして白陽国王は、
北の国境近くにある州で開催される『雪の祭典』行事に夫妻そろって出席するため、北の地へ赴いた。


(つづく)


*

雪うさぎ-2

北の地へ旅立った国王陛下ご夫妻は。
【バイト妃】【捏造・パラレル】23000HIT御礼
行事&世界観はあれこれミックスのパラレルSS

風花さまへ


【ねつ造】【オリキャラ】【甘】

「海棠の郷」の設定はいってます。



宜しければ、どうぞ。

* * * * * * * * * * * * * * *
雪うさぎ-2
* * * * * * * * * * * * * * *

昨日まで荒れた天候が嘘のように、移動日は良い天気だった。

あちらもこちらも、コンモリと降り積もった雪で綿帽子をかぶり、新雪に覆われた大地はどこまでも真っ白で、ときどき梢から風に散らされた粉雪がきらきらと空気を輝かせていた。


北の国境近くにある州で開催される『雪の祭典』に招かれた国王陛下夫妻は、北の離宮へ到着した。

比較的新しい作りの宮で、夕鈴は物珍しそうにそっとあちらこちらをうかがう。

屋根の形が見たこともない形をしているし
眼を楽しませる色彩に、華美でぜいたくな造り。
室内は思ったよりも温かで、床からほわっと温熱が立ち上る。

…雪国の家というのは造りからして異なるのだ、と夕鈴は知った。

大勢の人の出迎えに夕鈴は驚いた。

「遠路はるばる王都より、至高なる御身をお迎えできて恐悦至極にございます。
北のこの地へ、ようこそお帰りくださいました」

管轄の州牧の挨拶の「お帰りくださいました」のくだりに、国王はことさらに冷たい表情を浮かべた。

「…」
冷気を孕んだ黎翔の態度に、州牧はピリっと背筋が凍った。

「おお…!陛下はこちらの新しい離宮になってからはお初でございましたな!
以前の旧離宮に比べて格段に素晴らしい処になっております。

我が君に何不自由なく居心地良くお過ごしいただけますよう、数々の手が入れられておりますゆえ、どうかご滞在中はゆるりとおくつろぎくださいませ!」

夕鈴は、あれ?と思った。

李順が挨拶を引き受けた。

「お迎えご苦労様です。
陛下ご夫妻はご移動でお疲れです。

まずは温かいお部屋へ…」

そして、李順はかるく手を打ち静麗女官長を呼ぶ。
李順は次々にてきぱきと手配をした。


部屋に落ち着いて、人払いするとようやく夕鈴はホッとした。

「…想像していたのと違って、新しい離宮なんですね。
近代的設備が整っていて、外はこんなに寒いのに、室内は王都よりむしろ温かいくらいですね。驚きました!!」

床から暖気がたち昇り、夕鈴は外套を脱いでも冬の旅装ではむしろ汗をかきそうなほど。

温かい室内で火照った頬に手をあてると、指先の冷たさにヒヤリとする。
冷たくて暑いのは、不思議な感じだった。

「以前の離宮は火事で焼失し、その後兄の代に新しく造営されたと聞く。
室内が温かいのは、『炕(kang、カン)』というオンドルで、温熱が各部屋の床に行き渡るように造られているおかげだ」

「床暖房?
へぇ、そうなんですか…すごい設備ですね!」

夕鈴はきょろきょろとあたりを見回すので忙しく、黎翔がフッと寂しそうな眼をしたことに気が付かなかった。


兄王が再建した華美な離宮。

黎翔が子供時代を過ごした前の離宮の趣はなにひとつない。


父王が亡くなり、兄王が即位された後、
亡き国王が深く寵愛した舞姫は命を奪われ、
住んでいた離宮には火の手が上がった。

赤い炎に呑み込まれ崩れ落ちた離宮の中に、浩大の妹、杏が囚われていた…。


弟太子であった黎翔は、母違いの兄王に恭順の意を示し一臣下として兄王に仕えた。
まだ14、15の齢でありながら、軍務に所属し各地での戦いの渦中に身を置いた。


寵愛を競い合った妃たちの血塗られた歴史はつまびらかにされることは決してなかったが、その息子―――征服者である兄王は―――その地位を誇示するため、わざと先王の寵愛を独り占めにした舞姫が住んでいた北の離宮跡地のすぐ傍に新しい離宮を建造した。

華美で豪奢な離宮に財をつぎ込み、冬の行事に合わせては大勢の寵妃を引き連れてこの地を訪れ、酒におぼれ、女におぼれる自堕落で退廃的な生活を送ったという。


黎翔は、温かい離宮の館の中に居ながらも、吹きっさらしの雪の平原を見渡しているかのような遠い目をしていた。


長椅子に二人で座っているのに。
陛下が、なんだか遠い…。

すぐ傍にいながら、黎翔がどこか遠くに行ってしまいそうで、夕鈴は怖かった。

その時、静麗女官長が温かいお茶を奉げ持って現れた。
「どうぞ…」

コクリと一口。
熱いお茶が胃に落ちてゆく。
雪の離宮で飲む温かいお茶も良いものだった。


「雪景色は…幻想的ですね。」

離宮の暖かい部屋で熱いお茶を飲みながら、夕鈴は少しだけ黎翔の方へ体重を移した。

軽く腕に夕鈴の重みがかかり、はっと黎翔は傍らの妃を見遣る。

少し困った顔で笑いながら黎翔は静かに答える。

「―――移動は、大変だったな。
疲れたろう、大丈夫か?」

黎翔は、穏やかに夕鈴の髪をひと房に指先を絡め、もてあそんだ。

「はい、私は大丈夫です。
…それより陛下は?」

夕鈴は、黎翔を見上げた。
黎翔は夕鈴の視線を感じて、フッと頬を緩めて見せる。

「…君がいてくれるから。
私は大丈夫だ」

手にしていた妃の髪の束に、黎翔は口づけを一つ落とした。
夕鈴は思わず赤面しながらうつむいた。


李順がキリキリと奥歯を噛みながら夕鈴にけん制の視線をかます。

夕鈴はすっと黎翔の手の内から髪をすりぬくと、長椅子の端にずれ、陛下との間に隔てを作った。

夕鈴の他人行儀なしぐさに黎翔は少しむっとした。


「陛下。この先のご予定ですが―――」

「…続けろ」
眉根にかるくしわを寄せたまま、黎翔は李順に先を促した。

「明後日の式典より一週間の行事が始まります。
明日は前夜祭と歓迎の宴が開かれる予定で、それまで特に公式のご予定は入れておりません。
ご所望のカマクラ遊びは明日の午後、準備を整えお時間を取っております。
今宵はご移動の疲れをとるため、本日はどうかゆっくりとお過ごしください」

「わかった」
黎翔は答えた。


「今回はちゃんと別々に寝室もご用意しております。
まあ、隣室ですが、ね。

まくら投げは厳禁!
おやつはほどほどに!
消灯時間になりましたら、ちゃんと各自お部屋にお戻りくださいよっ!?
宜しいですねっ!?」

一瞬だけだけど、李順さんの胸に「3年白組 担任 李順」という名札が見えたような気がする…。
幻…? 夕鈴は目をごしごしこすった。

「ご苦労。
李順、お前も少し休め」

「到着早々、休んでなど、おられません!
やることは山ほどあるのですから!
とにかく、面倒をかけないようにっ!
特に、夕鈴殿っ!!」

「は、はいっ!!」

夕鈴は直立不動の姿勢で、よい返事をした。

* * * * * * * * * * * * * * *

李順が足早に去ると、黎翔はふと静麗のほうを振り返った。

「静麗」

「およびでしょうか?」

「…今日は特に予定もない。
よって暇をとらせる。

---あそこへ
行ってはもらえぬか?」

静麗は表情を変えずに、静かに肯(うなず)いた。

「ああ、浩大も。
―――杏に合わせてやれ」

「御意」

「もうよいから、行け。
今日は良い天気だが、こういう時こそ、いつまで続くかはわからん
夜には戻るように」

「畏まりました」



(―――主上。
私にお申し付けになった
浩大の妹、杏の墓参りは、ついでのことでございましょう?)


静麗女官長には、わかっている。

(あなたさまは、母君の。
舞姫様の墓を参って来いと。

そうおっしゃりたいのですね。

あなた様ご自身の御手で、
いつか花を手向けるときが来ることを
願わずにはおられません。)

そう、静麗は祈った。




「…なんですか?」
夕鈴が不思議そうに尋ねた。

「――ああ? うん
大したことじゃない」
黎翔は困ったような顔で笑った。

(…こういう時の陛下は、聞いてもきっと答えてくれない。

…私が、バイトだから。
私には知る必要がないって、―――はぐらかされる。)

夕鈴は、チクリと胸が痛んだ。



「夕鈴!
せっかくだから、外、ちょっとお散歩してみない?」

やおら黎翔は元気な声で夕鈴を誘った。

子犬のようにまとわりつき、今すぐに飛び出さんばかりの勢い。


「体も暖まりましたし。
明日の夜からは忙しくなるんだったら、
今のうちにのんびり辺りをお散歩してみたいですね!」

夕鈴も同意した。

二人は再び外套を羽織り、手袋を着ける。

「長靴をはいたほうがいいよ?」と陛下が勧める。

「へ?―――ああ!」

長靴が部屋の隅に置いてあった。
揃えてくれたのは女官長だろう。

(さすが。陛下が何をおっしゃるか、すべて見通しね?
手際がいいわ…女官長さん。)
夕鈴は感心した。

「頭巾をかぶって、襟巻をしっかり巻いて。
…急に冷たい風を吸い込むと、肺がやられるよ?」

手を引かれて足早に離宮の庭へと連れていかれる。

真っ白な新雪が広がっていた。

ここは離宮。
誰も足を踏み入れることがないのだ。


「わぁ…」
夕鈴は感動して、長靴で、サクと雪を踏んだ。

ズボっと足が脛まで埋まる。

「結構深いですね!?」

「これでも、まだまだ浅いほうだよ」
陛下は笑った。

夕鈴が四苦八苦しながら、それでもズボリ、ズボリと新雪に足跡をつけてゆく。

黎翔がそんな夕鈴に、雪玉を投げた。

夕鈴の足元で雪玉はボスっと着地し、雪が跳ね散る。

夕鈴は驚いて振り返った。

「…やりましたねっ!?」

夕鈴は振り向くと、やおら厚ぼったいミトンで覆われた手で足元の雪を掬い上げ、もたもたと軽く手の中で押し付けると、黎翔に向って投げつけた。

バッと雪が散って、届かない。

「…もっと、キュっと固く雪を丸めないと、飛ばないよ?」

黎翔はその手にすでに固く丸めた雪玉を持っており、夕鈴の後ろにそびえていた木の幹に向かって投げつけた。

ボソッと音を立て、雪玉みごと木の幹に命中する。


夕鈴は雪玉をギュギューっと手の中で握り締め、大分小さくなってしまった雪の球を
「あん!悔しい!
えいっ!!」
と言って投げつける。

先ほどよりも遠くに飛ぶ。

夕鈴はキャッキャいいながら、夢中になって雪団子をつくっては投げて遊んだ。

「雪合戦っていう遊び。
二手に分かれた要は陣取り合戦で。
ルールを決めて、当てっこすると面白いんだ…

当たったら当たったで結構痛いから、やめておくね?」

黎翔は笑った。
そういう黎翔は子供のころ、遊びで雪合戦をやったことはなかった。

(―――あれの“大人げない”本気モードの雪玉投げに、付き合ったことは、あったかな。)
黎翔は浩大と兄、そしてその師匠による壮絶な命がけの雪玉戦闘を思い出した。


そうこうしているうち、
夕鈴つんのめって転び、顔からボスッツと雪に倒れこんだ。

人型になった夕鈴の雪跡の隣に、黎翔もボスッと大の字になって倒れこんで、
陛下は腕を伸ばし、隣にいる夕鈴と手をつないだ。

「…大丈夫?」

「だ、だ、大丈夫ですっ!!!」
夕鈴は雪まみれになって、顔を真っ赤にしながら返事をした。

陛下は笑って笑って。
…笑いがおさまると、ようやく体を起こし、夕鈴の手を引っ張って助け起こす。
頭の上から方から。
パンパンと雪をはたいてくれた。
冷たい雪にまみれて、ほっぺは真っ赤。
見上げる瞳はウルウルと。

