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いきなりクライマックス

* * * * * * *
初出:2013年05月13日22:59
* * * * * * *

(黎翔×夕鈴×青慎)


たあいもありませんが。
どうぞ

* * * * * * *


「青慎っ! あんた、なんていい子なの~!!」
ぎゅーする夕鈴

「夕鈴、ぼくも、ぎゅーしていい?」

「えっ?」
ドキドキする夕鈴

「はいっ!」
青慎を押し出し、抱っこ権を譲る夕鈴でありました。


弟コンプレックス、ここに極まれり。



* * * * いきなりクライマックス(2)もどうぞ。 * * * *

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いきなりクライマックス(2)

* * * * * * *
初出:2013年05月13日23:06
* * * * * * *


(黎翔×夕鈴×青慎)

「青慎っ! あんた、なんていい子なの~!!」
ぎゅーする夕鈴

「夕鈴、ぼくも、ぎゅーしていい?」

「えっ?」
ドキドキする夕鈴

「はいっ! ぼくお兄さんって、ずっと欲しかったんです!
李翔さんのこと、大好きです!!」

青慎は姉の腕を飛び出して、
李翔さんをぎゅー!


夕鈴あわてて
「青慎、ねーさんのほうがいいって言って~!!!」

3人団子状態でぎゅ―ぎゅーしあうのでありました


* * * * いきなりクライマックス(3)もどうぞ。 * * * *

いきなりクライマックス(3)

* * * * * * *
初出:2013年05月13日23:11
* * * * * * *


(黎翔×夕鈴×青慎)

「青慎っ! あんた、なんていい子なの~!!」
ぎゅーする夕鈴

「夕鈴、ぼくも、ぎゅーしていい?」

「えっ?」
ドキドキする夕鈴

黎翔は、すばやく裏木戸をあけ
奥から牛を連れてきて夕鈴に見せた
「牛~!」

(どうしたの!? なんで陛下がオヤジギャグ!?)

本日の汀家のお献立は美味しい牛すき焼きかな?
たっぷりご賞味あれ~

奥様は17歳

* * * * * * *
初出:2013年05月19日17:41
* * * * * * *

先日、白陽国SNSのコミュ「[新・現代風・時代物な黎翔×夕鈴] トピック「幼な妻祭!」で掲載したものです。
黎翔の年齢を操作した年齢縛りのお題で、お祭りを楽しみました。

<設定>
夫、黎翔31歳
妻、夕鈴17歳
現代パラレル

ハチャメチャ・ストーリー。
あんまり難しいことは考えず、軽~く お楽しみください。


- - - - -
奥様は17歳
- - - - -

教科担当、理科・物理。
眉目秀麗な高校教師、伯黎翔は、レクサスLS600h“F SPORT”(メーカー希望小売価格12,300,000円也)のシートに滑り込む。


隣の助手席でしっかりとシートベルトを締めているのは、高校2年生の妻。

「さあ、安全運転で参りましょう!
でも、必ず学校の近くで、私を降ろしてくださいね」

と、今日も彼女は言う。

「えーー? 同じ学校に通ってるのに…
いつまでも、そんな遠慮しなくてもいいんじゃない?」

「いえ、先生。
学校は教育の場、ですよ?
規律はきちんと守ってください」

「先生、じゃなくて、今は黎翔、と呼んで?」

「では黎翔さん。
私を近くでいつものように降ろしてくださいね。
…じゃなかったら、私、バスで行きますから。」


…仕方ない。

ぼくたちが籍を入れ、結婚していることは、
まだ学校では誰にも知られていない、秘密。

ぼくはいつでも公にしたいと思ってる。
でも、彼女がそれを嫌がるから…。


ぼくはイグニッションキーを回す。赤外線ボタンを押すと、ガレージ扉は自動で動き、ぼくらはいつものように発進した。

車の中は運転中も静かだ。
ぼくは君といるときは音楽はかけない。

純粋に楽しい会話を楽しみたいから。



「…でも、夕鈴、雨が降りそうだよ?」

えっ?何の話?と 夕鈴は一瞬君は首をかしげた

ああ、もしかして。
まだ拘ってるのね、先生ったら可愛い…。

「まだ降っておりませんよ?」


「学校に着くまでの間に、降りはじめたらどうするの?」

「ちゃんと傘を持ってます。ご安心ください」

彼女はごそごそと学生鞄の中から、小さなピンクの兎プリントの可愛い折りたたみ傘をチラっと見せた。

「かわいい傘だね」
彼女の鞄の上にあった手に、ぼくの手を重ねた。

「運転中、危ないです」

「危なくないよ?」

「でもダメです」

ぼくはギアノブに手を戻し、ため息をつく。


いつも生真面目だが、とくに制服を着ているときの夕鈴はお堅い。

そこがまた青くて堪らない、といえばそういうことになる。
苦労人なのかマニアなのか、自分。
しっかりしろ、黎翔!!


ぼくは、もうきちんとした立場の大人だ。

こそこそしないで、堂々とみんなに二人は結婚している、と言いたいのに…。



道の流れはスムーズで、15分ほどで学校の裏の公園まで着いた。
脇の小道に入る。

約束通り、車を止める。

彼女はドアを開け
「ありがとうございました」
とペコリとおじぎをして車を降りる。
「それでは、行ってきます」


「ゆう、りん…」


ぼくは思わず手をのばし、
彼女の制服の端を捕まえた。


「先生っ!…って、キャッ!」

スカートを引っ張られつんのめった彼女は、
ドアに手をかけたまま振り向いた。

(惜しい…。 見えそうで、見えない)


「だ、め」
お尻のあたりを必死で抑えながら、体をよじる夕鈴。
ああ、可愛い。


「なんですか?いったい」
そして、車の中のぼくの方を覗き込み、
片足をシートに付く。

かわいいヒザ小僧がシートに埋まる。


「夕鈴…」
ぼくは彼女の腰を片手でつかみ、思いっきり引き寄せた。

座席にボフンと戻され、ドギマギした顔をしている夕鈴。


「いってきますの、ご挨拶が。

…足りない。 キスして?」



「ええ? こんな学校の近くで…?」

「誰もいないし」

「でも、先生!
マンションの窓とか、近くの住人のみなさんとか。
けっこう見てますよ?こんなところに、こんな高級車がとまって
女子高生と…。もし見られりしたら…」

「大丈夫… いまは先生じゃないから…」

じっと夕鈴は見つめられ、
さらに頬が赤くなる。


「いってきますのごあいさつ、して?
… ぼくの奥さん」

黎翔さんの赤い瞳がアップで迫る。

30を超えた男の艶を増した妖艶さにあらがえない…

ヘビににらまれたカエル
狼にとらわれた兎…



キーン… コーン…  カーン…  コー… ンンンン


「あっ! 予鈴っ!! 遅刻しちゃうっ!!
先生も、急いで、急いでっ!!」


脱兎のごとく、制服を翻し、妻は車から飛び降り、
走り去った。


(あ”ー 今日も逃げられた…)


ゆっくりハンドルを切り、学校へ向かう黎翔先生は
こころなしか しょんぼりしていた。



* * * * * *

おしまい。

ささみ

* * * * * * *
初出:2013年06月01日09:02
* * * * * * *





他愛もありませんが。


* * * * * *
ささみ
* * * * * *


…くしゅんっ


風邪?でしょうか。

いえ。

あ。
シロさん。


お腹がすいたのですね?


しかたありませんね、
ささ身をあげましょう。

今は缶詰で我慢なさい。


 …くしゅん、くしゅんっ!!


しかたがありませんね。


陛下のお仕事をはやく巻いて。

活きの良い鶏でも買って
ささみ鍋でもしましょうか。



…花粉症の時期になると、

なぜか
鶏肉を所望する李順さんであった。




* * * *(The End)* * * * *



鶏肉の皮が苦手です。

ささみとかムネニクとか。ついつい選んでしまいます。

ヘルシーということで、よろしいでしょうか?


シロさんは、ギャラリー(3)
 に出てくる、パラレル李順さんの脳内に住んでいる犬です。

水月さんに楽器を習おう「縦笛編」

* * * * * * *
2013年06月01日23:25
* * * * * * *

かきちらし。

タグ【他愛もないものよのぅ ふほほほほ】


縦笛編もなにも。

煩悩の発散です



* * * * * * * * *
水月さんに楽器を習おう「縦笛編」
* * * * * * * * *

「水月お兄様、お妃さまが
笛の手ほどきを受けたいとお見えです」

「紅珠。では、私の笛を持ってきておくれ」

「はいお兄様」


紅珠から手渡された布に包まれた笛を、
水月はそっと夕鈴の方に差しだし
ゆっくりと布を開いて楽器を見せた。

「お妃さま。ご覧ください。
これが西洋の縦笛、
リコーダーというものにございます」

夕鈴は物珍しげにジッと見つめる。
「リコーダー…」


「では。まず息の練習です。
笛はまだお持ちにならなくて結構です。
お口で練習してみましょう。

はい。唇をとがらせて。
舌先を上あごの裏に付けます。
そして…このように。

トゥー
トゥー
トゥー」


夕鈴
「トゥー、トゥー、トゥー」

水月
「そうですね、よろしいでしょう。
では次。

トゥ、トゥ、トゥ、トゥ、トゥ~」

夕鈴
「トゥ、トゥ、トゥ、トゥ、トゥ~」


水月
「はぁ…。
今日は大変けっこうです。

お妃さま。
大変お上手になられましたね。

是非、陛下の前で
今日の練習をご披露ください」


少し魂の抜け出そうな笑顔で、
水月は早々に練習を終え、
部屋から下がってしまった。


その後、紅珠とひとしきりお茶会をしながら
夕鈴は
(まだ笛も構えていないのに…?)と不思議に思った。
だが、
楽器なら何でも弾きこなすという水月が言うのだから
たぶん、何か、上達したのだろう。





その晩。

狼陛下が後宮に渡るなり
すぐさまお妃さまは
最近の定位置、陛下のひざ抱っこに収まることになる。

人払いをしても、降ろしてくれない。

「今日は、わが妃は、何をして過ごした?」
陛下が上機嫌で尋ねる。

モジモジしながら夕鈴が答える。
「今日は、水月さんに、笛のご指南をしていただきました」

「ふむ?
では早速本日の練習の成果を
私に披露してみせよ」

(ええ?)

「あ、でも。まだ。本当に、基礎、なんです
楽器も構えておりませんが…」

「構わぬ。今日やった内容を
やってみせよ」

夕鈴は、慎重に習った通り、
唇をとがらせて。
舌を上あごの裏に付けて。
「トゥー、トゥー、トゥー
トゥ、トゥ、トゥ、トゥ、トゥ~」


陛下は、すうっと目を細める

「…もう一度?」


(え?なにか
よくなかったのかしら…)


夕鈴は、もう一度。
頭の中で復習した。

慎重に唇をとがらせて。
舌先を上あごの裏にくっつけて…

「トゥー、トゥー、トゥー
トゥ、トゥ…

そのとたん

陛下は、夕鈴の尖った唇に
チュッとキスをした。



「…!!! なっ! 何するんですかっ!!」
真っ赤になった夕鈴。



「…だって、ゆーりんの
タコチュー口が
か、
可愛すぎるんだもん…!!!


”キスのおねだり”されてるみたいで…

ぼくたまんないよ(笑)



…っあっ! ゴメっ!!

