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失恋狼。

【ネタバレ】【if】【ねつ造】【陛下モノローグ】

57話、58話のネタバレを含みます。
コミックス派の方はご注意ください。

※陛下の過去の話を盛大にねつ造しています。

暗いお話です。陛下が愚痴ってるだけです。
精神衛生上好ましくないと思われましたらスルーでお願いいたします。


* * * * * * * *
失恋狼。
* * * * * * * *

私は、失った。

私は、終わらせてしまった。
それは、私の手に入るはずのない、ものだった。

嫌われた。
―――いや、嫌わせた。

遠ざかって。

また
私は独りぼっち。置いて行かれる。

* * * * * * * *

薄暗い後宮の廊下を奥へ奥へと進む。

歴代の王が湯水のごとく金をつぎ込み、増築に増築をかさねた後宮は
二千とも三千とも数えきれないほどの室が連なり
その最奥の片隅に、母は小さな室を与えられていた。

それはすなわち、その室の主がこの後宮の妃の中で『最も低い』部類であるということにほかならない。

ところが王は、そんな母に入れ込んだ。
百花繚乱咲き乱れる後宮において、王の寵愛を独り占めにすればタダでは済むまい。
ましてや身分の低い妃とならば、なおさらに。
だからおそらく、母は数々の嫌がらせをうけていた。

あれほど母の食が細かったのは、毒や異物が入ってはいはしないかと、食ひとつにも常に神経をすり減らしていたからと、今となれば思い浮かぶ。

位の高い妃は後宮の入り口すぐ手前の広く絢爛な室が与えられ、付き従う女官侍女の数も格段に多い。

身分の低い妃である母は「侍女」の格すらもたぬ「掛け持ち下女」が付くだけで、その下女も下手な親切は己の身を亡ぼすとよく心得ていた。

だから母は、妃とはいえほぼ身の回りをすべて一人でこなしていたといってよい。
さぞ不自由だった、だろう。

幼い私のことにまで手が回りかねるのは致し方なかった。
―――とにかく私は公子とは名ばかりで、いつも腹を空かせていた。

物心ついたころから、私は人前で声を立てなかった。
ましてや笑うことなど…。

室でうかつに声など立てようものならば、すぐさま母の細い指が伸びてきて、跡が付くほど強引に口をふさがれた。

嫉妬渦巻く後宮では、さぞ居心地はよくなかったのであろう。
一挙手一投足、何から何まで苛(さいな)まれることばかり。

ましてや男児(公子)に恵まれるなど。

「お目立ちになっては、なりませぬ。どうかお静かに」
母はそういって、私の口をふさぎ、叱責し、涙を流した。


私は人のいない静かな場所を探し、いつも独りぼっちで過ごした。
―――誰も私と話などしない。

後宮の「人」というのは、鬼か、影、だ。
どちらにせよ、近づいてはならない。

鬼は悪意をむき出しに、害をなし。
影は私を遠巻きにし、存在しない者として見ぬふりをした。
いつも一定の距離をとり、
私という存在にかかわりを持とうなどと思う者はいなかった。


北の離宮に遠ざけられたころから、母は私の顔を直視しなくなった。

まれに話しかけることがあったとしても、
いつも視線をはずし、語り掛けるというよりはまるで独り言をつぶやいているようだった、と記憶している。

私の赤い瞳が母に如何なる思いを抱かせるのかなど…私には想像できる類のものではなかった。
そして私が長じるにつけ、私は母の恐れの対象となってゆき
ますます距離は遠ざかっていった。


しかし、後宮に比べれば離宮の生活は天と地ほどに異なった。

小さな離宮ではあったが遠く離れたそこに
王宮の醸す毒の霧は及ばない。

田舎育ちの下男下女は、無害だった。

私は自由に書を読み、馬で野原をかけた。
たとえ大声を出そうとも、だれに気兼ねする必要もない。

痩せ細った躯に、肉がつき
己の身体を苛め抜く鍛練に興じ没頭した。

離宮に使える田舎者は私のことを最初こそ「公子」と呼びつつも、
そんな身分違いの子供になぞ接したことのない者どもだから、
結局オロオロしながら「ただの子供」の延長線上で幾分丁重に私を遇した。