(かわいい…夕鈴)
黎翔はかいがいしく夕鈴の雪をはたいては落とした。

夕鈴が顔を真っ赤にしながら振り返ると、二人の雪跡は手をつないで、幸せそうに見えた。

夕鈴は胸がギュッと締め付けられる気持ちがした。

カカカーッと血が上り、さらに真っ赤になった顔を見られたくなくて、夕鈴はあわててノロノロと駆け出した。

「夕鈴、どこ行くの?」

夕鈴は返事をせず、目をギュッとつぶって雪の平原を駆けた。

「―――あれ?」
黎翔の声。

夕鈴は目を開けた。

「え? あれ、なんですか?」

「カマクラ…だ」

黎翔は答えた。

李順が用意させる、といっていたカマクラだろうか。

小さくコンモリと作られた丸いドーム状の雪の家。

風下に小さな入口が切ってある。

そばまで近づき、二人は中を覗き込んだ。

「ああ、まだ、カマクラだけなんだ…。
火鉢とか炭はおいてないね」

黎翔は小さな入口から中に潜り込む。

夕鈴もあとから入ってみる。

雪を突き固め、中の雪をくりぬき家にするのだろう。
外から見た印象よりは、中は広く感じた。

「温かいですね…」

「そうだね」
二人は背中合わせになって膝をかかえて座っていた。

こつん、と背中に夕鈴の後頭部が寄りかかる。


「…陛下。
連れてきてくださって。
ありがとうございました。」

夕鈴はそっと礼を述べた。

それを聞いて、黎翔はついポッとなった。

「…ぼくも。来てよかった。
夕鈴と遊べて、うれしい」


「本当は、あまり来たくなかったのでしょう?
――――こちらには」
夕鈴はすまなさそうな声音で。

「いや。
君と一緒なら。
私はどこにいても。幸せだよ?」


カマクラの中は真っ白で。
ぽかぽかと暖かかった…。

「夜。明かりがついたカマクラ、見れますかね…」

「どうせ李順は
『寒いし、危ないですから、夜はダメ。
大切な行事の前にお風邪でも引いたらどうされます』
っていうにきまってる。

でも、今日。夕餉の後に、二人で内緒で
ちょっとだけカマクラ遊び、しようか?」

「わあ! それはうれしいです!
約束ですよ?陛下」

黎翔はくるりと振り返り、膝をかかえる夕鈴の背中から覆いかぶさった。

「うん。約束。

それより、…寒くない?
夕鈴」

「さっ 寒くないですよ?
カマクラの中が こ、こんなに暖かいなんて
おっ 思いませんでした!!」

陛下ったら、心配性なんだから…

でも。…心配してくれて、嬉しい。

夕鈴は笑った。


「でも、そろそろ、戻ろうか。
…君の体が冷えてしまう」

黎翔は背中から覆いかぶさり、夕鈴の濡れた手袋を握り締めた。

「びしょ濡れじゃないか…!?」

「ああ、さっき。雪玉合戦で…」

「しもやけでもできたら、どうする!」

慌てて黎翔は自分の手袋をはずし、夕鈴の濡れた手袋を外すと両手でこすりはぁっと息を吹きかけた。


「ああ、こんなに冷たい…」


冷たい…。

冷たい雪の中の手…。

子供のころの空虚な思い出が、黎翔の胸にあいた穴の中を嵐のように通り抜ける。



黎翔は、夢中でその手の熱を取り戻そうと、こすり合わせた。


「…寒くありませんよ?
本当に心配性ですね、陛下は!」


夕鈴は思わず狭いカマクラの中で、両手を握り締められ、熱心に陛下が手を温めようとするので、もうどうしてよいのかわからないほど頭に血が上り、真っ赤になっていた。

ジンジンとする指先より、ドキドキ胸の動悸が聞こえそうで困ってしまった。

黎翔は思い余って、襟をかき分けるが早いか、自分の首筋に冷たい夕鈴の両手をピッタリと押し付けた。

黎翔の生身の肌の熱を分け与えられ、その感触に思わず夕鈴は内心(うギャー!!!)と叫び、手をひっこめた。

夕鈴がパニックを起こしかけてる様子を見て、黎翔はハッとなり、ショボーンと耳を垂れた。


「ごめんっ!?
思わず、つい…」

「いえっ!」

ぶんぶんと夕鈴は手を振る


…二人の間に微妙な空気が漂う…




「…とにかく、いったん部屋に戻ろう」

「陛下?」

「…つい、夕鈴の嫌がることして、ゴメン…」

「い、い、嫌じゃ…ないですよっ!?

ただっ 
こんな冷たい手を陛下のっ おっ、おっ お首に当てたら
陛下が冷たいっでしょ!?

驚いただけでっあのっ…そのっ!! 嫌じゃないですっ!!
驚いてごめんなさいっ!!!」

夕鈴はどもりながら真っ赤になって目を伏せた。


黎翔はしょんぼりと体の向きを変え、もぞもぞとカマクラの出口のほうへ手をついて進むと

「とにかく、一度。
部屋に戻ろう、っか」

と、自分に対して苦笑をした。



(つづく)



*

さっそく雪国レポートありがとうございます。
twomoonさまの『雪遊び』編。
風花さまの『ずぼずぼ』も、アップ直前、ギリギリ挿入しちゃいました^^
Rulalaさま、応援ありがとうございます^^

また、構想していたストーリーにピッタリシンクロした体験談も届いておりますので、次回、きゃーま様に頂きましたエピソードを織り込んだ『地吹雪』編へと続きます。

まだまだ「雪エピソード」お待ち申し上げております
///^-^///

おりざ 拝


雪うさぎ-3

幸せそうに雪遊びに興じる国王陛下ご夫妻でしたが…


【バイト妃】【捏造・パラレル】【ピンチ】
行事&世界観はあれこれミックスのパラレルSS


宜しければ、どうぞ。

* * * * * * * * * * * * * * *
雪うさぎ-3
* * * * * * * * * * * * * * *



離宮の温かい室内とは裏腹に、夕方から急に天候が悪化し、外はひどく吹雪いていた。

ガタガタ、ヒューヒュー、外の木々の枝が擦れ軋む音。

(…まったく…。
急用だと呼び出しに付き合えば、
李順のやつ、次から次へと…)

予定外の面会。
周宰相が用意周到に荷物に紛れ込ませた書簡類…。

『これさえ済ませておけば、明日から思う存分お遊びいただけますよ』

ようやく李順に解放されたときは、すでに辺りは真っ暗で、この地方全体に地吹雪が吹き荒れていた。

朝方あれほど晴れて穏やかだった天気は、夕方ころから一転。
急にあたりが日暮れの様に真っ暗になったかと思ったら、嵐のような風と雪が吹きはじめた。

ビュービューと枝を渡る風切音が遠くから聞こえる。


『夕鈴は、慣れぬ離宮で一人。
不安にしているのではないか』

黎翔は足早に、奥向きへと急いだ。


離宮側で用意されている大勢のお付の者たちがかしずく廊下を通り抜け、王の居室へと戻る。


室内は、既に旅支度は解かれており、あたりは居心地良く整えられていた。

だが、黎翔を迎える妃の笑顔がない。

(…ん?)

黎翔はあわてて隣の妃の部屋へ通じる扉に手をかけた。

なぜか、胸騒ぎがする…。


黎翔は灯火に照らされた薄暗い部屋に入るなり、
傍の離宮付きの者に大声で尋ねた。


「――― 妃は?」



「畏れながら…大変申し訳ございませんっ!!

実は、先ほどからお姿がみえないと…
女官たちが申すものですから」

責任者らしき次官が、傍付きのものたちの先頭で深々と頭を下げながら返答した。


「…妃が、いない?

―――いつから?

分かっていたなら
…なぜ、私に知らせんっ!?」


黎翔は焦燥感を募らせ、明らかに抑えの利かない怒気をあらわにした。


「陛下とご一緒に昼餉をお取りになったあと、
『暫く午睡をするから』と人払いなさったまでは。
確かに女官らがついておりました、
しかし…」

責任者の次官は汗をかきかき報告を続けるが、結局は要領を得ない返答を言い訳がましく繰り返すばかりだった。

「…これほど大勢の人間が傍に仕えていながら
妃を見失う?

…お前たちの眼は節穴かっ!!」

「す、全ての部屋をくまなく探し申し上げましたっ」

居並ぶ傍付きの者たちは、激高する黎翔に恐れをなし額を床に擦り付け平伏した。

王宮の傍付きの者たちを数人連れて来ていたが、離宮ではその何倍もの人数の女官、侍女、宦官らが付けられ、過剰なもてなしぶりが更に黎翔の神経を逆なでする。

「探しても、見つからん、と?」

イライラと黎翔は睨み付ける。


「お、畏れながら…
――も、申し訳ございませんっ

平にご容赦をっ!!

ただ今、手すきの者を出し
お探し申し上げておりますので、
今しばらくお待ちを…」


「手すきの者、と?

いまさら言うに事欠いて何を…。

妃の世話をし、もてなすのがお前たちの役目。
…手すきも何もあるものか!

役立たずは数いても役立たずか」

黎翔が腰の佩きモノに手を掛ける。

「ひいっ!」

「これ以上馬鹿げたことを言おうものなら…」

黎翔は今にも剣の鞘を払い、天辺目指して振り下さんばかり気迫。
あまりの恐ろしさに責任者は腰を抜かし、気を失った。


「もうよいっ!!
ただちに全員で捜索せよ!