ゆーりん、
枕でぶたないでっ!!!」


---
水月さんは、といえば。

夕鈴の可愛らしすぎるタコチュー口の変顔を思い出して
その後小一時間、笑い上戸が止まらなかった、とか。

池の鯉に餌をやるたびに、上戸にはまり
その後一週間、出仕に差しさわりがあった、とか。




(おわり)


ルパン三世の石川五ェ門の斬鉄剣のサビ

「またつまらぬものを読んでしまった」

プロポーズの日

* * * * * * *
2013年06月02日20:59
* * * * * * *

【現代パラレル】【黎×夕】


さて。今日6月2日はプロポーズの日、ということで。
短いのを1本書いてみました。


* * * * * * *
プロポーズの日
* * * * * * *



ここは日本のど真ん中。
銀座の4丁目のビル街。

ウィンドウに映る私の姿。

黒い無地のTシャツ。
ストレッチ・ジーンズにスニーカー。
頭にはキャップ。
元はオレンジのはずの擦り切れて薄汚れたエプロンには、引っ越し業者のロゴ入り。
腰には七つ道具の入った道具袋がぶら下がる。




引っ越しを請け負う小さな運送会社のバイトをやっている。
今日はビルの一フロアからオフィスの引っ越しの手伝いで、私は荷造り担当のアルバイト。

体力勝負だが、実入りは良い。


主任が腕時計をチラとみると、くわえていた煙草を靴で踏み消した。

「さあっ!
休憩時間、終わり」
手をパンと叩く。

「2時までにトラック出すぞ!
残り全部載せるぞ!」

主任が大きな声で声をかけた。

「新入り。
荷造り遅れてるぞ。さっさと片付けろ」
とついでのように嫌味を云われる。

ふぅ。


「さあ、仕事仕事!」

ウィンドウの中は別世界。

白いロングドレス。

顔が小さくて、足がすらっと長い
スタイルのいいマネキンが着こなしている。


すぐ汚れちゃう。
あんなドレス着ることなんて、きっとない。


ふーっとため息を吐く。

軍手をはめた手の中にある缶コーヒーの残りを急いですすって、エプロンのポケットに空き缶を入れた。


階段を使って、本日作業中のオフィスのある3階まで駆け上がる。

社長室の荷物。

…これがクセモノなのだ。

なにしろ、書類、ファイル類が多いうえ、蔵書がすごい。

社員の机は大方各人が段ボールに詰めていてくれていたので、トラックに乗せるだけだったが、社長室は、大事なもの以外はほとんど手付かずの状態。

「女の子に詰めて貰いたい。特に丁寧に」とかいう指示で。

…丸投げだった。


腕にガムテープを2本ほど引っ掛けて、荷造り用の段ボールをあと20枚ほど引きずって、社長室に戻る。


大きな社長机は養生が済んだ状態で入口側まで移動されている。

その机の上に若い男性が長い脚を組んで腰かけていた。



「やあ。
きみ。今日は、ここのバイト?」


「あ、はい」

(きょう、は?
…何者?)

でもこの人、とっても品のある立ち居振る舞いよね。

重々しい雰囲気をもちながら、どうみても20歳代…?それもかなり若い。
黒い髪。すらりと高い背をしている


「よかった。『社長室は女の子に丁寧に荷詰頼む』って指定してたの、
今日はちゃんと通ってたんだね。」


「はぁ」
なるほど。ワガママ出したのはこの人か。
おかげで私は重たい荷物にさんざん手こずっておりますよ。

でも、よく見るとすごい美形。
綺麗な赤い瞳に、長いまつ毛。
すーっと通った鼻筋に薄い唇。


「君さ、昨日の晴海のオフィスの時は、部屋の荷詰め担当じゃなかったでしょ」
にこにこと嬉しそうな声。
長い指で、軽くネクタイの位置を直す。


「ああ、あのときは掃除片づけだったので…

っていうか、どうして昨日が晴海のオフィスだったってご存知なんですか?」

「えーと。あそこもぼくの会社で」


(ぼくの、会社?
っ…って、この人、社長さんなのっ???)


「は? 
…お引越しの多い会社ですね?
どこか統合するんですか?」

「じゃなくて。
君が荷詰してくれるまで
いろんな関連会社のオフィス引っ越しさせてた、だけ。」


「はぁ???」
理解できない人がいたものだ。


「実は、君に運んでもらいたいものがあって
会社に掛け合ったけど、作業員の個人指名はできないって言われたんで…」


「はい…」

こんなに美形さんなのに。

ますます理解不能なお方。



「ちょっと、こっち来てくれない?」

「重たいものは、契約に入っていませんからね?
男性スタッフに頼んでください」


「大丈夫、すごく軽いから」
と大きな手を振りながら、笑う。

私はごしごしと軍手でエプロンを拭きながら、この不思議な人にゆっくり近づいた。

もちろん、私はかなり不審な目をしていたと思う。


「手を、出して。汀夕鈴」

「どうして、私の名前を?」


「ん?
…お父さんは汀岩圭。都庁で勤務する公務員。
弟の青慎君は一流国立大を目指して頑張る優秀な小学生。
お母さんを早くに亡くし、君がお母さん代わりに家庭を切り盛りし、高校の傍らバイトしながら弟の塾代を稼いでいる…
…で、間違ってない?」

「えっ!?どうしてそんなことを…」

「君、気が付かなかった?…」


と言って目の前の男性は、黒縁メガネを胸ポケットから取り出し、かけてみせた。


「…あっ!? 先生?!」

「うん!」
メガネをかけたその人は、まぎれもなくこの春、新任教員として紹介された数学の伯黎翔先生だった。


見た目すっきりしていたため、最初女子生徒がキャーキャー騒いだが、実際は女学生の黄色い声には一瞥もくれず、眼光鋭くジロリと睨んで、厳しい採点で凍らせるので別名「狼陛下」と呼ばれている超コワイ先生…というイメージ。

私のクラスは担当だったのだけど。
あまりたくさんクラスを持っていないようで、普段あまり学校内で見かけない。

(数学なんて、私、なくてもかまわない学科と思ってマス。すみません。)
夕鈴はギュッと目をつぶった。


「君のこと、ふとしたことで知って。
学校ごと買い取ってね。理事長なんだけど、新任教員として紛れ込ませてもらったんだ。

でも、きみ、全然ぼくの方、見てくれないし…

テストもやる気全然なさそうな点だから…。

プライベートで会えるタイミング作ろっかな、とおもって。

最近土日祝日中心で稼げる引っ越しのアルバイトしてるって聞いて。ね」


「…はぁ? 先生がなにを仰りたいのか
ぜんっぜん、わかりませんケド…」


「いいから。こっちきて。手を出して?
渡したい荷物があるから」


黎翔先生が微笑む。

クラスでこんなふうにほほ笑んでいるのなんて、見たことないし
想像もできなかったけど


こんなふうに華やかに笑うんだ。

きれい、な。人。


「はい!」
黎翔先生は、私の手をつかむと、てのひらの上に小さな箱を置いた。

銀のリボンがかわいらしくついた、パールの包装紙には高級デザイナーズブランドが印刷されている。

「…あけて?」

私がぼけっとしているので、
私の手のうえから先生の手が重なって。
リボンを引っ張るように誘導される。

急に優しくそんなことされて、顔がカーッとなる。

「なんですか? いったい」

包装紙を開くと中には白いビロード張りの小箱があって。

パカっと開くと。そこには指輪。

黎翔先生はひざまずくと
私の手を取り甲に口づけをした。


軍手の嵌まった手に
これほど不似合いな美しい光景も…

私は不覚にも ボーっと見入ってしまった。


「汀夕鈴、ぼくと結婚してほしい」


(はぁ?)

私は目をこれ以上ないほど見開いた。
たぶん生まれて初めての最高サイズ、ギネスブック記録に申請できる位に…


「汀夕鈴。ぼくと結婚して?」




!!! 結婚も何もっ!!

わわわたし、あなたのこと、

…なにも知らないんですけど???


えええええ?




こんなふうに
私と黎翔先生の物語は始まった。


(おわり)

悪女妃伝説―1

今日・明日忙しくしております。

すみません。

ささやかで、どうしようもないSSSを、おおくりいたします。

行き当たりばったりですが。…
気分は「嫁が可愛すぎて、どうしよう」シリーズです。


【バイト妃】

* * * * * * * * * *
悪女妃伝説―1
* * * * * * * * * *

―――陛下は

ほんとうの、紳士だと常々思う。

ただのバイト妃である私を、大切に、大切に
扱ってくださる。

この方を困らせたくない。
足手まといになりたくない。

だから。

陛下が私に求めることなら、
なんだって、叶えてあげたい。

小さいことでもいいから。
何かを求めてもらえるって、嬉しい。

私のできることを
一生懸命、こころをこめて
頑張ります!!


「…妃よ?」

「はい?」


前髪ごしに、
陛下の視線を感じちゃう…。

陛下の香りにつつまれて、
頭がくらくらする…

「…なぜ、目をそらす?」


陛下の口元がすぐそばで。

低く声が耳元に熱っぽく響く。

…み、耳が…熱い…

カーッと熱が上がる。

…は、…恥ずかしい…

でも。

…ここは…
陛下の方を……



夕鈴は、

黎翔の胸元に添えたまま
プルプルと震えてしまう手を
必死に…押さえこみ…

大きな目に浮かんだ涙を、
こぼれない様に必死に見開いて。


上目づかいで、そっと見上げた。

「…はい。 陛下」




 きゅーーーーーーんんっ…!!!! 



心の中で、ツッコミ
←(きみって、ぜったい、悪女だよ)

(おしまい)


*

悪女妃伝説―2

日本人のソウル・ドラマ(?)水戸黄門のような安心の定型テンプレを用いて
どうしようもないSSSを、おおくりいたします。

行き当たりばったりは続く。

気分は「嫁が可愛すぎて、どうしよう」シリーズです。


【バイト妃】

* * * * * * * * * *
悪女妃伝説―2
* * * * * * * * * *



―――陛下は

ほんとうの、紳士だと常々思う。

ただのバイト妃である私を、大切に、大切に
扱ってくださる。

この方を困らせたくない。
足手まといになりたくない。

だから。

陛下が私に求めることなら、
なんだって、叶えてあげたい。

小さいことでもいいから。
何かを求めてもらえるって、嬉しい。

不肖ながら汀夕鈴!

今日も、
私のできることを
一生懸命、こころをこめて
頑張ります!!



それは、夜半になって、急に冷え込みが厳しくなった、ある日のこと。


「陛下…?」
いつものようにはにかみながら、夕鈴が口火を切った。

「なあに? ゆーりん」
黎翔は膝の上に囲い込んだ夕鈴が
真っ赤になって見上げてくるので、
読んでいた巻物から目を離して
嬉しそうに見つめ返した。


「…どうして、いつのまに
こーゆーことになってるんですか?」

夕鈴はますます、カチコチに固まる。

黎翔は、びっくり眼で夕鈴に問い返す。

「…どうしって。
ゆーりんが、もっとバイト妃、頑張るって
いうから…でしょ?」

「…でも。
陛下…。
私、重いですよ?

お疲れの陛下を、ますます疲れさせちゃったら…
バイト妃失格です…」

夕鈴はますます居心地悪そうにモジモジした。

黎翔は真剣に打ち消す。

「そんなことないって!
ゆーりん、ぜんぜん重くないよ?」

「…そうですか?」

「ゆーりんがこうやって傍に居てくれると
暖かくて…。

急ぎの確認の巻物だって
なんだか、どんどん読める気がするなぁ…」

「…あったかい、ですか?」

「うん。」

「…じゃあ…もう少しだけ…」

「うん!頑張って読んじゃうから
その間、ぼくをあっためててくれる?」

「…では…」

夕鈴は顔を真っ赤にして、そっと黎翔の背中に手を回し
キュッと抱きしめた。


「…陛下っ!
私、がんばって
あっためてますから…

急いで、巻物
読んじゃってください~~っ!!」






 きゅーーーーーーんんっ…!!!! 



そんな…
密着したら…



無さそで ありそな
ゆーりんの ××××の××××がっ…


心の中で、ツッコミ

←(きみって、ぜったい、悪女だよ)

(おしまい)


*

安心の展開※・テンプレ定型文を用いることにより、リフレインの力強い説得力を狙った、シリーズ。…としておきしょう ←

※例)日本人のソウル・ドラマ(?)水戸黄門のようにお話のパターンが決まっているお話ですね…??


(単なる手抜きSSSだ、とは
決してツッコんではなりません、よ?)