私は人との接し方をこの地ではじめて知り、
とまどいながら「他人と話す」ことを知った。
「暖かい食事」を知った。
「優しさ」というものを知った。

人の手のぬくもりを―――。


―――そして、結局。
母は息を引き取るまで、私に優しい言葉のひとつも掛けることはなかった。


優しくしてほしかった。

たった一度でいいから、
離宮の住人親子がしているように

母に
優しく抱かれたかった。

望んでいた夢は永遠にかなわず
母は冷たい墓の下の住人となり果てた。


私は、ひとりぼっちで、置いて行かれたのだ。

* * * * * * * *

君との時間は
実に楽しいものだった。

私には
手に入るはずのない
幸福の真似事だ。


君が「これは演技だ」という私の言葉を
あまりにもまっすぐに信じているものだから
私は、本当のことを言えなかった


それは
優しい兎の君は、
びくびくと後宮の隅で何かにおびえ暮らした母と同様
私の本性を本能的に怖れ、受け入れられるはずがないからだ。


君が、これが演技でないと知れば、私のことを嫌うということなど…
火を見るより明らかだから。

正直に言えば。

私は君に
『これが演技ではない』と知られるのが
怖かったのだ。

それは、何もかも失うことを意味して
私の幸せな『まがい物』の時間は、壊れ去ってしまうにきまっている。




だがもう。

終わりに しよう


ここには、何もない。
君を縛るには、あまりに気の毒だ。

ここは、荒れる。
―――嵐の予感がする。

これ以上巻き込んでは、『可哀相』だろ



君は、ここに居てはダメなんだ

弱いものはつつき殺される恐ろしい魔窟だ

後宮のごたごたに君を巻き込み
君らしさを失わせるわけにいかないから

私は君を手放さなければならないのに。


愛しくて。
暖かい君を
私はどうしても手放せない。

抱きしめて、引き留めて、私の寂しさを埋めるために、
私は君を利用している。


せめて、優しくできれば。


―――なあ。
優しさというのは、どうすれば正しいものなのだ?
過剰だといわれて
不足だといわれて
私にはその塩梅が分からない。


ここは窮屈なところだが、私は王宮の呪縛から抜け出せない。

君は、ここに居てはいけない。
君だけは、巻き込みたくない。


君が何も受け取らないから

ならばここを出てゆく、君に対する責任として
最大限の事を考えようと思えば
君の将来の安全と幸せを確保してあげることだけなのに

君は、拒む。

君はそんな優しさはゴメンだという

怖い方が望ましいというのなら。
私には、もう打つ手は何一つない


私の本性を知れば、君は私を嫌う


それが君の望みなら




私は、どうせ失う。

なにもかも

*
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失恋兎。

【ネタバレ】【if】【ねつ造】

57話、58話のネタバレを含みます。
コミックス派の方はご注意ください。

※if 夕鈴が後宮を出て、下町に戻った後の話を盛大にねつ造しています。


* * * * * * * *
失恋兎。
* * * * * * * *

ここは白陽国の王都、乾隴(けんろう)の下町。
早朝から見回りをしていた隻眼の若衆が、ふと四つ辻で立ち止まった。
履きものを引きずり足元の砂を2,3回蹴散らし、ムスリとした表情で鼻にしわを寄せる。
「あー…仕方がねぇ」
頭をガシガシ掻き、つぶやく。

「―――次は。
あいつん家、やっぱ見回ってやっか」

いつもの巡回路を肩で風切り進む。見慣れたみすぼらしい一軒家の前で、立ち止まる。
両手を腰に当て立ち止まり、一瞬、戸口から中の様子をさぐる。

湯気が窓から立ち上り、
コトコト、とんとん、と料理をする気配。

(いるな、元気にやってんじゃんかよ。)

…少し、ほっとする。

「おい、誰か
いねーのか?」と声をかければ

バタバタとでかい足音を立てて、手に玉杓子を持ったままのあいつが現れた。
武器のようにそれを構え、髪を逆立てたあいつが入り口に立ちふさがりやがる。
顔を合わせるなり、怒声が飛び交う。
後ろには弟。健気にも、姉の暴走を押しとどめようと汗をかきかきはらはらと見守っている。

いつものようにケンカ腰だ、まったっくあいつは。
それはいつものことだが、やっぱり変だ。
「かわいげがねーなあ」といえば
「かわいげ?」
一転殺気立った表情でブツブツと
「『かわいい』なんてうわべの言葉に振り回されるなんて
実に馬鹿よ…っ」
鬼気迫る表情でわけわからんことをつぶやく。

―――それみたことか。
あのうさん臭い役人男とお前とじゃあ、
そもそも、釣り合うわけなんか、ないじゃねーか!

遊ばれて捨てられるのが、オチだって。あれほど口酸っぱく言ってやったのに…。

「あー 男に捨てられた女は
これほど荒れるのか
勉強になった…
くれぐれも刃傷沙汰は起こすなよ」

「あ“あ”!!?」

「ねーさんっ
まあ まあっ!!」
やさしいあいつの弟が、ハラハラと見守る。

まあ、あのしっかりした弟がいるし、よ。
こんな調子なら、あいつも大丈夫、なのかな。

「バァカ!」
捨て台詞の一つも吐かねえと、腹がおさまらねえ。

みんな、お前のこと、心配してやってんだろーが!!

―――ま、めそめそ、シクシクするなんざ、お前らしくねーな。
せいぜい、怒ってろよ。

―――バカが。

* * * * * * * *

捨てられた?

ちがう。

―――突き放された。
関わり一つ残すことも許さないと…


でもね。

確かに、失恋は悲しい―――
けど。

優しい小犬陛下も
怖い狼陛下も
どちらもあの人なのだと、自分の中でストンと落ちた。


わたしが
『演技』だと思っていた怖いあの人にドキドキして
どんなに大好きだと思っても
この思いには行く当てがない、と
切なくて、切なくて、やりきれなかったのに。


怖いあの人は『演技』でない、
夢でも幻にでもない
『本物』のあの人への気持ちだったんだ
―――そう分かったことが


嬉しい。




届かないはずの人だったのに、
あの時、
確かに
あの人は、私の目の前にて―――

幻じゃない、あの人が。
冷たい目で、私を見て。
私に触れた。



冷酷な狼の
あの人は
幻じゃなかった―――。


* * * * * * * *

うららかな日差しが窓から差し込む。

「…ゴホ、ゴホ」
昼間、こんな時間に寝ているなんて…。

でも、体が重い。頭が痛い。
体中が熱い…なのに、寒気が襲う。

咳がおさまると、熱のせいか、またうつらうつらと眠気が襲ってきた。

「ばっかじゃん…?」
窓から声がした。

「ゴホ、ゴッ ―――こ、浩大…?」

ポンッと、小さな巾着を夕鈴の布団の上に投げてよこす。

ポスッと布団の上に着地したその巾着におずおずと手を伸ばし指で触れる。
握り締めて目の前に持ってくると、何やら苦そうな薬臭が漂った。

「差し入れ~。隠密の秘伝の丸薬。
苦いけど、よく効くよ。いつもおかず御馳走になってるお礼。
―――すぐ飲みな?」

「あ、ありがと…
って、おかずは浩大が勝手につまみ食いしてるんじゃないの」
ブツブツいいながら、ダルそうに体を起こして、ぼんやりとあたりを見回す。
粗末な寝台の隣の小机に、弟の青慎が水差しと湯呑を置いてくれていた。

そういえば、喉が渇いた。
夕鈴は熱で震える手で、湯呑に冷めた白湯を注ぎ、浩大が放って寄越した巾着から丸薬を一粒取り出し、鼻をつまむと白湯とともに飲み下す。

「…苦っ~~~!」
顔をしかめた夕鈴が口許を押さえ、もう一杯白湯をあおった。

「あー、苦いからね。効くよ~」
浩大は、ハハと笑った。

「仕事、根を詰めすぎじゃね?
ここんとこ。働きづめだったじゃん?」

夕鈴は、すぐに堅実なバイトを二つ、三つと見つけてきては掛け持ちで働きに出はじめた。
早朝から家事をこなし、父と弟のための食事や弁当を作り、掃除洗濯をするとバイトへ出かけ、
買い物をして家へ戻れば、夕食の支度、たまっている繕い物や家のことを夜にこなし…とそれこそ寝る間を削って働いた。