―――大至急、李順を呼べ!

全ての部屋を今一度!
隅々までもれなく探すのだ。

…万が一にも外に出たとしたら
この嵐の中、一刻も早く見つけねば、命にかかわる!
離宮周辺も、くまなく探せっ!!

私も出る。冬装束を!」


慌ただしく周辺が動く。

黎翔は順に厚い肌着・胴衣を重ね着し、長靴、手袋、全身を覆う外套を着こみ、自らも身支度を整えた。


(夕鈴… 無事でいてくれ…!

…こんな時に限って。
浩大と静麗に揃って暇をだしてしまった…)

と悔やまれた。


「陛下。おそれながら…」

王宮から連れてきていた女官の一人がおずおずと国王の前にかしずく。

「何だ?」

「お妃様のお部屋の、手あぶり火鉢がなくなっております」

「火鉢」

「このくらいの、小さなもので…
あと、敷布と、長椅子の座布団も見当たりません」

女官が説明をしているとき、黎翔はハッと思い出した。



『今日。夕餉の後に、二人で内緒で
ちょっとだけカマクラ遊び、しようか?』


確かに
そう約束をしたのだ…。

黎翔は慌てて、暗い嵐の中へと駆けだした。


* * * * * * * * * * * * * * *


昼餉の後、膝の上に拘束された。

『ここは念には念を入れて、イチャイチャ夫婦を熱演しようね』
陛下はそう耳元にささやいた。

陛下は、いつもよりも。更に、ほんとーに、すっごく…甘々で。
私のことを構うから、本当に困ってしまった。

離宮は王宮以上に人が多くて、…とにかく視線が痛い。




そうして、二人でお茶を飲んでいると李順さんがセカセカと部屋に入ってきた。

正直、陛下のお膝の上から解放されるきっかけができて、ホッとした。


「陛下…おくつろぎのところ申し訳ありませんが
予定外のご面会が…」

慇懃無礼に遠慮がちに述べながらも、実際は遠慮がない。
陛下は李順さんから逃れられなさそう。

(―――今日は何にもご予定は無いっていってたのに。

やっぱりお仕事が追っかけて来るんだ…。

陛下って大変。お気の毒だわ…)

私は深く同情した。


「―――夕鈴。
すぐ戻るから

少しだけ、待っていてくれ」

そうおっしゃっていたけど、容赦のない李順さんのことだから…。
そう簡単に陛下を解放してくれるとも思えない。


李順さんが陛下を連れて行ってしまった…。


「しばらく、ひとり。
…何を、しようかしら」


こういう時。
静麗女官長さんが陛下の御用を言いつかって他出してしまったのが、寂しい。

後宮から付いてきてくれた侍女さんもいるけど、離宮で用意されたお傍付きの方たちが大勢いらっしゃるので、なんとなく甘えづらい。

いつものこと、といえば、いつものことだけど。

王宮や離宮。
王の住む場所ともなれば、そもそも上流階級の天辺の人間しか足を踏み入れることはできない特別な場所。
ここ離宮にも天女にも勝ると劣らないほどの美しい選び抜かれた女性が山ほどいる。

そんな中で、私なんて本当にしょうもないくらい平凡な女の子だ、と自覚せざるを得ない。

離宮の役付きの女性たちが私を見た後に、優越感をたたえた表情でヒソとささやき交わす言葉が良い言葉であるとは到底思えない。

ジロジロと見られ呆れたような目つきや、あからさまに見くびられたような眼差しを受けるのは、正直、つらい。

あの。私。
バイトなんです?

だから気にしないでください?―――って、そういえればいいけど。


絶対それは口にできない。

息が詰まる。

どこか、一人っきりになりたい…。



目の前の卓に、手をあぶる小さな火鉢が置かれているのが目に入った。


…あ!?


私はいいことを思いついて、にんまりしてしまった。


「すみません、疲れたので。
しばらくお昼寝をします。
一人にしてもらえますか?」

と、人払いを願う。

「お休みですか?」
と、後宮の美人女官さんが、鮮やかな手さばきで寝台を整えてくれる。

冷ややかに、でも美しい声で「どうぞ」と。

「もうあとは良いですから。
どうかお構いなく。あなたも休憩してください」

と声をかけ、敷布を被った。

本当ならたぶん寝入っても誰か傍にずっと付かれるのだけれど。

離宮の女官さんたちは
「さようでございますか、では」
と、ツンツンしながら下がってくれた。


暫く寝たふりをしていたら、周囲は静かになった。



思い出す。

『お忍びで、まいて来ちゃった!』
―――悪戯っ子のように。にんまりと笑う陛下。

そして次に想像するのは、ゾッと青ざめている李順さんの顔。

あまりにも鮮やかに、楽しそうに。
周囲の心配なんてなんのその。
あんぐりと口をあける私は、陛下のやることなすことにいつも驚かされる。

でもそれがすごく…陛下らしくって。憎めない。


…だから、今日は。

さあ、夕鈴。いよいよ、チャンス到来よ?!
『陛下の裏ワザ』を見よう見まねでやってみましょう。

…こういうとき、陛下や浩大に習ったテクニックが生きるのよね。

警備のウラをかく方法とか、周りに知られずにそっと動くコツとかを、いままで地道に情報収集してきた甲斐があるってもの。
『見て学べ』『門前の小僧習わぬ経を読む』

お傍の人たちを煙にまく技術を身に付ければ、私もプロ妃としての腕が一つ上がるってものよね…うふふ。ドキドキしちゃう…



小さな冒険を思いつき、大いに興奮していた私は大切なことを見落としていた。

『私は凡人だった』ということを。

そして、『知らない場所には、気をつけろ』という初歩的なことを。


『―――陛下の悪いところばっかり学んで』

のちのち。李順に盛大にため息をつかれ、ネチネチと反省を迫られるとは、この時の私は思いもしなかった…。


* * * * * * * * * * * * * * *


一人で、来ちゃった!


…さっき陛下と見つけたカマクラ。

やっぱり、かわいい。


外は寒い。
離宮の広い敷地の小高いここは、真っ白な雪野原。
まっさおな青い空。良い天気。

でも風が強い。





でも、やっぱりこの手あぶり火鉢は重たいわ。

いくら持ち運びができるサイズとはいえ、雪の中運ぶのは結構難儀ね。
汗をかいちゃった。

継ぎ足しの炭や食べ物は…あとで、にして正解だった。
とても持ちきれない。


『今日。夕餉の後に、二人で内緒でちょっとだけカマクラ遊び、しようか?』
って、陛下と約束したから。


先にこっそり準備しておこう。

李順さんが用意してくれるのは明日って聞いている。

だから、とりあえずありもので、出来るだけ。

座布団をくるみ背中に背負っていた敷布を外して、広げる。
布を敷いて、座布団、火鉢を置くと何となくさまになった。


「ふふ。なんだか秘密基地作ってるみたい…。」


そういえば、昔、几鍔が樹の上に秘密基地作るぞって、ガキ連中を集めていた。

「わたしも入れて!」ってあんなに言ったのに

「てめーは女だろっ!?
樹の上の秘密基地に女なんか入れねーよっ!」

って…結局入れてくれなかった。
すごく悔しかった。

―――今日のカマクラは陛下と二人っきりの秘密基地。



カマクラの外に顔をだして、空を見上げる。

さっきまで青空だったのに、紫色の珍しい雲が広がっている。
夕焼け雲とは違う、冷たい見たことのない色あい。

こうしてみると、白一面の平原は、なんだか荘厳。
段差もわからず吸い込まれそうなほど、白一色。

黒いものが落ちている。風で折れ飛んだ小枝。
拾ってみると、小枝はカラカラに乾いて軽かった。

ブル…っと身体が震える。

あ。いけない。
汗が冷えてきた。


カマクラに戻り、拾ってきた小枝で火鉢の中の灰に埋めてあった炭をつつき出す。
ふぅっと息を吹きかけ風をおくるとそれまで黒っぽかった炭に赤々と火が回る。

小さな火鉢だけど、火を見るとホッとする。



懐の布袋を取り出し、火鉢の五徳の上に網を置く。


「薄切りにして乾かしたお餅ですよ。
あぶってアラレにしたら美味しいんです
ちょっと、やってみますか?」

…なんちゃって。

あとで陛下と一緒に愉しむ、予行演習。

あぶっているうちに、お餅が膨らんでアラレになる。
焦さない様に、いくつかのアラレをクルクルと手早くひっくり返していると
いつのまにかあたりが真っ暗になっていた。

「――え?
まだ日暮れには早くない?」
ドキドキとしながら
「どうしよう」
とあたりを見回しているうちに、ゴーゴーとすごい遠鳴りがしてきた。


* * * * * * * * * * * * * * *


「…怖い」

火鉢のぼんやりした炭の赤い部分が妙に明るくみえる。


辺り一面真っ暗になった小さなカマクラのなかで、一人、夕鈴は怯えた。

あっというまに天気は一変していた。

刻一刻と風は強くなり、降り積もった新雪を巻き上げそこいらじゅうに叩きつける。

カマクラの入口からも強く吹き込んできてみるみる、穴の中に雪が入り込み積もるのを見て
「これは…早くお部屋に戻った方がよいかしら」と思った時、既に遅し。

意を決して外に出てみたものの、
叩きつけられるような風雪にあおられ、真っ暗で何も見えず、ただビョウビョウと音だけが体の周りにあった。

―――白くて暗い世界。

さっきまであんなに良い天気で、迷いもなく来られた場所が…
今は暗黒の虚空に沈み込んだように、右も左も、天地さえも見分けがつかない。

失調した感覚は、頼りなげに足元の新雪をボスボスと踏みぬくたびに、どこか穴の中へ落ちて死んでしまうのではないか、という恐怖しか伝えてはくれなかった。

外套に雪片がビシビシと殴りつけるように張り付く。
その雪はすぐに水に戻りかけ、また次に飛んできた雪片でさらに凍りつく。

雪というより、既に氷と化したツブテは、当たると痛い。

氷にまとわりつかれ、身体が重い…。



夕鈴は雪の結晶が生まれてゆく様を、目の当りにしている気がした。

眼をあけていれば、眼に。息をしていれ鼻と口に。

呼気が凍って張り付く。


痛い…苦しい、冷たい…!!!
何も見えない…

このままでは、呑みこまれてしまう…!