ええ。明日まで。
本当に忙しいんです。

ごめんなさい。


*

さまよえる白陽

崩壊 → リハビリ中です。
お目汚しですみません。

「なにやっても怒らないわ、さぁ、どーんといらっしゃい」とおっしゃっていただける方。
こちら側に踏みとどまれる、お心の広い方。

よろしければ、どうぞ。


【未来パロ】【SF(ロボット宇宙モノ)?】
基本、陛下、ワガママ。


* * * * * * * * * * * *
さまよえる白陽
* * * * * * * * * * * *


銀河の彼方、白陽星へ
はるばーるのーぞーむー
ひ魔人ゴー!
ひ魔人ゴー!
ひ魔人我ぁ、ゼーット!



第一艦橋(ブリッジ)に上がる高速エレベーターが「チーン」と鳴る。

シュ…と微かな音をたてて
隔壁が開き、おもむろに一歩踏み出した男。

リノリュームの床をカツカツとブーツの音が響く。


「───もどった」

白銀の耐Gパイロットスーツに身を固めた黎翔が、襟元のチャックを広げる。
頬を伝う汗が光る。

左手にはヘルメットをかかえ、鬱陶しそうに首の周りにあるコードを引きちぎっている最中。


「…あ! へーか、お疲れ様でした!」

コンソールパネルに向かって、各所に指示出しをしていた管制塔のアイドル、夕鈴が嬉しそうに振り向く。

航海班通信科の女子用は白地にピンクのぴったりとしたユニフォーム。
当然のごとくミニスカにニーソ風長ブーツ、絶対領域が女の心意気だ。
夕鈴の細いウエストラインを引き立てている。
ユニフォームデザインby総務課の張老子。


…あ、ついでに説明しておく

黎翔のコードネームは「へーか」。
───そういうことで、宜しく。


「お疲れ様。へーか。今日の戦果も大したものですね」

司令ブースに座る艦長代理の李順が、組んでいた指をほどき、指でメガネの縁をクッと押し上げた。


「…戦況は?」
黎翔がヘルメットを指令席のコンソール脇の台にドンと置く。


「…芳しいとは…
前後を挟まれ、───こう着状態です。」

「右翼の護りは誰が?」

「浩大率いるラオチュウ部隊が」
李順が答える。

「ふん…いい動きはしていたが。
…それでも
持ちこたえるので精一杯…か」


「へーか、ドリンクです…」

「ああ、ゆーりん。君とのお茶をゆっくり奥の艦長室、で…」

へーかと呼ばれた男は、片手でやんわりと夕鈴の腕を捕え、その細い腰をもう片方の腕を回して引き寄せた。


「…へーか。まだ警戒態勢は解除されていませんが」

「ああ…だが少々よかろう?
小休止だ」

「敵に、こちらの都合で小休止も何もございませんっ!!
───プレイべートは。
戦闘(オシゴト)片付いてから、でお願いします」


「…なに?」

黎翔がギラリと睨み付けた。

「…この艦に乗りこんだ2千人の命。我々の指揮に従う千の艦艇、これらの艦隊すべての明日を背負っているのですよ───艦長?
…いや、珀黎翔司令官!」


そう。
この男こそ。
白陽国の技術の粋をつぎ込み極秘裏に制作された「ひ魔人ガーZ09(ゼロナイン)」をこの世でただ一人感覚的に操ることができる最強の天才パイロット、珀黎翔。

『さまよえる白陽国』の千の艦隊を率いる宇宙艦隊司令官であり、正当なる王位継承者なのであった。


「…オシゴトが終わったら、か?
言ってくれるな…李順」

李順の背中にゾクリと冷たい汗が流れた。


黎翔はおもむろに指令ブースの艦長席に座ると、手元のコンソールにパチパチとキーを打ち込んだ。
ウィン…と軽い音がして、床からせり上がる装置。
赤い透明なドームで囲まれたスイッチが現れる。
このスイッチは危険で重大な決断の時にしか使用されない。

「はどー砲、準備!」

システムは黎翔の声を自動的に判別し声紋キーが解除される。
スイッチを厳重に囲む赤いドームが自動的にパカと開く


黎翔は、おもむろにヘルメットに手を伸ばし、再び被る。

黎翔は、スイッチから延びるコードを引きだし、ヘルメットのコネクターに繋ぐ。
ヘルメットのセンサーを介し、黎翔の思念エネルギーを艦とつなぐのだ。

「エネルギー充填!」黎翔。
「エネルギー充填」李順があわててマイクに向かって復唱した。
「エネルギー充填」スピーカーから機関班班長の声が返ってくる。

「───夕鈴。全艦隊に緊急通信。
全艦総員、対光線対ショック態勢にはいれ
エネルギー装填120秒後に作戦に入る」



「全艦に告げまーす!
へーかが撃ちマース!

みんなの元気を少しずつ、わけてくださいね~!
じゃあ、みなさん、一緒にがんばりましょう!」

かわいらしい夕鈴の声が響いた。

「元気玉ぁー」李順がマイクに向かって。
「元気だまぁ~」機関長が復唱する
「「「「「元気玉ぁあああああ!!」」」」」千の艦隊。その時、復唱された


ぴぴぴぴ…とエネルギーの充填量が表示される。
「はどーエネルギー、100%充填!」スピーカーから機関班班長が。
「はどーエネルギー、100%充填!」李順が復唱する

目の前のスクリーンに大きな白い玉がどんどんと集まってくる

「元気玉、あつまってます!」夕鈴が叫ぶ
「もっと! ガンバるのです!! さあっ!」李順がマイクに向かって叫ぶ

「もっと、もっと 元気玉ぁー」李順がマイクに向かって。
「もっと もっと 元気だまぁ~」機関長が復唱する
「「「「「もっと、もっとぉ~ 元気玉ぁあああああ!!」」」」」千の艦隊で、復唱された



さらに白い玉は大きく膨らんだ。
もうスクリーンのサイズを越え、真っ白だ。

「───きます!」

夕鈴が別のメーターの数値を読み上げる。
「…ブリザードパワー、120、130、160、200…!」
「へーか。今日はいい感じですね…?」祈る様に李順は手を組んだ。


「ブリザードパワー、2000突破!」夕鈴が叫ぶ

「よしっ!」

画面に軌道を計算する複雑な軌跡が表示され、ピピピピと照準がロックオンされた。

「はどー砲ぉぅ… 」

保護シールドが下りる。

「発射!
てーーーーーーーー!」


ごごごごごごご…

この艦が発射する『はどー砲』は、はどーエネルギーに加え、みんなの元気玉と、黎翔のやる気エネルギー(ブリザードパワー)の総合力で打ち出される究極の兵器だ。

今日の黎翔のブリザードパワーは圧倒的だった。


敵は、凍って砕け、宇宙のチリと消えた。



「オシゴト、完了。

戦闘態勢解除。
───これより茶にする」

へーかは立ち上がると、通信席のゆーりんに近づき、抱え上げ、艦長室へと消えた。


前方を塞ぐ敵をけちらし、『さまよえる白陽』の旅は続く。



銀河の彼方、白陽星へ
はるばーるのーぞーむー
ひ魔人ゴー!
ひ魔人ゴー!
ひ魔人我ぁ、ゼーット!



(End)

131216-02_450-636
アニメ風へーか

新しい年を君と

本年もよろしくお願い申し上げます。

【初詣】

* * * * * * * * * * * *
新しい年を君と
* * * * * * * * * * * *

「夕鈴、ちょっと」
背後からヒソと黎翔に声を掛けられ

「―――何でございましょう?」
と夕鈴は最後の笑顔を振り絞って振り向いた。

今日は大みそか。

年を送り新たな年を迎えるための様々な行事や準備で
ここ数日国王と妃は疲れ切っていた。

「―――こちらへ」

黎翔は夕鈴の手を取ると暗闇に向けて足早に歩き出した。

「あっ!?
陛下っ―――どちらへ!!」
李順の声が追っかける。

黎翔はニコと笑うと
「李順。今年はご苦労だった。
私は、これにて仕事納めとする。
来年もよろしく頼む。
―――では!」

言うが早いか、夕鈴を抱き上げ駆け出した。

「―――あっ!
陛下っ!!」
李順が叫ぶが、中庭には鞍の乗った黎翔の愛馬に馬が用意されていて、黎翔はそれに夕鈴を載せてひらりとまたがり、あっという間に遁走した。

「…李順さん、ゴメーン」
浩大の声。
「とりあえず、先に謝っとくねー?
俺、へーかの命令には逆らえないんだー」

(くっ。どこに潜んでいるのか、
当然、姿を見せないですね…?
…まったく。どいつもこいつも)

「…でもまあ…。良しとしますか」

李順は、がらんと静かになった執務室を見回すと、
しばらくじっと佇んでいた。

それから、おもむろに机の上を片付けはじめる。

「―――さすがの私も。少々疲れましたよ」

* * * * * * * * * * * *

李順が執務室の灯を落とし鍵をかけるころ―――
馬で去った二人は山の上の古寺の参道の入り口で、黎翔は軽やかに馬から降りた。
鞍の上の夕鈴に手を差し伸べ、抱き下ろす。
馬をつなぐ。

「ここは…お寺ですか?」

ときおり鐘が鳴る。

「本殿まで二人でお参りしない?」

真っ暗闇の馬上で、必死に黎翔にしがみついていた夕鈴は真っ赤な顔をしていたが、暗闇の中でそれを見られなくてちょっとホッとした。

いつもは真っ暗な参道も、大みそかの今日は参拝者のためにところどころに篝火がたかれている。

大きな山門が見える。
くぐる際に黎翔は手を合わせ一揖し、夕鈴はその作法をまねた。


黎翔は夕鈴と指を絡ませる。

夕鈴はドキリとしたが
「山道は危ないから、ね?」と言われると、
おもわずきゅっと指を返して握り返してしまった。

「この階段を上るんですか?」
「うん。端をね。歩くんだ」
「端?」
「山門を入ったら、下界を離れここは聖域に入ったからね
ああ、空気が冷たくて清々しいな。
もうすぐ、新しい年がやってくる。
二人で一緒に参ろう」と誘った。

「は、はい」

夕鈴は黎翔に手を引かれ
二人で石段を登る。

参道を登りきるころには息が上がって…。


手水舎で身を清め、新しい蝋燭に火をともし線香をあげる。

「陛下のお作法は…見ているだけでもすがすがしいですね」

「―――ん?」
黎翔は目を丸くして笑った。

さりげない、なにげないことが、美しい。
この世に稀なる高貴なお方とは―――そういう、存在なのだ。

線香の煙が漂い、暗闇の中に御殿が篝火に浮かび上がり、人々の黒い影が行き交う。

焚火に古いお札をくべ、パチパチと火の粉が飛び散る。


最後の除夜の鐘が鳴り響き、
「年が―――あける」と声がかかると
誰からか口々に祝い合った。


「夕鈴。
新年、おめでとう」

黎翔が軽く夕鈴のほうへ顔を寄せて言祝いだ。

「陛下、明けましておめでとうございます…」

夕鈴は、返事をすると「…っ」と小さく声をあげ、胸を押さえてしゃがみ込んだ。

「―――どうしたの!?」
黎翔は慌てて夕鈴の肩に手を当てて、抱き起こした。

「いえ…。
すみません、ご心配なく。
―――こんな、贅沢な新年は初めてで」

「贅沢?」

「―――だって。万人が受けたいと思っている
陛下からの祝福の言葉を、
私は一人だけ今年一番のりでいただいたのですから…
畏れ多くて。
思わず、足が震えちゃいました…!」

黎翔はフフと笑って。
「それなら、私も一緒だよ
君の祝福を
独り占めしているんだから―――」


誰も、二人のことを特別とも思わず。
―――国王としらず、妃と知らず。


ただむつまじく手をつなぎ
殿の前にすすむ。

一揖し、金貨を投げる。
夕鈴の投じた金貨はコツンと跳ねた。
一瞬ドキっとした夕鈴。
金貨はコロコロ、コトンと賽銭箱に収まったのを見て、ほぅと安心した表情を浮かべる。
―――そんな仕草が可愛くて、黎翔はじっと見守った。

二人で鈴を鳴らす。
そして胸の前で手を合わせ、願う―――。
お互い、透明な気持ちで真剣に。
…ふと満足げに黎翔が笑った。
夕鈴も笑った。

二人してもう一度一揖して、無事お参りを終える。

二人でお参りをする、という小さな達成感と幸せに
夕鈴はホンワリと暖かい微笑を漏らした。

歩き出した黎翔はヒソと夕鈴に耳打ちをした。

「―――何をお願いしたの?」

「…秘密です。
そういう陛下は?」

「―――では。
私も、秘密にしておこうか…?