「ゴホ、…う、うるさいっ!
たくさんうちにはやることがあって…
ちゃんと地道に働かなきゃ。
これまで目をつぶってきた家の修繕とか、
青慎にだってまだまだお金がかかるんだから」

浩大は、窓枠にもたれかかりのんびり話しかける。

「退職金、もらったでしょ?
家の事だって、すぐにやらなきゃって、ことばっかじゃないんじゃね?」

「―――好きでやってるんだから。
構わないでちょうだい?!
働かざる者、食うべからず、よ! ゴホゴホ…!!」

「ハイハイ。
働かざる者、食うべからず、ね――」

夕鈴の脳裏に、陛下はちゃんと働いて、ご飯を食べて?…と、よぎった。


「…食べてる…かしら…?」

「―――え?」
浩大がきょとん、とした顔で問い返す。

「あ、いえっ、関係ないから!」
顔を赤くして、伏せる。

「ふーん…?」

ゴホゴホっとせき込み、また一段と熱が上がったのか、
紅潮しぼんやりした表情で、夕鈴は壁際に向けてまたゴロリと横になった。

「とにかく。浩大にも病気が移るといけないから。
はやく、出てった方がいいわよ。
こんな状態だから、…監視なんていらないし…」

―――胸が、苦しい。

「ひと眠りしなよ」
…じゃね、と浩大は消えた。

夕鈴は、瞼を閉じる。

目の表面にかろうじて張りつめていた水分が、瞼に押し出されて
鼻を伝って、枕を濡らす。

―――また、熱が襲う。


下町の日常とはかけ離れた、あの王宮で過ごした時間は
もうすっかり遠くになってしまった。

あの人と二人で過ごした日々はもう、遙か彼方の夢だったような気もする。

なのに浩大が現れる度に、―――あの人のことを思い出す。

やっぱり、あれは夢ではなくて。


幻ではないあの人への思いは
未だ消えることがない。

失恋の痛みは、癒えることなく
絶えず胸をくすぶり続け

ことあるごとに、新たな傷口から血を流すように
苦痛を与える。


熱で朦朧とした脳裏には、繰り返し、あの日の別れが迫る。

あの、冷たいまなざしと
寂しそうに優しく私を抱きしめたあの腕と。

「…陛下の、―――バカ」

あんな口づけ、するなんて。
「…女ったらし…!」


あふれてくる熱い涙は次々と頬を伝い
枯れることがない。

「ひどい人…」

冷たいひと

怖い…
恐ろしいひと


…忘れてしまえ?


無理。

「忘れられるわけなんか―――ない」



*

失恋狼×失恋兎 3

【ネタバレ】【if】【ねつ造】

57話、58話のネタバレを含みます。
コミックス派の方はご注意ください。

※if その後を盛大にねつ造しています。


* * * * * * * *
失恋狼×失恋兎 3
* * * * * * * *

「おはようございます」
李順は国王の私室へと歩を踏み入れた。

昨晩遅くまで一人仕事をしたのであろう
国王の手によって署名捺印された書類が決裁箱に投げ込まれ山をなし
そこら辺りに書簡類や巻物がところ狭しと積み上げられ、乗り切らないものは床に散らばっている。

(…この量を、あの後に?)

李順は眉をひそめた。

黎翔が、滞ることなく仕事を片付けてくれるのは、嬉しい。
だが、このペースは良くない。体を壊す。

「陛下、ご熱心にお仕事されるのはありがたいですが。
きちんとお休みになってますか?」

「…ああ。心配するな」
黎翔は適当に相槌を打っている。

(―――また。痩せました、ね?)

李順は、思わず息をのんだ。

うっすらと頬がこけ、その分眼が大きく鋭く見える。
なのに生気を失って見えないのは、そのギラギラと気味悪いほどに強く発せられている眼光の強さゆえ。

「…ふぅ」

(今は何をいっても取り合わないでしょう…)

李順は屈んで、あたり床一面に散り敷かれた書類を手ばやく拾い集める。
トントンと整え、黎翔の文机に近づいて気が付く。

机の上に広げられている、書簡。

これみよがしに広げられている手紙は
いつもの通り達者な黎翔の手で堂々と記されている

(わたしが部屋に入ることは、陛下は御見通しのはず。
ならば目に触れてもよいのですね?)

短い文面。

李順は、その文字を目で追い、ハッと青ざめ、顔をあげた。

「蓉州の
―――蘭瑶(らんよう)殿への、返事?

『会う』、とは…
どういう風の吹き回しですか?
まさか、晏流公(あんりゅうこう)と蘭瑶殿。
お二人を王宮に呼び寄せ、お会いになると…?」

黎翔は返事をせず、ただ、じっと李順を見返した。
それから一呼吸間をおき、ゆっくりと答えた。

「ああ。
使者を使わせ、丁重に、な?
支度をさせよ」

(!?)
李順は驚きの色を隠せない。

だが、すうと呼吸を整えると目を閉じた。

(―――陛下のお決めになったこと。
問うたところで仕方がありませんね)

「…畏まりました」
はぁ…
李順は、小さくため息を吐き出した。

李順は頭の中を整理しなおすと、事務的な確認に入る。

「―――確認させていただきますが
待遇はあくまで、臣下とその母君の招聘、でよろしいですね?
晏流公はすでに臣籍降下(しんせきこうか)つまり
皇族を離脱し臣下の籍に降りられておりますから。
殿下、ではなく陛下の臣下に準ずる扱いとして…」

「―――李順。
…あの女が何を言い出すかわかるまい?
多少のことは目をつぶれ。
支度金をはずみ、丁重にもてなせ」

「は…」

「臣下といえど、晏流公は現国王の弟。
―――ただし。
あの女は前々王の妃嬪らの一人であったにせよ、今や一臣下の母にすぎぬ。
そのあたり、決して勘違いさせぬよう―――
立場をわきまえて振る舞うようにと。
よいな?」

「…は。」

…またもこれは、難しいことをおっしゃる、と。

李順は汗を拭いた。

* * * * * * * *

晏流公はまだ年若く、ひ弱な印象、ではあった。
だが、頭の回転は悪くは、ない―――。


多少覇気がなかろうと、剣を握ったことがなかろうと。
頭脳となる宰相、知将たる軍師ほか、有能な人材を配下に揃えれば
正当なる王家の血筋であるがゆえ、王の系譜を残す仕事のみ
おとなしく職務を全うするがよいだろう。


…もう、良い、か?