…どうしよう、離宮はどっち?
分からない。


夕鈴は風に足をとられ、転んでしまった。

立ち上がろうと周りと見渡しても、
もうそこはどこが上か下かも分からない白い恐怖の世界だった。

実際の距離にすれば、たいして移動はしていなかった。
カマクラからやっと数歩進んだ場所で、夕鈴は恐怖に心まで凍らされた。

しかたなく、さらに三倍の労をつぎ込み、まだうっすらと見える自分の足跡をたよりに、夕鈴は風雪がおさまるまで、再びカマクラへ戻って待つことを決意した。


カマクラにたどり着く。
小さな出入り口は、すでに地吹雪に舞い上げられた雪で埋もれ駆け、両手でかき分けながら穴に潜り込む。

ビョウビョウと吹きこむ氷のツブテの侵入を防ぐため、必死の思いで敷布と雪で穴を塞ぐ。

ようやく穴をふさぎ、嵐から隔離できたとき、夕鈴はホッとして、ついカマクラの中であおむけに倒れ込んでしまった。


ヒヤッとした冷気が体に届いた。


寒い…

長靴も、手袋も雪にまみれ、解けた氷水をたっぷりと染み込んでいる。
ジャリジャリ氷りかけた手袋をはずすと手は濡れそぼって真っ赤になっていた。

夕鈴は雪まみれの外套を脱ぎ、床に敷いた。


そして嫌なことに、汗を吸った肌着が冷たくなりはじめた。

「乾いた布… 汗を拭かなきゃ」
小さな手布一枚を握り締め、必死に襟足から手を差し込み汗をぬぐう。

小さな手あぶり火鉢のなかに継ぎ足す炭はない。

白い灰になりかけた炭。
火鉢に残るわずかな温もりだけが、今ある全て。


夕鈴は轟轟と小さなカマクラの周りを覆っている白い魔物の陰に怯えた。

次第に冷えてゆく身体は、意図せずにガタガタと震える。
歯の音が合わなくなり、カチカチと小刻みに音をたてはじめた。

(うう…寒い…でも。
大丈夫、とりあえず、雪さえ凌げば…)

夕鈴は手足を懸命にこすり合わせ、息を吐きつけ
必死に身体を暖めようと努力した。



陛下…

こんな嵐の中は、
絶対来てはダメですからね?

すぐ止みますから。

ちょっとだけ、待っていてください。




―――自分の救援よりも
陛下の身を案ずる夕鈴であった。




(つづく)



*

きゃーま さまからお寄せいただいた雪の体験談、地吹雪のお話を参考にさせていただきました。
ありがとうございました。

おりざ拝

*

雪うさぎ-4

陛下のお仕事中、ひとりぼっちになってしまった夕鈴。
こっそり離宮の自室を抜け出し、密かにカマクラ遊びの準備をすることに

ところが天候が急に荒れ、地吹雪に閉じ込められてしまった夕鈴は…?


【バイト妃】【捏造・パラレル】【微かな胸の痛みと甘さ】

行事&世界観はあれこれミックスのパラレルSS


宜しければ、どうぞ。

* * * * * * * * * * * * * * *
雪うさぎ-4
* * * * * * * * * * * * * * *


「夕鈴!」

… あれ?

ペチと頬を叩かれる。

「―――夕鈴ったら!
もう、起きてってば!」

ふっと前を見ると、見慣れた顔。

「…明玉?」

明玉がペチペチと夕鈴の頬を叩いていた。


「…ちょっと、明玉
痛いってばぁ…!」

夕鈴が振り払うと、明玉は笑った。

「ごめんごめん!
だって、あんたったら、待ちくたびれて寝ちゃって…。

今日は久しぶりの女子会でしょ?
あんたの近況も、じーーーっくり、聞かせてもらうわよ?!」

明玉が肘でツンツンと小突く。

ああそうだ、明玉がお仕事上がるのを待っていて、つい、うとうとしてしまった。


飯店の跡取り息子と祝言の約束をしている明玉は、結婚前にもかかわらず『早くなじみたいから』と飯店の手伝いをしている。
明玉は持ち前の明るさでチャキチャキと店を切り盛りする看板娘。

「ちょっと、夕鈴、寝ぼけてないで、起きてってばあ!」

明玉はもう一度、夕鈴のほっぺたをギューっとつねった。


「いー…! 痛い痛いイタタタタ!」
夕鈴は明玉を手で振り払った。

「だって!
夕鈴ったら、いっも肝心なところで
寝たふりして~!

でさ、あんた、几鍔さんとあのお役人と、
どっちと結婚するの?
それとも、…あの、ガタイのいい第3の男?」

明玉は、モニモニと夕鈴の両頬を引っ張りながら、執拗に尋ねる。

夕鈴はぼんやりと返事をした。

「え?
…だから、叩くのは止めてってばぁ…。

ええっと?
―――誰が、誰と結婚?

なあに?
何の話だっけ…?」


「もうっ! なに寝ぼけてるのよ?
ほんとに夕鈴ったら。

それに、そんな隅っこで!
寒いから、もっと火に寄って温まりなさいよ」

「そういえば…なんだかすごく寒い…。
ありがとう、明玉」

明玉が背中をゴシゴシとこすってくれる。


「もぉ―――っ!
あんたってば遠慮ばっかりしてっ!」

「そう?」

「そうよ!
そんな隅っこじゃ、几鍔さんと話せないでしょ?」

「え?
なに?

きがく…?

え“え”え“え”~~っ?」

目の前に几鍔がいて、明玉が無理やり二人をくっつけている。

几鍔の顔がどんどん近づき、至近距離でむっつりしている。

「おうっ!
なんだ、てめえ、シケたツラしやがって
どうした?」


几鍔まで、いたっけ?


「ちょっと、几鍔、あんたなんでっ
“女子会”にいるわけ?」

「まぁた、夕鈴ったら。
照れちゃってぇ。
几鍔さんがお待ちかねよ~」

明玉がニヤニヤしてペチペチと背中を叩く。

几鍔はガッシリと私の両肩を掴んでガクガク揺さぶった。

「おい、しっかりしろよ!?
なに寝ぼけてんだ
一緒に帰るんだろ?」

「几鍔さんとスイートホームにお帰りって♪
きゃ♪いいわねっ夕鈴ったら」

「ちょ、明玉?
わたし、違っ…
ちょっと、几鍔っ

離れてって言ってるでしょ、止してよ!?
怒るわよっ?」


「あら?なぁに、夕鈴ったら、
他に誰か好きな人でもいるっていうの?
まーっ! これだから、下町の悪女っていうのは…」


「だから、私の好きな人は…!
――――… あの。

だから…
私の好きなひとは…
―――――― …。」


…言えない。


夕鈴はジワリと涙ぐんだ。

「ほーら♪ 可愛いったら。
本人眼の前にすると言えないものよね~
几鍔さん、さ、ちゃっちゃとお家にさらって行っちゃって♪」

「止めてってば!
だから私は……が」


「馬鹿だな、何言ってんだよテメー。
今更よぉ
一緒に帰るんだろ?」


――マジ?!

几鍔が手に力をこめ、私を引っ張る。


「やめてっ!
金貸しなんか、大嫌いだってばっ!
金輪際、近づかないでって言ってるでしょ!?
引っ張ったら、痛いってば
触らないでよっ!?」

「夕鈴たら、照れちゃって~
ほらっ
ちゃんと几鍔さんにギューギューしちゃって
暖めてもらいなさいって!
几鍔さーん、この子、しっかり捕まえて離さないでねっ!」

「ったりめーだ!

いくぜっ?」



風が冷たい。


…やめて…!
やめてってば?!

雪が顔に叩きつけられる。


グルグル手足が巻き付けられて
ギューギュー縛り付けられて
ピクリとも動かせない

抱き上げられて…
空中でグルグル回される。


世の中がひっくり返って
耳元でビュービューと恐ろしい風切音が聞こえる。


――やだっ!
ちょ、ちょっと待って?

どこに連れてくの?




やだ。

…やめてよ、あんたじゃ、嫌!



―――陛下っ

陛下じゃなきゃ、やだっ!

陛下じゃなきゃ、… 

陛下…!




「へ か…
や…!!」

夕鈴は涙を振り絞って叫んだ―――――



「―――夕鈴。

すまない。

お願いだから、暴れないで」


ビュビュウと叩きつける風のなかから、低い声がした。

陛下の声。

「――へっ!?」

夕鈴は、ハッと我に戻った。


(あれ、明玉は?

几鍔のバカは…?)


眼の前に黒いツヤツヤした髪と毛皮に覆われたうなじが見えた。

轟々と吹き荒れる雪氷が、頬を打つ。
真っ白に煙る闇は嵐の渦中。


夕鈴は、陛下の背中に縛り付けられて揺られていた。

「…あ… へ か…?」

(…陛下…だったんですか?)
夕鈴はホッとして脱力した

口がうまく動かない。



「私では―――
嫌だった?」


「……?」


「さっきから
『几鍔』クンがどうとか、
『やめて』とか『いや』とか
暴れるし…」


黎翔は云いながら、ズキンと胸に痛みを覚える。
それでも必死で先に雪の中を進む。

「ち…ちあう」

『違う』と言いたいけれど、舌がうまく回らない。
夕鈴は朦朧としながら、さっき明玉たちがいたのは夢だったと知る。


「―――心配した」

激しい動悸が伝わってくる。
必死に雪をかき分け、先を急ぐ黎翔は、言葉少なだった。



「…ごめ  …い」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい、陛下…。




* * * * * * * * * * * * * * *

雪原の中、嵐に翻弄されながらも黎翔は進み、微かに痕跡を残していたカマクラを発見した時は心底ほっとした。

慌てて積もった雪をかき分け、入口あたりを塞いであった敷布をどけ、カマクラに四つ這いで手を伸ばした。

何かに触れた。

…夕鈴の脚?

さらに雪氷をかき分け、カマクラの中に入ってみると、真っ暗な中に確かに人が倒れている。

黎翔は足元からすがりつくよう、その身体を引き寄せた。
慌てて携帯していた小さな灯に火を灯す。


ボッと灯りが灯ると横たわった人体が陰と共に浮かび上がる。
顔の方へ灯りを向ける。…青白い夕鈴の顔が浮かんだ。

黎翔は心臓を握り潰されるような痛みを覚えた。



身体は氷のように冷え切って意識がない。

黎翔は顔を覆っていた布を外し、あわてて胸に耳を当てる。

かすかに息はあった。

手袋を外し、素手でペチペチと頬を叩く。

「起きろ!夕鈴!
寝ちゃだめだ…!」と声を掛ける

なんども呼ぶ。

「起きて!夕鈴」

…頬をつねる。

ときおりうっすらと浮上する意識は朦朧としておりすぐに暗闇へ落ちて行ってしまう。

「寒いか?
夕鈴、しっかりしろ!」
背中に手を回し、ゴシゴシこする。



「…きがく」

夕鈴がつぶやいた。

黎翔はズキリと胸が痛んだ。

どこをさまよっているのか…。
なかなか彼女の意識は戻らない。

腕を引き上げるが…だらんと力なく落ちる。

夕鈴…!
君は几鍔の夢を見ているのか…?

眼を醒ませ…
私を見ろ!