…いや。

実は、こう願った。
私は」

陛下は夕鈴の手を改めて大きな掌ですくい取り
握り締めた。

「…君との、新しい年に。
幸多かれと」
黎翔は、懐の内側にすっぽりと夕鈴を収めるように抱きしめる。

夕鈴は小さな声で答えた。

「私は
―――陛下が
もっともっとお幸せでありますように、と願いました」

暗闇の中で、年改まった厳かな気持ちで夕鈴は真面目に答えた。

「君と一緒なら、私は幸せだよ?

だから、夕鈴。
ずっと一緒に居ておくれ?」

黎翔は甘えたように背中から抱きしめ、返答を待っているものだから、
夕鈴にはもう一歩の逃げ場もなく…。

ついに小さく、コクとうなづいた。

「―――陛下。
今年もよろしくお願い申し上げます」



(おしまい)

SS わたしのものは、きみのもの

Happy Birthday!

Rさんのお誕生日に寄せて

【黎翔×夕鈴】

* * * * * * * * * *
わたしのものは、きみのもの
* * * * * * * * * *

シンと静まった自室で、紙の上を筆が滑る音だけが続いていた。
そこに隠密がいることは気が付いていた。

だが私は顔をあげず淡々と仕事を続けていた。



───このところ忙しすぎた。
だから李順に要求し、了承させた。

行事もない、朝議もない、なにもない一日を妃と過ごす、と。

明日は一日、休暇。
忍びで夕鈴と王宮を抜け出し街へ下りる約束もとりつけていた。

久しぶりに、二人とも一日まるまる自由。
幸せな休暇にしたい───だが、目の前にはそれを阻みかねない山のような決済待ちの書類。

辟易とするが、片づけない限り増えるまこと厄介な限り。

…李順は全く手加減というモノを知らん。

明日は休暇だ、と前々から言っていたにもかかわらず
嫌味のようにここぞとばかりに仕事を押し付けてきた。


「へーか。
お妃ちゃんの誕生日って、知った?」

「───何?」

私は思わず、隠密の方へ振り向いた。

「…あれ?
やっぱ、知らなかったの?」

「だから、なんだ!」
私は忙しいのに、自分だけノンビリと人を食った口調の隠密に少々神経を逆なでされた。

「明日。お妃ちゃんの誕生日でしょ?」

「───は?」

「あー、やっぱ。知らなかったんだ。
よかったネ。
だからわざわざ明日にしたのか、どーなのかなーって?

せっかくのお出かけするんなら、
ちゃーんとお祝いしてあげなきゃ」


「…その情報は、耳に入れる価値があるな」
私は、引出をあけ適当な酒瓶を一つ隠密の方へ放ってよこした。

「やたっ! いー酒じゃん!」

さすが有能な隠密は主人にとって有益な情報を選んで報告する。

私の手元は更に速度があがる。

ならば早く片付けて、明日のプランを練らねば!!

「そういえば…。
今平安区の中央に小屋掛けしてる
人気のジョッキー・チュンって役者の
包丁人カンフー列伝って演し物が
すっごい人気らしいっスよ?

…あと、その近くのお楽しみ・グルメ特選情報ね」

浩大は懐から地図らしき巻紙をチラと見せた。

「…ほう?」

もうひと瓶、酒を取り出す。

───交渉成立。

「じゃ、おいら見回りに行ってきまーす。
お仕事、頑張ってねー」

にぱっと笑って浩大は姿を消した。


* * * * * * * * * *

「えー? 陛下。
ほんとにいいんですか?」

「うん、いーから。
食べて食べて」

「でも、今日は朝から下町に出て、
お茶して、お団子食べて、
桟敷席で劇を見させてもらって
ご飯おごってもらって…
───それもこんな高級飯店で!!
なんだか悪い気がします」

「劇、面白かった?」
夕鈴の顔色を窺うように慎重に覗き込む。

「そりゃ、もう!
ジョッキーさんの大根の速切りの技と、あのおタマと包丁で闘うシーンには…
鳥肌が立ちましたっ!!」

まだ興奮が残っているのか、思わず手足を動かしながら一生懸命シーンを再現している夕鈴は可愛い。

「ね、あっちの市、覗いてみない?
こっちのお店は手づくり飴で有名だって。
少し買ってく?」

「あー、ほんと、すごい飴細工ですね~!!
でも、へーか…じゃなくって、李翔さんって、
本当に下町情報詳しいですね!?」

「いや? あー、それほどでも」

私は思わず懐の情報誌を手で押さえる。浩大の情報は正確かつ的確だった。
二人連れだって市の店を冷やかす。

「夕鈴は、何か欲しいものある?」

「特にないですよ。ご心配なく!
見てまわるだけで十分幸せです!!」

しまり屋の彼女は、難攻不落。
無欲すぎて、取りつくしまがない。

市の中でも女性向けの雑貨を扱った店を通りがかる。
「…!」
何かに目をとめた夕鈴は思わず立ち止まる。

「何か記念に一つくらい…どう?」

と、あきらかに夕鈴が目をとめていると思えた飾りボタンを一つ手に取り、彼女の胸元に当ててみる。

「…! こんな高価なものはっ!
…それに、つける衣裳もありませんし」

───だめ、か。
ガッカリした。

こんな感じで、何かをすすめても断り続ける夕鈴。
彼女は私からの贈り物を、何も受け取ってはくれない。

「夕鈴、何か欲しいもの、ないの?
…他に、食べたいものとか、
見たいものとか、
───行きたいとことか?」

「いえ、何もいりません。
いまのままで十分です!」

つつましやかな彼女を
どうしたら喜ばすことができるんだろう。

夕鈴の誕生日。

私は祝いたい。

彼女のために何ができるんだろうか、と私なりに考え抜いた。

とりあえず街に出て、当たり障りないことから、と順に試してみたけれど。
今のところ、何一つ解決策は見つからない。

万策尽きた私は、本当に困り果ててしまった。


夕鈴は私の様子に気が付いて、ふと暗い顔をしてうつむいた。

「せっかくの陛下の貴重なお休みなのに。
私ばっかり甘やかして、
私のために無駄にさせてしまって、すみません…」

「そんなことないよ?」

「───でも
陛下、困ったお顔をされています」

チョイと眉間のあたりを指さされた。

「李翔さんの眼鏡をかけていても、このあたり。深いシワが…」

夕鈴の細い指が私の額に触れて、離れる瞬間、
私はおもわずその手を捕えた。


「夕鈴の誕生日を…祝いたかった」

「───え?」

「君の誕生日が今日だと」

「…え!?
あ…確かに。そうでした!

でも普段家ではお正月にみんなまとめて齢を取るお祝いをしていたので…
気にしていませんでした…。
どうして私の誕生日なんて、ご存じなんですか?

…ああ、だから!!
こんなに…贅沢なお食事とか…

あーっ、もう!!
李翔さん、気を使いすぎですっ!
私のことなんかで…」

少し慌てた表情で、君がオロオロしはじめた。

…ああ、逆効果。

なんだろう、すごい敗北感。
ガッカリしてしまう。

「…私は、君の生まれた日を
君と二人で祝いたかった。

だから───
君に何があげられるんだろうって、…悩んで。
分からなくて…」

思わず、ションボリしてしまった。
そんな私に君はますますオロオロする。

「だから、そんなに甘やかさなくていいんですってば!」

「…でも。知りたい。
君が欲しいものは、何?」

進退窮まり、私を悩ませている原因がなんであるか
ついに白状した。

「私の?───

お気持ちはすっごく嬉しいんですが…。

えーっと。
あんまり自分のこと、とか
…すぐに思いつきません…」

彼女はあっけにとられて
ポカンとした表情で私を見上げた。


「思いつかない?
何も?」

彼女の両肩を掴んで、顔を覗き込む。

「…えっと。でも
───私。
いつも

陛下に楽しんでもらいたくて。

どうしたら、陛下が喜んでくださるんだろう、って。
そればっかり考えてるから…

陛下が今日みたいに、なんだか難しいお顔されて、困っていらっしゃると…申し訳なくて」

と夕鈴は恥ずかしそうにモジモジした。


───!

ああ、…なんて君って
無欲なんだろう…

思わず、いろいろ考えすぎた自分がおかしくて。


…そうだ。

───そうだった。


ぷっと吹き出す。


「今日一日君と一緒で、
私は本当に、楽しかった!!」


私が思わず破顔すると

「ああ、よかった!

その笑顔が
一番のプレゼントです!」

と彼女はパッと太陽のような笑顔で答えてくれた。


「夕鈴。
今日一日、本当に楽しかった。

お誕生日、おめでとう!!」


吸い込まれるように、君の柔らかな頬に口づけをしてしまった。


───怒らないで。夕鈴

だって私の喜びは
君のものだ、っていうから。



(おしまい)


*

[ジャンクSS] 浦島黎翔

とりあえず何か。心の隙間を埋めようと努力はしています。
でもとても、くだらないものです…
許せるようでしたら、どうぞ。

スミマセンが【訳アリ品(ジャンク品)】につき、返品・交換・クレームいっさい受け付けません。
ご理解いただける方のみどうぞ。

【ジャンク品】【パロディ】【パラレル】【山なしオチなし意味なし】
* * * * * * * * *
浦島黎翔
* * * * * * * * *

昔むかーし、あるところに
浦島黎翔という若者がおったそうな。

ある日黎翔が浦にでると、
磯で小さな亀をいじめている子供たちがいる。

「こらこら、おやめなさい」と子供たちを諌めると、
助けた子亀をそっと渚のほうへ連れてゆき
「さあ、もう大丈夫、海へお帰り」と逃がしてやりました。

すると子亀は
「浦島さん、ありがとうございました。
ぼくは青慎という名前の亀です。
助けてくれたお礼に、姉さんのいる竜宮城へご案内しましょう」
と丁寧にお礼を言いました。

それで浦島黎翔は子亀の背中に乗せられて
海の中をどんどん深いところまで連れられてゆきました。

海の底にはちょっと下町風な長屋があり
「竜宮城」と看板が出ているのが見えました。

竜宮城の前には門があります。

なんだかチョロチョロ、可愛い雑魚が門の前に勢ぞろいしています。
「おい、アニキに知らせろ」と細目のヒラメの声が聞こえます。

奥から「おう、なんだ、子亀の青慎」と隻眼の鯛が出てきます。

「あ、鯛の几鍔さん、こんにちは。
この方は浦島黎翔さんです。
いじめられてた僕を助けてくれたので
少しおもてなししたくて
お招きしました」

「おい、変な奴じゃねーだろーな?」
「あれ、そんなにぼく、変?」
ケンカ腰の鯛の几鍔に、浦島黎翔さんはニコニコ子犬のように微笑みながら問いかけます。
でも、用心深く腰の釣竿に手がかかっているのを、鯛の几鍔は見逃しません。
(あの釣竿…何か仕込んでやがるな? 俺たちを釣り上げようって魂胆か? チッ。油断ならねえ奴だ)
几鍔は「ま、青慎がそういうなら、入れてやんな」
というと、手下たちは通せんぼしていた門を開けました。

「竜宮城」と書かれた長屋から、かわいらしい娘さんが出てきました。

「浦島黎翔さん、わたしがこの竜宮城の乙姫・夕鈴です。
よくぞ弟の子亀、青慎を助けてくださいました。
お礼にごちそうをいたしますので、どうかここでゆっくりしていってください」

乙姫夕鈴は自ら厨房に立ち、大根をスパスパとなぎ倒し、見事なパフォーマンスで庶民的な夕食を作ってくれました。ほぉおお~と浦島黎翔は感嘆の声をあげ、余興を十分に楽しみ、夕鈴姫の手料理を「おいしいね、おいしいね」と食べました。