―――私は、権力などに未練はない。


誰もが怖れ嫌う狼陛下。

冷酷にして非情。
鋭い眼光で人々を恐れさせ
他者を支配する、狼。

家臣にすら心を開かず、長年勤めた老臣であろうと不正に対しては厳罰に処し。
冷酷非情の狼陛下、とはよく言ったもの。

権力を操ろうともくろむ狸どもめは、旨味にもありつけず、
思い通りにさせてもらえぬ扱いづらい王よ、と
さぞかし煙たく、歯がゆい思いをしているに違いなく

民衆は冷酷で高圧的な恐王を怖れ。

その治世を長く望むものはおるまい。

内乱制圧、内政粛清を行い、名実共に中央政治の実権を掌握し…
腐った政治の根幹を叩き直し、新しい風を通せば、私の役など終わったも同然。


どうせ狼陛下は嫌われ者だ―――。



嫌われてなお、良い国をつくろうと
頑張ってはみたけれど。



唯一人───すら。


私が優しくしたかった
たったひとりの存在

それすら
全く思い通りになど、いかず。


願い一つ叶えることも
幸せにすることも

私には
何一つ
できなかった



* * * * * * * *

三日に一度、
隠密は定期報告に戻る。

だがその日、
隠密はいつまでたっても現れない。

何故だか無性にイライラしながら、いつしか夜もすっかり更けた。
そうして待ちわびた報告が訪れる。

…カタン、と小さな音がした。

音を立てるなど、浩大にしては、珍しい…と。
報告が遅れたことも含め、これは厳重に叱責せねば、と低い声で怒りを込めて第一声を発した。

「―――何をしていた!」

背中に現れた隠密は一瞬で氷り固まった。

まるで怖気づく子ネズミのような気配が伝わってくる。
私は振り向き、そのものを見下すように冷たい視線で射抜いた。

それは浩大でなく別の隠密で、私の怒気に呑まれ青ざめ今にも心臓を止めそうな風情に見えた。

(なぜ浩大の気配と違うと見抜けなかったのだ?
それほどまでに頭に血が上っていたのか、私は)

自分に対して驚く。

どうしたのだ、私は…?

「―――報告せよ」

「は…これを陛下に至急、お渡しせよ、と」

差し出されたものは、
小さく折りたたまれ表面に浩大の秘密の符牒が施された書であった。

「やつ(浩大)からか?」

「───は」

密使のもたらした書を指先で受け取りながら、尋ねる。

「奴自身が来れないほどの何かが?」

「―――まずは、ご覧ください」

嫌な予感を押しのけ、動揺を顔に出さず平常を装う。

細かく折られた薄い紙を広げ、眼を通す。


文面はたったの三文字だった。


『兎危篤』




―――息が止まった。



「…もうよい、戻れ」

必死にそれだけ口にした。

隠密の気配が完全に消えるまで立ち尽くし、それからドサリと腰を下ろす。


頭を押さえる。

耳元がドクンドクンと異常に脈打つ。

―――身体中ひきさかれるような痛みに襲われたような気がした…。




* * * * * * * *

三日前の報告は問題なかった、はずだ。

―――いや、違う。
故意に、頭から締め出していた。


いつもの報告を手短に済ませると、
浩大は少しだけ余計なことを言い出した。

「念のため、老子に薬調合してもらってって、いいカナ?」

「…薬?」

ふうん、とそれすら、意に介さぬよう。
私は仕事の手を止めることはなかった。

「んー、ちょっと体調悪そうだったから。
渡しても、いいか?」

「お前に任せる」

浩大は少し心配そうに声音を落として報告した。

「最近急に冷え込んだし―――。
これまでの気疲れが、ドっとでたんじゃなーい?」

「…」

「ん。
でも、たぶんありゃ、単なる働きすぎ。
バイト二つも三つもって欲張ってさ
ちょっと無理してるようには見えた…かな。
基本、あの子、真面目で元気だからねー」

私の表情が変わらないかと、期待している奴にこたえる必要はない。
―――その手に乗るか。

私はそっけなく答えた。

「ご苦労。
引き続き、監視を」

書類の手をやめることもせず、
私は一切、振り向かなかった。

その姿を見た浩大はケラケラと笑い、
「ホイ、お土産」と何かを投げてよこす。

机の前に、ポン、と着地した、それ。

…包みを開けなくても、分かる。
饅頭だ。

たぶん、夕鈴の作った―――。

「最近、俺がつまみ食いする分を見越して
ちゃーんと用意してくれてるよ。
なんだかんだいっても、人がいいんだよね。
―――あの子」

「余計なことはするな―――行け」

「へーい」



浩大め、いらぬ世話を焼くな。

これは、
私のため、ではない。

怖れ、嫌う私のために彼女が何かするなど、
もう二度とありえない。

彼女は私を嫌い、憎み、
そして永遠に―――怖れる。

もう二度と
あの時は戻らない。


彼女を騙して
利用して
傷つけて
突き放した

卑怯な私が
触れて良いものでは、ない――――――!



包みはそのまま手も付けず、

二日放置し、
三日目の今朝
見かねた李順が片付けさせた。


* * * * * * * *

目の前の三文字が網膜に焼き付くほど強烈に迫る。

兎 危 篤 


待て?

三日前の報告では。

少し風邪気味だったにせよ
いや、だが饅頭をつくれる程度には
普段通りの生活をしていたはずなのだ―――。

そこから万が一こじらせて、寝込んでいたとしても…

老子の薬も持たせたし。

四六時中監視がついていながら―――


危篤?

夕鈴 が 危篤―――?


何かの間違いではないのか?

だが
今やあの浩大が、
寸分も抜け出せないほどの状況とは―――どういうことだ?