黎翔は手足が重たくなり、彼女の肩を攫むとガクガク揺さぶり、覆いかぶさった。


(…ダメだ。
夕鈴の命がかかわってるんだ。

何をしている?
早く助けなくては。)

黎翔は必至で自分を律した。

速やかに毛皮の付いた外套を脱ぎ、彼女をそれでグルグル巻きにして包む。
夕鈴を引き上げ狭いカマクラの中で背負うと、持ってきた縄で彼女の身体を自分の背中にきつく縛りつける。

「…やだ…」と小さく夕鈴が動いた。

黎翔は首を振る。


「ゴメン」
黎翔はそうつぶやくと、テキパキと身支度を整え、脚で思いっきり蹴りカマクラの一部を突き崩すと外への移動を開始した。


夕鈴は黎翔の背中で揺られていた。

そのうち、深い闇の中から微かに意識が浮上した。

身をよじる。


「へ か…

や…!!」

背中の声。

黎翔は唇を引き結び、見えぬ前方をひたすらにらんでいた。


「―――夕鈴。

すまない。

お願いだから、暴れないで」


ビュビュウと叩きつける風のなかで。心から願う。

(…助かってほしい。
だから今は我慢して。)




「――へっ!?」

陛下だったんですか?




「…あ… へ か…?」

陛下、こんな嵐の中…
危ないですよ?

ダメじゃないですか、大切な大切な
この国で一番大切なお方が…無謀なことをなさっては


「私では―――
嫌だった?」


「……?」


「さっきから
『几鍔』クンがどうとか、
『やめて』とか『いや』とか
暴れるし…」


夕鈴は慌てて否定した。

「ち…ちあう」

うまく言えない…。

私、夢を見ていたんです。
明玉や几鍔は…夢だったんです


「―――心配した」


「…ごめ  …い」

ごめんなさい。

私が勝手に離宮をぬけだしたから…
心配かけて、ごめんなさい。


大好きなのに、ごめんなさい。


ごめんなさい、陛下…。


夕鈴は黎翔の背中で揺られ、泣きながら心の中で謝っていた。


* * * * * * * * * * * * * * *

離宮に近づいたのか、遠くに灯火がチラチラと増え始めた。

近づいていくに従い、妃を探して大勢の人達が灯火を手に手に、声をあげ鈴を鳴らし、竿を片手に雪を突きながら大捜索が行われている状況だと分かってきて、夕鈴はズキンとした。

…こんな大事になっていたの?

「陛下っ!」

主人の気配に、いの一番に李順が気付いた。

眼鏡にはビッシリと雪がへばりつき、前髪からはしずくが垂れている。
良く通る声で手近にいる者に即座に指示を出す。

「戻りです!
あちらへ。
急ぎ手を貸しなさいっ!」
と周辺の者たちは一斉に振り返った。

ざわざわと騒がしい男たちが近づいてきて取り囲まれる。
夕鈴は黎翔の背中に顔を押し付けてギュッと眼をつぶった。


「お妃さまは?」

「――連れ帰った」

「何よりです
…さあ、早く中へ。

陛下も…びしょ濡れではありませんか!?
お風邪でもひかれたらどうします!
急いでお手当を!!」


部屋に入るなり、黎翔はその身に縛り付けていた縄をほどき、
大切に夕鈴を抱えるとそっと降ろした。

女官らが四方八方から助けながら、冬装束を解く。
顔をグルグル巻きにしていた布を外し、長靴を脱がせ、手袋を外させる。
辺りはしずくでビショビショになった。

胴着を脱ぐと、黎翔の肌から汗が蒸気になって立ち上る。


一方夕鈴は、黎翔の大きな毛皮製外套で包まれていたが、身体は冷え切り、濡れそぼっている。

張り付いた前髪、紫青な唇…。

黎翔はその姿を真正面から燃える赤い眼でとらえると、両手が吸いつけられるように夕鈴の頬へと伸びた。

離宮の侍医が小瓶を差し出す。

「体を暖める気付け薬です」

横から差し出された小瓶を片手でスッと取り、黎翔はやおら自ら含むと夕鈴の口元へそれを運んだ。

口移しに液体が夕鈴に届く。

「―――んんんん~~~っ!!!」

驚いた夕鈴はあまりのことに軽いパニックをおこした。

軽い抵抗を感じたが、黎翔は強く唇を押し付け、離さない。

(温かい…陛下のお熱。)

夕鈴は目をつぶったまま、ふと力が抜けた。

唇を開く…。

トロリと液体が流れ込み口の粘膜にふれたとたん、苦みと、カーッと熱い刺激を生んだ。

「…んっく!」

小さくイヤイヤをする夕鈴は、閉じた目尻から涙を流した。

コクリ、と喉が動いたのを見届けると、黎翔はゆっくり唇を離す。


ペロリと口元を舐める。

(…度数の高い酒で生薬を抽出してるな…)
と黎翔は思ったが身体を芯から暖めるには効果的だろう。


「嫌だろうけど。
今は、飲んで…?
頼む」

もう一度、黎翔は瓶を傾け口に含むと夕鈴の口へと運んだ。

今度は素直に受け入れられ、半開きの唇からするりと液体は飲み下された。

黎翔は夕鈴の両頬を挟んだまま、そおっと唇を離す。


涙をこぼし、濡れたまつ毛をしばたたかせ、夕鈴は目をあけた。


真っ青だった顔の唇と頬に、少し赤みが戻ったような気がする。


「よかった…無事で」

黎翔はホッとして毛皮の外套に埋もれた夕鈴を抱きしめた。

夕鈴は目が覚めたばかりだというのに、口から食道から吸収され、回り始めたアルコールでポーッと目が回ってきた。

カーッと血がめぐりはじめ、耳元でドクンドクンと鼓動がうるさい。
手足がチリチリ針を刺されたように痛みはじめ、
身体の中がグルグル動いた…


「へ、か…」


夕鈴は、クラリと目を回し
再び真っ白な夢の中へと旅立った…。



(つづく)


*
131128ずぶぬれ夕鈴-M

雪うさぎ-5

吹雪の中、夕鈴を救出した陛下。

『女子会』の回。


【バイト妃】【捏造・パラレル】【甘甘】

行事&世界観はあれこれミックスのパラレルSS(サイド・ストーリー)


宜しければ、どうぞ。

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雪うさぎ-5
* * * * * * * * * * * * * * *

離宮自慢の湯で体を暖め、乾いた夜着を身に付けた黎翔。
再び妃の部屋へと向かうべく、隣室の扉に手を掛ける。

『また、ぞろぞろと付き添いの者どもが居るのだろう』と思っていたが、妃の部屋からは人の気配が薄かった。

拍子抜けしながら扉を開けると、寝台に横たえられた夕鈴の傍に、一人だけ。
付き添っている者がいた。

官服姿ではない。

旅装のままの見慣れぬ姿の静麗女官長に黎翔は声をかけた。

「…静麗か?」

「はい。
先ほど戻りました。

この非常時に不在にいたしまして
大変申し訳ございません…」


「いや…。
私がそうさせたのだから」

黎翔は目を伏せた。


「お妃様のお手当は万全にて。
もう落ち着かれました。

ご安心ください」

静麗のことだ、何事にも万全を期しているだろう。
と、黎翔は深い安堵をおぼえた。


乾いた清潔な衣類に身に包まれ
寝台に横たわる夕鈴。

手足の血色が良くなり、頬がほんのりそまっている。

もぞもぞ動くと、
ムニャ、と笑った。

黎翔の表情も思わず和らいだ。



「――ただ。

…ご処方の飲み薬のため―――」

静麗が真面目な顔で目を合わせぬ様に黎翔の方へ向き直った。

「―――大変危うい状態にございます」



「…なにっ?」

黎翔の眼が急に険しくなった。

「御記憶が混乱されたまま
他人に漏らせぬ情報をお口になさる可能性がありましたので
他の者を遠ざけ、私がお守りしておりました」

「…分かった」

黎翔は少し慌てた。


「暫く私がかわる。

お前は戻ったばかりで疲れているだろう。
旅装を解いてこい」


「畏(かしこ)まりました」

黎翔は夕鈴のほうをじっと見つめたまま、静麗に命を下す。

「…そのまま待機せよ
いや、
休めるとき休んでおけ。

必要があれば、呼ぶ

他の者は近づけぬよう」

「――御意」


静麗は跪拝をすると、音もなく下がった。


* * * * * * * * * * * * * * *

「さむ、い…」


うわごと?

黎翔は夕鈴を見つめる。
眉根をかるく寄せ、薬酒に酔い熱っぽく艶のある唇が動く。

「さむい…

さむい…

寒いです。

…陛下。」



(え?

今、私を?)


黎翔の胸はドキと跳ねた。


「…そのような顔で呟かれては…

罠と分かっていても
誘いにのってしまうな…」

黎翔は苦笑した。


寝台の布団の端をめくり、体を滑り込ませた。


彼女と少し距離をとり、横たわる。

肘枕をして彼女の寝姿を見守る。

軽く額を触れる。…体温は戻っている。

首筋に指をはわせる。
トクントクンと力強い脈動が指の腹に伝わる。


「…静麗。
どこが、危険な状態なのだ…?」

黎翔はつぶやき、首をかしげた。



…ゆうりん
君に嫌われて。
―――拒絶されるのは、辛い。


黎翔は触れていた指をはなし、ため息を一ついた。



彼女は、すぅ…すぅ…と吐息をもらし、
穏やかな表情に戻っている。

黎翔は穏やかな夕鈴から目を離さない。
みつめ続ける。


「―――私を翻弄して。
悪い妃だ」

頬にかかったひと房を指ですいて絡めとると、
滑らかな髪の束が指の間を滑りぬけてゆく感触を楽しむ。


「…そのくせ、
きみは、几鍔のことを、考えているのか?」

黎翔は寂しげに、意識のない彼女を責めた。




―――救出の際、
意識が混濁した彼女は
几鍔の名を呼び、

自分を拒絶したのだ―――、



黎翔の胸の内には忸怩たる思いがわだかまっていた。




ビクと夕鈴の身体が突然、跳ねた。

「寒い…!」

夕鈴は急に大きな声を出した。

「え?」
黎翔はドキとする。


「めいぎょくぅ~!
寒いから、
もっと炭を足してよ?」

「あ…」
黎翔はオロオロとした。

「…明玉ったら、…
××じゃない?

…××で

やっぱり私の…××

よく分かってる。うん。
ありがと~。
やっぱり親友ね~~」

夕鈴は、コロリと向きを変えると
ガバリと黎翔に抱き付いた。


(もしかして、夕鈴。ぼくのこと
友達の明玉と間違えてる?)


腕を体に回しギューっと抱きしめられた。
胸に顔を埋め、嬉しそうにすり寄ってくる彼女の可愛らしさ。

不覚にも黎翔は思わずかぁっと身体の熱が上がってしまった。



…おい、まて。

『危険』というは

―――これのコトか?

静麗…。

真面目な顔をして、想像以上に意地悪だな?




抱きしめ返して良いのか、迷う。

眼が醒め
私と気づき
怯え
「大嫌い!」
…と、泣いて責められるのは、正直辛い。

罠だ。
これは罠だ。

…罠だから…

ね?
罠でしょ?