こうして夕鈴姫のもとで浦島黎翔は毎日楽しく過ごしていました。
ところがある日
「お仕事が山のようにたまっております。
どうか早急にお戻りください。
お帰り、心よりお待ちしております―――李順」という手紙が、この竜宮城に届きました。

浦島黎翔は「…いやだなぁ。帰りたくないなぁ…」と散々駄々をこねました。

乙姫夕鈴が「さあ、すぐお帰りください。お仕事が待っておりますよ」というのですが、
浦島黎翔は乙姫夕鈴と離れがたい。

そこで、夕鈴姫はおまんじゅうをたくさんふかして、玉手箱へ詰め
「お仕事が終わったら、これをお食べください。
お仕事が終わるまで待てできなかったら、もう作ってあげません」
と言って持たせました。

夕鈴姫手作りのおまんじゅう食べたさに、
浦島夕鈴は仕方なく仕方なくいやいやもと来た道を、子亀の青慎の背に乗って地上へと戻ってきました。

地上に戻ると、見慣れた風景が何とはなく変わっています。
それでも記憶を頼りに戻ると、
李順、周康蓮が待ち構えており、
山のような仕事を盛り付けた箱を次々と運び込んできます。

くたくたになるまで仕事に追われ、
毎日毎晩頑張った浦島黎翔。

ようやく乙姫夕鈴との約束を果たし、
玉手箱を開けます。

すると中からモワっと白いカビが舞い上がり
中のおまんじゅうは腐界にのみこまれ
すっかり菌糸に覆われたナウシカな世界になっていました。

ラン、ランララ ランランラン ラン、ランラララン
ラ ラン、ランララ ランランラン 
ララララ ラン ラン ラン

あまりのショックで髪が真っ白になった
浦島黎翔さんは
おじいさんになってしまった、とさ。

ご愁傷様でした。

(ヤマなし、オチなし、イミなし。)




<おしまい>

――――――――――――――――――――

たぶん、55話の陛下が。

心の変調をきたしているように
私も変調をきたしております。←

可愛いんですけど

ロックしちゃう陛下は…
想像できなかったので
自分の中の陛下像が再構築できず、今ブレまくってます。

(これまでの狼モードは、隙あらばつけ入る
妖艶なまでもの、あの憎たらしい余裕というか。
へー然とやっちゃうあのお方、だったんです)

少女漫画ですかね。
ここで肉食陛下になったら
歯止めがきかないですから。

だからこういう選択肢もありなのです
可愛いですし
ラブラブ~~なのです

ただ書き手として、
原作を重んじて、
登場人物の性格とか考え方とか、極力なぞらえて
二次を再構築しよう、とすると
とてつもなくハードル上がっちゃった気がします。

陛下の弟さんとか
じつは別人、とかだったら
それのほうが、まだ。お話、作りやすいです。

ごめんなさい、
決して味噌つけてるわけじゃないですよ。
自分の中の問題なのです。

ようするに、―――書けない言い訳です。(笑


狼陛下で、夕鈴を妖しく翻弄する、甘ーいお話を、というキリリクも戴いていて
書いてみようかな…と頑張ったんですが

1本書きかけを、捨てて

それで、気晴らしに
もう1本くだらないのをかこうと思ったんですが

これもどうしようもないほど、
書けなかったです。

でも、とりあえず無害なので(?)
こちらを、日記代わりに乗せておきますね…。

ごめんなさい。






SSS とおいところ

設定はこだわりませんが、本誌設定、バイト妃、かなと。
陛下のやんでれなつぶやき


* * * * * * * * *
SSS とおいところ
* * * * * * * * *


「一人で遠くに行かないでくださいね?」
と君がいうので

「じゃあ、一緒に来て」


彼女の言葉尻を捕えた。



王様という役割は
人からは、とても遠くて

この地に在りながら
人の手の及ばぬ遠くに
縛りつけられている。

誰からも嫌われ
怖がられるべき存在。

ただ役割を担うために
在る己の身


私は
この身も命も
たぶん
執着すべき対象ではなかった。


いつでも捨てられるもの

そう思えて仕方がなかった。


───でも
君が一緒にいてくれるなら
もう少しだけ。

ここで、踏みとどまれそうな気がする。

人からどれほど遠くても

まだ
私はこの世で
人の形をとり
在ることが
できるかもしれない。



家族と離れ
人と離れ

私と一緒に
遠くに行く?


生まれながら逃れられなかった運命を
呪いこそすれ、祝福とは思いもしなかった
その私自身で

自由な君を
檻に入れるのを躊躇わらなかったわけではない。


堅苦しい
正妃という役どころを君に負わせるなど

酷い男だ

だけど。
もう手放せない。


───陛下はズルい 
と、
君は言うかもしれない


でも

『遠くに行かないで』
『一緒に居ます』

そう、言ってくれたのは



だよね?


私たちは
桂花の木の下で、約束したのだ。


───そう。


私たちは
互いに気づいてしまったから。


傍に
居てくれないと

互いが
困る

と。



(おしまい)

長髪陛下の挑発(上)

こんばんは
今日は少しお仕事早じまい。

366666HIT を踏んでくださった まみりんさん のキリリク
──────────────
■お題■
陛下が始終狼陛下で ゆーりんを甘くあやしく翻弄して
要は甘々でお願いします。
──────────────

…すみません。甘くなってません。まだ。←

【バイト妃パラレル】【ねつ造設定】【ギャグ】

まみりんさんにささげます。

* * * * * * * *
長髪陛下の挑発(上)
* * * * * * * *

「…りん… ゆうりん。
…夕鈴、次、君だよ?
―――寝てるの?」

ゆらゆら揺れてカクン、と首がおちて。
その小さな衝撃で夕鈴はハッと、顔を上げた。

「…えっ! あ、はいっ!?
やだっ、私。寝てましたかっ?」

えっと…
目の前の差しかけの碁盤に焦点があった。

「夕鈴。次、君の番」

囲碁…
そうだ。

―――陛下がいらしているのに…。

私、どうしちゃったんだろう?

慌てて頬をパチパチと叩いて目を覚ますが
頭の中がふわふわしてなんだか記憶があいまい。

「―――もう、手がない?
負けを認める?」

陛下が笑って言った。

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!
今考え中で…」

碁盤をじっと見つめるがどこをどうしたものか、
まったく頭が回らない。


「すみませんっ!」と顔を上げて、陛下を見つめた。

―――あら?

なんだか…違和感。


え?

陛下が、


長髪!??

夕鈴は内心卒倒しかねないほど驚いた。
なにが何だかわからず、碁盤に視線を落として混乱する気持ちを静めようと必死に考えた。

―――陛下が、長髪?

夕鈴はそっと前髪の陰から前方をうかがう。
陛下は腰まで達するつやつやとした豊かな黒髪を背中に流し、くつろいだ寝間着に上着を重ね目の前の椅子に座っていた。

(おかしいわね、
私。
夢を見ているのかしら)

夕鈴は自分のほっぺたをギュッとつねってみた。


「へ、陛下!
そ、その、…お髪は?」

「髪?…どうかした?」

「―――いえっ、なんでもありませんっ…」

夕鈴はギュッと膝元においた手を握り締め、
(冷静に、冷静になるのよ、夕鈴!)とつぶやいた。

「どうした。
わが妃は強情だな…。
―――そろそろ素直に負けを認めぬか?」

盤上の石はどうみても陛下の優勢で、夕鈴に勝ち目はなかった。
あわてて盤上をにらみつけ、何か手はないか、
もわっとする回らぬ頭で夕鈴は必死に考えた。


向い合せに座っていた陛下は
碁盤に首を突き出すようにしていた夕鈴のの耳元の髪の一房をツイっと掬い、
かるく口づけを落とした。

夕鈴はびくっと肩をすくめると、ハタと黎翔を見つめた。

まじまじと見つめ合う。
(やっぱり、髪が長いだけで、いつもの陛下みたい。


黎翔は穴が開くほど変な表情をした夕鈴に見つめられ「ん?」という表情をしながらも、相変わらず余裕の笑みを口の端に浮かべ、夕鈴の亜麻色の髪を指先で弄ぶようにしながら、口許にかるく当てている。

「愛しい妃よ―――もう眠たいのか?」

「ちがいますっ!!」
夕鈴は長髪の陛下の妖艶な瞳にみつめかえされ、ポッと頬に熱が上がるのを感じた。

(どうしちゃったのかしら、いつもよりなんだか…色っぽいというか)夕
鈴はドキドキした。

「そう…見つめられるとますます離れがたいな」
黎翔は夕鈴の髪を指先でクリクリとひねり、二回、三回と愛おし気に口許に当てる。


「へ…陛下!」

「ん?」

「な、なぜ、そんなことされるんですかっ!」

「何故―――? とは何のこと?」


「その。私の髪を…その、あの…」
罰の悪さにモジモキしながら、あれこれ考えるが、答えは出ない。

「…夕鈴の髪に、口づけること?」

「今、二人っきりで。
仲良し夫婦を演じて見せる相手もここにはおりませんのに」

黎翔は苦笑をした。

「二人っきりで…してはいけない、と?」

「今は演技する必要ないじゃないですか?
陛下」

いつもと同じ表情、同じ声。
だけど、なぜか優しくて、物憂げなその瞳に引き寄せられてしまう。

「演技する、必要―――ね」

いつもと変わらぬしぐさで夕鈴の髪の一房を指先をひとしきり愛でると、スルリと名残惜し気に離した。

「演技じゃないとしたら?」

「演技じゃないなら、なおさらおかしいですよ」


「―――何故かな…
?…
何とも説明しがたいが…。
君もやってみればわかると思う。
とても心地よいんだ」

「…!?」

「やってごらん?」

「あ、あの…」

もごもごと夕鈴は口ごもった。

黎翔の指先の感触が思いだされ、

(あれを、―――陛下に? 私が?)

想像しただけで、ボフッと湯気が上がり夕鈴の頬は一気に紅潮した。


「ほら」

陛下に腕をとられ、机の向かい側から引き寄せられるようにグイと引っ張られる。


「…あのっ!!」

「ほら。こっちに来て」

あれよあれよと、腰をとられ、膝の上に座らされてしまう。
間近でみても、やはり陛下の髪は伸びている。
長くてまっすぐな黒い艶やな髪が
白いうなじをチラリと見せて豊かに背中に波打つ。

「君もやってみたら、分かるだろう?」

黎翔の耳元の一房も、見慣れたいつものそれより長い…

夕鈴は畏れ多く触れることもできず、息をのんだ。

「指を…」
黎翔は夕鈴の手を持ち挙げると、指先を開くように反対の手で念入りに広げさせる。

「…っ」

指先をふれられた途端、夕鈴は手をひっこめたい衝動にかられた。
しかし黎翔はあくまで優しく柔らかに触れているくせに、それを許されない。

「…ほら。触れて」

密着した二人が、頬を寄せ合い、指をからめ、
夕鈴はおずおずと黎翔の髪に触れる―――

(無理無理無理ムリ、無理ですっ!!っへいかーーーー)

夕鈴の顔は真っ赤で、今にも爆発しかねない内圧を必死に堪えている様子を見て、黎翔は満足げにうっすら笑った。

「…ほら。指先で絡めると…

―――いい気持、じゃない?」

黎翔の黒髪の一房が、
するり、と夕鈴指先の中で滑った…

掌を滑る髪の、重みと弾力のある滑らかさ。

…!!!!!