私への直々の報告に代理を立てるなど、いままでかつてなかったこと。

浩大こそが、誰よりも速い使い手
だから、何かあればと付けた。

その浩大が動けない、となれば
一刻を争う事態か?

いやまさか
もしかして、もう既に…?

―――そんな…
馬鹿な…!!!!!



手の中の紙を、くしゃりと握り締め、黎翔は天を仰いだ。



(つづく)



しき□ま。さんがネタバレ感想に寄せてくださったコメントの中で
「自分の欲より国を考えて。
恐王として君臨して、
最終的に更に良い王がいたら譲る気なんじゃないかと時々考えます。」
と。
私も以前からそんな可能性も、あるだろうなと考えたりしていて。
なので、今回はその路線でお話進めてみております…。


*



失恋狼×失恋兎 4

ブログ開設一周年のリクエスト、本当にありがとうございました。
突然の、短期間のお知らせにもかかわらず、素敵なリクエストをたくさんありがとうございました。
できる限りご要望にはお応えしたいと思いつつ、少々ここ数日忙しくしておりましたので、また改めて1本ずつご披露させていただきます^^ ありがとうございました。


【ネタバレ】【if】【ねつ造】

57話、58話のネタバレを含みます。
コミックス派の方はご注意ください。

※if 夕鈴が後宮を出て、下町に戻った後の話を盛大にねつ造しています。


* * * * * * * *
失恋狼×失恋兎 4
* * * * * * * *

どうして来てしまったのか

今、会わねば
二度と会えない―――

そう思ったら矢も楯もたまらず
真夜中に馬を飛ばしていた。


もしかして、
もう息を引き取って
二度と君に会えないのかもしれないと
分かっていても

何かできることがなかったのか。
彼女の願いをたった一つでも叶えてやることができれば…と
後悔ばかりが先に立った。



しかし

見慣れた戸口が見えてくるにつけ
正直、心が冷えた。


前を向いていたつもりで、
いつのまにか後ろを向いていた自分の
ただの未練でここまで来たものの。

触れてはならぬ彼女に
もう二度と会うことなど許されぬのに。


浩大が木の上に居た

「―――報告を。」


「…遅かったね」
「…」
私は、目を閉じた。


それ以上、何も聞かず
そっと敷地に忍ぶと
彼女の部屋の面した裏庭に回った。


月が出ている。

いつだったか。
彼女と一緒に、ここに座って、月を見上げた。
まだ何も知らせないで済んだ―――幸せな時間だった。

―――すべて終わったのだろう。
静寂が包んでいた。


ズキリと悔恨の念。

裏木戸から暗い室内を覗く。

「もう二度と会わない」と心に決めていたはずなのに
足は勝手に、導かれるように暗闇を進む。
五感がキンキンと冴えわたり異様に冷め、動物的な本能だけに突き動かされる。

君の部屋の扉を勝手に手が開ける。
わが身が幽体になったかと思うほど、音も立てずスウとすり抜ける

寝台に横たわる、あれが―――夕鈴?
白布からはみ出た長い栗色の髪。

近づく。

寝台に両手を付き、半ば呆然と白い布を見つめた。

夕鈴?

―――夕鈴
…夕鈴!!!


ポタリ…と何かが落ちて
白布にシミをつくった。

ポタ、ポタと続けて落ちる。

頬を伝わる暖かい…涙?


私は―――泣いているのか?



「すまぬ―――許せ」

二度と会わぬと、
自らの誓いを破る。


白布をはぎ、もう一度だけ
私の目に焼き付けよう

愚かな男を許せ。

震える手で白布を払うと
そこにはパチクリと、真ん丸な目をあけた君がいた。

「…!」

息を飲んだ瞬間、
君はいきなり手を伸ばし、私の首に抱き着いた。

「へーか…!」

「―――?!」
息が止まるかと思った。

そのまま息もつかぬほど、強く掻き抱かれた。
私は君の柔らかいうなじに顔を埋めた。

「これは。
夢ですか?」

君が問う。

「夢?」
私は目を白黒したが
背後に浩大の気配がチラリとして得心した。

(…余計な)

事情が、読めた。
浩大…小細工しおって。
あとで、覚えていろ。


「―――合わせる顔がない
嫌われてる君に」

静かに、彼女を押し返す。

「―――嫌う、
はずがないじゃないですか…!!」

「は?」

「こんなに…大好きなのに…!!」

「狼の私を、君は―――」

「狼の、陛下が…
好きなんです!!

夢、でしょ?
夢だから。
今、言わないと。

いかないで―――!!」


渾身の力とはいえ、女の細腕。
振りほどく方法はいくらでもあろうに。

首にかじりつく君の柔らかい熱に囚われの身となった私は
その拘束から逃れることが、できなかった。


余りの居心地よさに、思わず眠ってしまいそうなほど

―――私は疲れていた。


* * * * * * * *

眠っていて息苦しい…
布団でもかぶって寝てしまったかと、半覚醒のけだるい脳裏によぎった。

そのうち暖かい水がぽたぽたと染みてきて
なんだろうと重たい瞼をあけた。

いきなり目の前に陛下がいて
思わずその首筋にかじりついた。

夢でもいい。

―――言わせて。
好きだと。

伝えられなかった思いを。


…寝ぼけていた。

でも、だんだん目が醒めてきて
なんだか、陛下の懐かしい香りまでしてくるし。


実体…?



…まさか?

ボッと頬に熱があがる。


「も、もしかして
…本物の
陛下、ですか?」

と声をかけた

だが、返事はなかった…。

暫く息をひそめて様子をうかがっていると

すぅ、すぅ…と

安らかな吐息が聞こえてきた。


えええええっ!?
この、体勢で?!

薄い壁一枚を隔て、家族が寝ている夜更け。
大きな物音は立てられない…。

声にならぬ声で、ひそひそと耳元にささやく・

「起きてくださーい、へーか!!?

ちょっと、…へーか…!

おきてー!

―――

へーか…!!」


こ、ここ。
私の家、ですよね?
私の部屋、ですよね?!


ヘーカ、これ、不法侵入ですよねっ!!!??