お願いだから、足を絡めないで?夕鈴…(苦笑)


あーーだから、足は絡めないでって。
密着しちゃうよ?

あぁ、暖かいのがいいんだ…
うん。

――じゃあ、二人で暖まろう、か。


「仕方ない」

言い訳しながら、
黎翔は彼女をこわごわ…だが嬉しそうに、抱きしめた。

「これって、ヤクトク?
それとも、やっぱり、罠?」



胸に顔を摺り寄せた夕鈴の意識がまた浮上してくる。

「――明玉ぅ?」

うっすら目をあける。

「ああ、はいはい、
なに、夕鈴」

キョトンと夕鈴を見返す黎翔。

目が覚めたのかな…?
でも、逃げない?

大声で叫ぶようなら…
と、
黎翔はいつでも口をふさげるように手を準備した。


じーっ…と目を合わせた後

「明玉ったら。おかしい!」

夕鈴は黎翔をみつめ、クスクスと明るく笑った。


大丈夫、なんだ。
じゃあ。
…とりあえず相手をしてみよっか。


「さっきの続きだけど」
夕鈴は手を振りながら、首を振る。

ああ、話し、続いてるんだ。ちゃんと。
…ふぅん。


「ああ、うん」

適当に相槌を打つ。

なんだか、起きてるみたいなんだけど。
本当に明玉に見えてるのかな?


「几鍔…」
彼女の唇から飛び出した人の名に、
…ドクン!と黎翔の胸は一撃を受ける。

「…を、勝手に私へ押しつけないでってばぁ!?」

想像した言葉と違う内容で、黎翔はホッとする。


「――押し付け?」

「そう、あんた。すぐ、
几鍔と私をくっつけようって、お節介ばっかり!!

も、ホン・トーに!!
これっぽっちもっ!!
そんな気まったくないから。

いい?
この際、はっきり言っておくから。
よぉく覚えておいてちょうだい!!

最悪・最低のっ!!
口の悪い金貸し男とくっつけられても
迷惑だってばぁ…」


夕鈴は怒ってドンと拳を黎翔の胸に叩きつける。

イタたた 夕鈴、本気で度付いてる。


「--え、でも。
実は、
まんざらじゃなさそうな…」

黎翔は慎重に質問をしてみた。


「やーーめーーーてっ!

それっ、いい加減にしてって!

二度と勝手に、
几鍔なんかとくっつけないでって
言ってるでしょ~?
もうっ!!」

夕鈴はプリプリ怒っている。

これは…。

 完全に …酔っ払いだ。




「じゃあ、なに?
夕鈴には、他に好きな人でも…?」

(この際だ、明玉に成り代わって女子トークに参加させてもらおう)

ここに至って、黎翔は楽しくなってきた。


「…好きな、ヒト?」

夕鈴はうろんな表情で目をきょろきょろさせた。


「几鍔はナイとして。
じゃあ別に、本命がいるの?

あー、あの。お役人の李翔さん、とか?」

黎翔。
もうひと押ししてみる。

夕鈴の眼が据わってる。

「だ~~か~~ら~!
悪女とか、
勝手に言いふらさないでよぉ!?

そんなんじゃないってばぁ…」

ダメだ、カスらない…。
少し期待していただけに、拍子抜けの黎翔。

ならば、別のアプローチ。


「夕鈴は、
いったい誰が好きなの?

本当に好きな人は、誰?

…教えて?」


囁く様に、耳元に。

「明玉、くすぐったい!」

「教えて?

夕鈴が一番好きな人って、

ほんとは
---誰?」



黎翔は夕鈴を抱きしめ、逃がさないようにその耳にささやく。

「…言えません」

夕鈴は、プイと横を向いた。


「えーー?」

残念…、ダメか。


「いくら親友の明玉だからって」

夕鈴は、もじもじうつむいた。
おや?
これは、もしかして。…まだ押せる?


「でも、夕鈴。
君には貸しがあるよ?
ペナルティ。

言わないと、許さない」


あ、しまった。
ちょっと固い言い方だったか?


「ええええーーー?
…明玉。
それって、ズルい」

大丈夫、夕鈴酔っぱらってるから、脳内変換してる感じ。
ちゃんと会話、続いてるみたいだな。


「大丈夫、秘密は守るから」

「ほんと?」

「うん、絶対。誰にも言わない」

結構ノルなぁ…






「…眠い」

え?急に反応が鈍くなる。

「え?!
ちょっと、今いいとこ…」



「…



だめ、

眠 い…」



ああ…
意識がまた消えて…


夕鈴はスースーと寝息をたてながら、寝入ってしまった。




「…」


黎翔はがっくり肩を落とした。

酔っ払い夕鈴から聴きだしたこれまでの内容を、もう一度頭の中で整理し、悶々とする。



夕鈴は、明玉に几鍔を押し付けられて
それを嫌がって逃げている。

あのときも、そんな夢を見ていたのかな…?

だと、いいなぁ…。


腕の中の彼女をぎゅっと抱きしめて。
良い香りのする髪の中に顔を埋めた。



しばらくすると、また夕鈴がピクリとうごいた。

ふぅっと意識が浮上したようだ。


「あのね…」


「うん。」

…まだ、あの話しは、続いてる?
それとも、別の世界?

黎翔は固唾をのんで
腕の中の夕鈴の顔を覗き込んだ。

「一番、好きなひと、ね?」

「うん」

よかった。…続いてる。

コクと頷き、黎翔は神妙に次の言葉を待った。


「…あの、ね?

その。

ぜったい、口にはできない


お名前、なの。」



「---- ?」



「庶民の私たちは
…口にしちゃダメな、

特別な

お名前、なの」


「え…?」

黎翔の胸は高鳴った。
…もしかして。

それって…?


「一度だけ、聞かせて?
ナイショだから。
明玉、すぐ忘れる。うん。」



「ほんとうに?

…明玉、約束できる?
すぐ、忘れてくれる?

誰にも、言わない?」


夕鈴は真っ赤になって戸惑いながら目を伏せる。


「大丈夫、安心して。

…誰にも、言わない」


背中を優しく撫でる。


「…」


―――沈黙が続く。

なかなか言い出せないようだ。


「ほら?」

明玉役の黎翔は、優しく促す。


夕鈴はすぅっと大きく息を吸い込むと、
はぁ…と吐いて

それから、ゆっくりと唇が動いた。

「――――れいしょう、 さま」


夕鈴はそう言うと脱力し、安らいだ表情になった。



そして、それはそれは蕩けそうな乙女の顔で

「…だいすき」

とつぶやき。



こんどこそ、深い眠りに落ちて行った。





(つづく)


*

雪うさぎ-6

夢の中の告白の翌朝。


【バイト妃】【捏造・パラレル】【オリキャラ】
【可愛い嘘。笑って許して】

行事&世界観はあれこれミックスのパラレルSS


宜しければ、どうぞ。

* * * * * * * * * * * * * * *
雪うさぎ-6
* * * * * * * * * * * * * * *


翌朝、夕鈴が目を覚ますと傍に女官長が控えていた。

「お目覚めですか?」

女官長は優しく微笑んだ。

「あ、おはようございます」
夕鈴は明るい光にまつ毛をしばたたいた。

なんだか頭が重い…。
手足がだるい。

「大丈夫ですか?」

「は? …はい」


「昨日は申し訳ございませんでした
お妃様の一大事に不在にするなど…」

静麗女官長は、寝台から少し離れた場所に下がり、
床に膝まづくと深々と額を擦り付けて謝った。


「え?や、やめてくださいっ!
女官長さん
頭をお上げくださっ!」

夕鈴が叫ぶ。
静麗は申し訳なさそうに頭を揚げた。

「…その、昨日は…私が悪かったのです。
一人で外に出るなど…
悪いのは私です。


―――陛下はっ…!?」

夕鈴はハッとした。
夕鈴は、昨日、救出された時の記憶が断片的に思い出された。
夢と入り交じり、何が本当だかよく分からない。

「お隣のお部屋でお休みです」

夕鈴はあわてて体を起こし

「…お詫びを…!」
と素足のまま寝台から飛び起きようとした。


「…あ、お妃さま…!?
急に起きてはなりません!!

手足には布が巻かれていることに気が付いた。

静麗女官長から温石(おんじゃく)を渡される。


「よく、暖め、血の巡りをよくいたしませんと。

後程、離宮自慢の温泉にてお浸かりいただき、
血の巡りをよくするマッサージも行いましょう。

…昨日は本当に、大変な目にお会いになったのですよ…?
お身体が芯まで冷え切り、手足に凍瘡(しもやけ)をおこしております。
心配いたしましたが、軽く済みそうでなによりでございました」

と寝台に押さえつけられた。


その時、そっと隣室からの扉が開き、寝間着に上着を羽織った黎翔が現れた。

「…わが妃の具合はどうか?」

黎翔の顔色は悪く、頬や目の下に影が落ちていた。

「ご心配には及びません、わが君」

静麗は落ち着き払った返事をしたが
夕鈴は黎翔の顔を見て驚いた。

「陛下っ!? どうしたんですか…?!」


げっそりとしているのだ。

このように憔悴した黎翔の顔をは見たことがない。

常日頃は、長身のその体躯からはらみなぎる覇気が身を包み
気高く鮮やかな身のこなしをする、あの陛下が…?!


「…へっ 陛下っ!?
ご病気ですかっ!?

もしかして…
私を助け出そうと…
お風邪をっ…?!」

夕鈴は慌てて裸足のまま寝台を駆けおり、
黎翔の元に走り寄ると手にしていた温石を放り投げ、
黎翔の額にペタリと手を当てようとした…

が、治療の為手にまきつけられた両手の包帯に気が付く。

「えーい!」と
黎翔の首に手を回し首筋にかじりつくと、
コツンと額と額をあわせた。

夕鈴の想定外の行動に
黎翔は息が止まるかと思った。

ボッと熱があがる。

「…大変ですッ!?
陛下、お熱がっ!?
どうしましょうっ
ごめんなさい、ごめんなさい陛下~~っ!?」

オロオロする夕鈴に、
静麗女官長がとりなした。


「夕鈴様、
どうか落ち着きくださいませ」



夕鈴の女子会の夢の中で告白をされ、天にも昇る思いではあったものの、手も出せず。
夕鈴の身体から薬酒が抜けるまで目がはなせず。
手足を絡められたまま朝まで拘束されつづけた黎翔。


それはそれは辛い一晩を送った。


早朝に世話に入った静麗と入れ違いに、ようやく拷問から解放され自室に戻ったのであった。


* * * * * * * * * * * * * * *

まだ朝の光の届かぬ蒼い闇の中。

彼女が“わざと”気配を露わに部屋へ入ってきたとき、黎翔は心底ほっとしたのだった。

「そろそろ、お役をお代りいたしましょうか」

「頼む」


黎翔は、妃を抱きしめたまま、ぶ然として背中の気配に向かってつぶやいた。

「静麗。
―――私は、明玉に似ていると思うか?」

「明玉…?」

「下町にいる、夕鈴の親友だ」

(ああ…あの方)
静麗は下町に潜んだときに見かけた飯店の看板娘の顔を脳裏に浮かべた。


「畏れながら、…さほど。」

静麗はごく真面目に答えを返した。

「…そうか」
ホッとして黎翔は答える。


「心安らぐお相手とお思いになったのでは?