あまりの感触に夕鈴は思わずくっと手を縮めた

そのとたん
「…痛っ」と黎翔の声が上がる。

「え?」

手元を見ると、夕鈴の引き込んだ指先に黎翔の黒髪が絡んで、引っ張っていた…

「…ああっ!!ごめんなさいっ!!」

ところが黎翔は厳しい低い声で

「―――許さぬ」
と発した。


「…へ?
ごめんなさい、そんなに引っ張ったつもりじゃ…」

いつもと違い、狼陛下の表情で『許さぬ』と言われた夕鈴は頭が真っ白になった。

「許さぬ。
痛かった。」

冷たい狼陛下の声に、夕鈴は茫然とし、心臓をわしづかみにされたような衝撃で胸にズキンと痛みが走る。夕鈴は一瞬にして蒼白になった。


国王様の髪を引っ張って、傷みを与えてしまった…

「お、お許しください…」

「許さぬ」

夕鈴は黎翔の膝から降りて、床に伏して謝ろうと思ったが、がっちりと腰に回された黎翔の手が、それを阻止した。

「お許しください」

「ダメだ」

「―――なんでもいたします。
どうしたらお許しいただけますか?」

「…なんでも?」

「はい」

「では。

―――もう一度。
明日、政務室で
リベンジの機会を与える」

「…は?
リベンジ?」

「相手の髪に触れ、唇を寄せると。
…何がどう心地よいのか…
何故そうしたくなるのか。

君の愛らしい唇から私に教えておくれ」

「…せっ、せっ、政務しつぅ?!!」

「…何か?」

「あのその」

「君の言う通り。
人前で見せてこその仲良し夫婦であろう?」

「それは…」

「それとも、君にはその覚悟がないのか―――?
狼陛下の花嫁という覚悟が…」

覚悟がないのか、と言われ、
プロ妃をめざし日々精進している夕鈴はカチンときた。

「いえっ!ございますよ?」


「では?」

「ええ、やってやりますとも。
見事やってお見せしましょうとも!」

「私の髪を一房すくって、君が口づけするなんて…
本当にできるの?」
急に弱気な小犬な表情にクルリと変化した。

「ええ!やってみせましょうとも!」

夕鈴は、これは夢だ、と思った。

(だって、陛下が長髪なんだもん。
言ってることがおかしいもん。
きっと夢だから。
明日には醒めているはず)

それで、夕鈴は啖呵を切った。

「政務室でっ!!
みなさんの前で
へ、陛下の髪をひと掬い。
そして口づけをしてタラシなセリフの一言でも見事言ってのけましょう!!」

と。


さて。翌日目が醒めて。
やっぱりまだ長髪陛下であることに気が付いた夕鈴。
(どうしようわたしまだ目が醒めてないみたい)と青ざめた。

やっぱりやらなきゃ、ダメ?

でもたぶんこれは夢だから。

ええい、やってやりますとも、汀夕鈴。あんた女でしょ


(***)


ギャグSS 全開陛下

4/22【白陽国SNS地区】建国の日によせて。

ひょこり。
すみません、お祭りにエントリーだけでも…、というつもりで書き散らしてしまったギャグ短編です。
(コミュのお祭り用に一発書きです)

よいふーふ4122にかけながら、
お妃様より、女房役の側近殿の出番の方がおおいです。

軽いギャグで赦してやるよ、と懐深く接してくださるのであれば、どうぞ。

【多分、バイト妃】


* * * * * *
全開陛下
* * * * * *

左手で筆を持ち署名をし、右の手で捺印をする。
李順がその紙を持ちあげ乾くまでの仮の置場へ据え直し広げる。

「…ご機嫌ですね?」
次の書類が目の前に広げられる。

黎翔は目を通し、忙しく手を動かし、その合間に官吏を呼びつけ質問と、指示を挟んだ。指示を受けた政務官はあわただしく動き出す。

「―――何だ」
黎翔は表情一つ変えず、傍に立つ李順にチラリと一瞥をくれた。
穂先を墨にひたすと、さらさらと見事な手跡を残す。

書き上げたばかりの穂先は細く、乱れもない。

次、と伸びた手に、書面が乗る。

「なにかと効率よく進んでおります」
見事な間合いで、次々と書類に署名がなされ、捺印が押される。

李順と黎翔はまるで餅つきのつき手と返し手のようにリズミカルに次々と案件をさばいてゆく。

「…そうか?
なら良い」

書類に手を取りざっと要件に目を通し、朱筆を取り出しスイッと脇に追記する。
差し戻しの山へのせ、次の書類が差し出されると思って、右手を横に差し出した。

伸ばした手はいっこうに空手のまま、何も乗せられることがなかった。

「…なんだ?」

「…ふぅ。今日は、もう、終わりにしましょう」
李順は疲れたように肩をすくめ、空になった書類箱を差し出した。

「なんだもう、終わりか?」

「すべて終わりました」

「ふうん、そうか」

「やる気があるのは大変良いことですが…。
陛下のようにムラがあるといかんせん、周囲が付いてゆけません。
いつもこの半分、いや三分の一でよいですから
平常運航してくださると助かるんですがねぇ…」

李順の後ろには疲れ切った政務官らが死屍累々、折り重なって倒れていた。

「そうか、今日はもうないな?」
念を押して、李順が「その通りでございます」

「では、私は明日まるまる一日、休みだ。
完全な、休みだ。
誰がなんといおうと、朝から晩まで、休みだ。
誰にも会わん。急な要件であろうと、何一つはさむな!」

「…御意」

黎翔は笑いながら立ち上がると意気揚々と歩き出した。


―――帰ると、部屋には彼女が待っている。

「…あ! 陛下!
お疲れ様でした
お帰りなさい」

満面の笑顔で迎えられれば疲れも吹っ飛ぶ。

「夕鈴、今日は、何をしていたの?」
「陛下のために、お菓子を作っていました」
「楽しみだな、何?」
「うふふ、では、まずはお茶の準備をしますね?
お楽しみに…!」

夕鈴が静かにお茶の準備をしていると、
控えの間から声がかかった。
「―――陛下、おくつろぎのところ、大変申し訳ございません!」

黎翔は、あきらかにムっとした。

「…人払いをしたはずだが?」

「急な御用で、なんとしても陛下にお取次ぎを、と。李順様が」

李順には、先ほど十分釘を刺したはず。
それなのに、
(奴自身も疲れて果てているこのタイミングで)
こうして呼び出しするとは
よほどの『緊急事態』であろう。

「…仕方がない」

黎翔は、あわてて上着を羽織ると、隣室の謁見の間へと移った。

「陛下!」
「なんだ?」

「緊急の事態が…」
「だから、なんだ。私は完全休養だ。と、あれほど…」
「うっかりしていました!」
「うっかり?」
「白陽国SNSの建国記念日です」
「―――は? はくようこく、えすえぬえす?」

「お二人のラブラブ進捗具合を国民の前で広く示す大切な記念日なのです!
国を挙げてお二人にお祝いを…」

「祝い?」

「ぜひ、国王とお妃さまお二人のラブラブっぷりを、国民の眼前でしっかり披露してほしいと全土の国民からよせられた嘆願書が山のようにっ!?」

「馬鹿者っ!
私は、これから休暇だと。
仕事はしないと、あれほど…!」

「そこを何とか…」

そこへ、心配した妃がひょっこりと顔をのぞかせた。
急な仕事云々で、二人がもめているとしり、夕鈴は力いっぱい黎翔に懇願した。

「へーか!
みなさんのために、お仕事頑張りませんか?!」

「…ほう?」

「お妃もそうおっしゃってることですし…」
李順は汗を拭いた。

黎翔は狼の表情でニヤリと笑うと、

「―――では、仕方がない。
最愛の妃のたっての願いとあっては、叶えぬわけにもいくまい。
明日一日の貴重な休みを費やし、仕事に励むとするか」

「…励む?」

夕鈴は意味も分からず、ニコニコと黎翔を見上げた。

「陛下っ!? 夕鈴殿は、バイトですよ?
そして、そもそも!
白陽国ではエ□はタブーですっ!!」

「李順。大義であった」

「え?」
李順はいぶかしげに黎翔を見上げた。

「では、李順!
あとは適任者で仕事を進める!
お前は休め」

「ヘーカ、やる気満々ですね~!
その意気ですっ!」
夕鈴はニコニコと黎翔を見上げた。

「夕鈴、あとは二人で―――
お仕事、いっぱい、がんばろうネ?
ぼく、今日は調子よくってね。
お仕事全開モードなんだ!」

「はいっ!
私、ヘーカのためなら、なんでもお手伝いしますっ!」
夕鈴はぐっとこぶしをつくった。

「頼もしいなぁ」

狼さんはしっかりと人払いをし、兎さんをお持ち帰りしましたとさ。


いい夫婦によせて。

(終わり)

SSS 水月病

白陽国SNSの日記に上げたものをこちらに移植です。
すでにあちらでご覧になった方はすみません。

白友さんの『5月病。またの名は「水月さん病」』という一言が元ネタで
ぽろりとこぼれ出たSSS。

T様にささげます。


初出:2014年05月08日11:55


【バイト妃】

* * * * * *
水月病
* * * * * *

夕鈴はへんてこな表情で、
黎翔の手元をじっと凝視している。

「なんだ?―――
そのように愛らしい顔で見つめられては、
ちょっと困るな」

黎翔は、はは、と軽く笑い場を和らげた。

しかし、夕鈴はいまだ緊張したまま、
やはりますますヘンテコな顔をしてズズイと一歩、黎翔に近づいた。

「陛下、その手にあるのは…?」

(近いよ? ゆーりん)

「?
―――篳篥(ひちりき)?」


「ひちりきっ?!」

夕鈴はトコトコと近寄り、黎翔の手元にある楽器を右から左から、目を眇めて見聞する。

「…楽器、みたいですね」
「楽器、だよ?」

「どんな音がするんですか?」
「…ゆーりん、試してみたら?
吹いてごらんよ」

夕鈴は「え、いいんですか?」と黎翔を見上げる。
にっこりと笑うと黎翔は、夕鈴の手にその楽器を握らせた。
いかにもくわえてくれとばかりの吹き口。
節と節のあいだに穴のあいた部分は、指でふさぐのであろう。

「ここ、くわえるんですね?」
「ん」

こわごわと吹き口を加え
「…吹いてごらん?」
といわれて、そっと息を吹き込んだ。

すーーーー…

―――ん? 

思ったほど簡単には音が、出ない

「もっと力いっぱい、吹いていいよ」

今度はほっぺたを膨らませて、
思いっきり吹いた。

その顔が、たまらなくおかしい。
黎翔は、ぐっとこみ上げるものをこらえた。

プウゥーーーーーー 


大きな音が鳴りわたる。

「!」


夕鈴は嬉しそうに
「音が出ました!!」とはしゃいだ。

今度は指を穴にあててふさいだり、放したりしながら吹く。

ぺーーーーーーー!

ぴぃーぷぅうーーーーーー!!


夕鈴は興奮し、ほっぺたがぷっくり膨らんで顔の造作が崩れてもお構いなし。
百面相する彼女は見ていて楽しい。

貴族のツンと取り澄ました女たちなら、決してこのような表情は見せないだろう。

キャッキャと浮かれて、それはもうめちゃくちゃに
いろいろな音を出して遊び、吹きまくる。


夢中になって音遊びをしていた夕鈴は、黎翔の視線を感じ
ひちりきをくわえたまま
黎翔の方に「ふぇーふぁ?」と振り返る。

きょとん、と見上げる瞳。
楽器をほおばったほっぺたは、おまんじゅうのよう。

黎翔はメロメロと腰が砕け
彼女の腰を捕らえて引き寄せると寝椅子にごろりと横たわった。

「きゃっ!
くっ、くわえている最中に急に動いたら
危ないですよ!?」

少し怒った顔も…

…、ダメ。
かわいすぎ…。

「ごめん」
黎翔は素直に謝った。

腰に手を回され、ぎゅっと引き寄せられた夕鈴は、ちょっと居心地悪そうにおたおたして、必死に取り繕った。

「―――陛下…」

「なに?」

「あの。―――
音がでると、楽しいですね」

照れながら、はにかむ夕鈴。

そんな彼女を抱き寄せ、黎翔は幸せだった。


だが、なぜか
彼女は突如「―――ん?」と固まった。

そしていきなり真っ青になり、黎翔から距離をとり
肩をすくめ、急に必死な形相で頭をペコン!と下げた

「あ…!!
ご、ごめんなさいっ!!
大変失礼しましたっ!!」

その夕鈴の急変ぶりに、黎翔は慌て体を起こす。

「―――えっ? え? 何っ??」

―――なにか、ぼく、態度悪かった?