こ、この状態で、どうしろというの―――!!?




*



失恋狼×失恋兎4-01
おまけ絵 2014.05.15

[絵] 落涙

140515-失恋狼-013.jpg
悲しみと後悔の淵から

一足飛びに、
驚きと喜びの高みに飛ぶ。



───傷つけた罪悪感、触れてはならぬ抑制と、

間に合ったことへの、感謝と…。

失恋狼×失恋兎 5

【ネタバレ】【if】【ねつ造】【甘】 


57話、58話のネタバレを含みます。
コミックス派の方はご注意ください。

※if 夕鈴が後宮を出て、下町に戻った後の話を盛大にねつ造しています。
添い寝だけですよ、甘さ控えめ。

* * * * * * * *
失恋狼×失恋兎 5
* * * * * * * *

「…どうしよう」

さっきから、そればかり。

私は寝ぼけていて、
とっさに腕を陛下の首に回して、力いっぱいかじりついた。
まさか実体とは―――?

驚き混乱したが、それもいまや落ち着き。

当の陛下からは すーすー と、静かな寝息が聞こえるばかり。


「あまり
―――よく寝て、いらっしゃらなかったのかしら?」

私の首筋に押し付けるように顔を埋める陛下。
骨ばって、そげた頬に落ちる影が痛々しい…。

それに比べて、私は一昨日、調子が悪くて
昨日も起き上がれないほど眠くてだるくて。
丸二日間こんこんと寝続けたおかげで、今はすっかり眠けが吹き飛んでしまった。

しかも、もう二度と会えないと思っていた陛下自身がここに居るのだから。
あまりの驚きに頭は冴え冴えとしている。

上半身を寝台の私に抱き付かれたまま寝台にもたれ掛かり、
下半身は膝をつき体を屈曲した不自然な恰好で意識を失っている陛下。
お風邪を召されやしないか、後であちこち痛みが出はしないか。と、気になって仕方がない。

でも…
陛下が寝ていらっしゃるのなら…。
「…えいっ!」
ついギュッと、また力を込めて抱きしめてしまった。

「…ん」

すぅ…と一つ、息を吸い込み、
ゆっくりと陛下の瞼が開いた。

再びぐるぐると混乱してし、かああっと顔に血が上る。

「―――あ」
何といったらよいのだろう。

「お目覚め、ですか?」

「…私は、寝てたのか?」

私の首元に沈み込むように顔を埋め、伏せていた陛下は、
ゆっくりと両手を付くと頭をもたげ、私の方へと顔を向けた。

「…はい」

「―――どれくらい?」
「…四半時、くらいでしょうか…
あ、でも。実際はよくわかりません」

「すまぬ、重かったな…」

陛下は、目をギュッとつぶって、一瞬ムスッとしたような顔をして
かるく鼻をスンスン、と鳴らして辺りを嗅いだ。

「―――この香り、は…」

ゆっくりと頭を押さえる。
「香り?」
思わず、問い返す。

「…睡魔をさそう香の匂いが…
隣の部屋の方から…

この調合…嗅いだことがある

―――老子、だな? ―――あやつら、いらぬことを…」

「―――薬?」
青ざめた私に、陛下はニコと笑って安心させた。

「危ないものではない。
睡魔を招き、ぐっすり眠れる…
ただの眠り薬の香。
たぶん君の家族らに気兼ねなく、
私たちにゆっくり話をさせたかった、老子のおせっかいだ…」


っまったく。
余計なおせっかいだ…

ブツブツと小さくつぶやく。

「老子の、眠り薬?」
思わず、きょとん、としてしまった。

「たぶん、君の父さんと弟君の部屋の方だろう」

「え? 青慎…?」

思わず私は慌てた。

「青慎に何かあったら…!」

起き上がって様子を見に行こうとした私をやんわり制す。

「―――大丈夫。たちの悪いものではない…

まさか。
…私は耐性があると思ったが。

寝不足がたたったか…?」


「青慎は、明日も学問所が」

「今頃二人ともぐっすりと深く眠っていることだろう。
寝つきが良く成る程度のもので特に害はない。

嗅ぐのを止めれば、自然に目覚める。

今、心配して覗きに行けば、君自身が寝てしまう
それに、老子が居て、ヤキモキしてるに違いない…わざわざ顔を合わせることもないだろう」

「…はい」
夕鈴は納得しかねる顔をしたが、渋々うなづいた。

「夕鈴、君は?」

「私はここ二日間ぐっすり寝ていたので。
睡眠は十分足りてて、頭さえてしかたありませんよ?」

「あいつら…。
この私に仕掛けてくるとは…」


と、ぶつぶつつぶやく。

陛下はゆっくりと両手に力をいれ、体を起こそうとした。

「ん?」
…私がまだ陛下の首に手を回していたので、
陛下はそれ以上離れることができなかった。

「夕鈴?」

「…あ!」

私は思わずパッと手を離し、…自由になった陛下は体を起こした。

そして、おずおずと、陛下の懐に手を伸ばし
両のあわせを引き寄せるように捕まえる。

「もう少しだけ…
ここに居て、くださいますか?」

後になって考えれば、かなり恥ずかしいことを言ってしまったのかもしれない…

私は夜着のままの状況、とか。
正直、そんなことまで頭が回る余裕がなかった。

ただ、
また陛下に突き放されて
言いたいことも言えず、会いたくても会えない
あんな、辛いことは…
―――嫌、だった。


「…夕鈴?
君は。

これまでずっと『狼陛下は演技』だと
だまし続けた私のことなど、

嫌いなはず―――」

すぐさま打ち消す。
「そんな、はず、ないじゃないですかっ!」

怒るように。


「私はっ

狼陛下が演技だって…
ずっと信じていて。
幻の狼陛下にっ
か、か、叶わぬ恋を…して。

それが!!