心行くまで話したいお相手、だと。

普段、口にできず心の澱になっていること
一番気になっていること、
欲していることが
夢の中で体現されたのでございましょう。


…私は“墓石”でございました」


「“墓石”…?」

黎翔はきょとんとした。

「夕鈴様の、母上の」

平然としている静麗とは対照的に
…クっと黎翔の背中が揺れた。


「―――で?

彼女は墓石相手に、何を」


「抱きしめられ。
拝まれ。
日々のご苦労を語られました。

…プロ妃として、夕鈴様が日々の研鑽されていらっしゃる具体的なご様子がほとんどでございます。
その中でも“特にお困りになるシチュエーション”は大変詳細に。
他に、李順様の成されようと、その対処法について、また借金の返済状況など。
…様々にございます」


「…ああ…」

黎翔は手で目を覆った。


(しかし。
それも
―――聞いてみたかったな)

黎翔は口にしたわけではなかった。
しかし静麗は返す。


「聞かれたことを知ったら、
穴に入ってしまわれましょう」


普段笑うことのない間柄の二人の間にながれる静かな笑い。


「主上…?」

「何だ」

「お目覚めになりましたら」

「…ん」

「お任せいただけますか?」


「-―――…?」

「では
しばしお休みくださいませ。
あとは私が」



* * * * * * * * * * * * * * *

朝。
憔悴しきった様子で現れた黎翔に、夕鈴は慌てた。

「―――陛下、どうか早く横に!!」

夕鈴が声をかける。

「は?」

黎翔はぐいぐいと寝台のほうへと押しやられた。

「夕鈴っ…!
まて」

「いえっ!
陛下に何かあったら
私、死んでもお詫びができませんっ!!!」

夕鈴は泣きそうだった。


「お妃様!落ち着きくださいませ。
大きな声をお出しになりますと
皆が…」

静麗が低い声で。

「…陛下。お妃様もおっしゃっております
一度、お横におなりくださいませ」


「え?」

黎翔はぎゅうぎゅうと夕鈴のぬくもりの残る寝台へ押し込まれた。

静麗女官長から、新しい温石(おんじゃく)を包んだ布包みを渡される。
夕鈴は手に温められた石を持ち、陛下の身体の傍へと差し入れる。
次々と石をいれ、安心する。

「夕鈴様も…裸足では
悪化いたします」

手に温石を渡され、
寝台の端に腰かけさせられる。

夕鈴の足を静麗女官長が温石を当て暖め、刺激にならない程度に柔らかくさする。



「畏れながら、お妃様。
…おり入りって
ご相談がございます」

治療を行いながら女官長が畏まって口火を切った。


「はい。なんでしょう」

足の治療をされながら、申し訳なさそうに夕鈴は答えた。


「実は。
陛下は昨日あなた様の救出で
身も心も冷え、疲れておいでです」

(え?)
当の黎翔はキョトンとした。


「…は、はい…。」
ションボリとする夕鈴。


「また、お妃様ご自身のお身体も、寒さで傷ついておいでです」

「…あ」
夕鈴は自分の手足にグルグル巻かれた包帯を見つめた。


静麗は深刻な声で説明を続ける。

「…運よく、寒さで体の組織が壊死してしまう“凍傷”に至らなかったとはいえ。
凍瘡(しもやけ)は最初の治療が肝心でございます。

手当、治療を軽んじてはなりません。

寒さにあたり、後になって手足を切り落とさねばならなくなった例は数限りなくございます。
けっして、侮ってはなりません」


(手足を…切り落とす?)
「…はっ、はいっ!」

夕鈴はゾッとして、姿勢を正した。

「…それで、最初の治療とは?」

夕鈴は真剣な表情で、女官長の言葉に耳を傾けた。


「湯や温石(おんじゃく)で温める治療もおこないますが、
温めすぎるとカユくなりますゆえ。
長時間の治療には“人肌”が特効薬にございます」

夕鈴は温石を包んでいた自分の手を確かめる。


確かに。温石を手にしている指先が…
むずむずと…かゆい。


「人肌?」

「人の体温で温めるのでございます」

「陛下も?…ですか」

「もちろん。
わが君にも必要な治療でございます」


「…そこで、ご相談と申しますのは…」

「相談?」

「離宮の女官らの中から、ご人選を早急に、と仰せつかっているのですが…
その人選を…」


人選…?!

陛下のお身体を、暖めるっ?
あの綺麗な女官さんたちが~~~っ!!??

「李順殿にお任せしてもよいのですが。
女性の立場からお妃様にお選びいただいたほうが良いのでは、と」

夕鈴は蒼白になった。

「――だっ!だっ!!
ダメですっ!!!」


夕鈴はとっさに叫んだ。
ハッとなって、口を塞いだ。


「そそそそ…そんな、
陛下のお傍に仕える大役の人選を…
私ごときが選び決めることなど…

…あのその
…へへ陛下が
そのお気に入りの方がお見えならば…

わ、私には…
その
止めることもできませんが」

ぎゅと胸が痛む。

夕鈴は、涙が出そうになった。


(陛下にとって必要な『大切な治療』に。
ヤキモチ焼くなんて、どうかしてる

単なるバイト妃が…。
そんなこと、言える立場じゃないのに…。

…でも、嫌。)

夕鈴は涙をこらえるので必死だった。



そのとき。

「…妃が良い」

黎翔がポツリと。



「君の方がひどいしもやけなのに…」


「え?」


「なにも、別々に治療を受けずとも…。
二人同時には出来ぬのか?

…君の身体が気になり、おいおい治療に専念できぬ」


と黎翔が向こうをむいたまま。


「君が嫌なら…仕方ない

妃の体が優先だ。
私のことは放っておいてくれ」

…垂れた耳が見える。



夕鈴の胸に刺さった。


「私のために。
傷ついた陛下をお助けするためです!

当然。
私がご看病をっ…!!」


夕鈴は雄々しく名乗りを上げた。







(つづく)


*



雪うさぎ-7

雪のおかげで兎がお皿に乗って…。
必殺闇の仕掛人と、弱みを見せれば漬け込む奔放なお方のファインプレー。

据え膳食わず我慢した、おヤツレ陛下に、ご褒美の回。


【バイト妃】【捏造・パラレル】【甘甘甘】

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宜しければ、どうぞ。

* * * * * * * * * * * * * * *
雪うさぎ-7
* * * * * * * * * * * * * * *


「容態が安定した」という報を受けた李順は、国王夫妻の部屋へ足を運んだ。

妃の部屋で寝台で並び横たわっている二人を見て、ユラリと髪が揺らめき逆立つ。

(こーむーすーーーめーーー?!!!)

地獄の底から、ギチギチギチ…と歯噛みする音が聞こえるような気がする。
夕鈴は肩を竦め後ろを振り向きギュッと目を閉じた。

しかし黎翔は何事もない平常の表情で李順を見詰め返した。

静麗が丸め込んだ侍医より『治療』についての説明が既になされていた李順は、一瞬のど元までこみ上げたものをぐっとこらえた。

反射する眼鏡をクイッと押し上げ、礼を尽くした態度で主人に丁寧なあいさつを奏上する。


「…陛下のご容体は」

「治療を優先すれば問題ない」

じっと眼鏡の奥から見つめる。
黎翔はサラっとした顔で顔色一つ変えない。


(捜索から無事お戻りになったときは、ピンシャンしてたではありませんかっ!?)

(今日は一日ゆーりんから離れないっ!! ”治療”に専念する!)

…二人の駆け引きが水面下で行われているとははた目にはわかるまい。


「お妃様のお身体は…?」

「思ったほど悪くはない。心配をかけた」

「それは、不幸中の幸い、
本当に良うございました…」

李順の口から安堵の吐息が漏れた。




しかし、その後は想像通り『昨日のこと』についてガミガミ二人に説教が始まった。


「大事に至らなかったとはいえ…
もし一歩間違ってたらどうするおつもりですかっ!
私は、生きた心地もいたしませんでした。

“冬の恐ろしさ”の侮ってはなりませんよ!

そもそも、お二人とも。
分別というものは無いのですかっ?
どれほど周りを心配させられたことか!

あなた方のなさった『無謀な冒険』のため
国をも揺るがしかねない危機を迎えていたという事実を
今一度真摯にお考えくださいっ!!」

「―――申し訳ありません」

夕鈴はうなだれた。

「陛下や浩大の『無茶』をお手本になさっていただいては困ります!

陛下の『お忍び術』の真似をなさるなど…
言語道断ですっ!!

まったく、悪いことばかり真似をして…」

ブツブツと李順は愚痴を連ねる。




黎翔は静かに問うた。

「…管理責任者は誰だ?」


「―――!!
私ですよっ!!

ええ、ええっ!そうですともっ!

この北の離宮ツアーの引率責任も、
カマクラ遊びの総責任者も、私ですッ!!

ですが、
お二人は集団行動のマナーとルールが欠けております!

心臓が持ちませんっ!」


「それは悪かった」

黎翔はあっさりと謝る。

李順のたぎる説教魂の火力は衰えない。

「…本当に悪かったとお思いですか?
…そもそも、夕鈴殿!
貴女は妃として、どうあるべきか!もっとしっかり学んでいただかなければならないようです!」

「李順、よせ。病人に」

「…では、それは。
後日、王宮に戻ったら、みっちり、ぎっちり組ませて頂きましょう」

夕鈴はゾっとした。

黎翔が矛先を変える。

「…それで、本日の予定は」

「ええっ!
お二人がそのような状態では仕方がありませんっ!
…今日の前夜祭の宴はご欠席で」

「そうか」

「カマクラ遊びも中止ですっ!!」

「中止、なぜ?」

「あたりまえでしょう!?
お二人とも病床で。何をおっしゃいますか。

それに、朝方見てまいりましたが…
カマクラは雪に埋もれ、壁は崩れ大破しておりました
使い物にはなりません」


(…ああ、そういえば
夕鈴を背負って出るとき、壁を蹴破ったっけ)

黎翔は思い出した。


「…え?
カマクラ遊び、できないんですか?」

夕鈴が残念そうに。

「夕鈴殿っ!
あれほどのことがあったのに。
まだ懲りてないんですかっ?」

「…でも。
一度失敗して、悪い思い出のままにしたくないんです…。

陛下が『一度もカマクラで遊んだことがない』とおっしゃっていたので。

陛下のために、素敵な思い出を作りたいって
私本当に楽しみにしていたんです…

それを、私の勝手でダメにしてしまって
申し訳ないです」

と泣きそうな顔になった。

「…李順?」

「は?」

「―――李順。」

黎翔が重ねる。


「…分かりました」
ハァ…と李順が眼鏡を外して手布でキュキュと拭く。

「…一度言い出したら、
聴きゃしないんだから…まったく」

ブツブツいいながら李順は

「ともかく。
…明日の開会式は必ずお二人ともご出席いただきます!!