夕鈴を何か傷つけちゃった?
―――誤解されたのなら、どうしよう!? 

と、ドキリとして
慌てた黎翔は、一気に小犬に戻ってしまった。

「ごめんっ!!
ぼく、何か悪いこと、したっ?」
しょぼん、と耳と尻尾が垂れる。


「いえ、あの―――
その。
もしかして、私…
おそれおくも…陛下の
か、かっ、間接キス…を
奪ってしまいましたかっ…?

なんて失礼なことを―――申し訳ありませんっ!!!」

と顔を伏せた。


――― 。

黎翔はたまらず手で顔を隠す

「いや、残念だけど
まだ、吹いてない、よ?
―――安心して」

なんとか、そう返事をする。


「―――ああ、そう、でしたか…」

夕鈴はほっとしたような、残念なような、複雑な表情を浮かべた。


それを見た、黎翔。
「…貸して?」
と、夕鈴の手からひちりきを抜き取り
口にくわえた。

みうみる耳まで真っ赤に染まる夕鈴を見ながら
黎翔は率直な心境をこぼした。


「―――、
ああ、ぼく。


なんか。
仕事、行きたくなくなっちゃった」


その言葉を聞いたとたんに
夕鈴はビシッと背筋を伸ばした。

「へーか!
水月さんみたいなこと言うのは、やめてくださいっ!!」


怒られた黎翔は
夕鈴を抱きしめて、笑い転げた。



---(終)---

篳篥(ひちりき)って、こんな楽器らしいです…。
amazonnさんより


長髪陛下の挑発(後)

お元気ですか

366666HIT を踏んでくださった まみりんさん のキリリク
前編だけ先に公開しながら、後編を上げそびれておりました。(2月26日に下書きしていたものに加筆修正を加え、改めてアップさせていただきます)

大変長らくお待たせしました。
つまらないものではございますが、どうぞお納めくださいませ。

──────────────
■お題■
陛下が始終狼陛下で ゆーりんを甘くあやしく翻弄して
要は甘々でお願いします。
──────────────


【バイト妃パラレル】【ねつ造設定】【ギャグ】

まみりんさんにささげます。

* * * * * * * *
長髪陛下の挑発(後)
* * * * * * * *

コホンと李順が咳払いをワザとらしく…。

李順の咳払いと、過剰なまでも神経質に眼鏡を磨くさまは
先ほどから一度や二度ではない。

それもそのはず。
「冷酷非情の狼陛下」と呼ばれる
この国一の冷酷かつ非情な君主、
若き珀黎翔国王陛下が、悠々と膝の上に妃を抱きかかえていた。


夕鈴は顔から火が出るほど恥ずかしかった。

官吏らがチラリチラリと盗み見る。

あちらから、柳方淵が資料を両手いっぱいに抱え、歩み寄る、
柳方淵は(ケッ)と、白けた見下し目線で夕鈴を突き刺した、

この衆目に晒されるなかで、
夕鈴は約束を果たさねばならない。

条件は、
政務室で。
みなさんの前で。

やるべきことは、
陛下の髪をひと房すくい、口づけをして。
何がどう心地よいのかとか、何故そうしたくなるのかとか
狼陛下のようにタラシなセリフを言ってのけること。

(ええい、夕鈴!
さっさとやり終えて。
約束を果たすの!
―――行くわよ!)

「陛下?」
おずおず、と手を伸ばし、陛下の方へと伸ばす。

「気になる」
「は?」
鋭い視線で見つめ返され、思わずゾクリと背中が凍りつく。
夕鈴は、手をひっこめ縮こまった。

「君はいつにもまして愛らしいが…
そのように思いつめた顔をされては」
狼陛下は軽く妃の顎をすくいあげ、じっとその顔を覗き込む。

(ほら、チャンスは作ってあげてるよ?
―――さあ、いつ仕掛けるの?
やれるもんなら、やってごらん?)

そう言われているような気がしてならず、夕鈴はむっとした。


「―――陛下。
お妃さまは、何かお一人で考え事がしたいのでは?」
すかさず李順が口をはさむ。

「いえ。
ええと、あの…」
(り、李順さんの眼が怖いっ!!
でも…陛下との、約束を、あの…)

「…」

「―――方淵?できたのか?早いな」
じっと側で控えていた方淵に気が付き、黎翔は目もむけず声をかけた。

「は。こちらに」
ずずい、と取り揃えた書簡類を広げ、黎翔の前に差し出す。

「フム…なるほど。」
黎翔は真面目な顔つきで、政務について難しい指示を出し始める。

こんなときに、手出し、できない…じゃないですか。
もじもじと指先をすりあわせ、言葉が切れるのを待つが―――
タイミングが計れない。

そもそも、このような場所で。
なぜ陛下のお膝の上?
なぜ私の頭の上で、国を左右するような指示が取り交わされているの?

ようやく方淵との用事が済み、少し距離が開く。

だが方淵の怒ったように人を見下すまなざしにはビリビリとした緊迫感がただよう。

そのうえ、李順がますますキツイ顔で睨む。

「お妃さまの顔色が悪いようですよ?
陛下―――そろそろお妃様を後宮に」
「いや、まだ大丈夫であろう」
「いやどう拝見しても―――」
「へーか!!」
もう! とりあえず、約束を果たしてしまえっ!!!
夕鈴は、ぎゅーっと両手で陛下の両側の髪をわしづかみに引っ張り、
それに顔を埋めると叫んだ

「へへへへっへいかの髪はふさふさで
モフモフしてて、大きなワンコみたいに気持ち良いですねっ!!!」

「―――わんこ?」
李順が、ずり落ちた眼鏡を指でクイともどしながら、問いただす。

「は、はいっ!
とりあえず、それだけ申し上げたら、今日はもう
十分です。
オーライですっ!!
失礼いたしますっ!!」

そう言って、ビシーッ!!と背筋を伸ばして立ち上がったものだから、
黎翔の顎めがけて、勢いよく夕鈴が頭突きする形になった。

「はぐぅっ!」
黎翔は顎をしたたか打ち上げられ
夕鈴が「痛たたたたっ…!!!」と騒ぐ。
白目をむいた黎翔は椅子の背もたれにガクンと音を立てて倒れた。

「へ、陛下―――っ!? 脳震盪?」
李順が叫ぶ。

「陛下っ!」
方淵が崩れ落ちる黎翔を押しとどめ、あわてて書類でパタパタと風を送る。

周囲の官吏は真っ白に凍り付いた。

* * * * * * * *
くすん、くすん…

すすり泣きが聞こえる。

「ご、ごめんなさい、陛下…」

その声で、ぼんやりと意識が戻る。

「ゆう、りん?」

―――ここは、どこだ?

政務室の隣の控室の長椅子に横にされていた黎翔は、ゆっくりと目を開けた。

「陛下っ!?
大丈ですかっ?」

「―――顎が、ジンジン痛む」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい…!!」
夕鈴は泣きながら横たわる黎翔にしがみついた。

ふぅ…とため息をつき
「…いや、私も。
少し悪ふざけが過ぎたようだ」
黎翔は夕鈴を引き寄せ、ポンポン、とその肩を叩いた。

くすん、くすん。
「ごめんなさい、私陛下に…」

「―――もう、よい」
更にぎゅっと抱き寄せられる。

「痛かったですか?」
顎のあたりをそっと窺う。

「…痛いから…おまじない、して?」
「おまじない?」
「そう…君の柔らかい唇で
痛みをやらわげて」
「くっ、唇?」
「きっと…痛みが和らぐと思うんだけど…?」
「―――!//////」
「…できない?」
「くぅ…」
夕鈴は恥ずかしさも頂点で、煮詰まってしまった。
「…無理だよね…。うん
そうだよね。好きでもない男に
唇なんて…」
「そんなことありませんっ!!」
目をつぶった夕鈴は、黎翔の赤くはれた顎に、触れるか触れないか、
小さな口づけを落とした。

その途端、黎翔は夕鈴をぐっと抱きしめた。
「え!?」
抱き合ったまま、黎翔はぐるりと長椅子の上で二人の体勢をきように入れ替えた。
覆いかぶされて見上げると、滝のように豊かに流れる長髪陛下のながい黒髪。
夕鈴は思わずその艶やか黒髪を見とれた。

「ありがとう。
それは…夕鈴が私のことを、好きって、こと?」
長い髪に、赤い目。

私の好きな陛下と
そっくりで。
でも…違う。

「す、す、好きでもないなんてことは、ありませんっ!!」

「それって、好き?嫌い?どっち?」

…陛下なら大好き。
でも、本当に、陛下なの?
「―――」
「どっち?
―――言っておくれ」

黎翔があんまり真剣な目で見つめるものだから、夕鈴は胸が止まりそうだった。
「…」
「願わくば。
好き―――だと
言って欲しい…」
黎翔は固まった夕鈴の両頬を包むと
息がかかるほど、近づき…やがて重なるように―――

「夕鈴。
好きだと
―――言っておくれ」

押し返したくても、力が入らない。
だって、彼は陛下で。私のことを夕鈴と優しく呼んで…

陛下、なの?


めくるめくような口づけ。
息ができない…。
息が…
いき、





―――あ。
れ?

* * * * * * * *

はっと大きく息を吸う。

ふと、目の前に碁盤が。

顔をあげると、そこにはいつもの髪の短い陛下。

「―――どうしたの?
やっぱり、眠たいんじゃない?」

(やっぱり、さっきのあの長髪陛下は、夢だったんだ。
うん、うん。
そんなのありえないものね。)


「えーと、あ―――?」

「はい、夕鈴の負け!」

じゃらじゃら、と碁石をかきまぜる陛下。

「え?」
「負けたら、なんでも言うこと聞くって約束、だったよね?」

「へ?ええと、そんな約束
でしたっけ?」

「うん」

ニコニコと、笑う小犬陛下。

「あー、分かりました。
じゃあ、何しましょう?」

「じゃあ。
…今日は、

一緒に寝てくれる?」


ニヤリ、と赤い目で笑った陛下は

長髪陛下だった―――。


(おしまい)

SSS ご夫婦の日

5月22日は「ご夫婦の日」によせて。
(SNSの日記より再掲載)

【ご夫婦】

* * * * * * * * * *
SSS ご夫婦の日
* * * * * * * * * *



池の端のあずまやに
誘われるままに来てみれば

隠してあった包みを取り出して
「陛下、ありがとうございます」と渡された。

「―――え?」
ときょとんと問い返すと
今日は何かの記念日だという。

正直このところ忙しすぎて、
君が大切にしているささやかな何かに気を配ることもできなかった


丹念に君の手で縫われたであろう
涼しげな一重。

たとえどんなに忙しくて、君と会えない日が続いたとしても

これからの季節、この衣に袖を通すたびに
思いだそう。

こそばゆいような君の笑顔と
君が居てくれることへの安堵


何度繰り返そうと、
いつも、新しい

君への、ありがとう、を。


初出:2014年05月22日13:36
*

さまよえる白陽2-水月(上)=ブログ1周年リクエスト1本目=

ブログ1周年記念 3本勝負、まずは1本目。

お寄せいただきました

そしてそれは…
ある意味、想定外の。
―――宇宙の遙か彼方からのリクエストでした!!

―――――――――――――――――
=ブログ1周年リクエスト1本目=

R〔仮〕様 からいただいきましたお題。
さまよえる白陽」の続編
―――――――――――――――――

いや、これ。「ぜったい、一回きりだ…」と思って書き散らしたんです。
覚えてくださっていて、嬉しいです。


【未来パロ】【SF(ロボット宇宙モノ)?】【ギャグ】
基本、陛下、ワガママ。


R〔仮〕さまにささげます。

そして。
R〔仮〕さま、はぴばー!!
心よりお祝いもうしあげます。

* * * * * * * * * * * *
さまよえる白陽2-水月(上)
* * * * * * * * * * * *


銀河の彼方、白陽星へ
はるばーるのーぞーむー
ひ魔人ゴー!
ひ魔人ゴー!
ひ魔人我ぁ、ゼーット!