ずっと
ずっと
胸がドキドキして
苦しいほど大好きだった陛下が…

演技じゃなくて
本物だったって分かって…

むしろ。
嬉しかったんですよ―――?」

一気に吐き出す。

「―――

そう
なのか?」

陛下は半ばきょとんとしながら、私を見つめた。

「そう、―――なんだ」
一気に陛下の顔が柔和に崩れ
小犬になって、笑った


「知らなかった―――」


「陛下こそ、どうして…?」
思わずモジモと視線を外して…
聞いてみたかったことを尋ねる。

「浩大のヤツが、
兎危篤、と…」

「危篤の、兎さん?
―――あ。
それ。几鍔が」

「几鍔君?」
どうして、ここに几鍔が…。と、陛下は少々むっとしたような顔を一瞬された。

「材木置き場の隅に出没するデッカイネズミのために仕掛けた罠にかかった
可愛そうな兎さんを、青慎に持ってきて、ですね。
『青慎、たまには肉食えよ。あいつも精を付けた方がいいんじゃねえか?』って…。
息も絶え絶えだから、早く絞めてやったほうがこいつのためだぞって…置いてっちゃったんです」

「は?」

「でも、私調子悪くて寝込んでいて―――まだ本調子じゃないから、
どうしようかな、って考えていたら
浩大が顔出して『いいよ、それくらいオレがやってやらあ』って捌いてくれて…ですね
今晩、兎鍋で…その、私の快気祝いを…」

「―――ぁ?

じゃ、なに?

兎危篤って…
その兎で、みんなで鍋を食べたって?」

「はあ、まあ。そういうことです」

申し訳なくて、思わずうなだれた。


陛下は、どさ、と力なく、寝台の上にうつぶせに倒れ込んだ。

「…お疲れ、ですか?」
「ここのところ、仕事が立て込んでいてね」
「…それは大変!
ここ、使ってください!!
ちゃんと寝ないと、お体壊しますよ?」
「君の寝台、だ?」
「いいです、私はそっちの椅子で…」
「君こそ、病み上がりだ…ダメだ許さない」

そういうと、陛下は私の隣に横になり、横抱きに抱きしめて離さないものだから…
狭い寝台に二人、落ちないように身動きも出来ずに乗っているので精一杯だった。

「―――あの」

なにか、会話、を…続けないと。
「お仕事、忙しいんですか?」

「ああ、だが。
もうすぐ、それも終わる」

「―――終わる?」

「王位を譲れば。
私の役目は、終わり、だ」

「ゆずる…?」

「晏流公、に譲ろうかと」

「―――え?」

「すでに臣籍降下してしまっているし、後ろ盾がないが。
私と養子縁組をすれば、正当な王になっても不足はない―――
血筋は、父上のれっきとした血筋だ…。
私よりもずっと、その方がふさわしいだろう」

ぼんやりと、天井を見つめた。

私はガバと、体を起こすと陛下の上に覆いかぶさった。

「陛下!?
―――ホンキですか?」

「…え?」


「まだ、小さな、弟さんに…
王様って、簡単な仕事じゃ、ないですよね?」

「そうだね…つらい仕事かもしれない」

「こんな立派な陛下ですら、こんなに大変な思いをされているのに。

それを
小さな弟さんに押し付けて…

―――逃げるんですか!?


この間の旅行は…。
そのために、弟さんを
値踏みに行ったってことですか?!」

「…逃げる?

値踏み?」

「狼陛下は、そんな、かっこ悪い
王様じゃない…でしょ…?!」


「そう、かな?
皆はそうは思っておらんぞ

冷酷非情の狼陛下なぞ―――煙たいだけだ」

「陛下ほど立派な王様は
どこを探したっていません!
―――私たち国民の、誇りです!

私は、そう、思っていますよ」


ほんの短い間に、ここまで痩せてしまった
陛下が、
痛々しすぎて。


思わず、私から陛下の上に身を投げ出して
抱きしめてしまった。


陛下の腕が私の背中に回って
体を重ねたまま
ぎゅっと抱き寄せられた。

「陛下は、だれよりも立派な
―――王様です!!」

そう言うのが精いっぱいで
思わず泣けてしまった。


「愛しいことを、言うな―――
私の妃は…」

狭い寝台の上で。二人きりで抱き合って。
たった一度だけ、口づけをかわした―――。


(つづく)


*

★失恋狼×失恋兎 6 [R15]

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失恋狼×失恋兎 7[完]

【ネタバレの先のねつ造】【if】【最終回】 


57話、58話のネタバレの上でのストーリーです。
コミックス派の方はご注意ください。

※if 夕鈴が後宮を出て、下町に戻った後の話を盛大にねつ造しています。

陛下と夕鈴。

失恋して。
得恋して。

ついに略奪。

さて
お二人の結末は?


* * * * * * * *
失恋狼×失恋兎 7[完]
* * * * * * * *

ある日。
忽然と現れた、正妃。

「略奪の花嫁だ」
と狼陛下は壇上で冷たい微笑みを一瞬だけ浮かべた。

以前、狼陛下の妃といえば。
王宮まで侍らせ、やりたい放題に鼻を突っ込ませていた様子に、辟易とする老臣もいたものだったが
さすがに此度はどこぞ所以のある姫らしく、奥ゆかしく―――いや奥ゆかしすぎて、誰にも何も分からなかった。

「後宮の秘花が気安く王以外の男の目に触れるわけがなかろう」と一切合財は雲の中。

王は、正妃を誰の目にも触れさせない。

身の回りの世話は選び抜かれた女官と侍女らで固められた。
彼女たちは正妃に関する情報は一欠片たりとも漏らすことはなかった。

王は掌中の珠に気安く人を近づけることもなく、
誰にも気安くは言葉を交わせる機会も与えられなかった。

どうにも気位が高いらしい、
いや、美しすぎて目がつぶれる、とか。
噂だけはしめやかに流された。

数少ない公式の場に姿を現すというその時。
誰もが固唾をのんで正妃の姿を待ちわびた。

正妃は異国風の紗で身をまとい、その花の顔(かんばせ)はさらされることなく、また迦陵頻伽の歌の如しと噂される美声も、誰一人として聞く機会をもたらされなかった。

あの異国の服装。見たこともない…!
いやあの御衣裳は、蒼玉国の向こうの碧海国のものに似ているのでは?
もしや、白陽の言葉のわからぬ他国の王族の姫?!
―――どこから、いったい。そのような姫を略奪してきたやら、いやはや狼陛下の手腕たるや。
など等、流言が密やかに語り継がれるばかり。