カマクラはまた別日にセッティングしておきましょう
とにかく今日は一日、衆人監視の元、治療にご専念下さいませ!!」

李順は飲みこんだ。

「任せる」

はぁ…と言いながら、急いでやるべきことが増えた、とばかり、李順は足早に次の仕事へと取り掛かった。



* * * * * * * * * * * * * * *

その後『絶対安静』が解除がされた途端、離宮側の女官、侍女たちが、高貴なる方々のお部屋へ入れ替わり立ち代わりで詰めた。

『離宮側としても十分な対応をしております』という対面のために
甲斐甲斐しい世話が行われた。


その日は、妃の寝台に国王と妃は釘付けになり
囲まれかしずかれ、食べるも寝るも、ずっとお二人で。


寝台で横になり、抱き合うようにお互いを暖めあう。


夕鈴はそれが『治療』と思い込んでいるので、恥ずかしさを押さえ込み、必死で黎翔の身体にすがりついていた。

「…すごく恥ずかしいです」
ヒソとささやく。

「治療だから」

「…仕方ありません」
真っ赤になった妃を更に抱き寄せる。

二人は無言で暫く見つめ合い、再び耳元に小さな繰り言を。


傍目からみれば仲睦まじい限り。


ひそっと低い声が夕鈴の耳に響く。

「さあ、夕鈴。しっかりお仕事してね?
国王夫妻の熱愛っぷりをしっかり離宮でも演技しなきゃ」

夕鈴が赤くなって見上げれば、黎翔はやつれた頬ながらもウキウキと嬉しそう。


陛下はツイっと妃の手をとる。
包帯が巻かれ痛々しいその手をさする。

その瞬間、黎翔の眼が怪しい色気を帯びた。

---夕鈴の耳には『戦いのゴング』が鳴り響く。


「憂い顔もことのほか胸をさすが、
やはり君の笑顔が一番だ。はやく元気になって私を慰めておくれ」

黎翔は夕鈴の手の包帯の上から軽く口づけた。

(きーーーたーーーーっ!!!)


「…包帯をほどいてみてもよいか?
見せてくれ。
君のあの愛らしい手がどのようなのか
…確かめたい」

夕鈴の手の包帯をほどく黎翔の指の動きは、無駄なほど色っぽい。

(ぎゃあーー!? なにするんですかっ)

赤くなっている手は少し腫れてむくんでいた。

「かわいそうに…」
黎翔がゆっくりと唇で触れる。

(…ひっ!)

「…このように赤く腫らして
…薬を塗ってあげよう」

夕鈴の胸がキュンと鳴る


視線を振り向けると、すぐに静麗女官長がしもやけの特効薬の軟膏の入った小壺を手渡す。

黎翔は軟膏を自らの指で掬うと、丁寧に妃の手に薄く塗り拡げる。
指先、指の股、手の甲、手首、肘…。
そしてまた指の間に絡めあい、ゆるゆると優しくマッサージを繰り返し、最後に一つ口づけを落とした。

黎翔にされるがままの間、周りを取り巻く離宮の女官たちの視線にさらされ、夕鈴はプロ妃の仮面をかぶり正気を保つことで必死に耐えた。

(へ、へ、へ、へいか…
いつにもましてオーバーです…!!!
甘々マックスで、私どうにかなりそう…)
夕鈴の体内の圧力は否応なしに高まり、今にも吹き飛びそう。

黎翔は夕鈴の手からそっと唇を離すと、自分の懐に導く。
胸に押し当て、心配そうにつぶやく。

「どうだ、痛くないか? かゆい?」

(ギャー!! ふ、ふ、懐っ!!
お、押し付けないでくださいっ)

気を確かに!!
ここはプロ妃の維持を見せて、頑張るのよっ!!

「い、痛みは…かなり和らぎました

陛下の甲斐甲斐しくしていただき、勿体ないことです。
もう大丈夫ですから…」

にっこりとほほ笑みを浮かべ、手を引き抜こうとすれば
頬へと押し当てられ、指を絡められる。


「いや…まだまだ。
足りぬようだ…

我が掌中の珠の妃の手。
念には念を入れ、元通りに戻してあげなければ。

…ああ、こちらの手もお出し」


今度は反対の手を掬い取られ包帯を外されると、唇でひとしきり触れ、また丹念に薬を塗られる。

チラと黎翔の視線が布団の中に隠れている足元のほうへと…

「妃の愛らしい足は…」

(ひっ!? 足は…足だけはご勘弁くださいっ!!)

白目をむいて、必死に夕鈴はパクパクと告げた。


黎翔は(クス)と内心で笑い、そこは勘弁してやろうと思った。

「…すまないが、女官長。診てやってもらえないか?
私は妃の手の手当てで忙しい…」

「畏まりました」

足は黎翔の魔の手を逃れたものの、その分念入りに両手をもてあそばれることになった。

夕鈴は両手をひとしきり手入れを施される間、
触れられる手の感触にドキドキ脈打ち呼吸困難に陥りそうだった。


「足のお薬は塗りなおしました」
女官長は夕鈴の両足に包帯を手早く巻き直す。


「ほら、おいで」
今度は重ね着した衣の内側に誘われ、温かく包まれる。

もう、どうにかなってしまいそう…
夕鈴は目が回りそうだった。

「―――へ、陛下」

「ん?」


「あ…あの。

『ひと肌で暖めあう』治療のためとはいえ
ここまで密着する必要は…?」

夕鈴がコソッと耳打ちをした。

「非常に…大切だ」

黎翔は、周りに聞こえないよう
夕鈴の耳に唇を密着させ低い声で呟く。


「…密着してないと。治療効果が半減するだろう。

本当は、肌と肌で直接触れ合う方がより効き目が高いというが?
…やってみるか?」

ゾクリと夕鈴の背中に旋律が走る。

(ぎゃ~~~~っ!!!)
夕鈴は真っ赤になり固まる。


黎翔はぷっと吹き出しそうになった。


「うん、良い。
暖かくなった。
赤くなった君は、可愛い

…その火照った唇で、
私を暖めてくれるか…?」

黎翔のいつも以上にエスカレートしている甘々口調に夕鈴は爆発しそうだったが、今日の立場を思い出しこれもプロ妃の腕の見せ所と受けて立った。


「ど、どこをでしょう…か?」

真面目に答える夕鈴に
黎翔は意地悪そうに

「…ああ、冷たい…。手が」と言う。

仕方なく、夕鈴はそっと黎翔の手をとり、
頬に当て、ためらったあげく、そっと唇で触れた。

たしかにちょっと冷えてる…?かもしれない。

…でも結構あったまってる?感じも、する。


「夕鈴。ここも…」
と、黎翔は鼻を指さす。


「えっ―――お顔?」

「耳や鼻は、皮膚がうすく、手足と並んで寒冷障害を受けやすい部分だという」

…とまじめそうに答える。


夕鈴はカーッとして

(無理…)

と胸の内で呟いた。

(私ができないっていったら、
離宮の女官さんの誰かにさせるのかしら…?)

---それは、嫌。

布団の中で寄り添っていた身体がひときわ固くなる。

(でも…私のために、
助けにきてくれたせいで
陛下のお顔に万が一、障害でも残ったら…)

『最初の治療が肝心です』
『後で切り落とすことにも…』

先ほど耳にした怖い話が頭の中をぐるぐると回った。


夕鈴は責任を感じて観念した。

恥ずかしさを封じ込め
おずおずとモゾモゾと布団の中で陛下のお顔近くまで頬をよせ、お鼻をめざす。

陛下の綺麗な瞳がこちらを見つめている。

「へ、陛下…」

「ん?」

「眼を」
「…?」
「眼を閉じていただけますか…?」

(おや、ホンキで…?)と黎翔は思った。

「ああ、…わかった」
…ちょっと声がかすれたかもしれない。
黎翔は、緊張を隠し口を噤むと真面目な顔をして目を閉じた。


そっと近づく熱感。
温かい動物が寄り添うような、ふかふかと息づかいを感じる。

ふわっとした唇が鼻梁の中央に横から乗ってきた。

(…うわ……)

黎翔は背中に走る電流をこらえ、布団の中で接している彼女にこの動揺を知られまいと必死に耐えた。

「このあふぁり(辺り)で、
よろしいでふか?」

「もう少し先も」

夕鈴はモゾモゾと唇を這わせ
「ここでいいでふか?」
と尋ねる。


うわ。感じる…。


(しまった。
…逆に、墓穴を掘ったか)



暫くそのまま温かい感触を堪能していると、
かふかふと夕鈴の息遣いが荒くなってくる。

「…も、もう。
ふぉのくらいで、
いいでふか?」

微かに接したまま、感じる部位で唇を動かされて
更に黎翔は窮地へ陥った。

(ちょっと、反応しちゃうよね…) 苦笑



「もう、少し」


黎翔の鼻に唇を寄せ、黒くて長いまつ毛を見つめていた夕鈴。



まだ…?

その胸中はグルグルと急速に渦巻き動悸はうなぎのぼりに速まる。

黎翔も、
(うわぁ…
夕鈴のドキドキが伝わってくる…

もう、限界…)

と思ったものの、やはり。
この際『墓穴は重ねて掘るべき』かと思いなおす。



「夕鈴。
ここも」

と彼女の後頭部を腕で掻きよせる。

唇と唇がスレスレのところへ、引き寄せた。

「唇が、冷えた」


見つめ合う。

「それ…ほんとですか?」

アップで夕鈴が大きな目をウルウルと揺らす。



「無理?」

「ほんとに…治療、ですか?」


ニコと笑う黎翔。

「…」

(主に心の病の、かな)




(私を助ける為、傷ついた陛下のため。
陛下のため…

陛下のため…)


…夕鈴は何度も決断しようとするが、
さすがに踏みとどまってしまう。

なんども行きつ戻りつ躊躇するたび
モジモジと足を擦り付けた。

いよいよ黎翔も待つのが辛くなり、ついに攻めに回る。



「…では、こんどは私が
君の治療する番だな」


黎翔は目を閉じて…
その唇を合わせた。


……はっ… うっ…



『――――――う、うそつきっ!!

熱いじゃないですかぁっ!!!!』


黎翔は腕を夕鈴の背中に回し、ぎゅと抱きしめた。

(…~~っ!!!) 



~~~~~!

~~!

~~… 

…きゅう…。

眼を回したホカホカの兎が
午睡に入った。





まあ、初々しいこと

と。

有能な仕掛け人の静麗女官長が思ったかどうかは、秘密。



(つづく)


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