いよいよ立后式を執り行う触れが立てば、外国からの祝いの品が次々と王宮を埋め尽くす。
「どうやら表ざたにできない理由があるらしいが、碧海国の王家の血筋の深窓の姫君らしい」と噂されていた通り、次々と碧海国からも重鎮の面々が訪れる。

あれよあれよという間に、式典が執り行われる段となる。

狼陛下は、やるとなれば、迅速。
裏でどれほどの官吏が酷使されようと、やるといったら、やる。

重厚な金銀綾錦に覆われ、ありとあらゆる装飾品に身を飾りたてられ、複雑で手の込んだ化粧を施された美しい花嫁は、畏れ多くも苛まれるほどの神々しさ。
「幻惑され虜になった暁には、廃人と化し目がつぶれるぞ」と噂されるまでであれば、たとえ紗の絹越しにちらりと輪郭が伺えようかと好奇心がもたげようとも、己の将来を賭してまで尊顔を拝すなどと畏れ多く、身を地に投じ伏せるばかりであった。


* * * * * * * *
エピローグ
* * * * * * * *

「いやそれが、ご正妃様といえば」

―――ぴくん、と聞き耳が立ってしまう。

「人徳厚く、奥ゆかしく…。
人知れずご苦労なさろうと決して表に出さず、陛下をお立てあそばし。
立派に太子もお産みになって…」

「国民にとっては、言うことないなぁ
いいお妃さまをお迎えになったものだ」

「それはそれは麗しく、優しく
天女のようなお方だそうだ」

…伏せてピクピクしている妻の背中を、ポンポンと軽く優しく叩く夫。

「あの~」
妻は肩を震わせながら、憔悴した複雑な顔をあげた。

「ん?」
満面の笑顔で夫は受ける。

「なんだか噂に、すっごい尾ひれがついてるみたいなんですけど…」

ここは下町。
章安区の一角の飯店。

耳に入る世間話に、おもわず赤面して震えていた夕鈴。

「…たまには、この国の正妃様が褒められてる噂を耳にするのも、いい気分でしょ?
以前は王様の悪口ばっかりだったけど(笑)」

目の前の食卓には、庶民的な飯店が腕によりをかけた料理がずらりと並び、李翔は揚げシューマイの皮をポリポリとかじっていた。

「あの―――李…翔、さん」

「なあに? 可愛いぼくのお嫁さん?」

李翔が妻の手をとって、きゅっと抱き寄せ、顔を寄せた。

「―――それ、やめてください。恥ずかしいです!」


「恥ずかしい?」

「…もう、子供もいるのに…!」

「何人子供がいようと。
―――夕鈴は、ずっと。
僕のお嫁さん、でしょ?」

手を握られ、甘やかすように諭され、うっとりとした赤い瞳で見つめられるほうは堪らない。
その様子を周りの人たちが「おっ、アツアツだねっ!」と囃し立てるものだから、なおさらだ。

夕鈴は現実的な話に必死で切り替える。

「…あ、あの。ここのお店の、とってもおいしいから。
晏さんに、この揚げシューマイ、お土産に買って行ってもいいですか?」

「えー? 揚げシューマイ。晏流公は食べるかなぁ…。」

「しーっ!
ここでそのお名前は口にできないですよ?! へー…」

李翔は慌てて妻を引き寄せ胸に抱きしめた。

「しっ!
へーかは、なし!」

と耳元に唇を寄せて囁く。

夕鈴がカアッと赤くなって、ごめんなさい、と小さくつぶやき。
頬を染めながら、見上げる。

「だって。
…晏さんは、うちの坊やの養育係りをしてくださってるんですから…!
お兄ちゃんみたいなものです!
家族なんだから。私たちだけじゃなくて、おいしいもの、食べさせたいです!!」

「まあ。あいつも。以前に比べると
教育ママの重しがとれて、自由に振舞えるようになって…
ちょっと男らしくなった、かなぁ?
―――だが能力は高い。将来は宰相の器、だ」と李翔は笑った。

「じゃあ、―――ちょっとお願いしてきますね?」

夕鈴が店の奥に、揚げシュウマイの持ち帰りを注文している間に、浩大の手がひょいと伸びてきた。
すでに口がもぐもぐと動いているところをみると、ちゃっかり相伴しているようだ。

「(もごもご)そろそろ、お迎えの馬車、来てまふよ~?」

「…わかった」
李翔はゴチンと一つゲンコツを落とした。

メガネをかけマントを被った長身の男は彼の妻を追いかけて立ち上がる。

「オヤジさん、お勘定!」

「あいよ!
―――お兄さんたち、お似合いのカップルだね!」



「そうかな?」


「いやー。
なかなかお目にかかれねーよ?
こんな幸せそうなお二人には」


「そうだね。


―――ぼくたち、

白陽国で一番、
幸せな夫婦なんだ!」



李翔はニヤリとウインクをすると、
妻の腰をさらい、抱き上げ、
恥ずかしがりわめく彼女をおさえこみ、
笑いながら店を後にした―――






(おしまい)



*



ブログ500回ページ目となりました。
たくさん、お話書けて楽しかったです^ー^

いろいろ書きたいシーンはまだまだありましたが
すっきりとまとめてみました。

<おまけ情報>

・汀家の方はどうなったの? →略奪後のしりぬぐいには李順さん相当奔走されたそうです。

・晏流公や蘭瑶さまとの対決は?→たぶん、エピローグにあるような内容で取りまとめたと思われます。

・老臣たちの後宮への口だしは→正妃を迎えろといわれた陛下がちゃんと聞き入れ、その”正妃”に、さっさとジュニアができたので。とりあえず陛下に軍配。あの方たちはへそ曲がり対へそ曲がりなので。

・テンゴはないんですか? → 存在しません

・李順さんは、了承したんですか?→うん。李順さん、夕鈴のこと、実は気に入ってたから。

・老子は?→けっこうはしゃいでいたそうです。

・浩大は?→お二人を下町ツアーにお連れする仕事が増えたそうです。ツアー中ジュニアは乳母さんと晏流君が見ているらしい…。

では。

最後までお読みくださり、ありがとうございました^^
感謝。


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おりざ

Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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