* * * * * * * * * * * *

「夕鈴隊員、少々よろしいですか?」
航海班通信科所属でブリッジの紅一点、汀夕鈴が振り向く。

「あ、今ですか? 大丈夫です」
「結構。
では、私に付いていらっしゃい」
艦長代理、副指令の李順は、育ちの良さが漂う誰に対しても丁寧な口調を用いるが、物腰柔らかな言葉の奥には有無を言わせない拘束力がある。


第一艦橋(ブリッジ)からさらに上階に上がる狭い高速エレベーター。
これは限られた人間しか用いることができない。

「艦長の婚約者」そんな肩書がありながら、
夕鈴はここを上がったことは一度もなかった。
―――というのも、本当の婚約者ではなく、仮のバイト、だからである。


軽く「チーン」と鳴ると、そこは最上階。
シュ…と微かな音をたてて
隔壁が開いた途端、あたりに響き渡る荘厳な音色を夕鈴は耳にする。


ちゃららーーーーーーーーー
ぱらりら、らんらーらーーーーーーー
だらららららら… ! 。

ピタリ、と音がやむ

リノリュームの床をカツカツとブーツの音が響く。

「失礼いたします───陛下」

「李順か? 
入れ―――夕鈴は?」

「こちらへ」
「…あ! へーか、お邪魔します♪」

ここ艦長室で優雅にパイプオルガンを弾いている男の名は珀黎翔、
さまよえる白陽とよばれる戦艦白陽の艦長だ。

「李順、聴いたか?」

「はい。よろしくありませんね…」

黎翔は、詰襟を片手で緩めると胸元を広げた。
第2種軍装のコートタイプの上着にはびっしりと装飾が入り、肩章やらモールやらいかにも重そうだ。

夕鈴は(何がよろしくないのかしら…)と思いながらも、
黎翔の自室である艦橋の最上階にある突端の小部屋、艦長室の中を興味津々できょろきょろと見回していた。

「問題は、ここだ」

黎翔はそう言うと、もう一度パイプオルガンに向き直り
鍵盤に両手を載せ、おもむろに引き始める。

じゃららー
ちゃらりらぼーーーー
ちゃららーーーーーーーーー
ぱらりら、らんらーらーーーーーーー
だらららららら ぷー…(すかっ!)

「あら?」夕鈴が思わずガクリと崩れる。

「ドとレとミの音が、出ない…」
黎翔が、眉をひそめて深刻そうにつぶやく。

「ドとレとミの音が~でなーい?」
李順が復唱する。

「あーんなに大事にしてたーのに~
壊~れて出ない音~がーあるー」
黎翔が歌う。

「どーしよ?」と李順。

「どーしよ!」と黎翔。

「はい、そこまで―――!!」李順が、両手を上げて止めた。

「―――手短かに申し上げれば。…壊れたんですね?」

「そうだ」
二人は至極真面目そうな顔で向き合い、
むぅ…と低い声を出すと腕組みし考え込んでしまった。


夕鈴はポカーンとだらしなく口を開けてしまった。

自分がなぜこのような場面に居るのか、今一つピンとこない。
夕鈴の仕事は第一艦橋のコンソールパネルに向かって各所に指示出しの担当を受け持っている。
「艦長の婚約者」と対外的にはなっているのだが、本当のところは単なる民間人のバイト。
本来優秀なえりすぐりの軍人しか足を踏み入れることのできない第一艦橋に、なぜ民間人が紛れ込んでいるかは、―――『さまよえる白陽』発進の章をご覧あれ(←あるのか?不明)


夕鈴はもじもじして、黎翔の横顔を見つめた。
李順と黎翔の二人が困っている様子を見ても、自分は何のお役にもたてそうにないと思えた。
それで仕方なく艦長と副指令の二人の掛け合いを不思議そうに見守っていた。

航海班通信科女子隊員用の白地にピンクのぴったりとしたユニフォーム。
当然のごとくミニスカにニーソ風長ブーツ、絶対領域が女の心意気だ。
夕鈴の細いウエストラインを引き立てている。
ユニフォームデザインby総務課の張老子。

困った様子で、二人を見つめる大きな茶色い瞳は、くりくりと愛らしく背中に流れる栗色の髪は艶やかで、
おもわず黎翔は手を伸ばし、髪の一房を掬い取ると彼女の腰を片腕で、軽やかに抱き上げた。

「きゃっ! へ、へーかっ!
何するんですかっ!」


…あ、ついでに説明しておく

黎翔のコードネームは「へーか」。
へーかは冷酷非情の狼艦長と呼ばれ怖れられる白陽国直系の王族、失われし白陽の国王たる立場にある男だが、子犬のような二面性を持っており、犬は喜び宙(そら)駆けまわり。戦闘時には先陣を切って飛び出すのが常なのだ。
───そういうことで、宜しく。


「夕鈴殿。そこであなたにお仕事です」
副指令の李順が、組んでいた指をほどき、指でメガネの縁をクッと押し上げた。

「―――は?
唐突すぎて、お話が見えません!!」

「いいんだよ、夕鈴は
可愛いんだから」

黎翔が膝の上の夕鈴をなでて甘やかす。

「何がいいのか、まったく意味が分かりません」

李順が冷たく言い放つ。
夕鈴はもういっぱいいっぱいで、ミニスカートの端を抑え、黎翔の手が太ももに回ってこないようにガードする。

「ですからっ―――!」
李順がビシリとパイプオルガンを指さす。
黎翔が、ん?と顔をあげた拍子に、
夕鈴はスカートの裾をギュッと両手で引っ張って下げる。

(…無駄な抵抗を)クスリと黎翔が笑う。

「―――このパイプオルガンは、我々戦艦白陽にとって、なくてはならない大切なものなのです。
というのも、失われた白陽を取り戻すために、このオルガンの音色がキーになっており…」

「要するに―――
これをなおすために、君の力が必要なのだ」
黎翔が言葉を引き継いだ。

さりげなく夕鈴の髪を一房掬い上げると、口づけをする。
李順のメガネが青白く光る。

(あなたは、あくまでバイトですからね―――?
そこんとこ、分かってますか?
陛下の暴走をお止めするのは、夕鈴殿。あなたの務めですよ?)

夕鈴は背筋がゾクリとした。

「も、もうっ! お戯れは、やめてくださいっ!!
それにっ、…私、楽器なんて何一つ触れませんよ?
へーかのほうが、ずっと上手に弾きこなしていらっしゃったじゃないですか!」

夕鈴は、へーかの膝の上でぎゅうぎゅうと抱きしめられ、真っ赤になりながら押し返している。

「このオルガンをなおせるたった一人の人物が…
あの星にいるのだ」

そう言うと、黎翔は艦長室のスクリーンをすっと指さした。
そこには宇宙海図がモニターされており、黎翔の指先の動きに的確に反応したマーカーが
チカチカとある衛星の位置で点滅した。

「分かるか?
ここが、氾惑星の第一衛星、水月。
ここに、このオルガンをなおせるこの世でたった一人の人物が、いる」

「はぁ…なら、そこに行って、素直に『直してください』って
お願いしたらいいんじゃないですか?」

「奴は、男が大の苦手なのだ」

「苦手―――?」

「ですから、女の夕鈴殿に行っていただき、
事情を説明し、協力をしていただけるようなんとか説得してほしいのですよ」

「えええ?―――そんな白陽国の未来を左右するような大事なパイプオルガンの…
難しい交渉を、私に?」


「―――あ~、大丈夫。
ボクもついてくから、ね?」

ニコニコとヘーカが笑う。
その頭には耳がピョコンと立ち、
フサフサの尻尾がちぎれんばかりに振られていた―――。


「えええええ????
男、ダメじゃ、ないんんですかっ?」

「お利口にするから、大丈夫~~」

夕鈴が驚いたとたんに、するりと黎翔の手が伸び、
夕鈴の太ももあたりをしっかりと撫でまわしたのであった。


「ぎゃっ!
やーめーてーくだーさーーいーー!!」

涙をちょちょぎらせて夕鈴は抵抗した。




というわけで、以下次号。

(つづく)



さまよえる白陽2 -水月(中)

みなさまお元気にお過ごしですか?

引き続き、中編ですが…SFギャグです。
ご興味ない方には恐縮です。

SFとか、ロボットものとか、パロディとか。設定はねつ造の塊とか、思いついたまま適当とか。
細かいこと突っ込まれると非常に困りますが―――なんでもありよ、と笑っておおらかに雰囲気で察してくださるようでしたら、どうぞ。


【未来パロ】【SF】【ギャグ】
基本、陛下、ワガママ。

* * * * * * * * * * * *
さまよえる白陽2-水月(中)
* * * * * * * * * * * *


銀河の彼方、白陽星へ
はるばーるのーぞーむー
ひ魔人ゴー!
ひ魔人ゴー!
ひ魔人我ぁ、ゼーット!



「あの…へーか?
私、こんなところに居ていいんですか?」

「ああ、構わぬ」

火魔人我Zと呼ばれる戦闘用ロボットの狭いコクピットに収まった黎翔は、
嬉しそうに夕鈴を横抱きに抱きしめ、もう片方の手で操縦桿を操っていた。

(どうしてこの人は
こんなに我儘なんだろう…。)

ピッタリとしたピンク色の宇宙服に身を包んだ夕鈴は
真っ赤になりながら極力黎翔と接触面積が少なくなるよう
身を固くしていた。

「もっとリラックスしていてもらって構わないが?
目的地までまだしばらくかかる」

コックピットの内側の三方の広いスクリーンには、ありとあらゆる情報がめまぐるしく表示されている。
上も下も分からぬ不思議な浮遊感の中で黎翔にしっかりと抱きしめられたまま
夕鈴はバツの悪さを紛らわそうとして、あえて黎翔と目を合わさずに、真っ暗で吸い込まれそうな宇宙空間の中に輝く星々を眺めていた。


「あの、でも。バイトの私が、ですね、
あのーそのー
最高国家機密でもある最新鋭のロボット兵器に、なんで乗り込んでいるのかっていうか―――
あまつさえ、一番エラーい艦長さんが、あの…?」

「だって。艦載機は戦闘艇ばかりでしょ?
そんなので物々しく氾惑星の衛星水月に着陸したら、
ターゲットがおびえて隠れちゃうよ?
ロボット型で機動力も高く、秘密裏に衛星に近づける火魔人我Zを扱えるのは、この私だけだし」

「でも…」

「ひまじんがぁZに
私と乗るのが、そんなに…嫌?」

みるみるうなだれる黎翔の頭には
シューンと垂れ下がった耳が見えた。

「あっ!?
いえっ、そんなっ!」
「たまには、ゆーりんにこの雄大な宇宙空間を見せてあげたかったのに…」

ショボンとする黎翔を夕鈴は思わずギュッとつかまり、
「そ、そんなことは…」

「じゃあ、どうしてさっきから
そっぽを向いたままなの?」

「あの…それは」

チラリ、と伺うように黎翔の方を見上げると、
黎翔は破顔して嬉しそうに尻尾を振ってこたえた。

「夕鈴と、こうして宇宙を見たかったんだ」

そんなに嬉しそうに言われては…。
夕鈴は口をヘの字にしながらも、応えざるを得ない。

「わ、私もヘーカと見れて
―――嬉しいですよ?」

ギュッとさらにキツク抱きしめられ、息ができずドギマギする夕鈴にヘルメットをコツン、とあわせて幸せそうにつぶやかれた。

「うん!
嬉しいな。
―――宇宙のただなかに二人っきり

…ああ、ヘルメット邪魔。」

「へ、ヘルメット、邪魔って?
何するつもりなんですか、へーか?」

「―――うん?
気にしないで」

ゴロゴロとすり寄る黎翔。
ドキドキしている夕鈴の眼前が急にパッと切り替わり
三面特大スクリーンに李順のアップが写しだされた。

ギョッと身をすくめ
どんっと渾身の力で黎翔を突き飛ばし、二人の距離を取る夕鈴。

「―――艦長!」李順副指令が鋭く呼びかける。

「なんだ、李順?」と、いつもの艦長然とした冷たい表情。

「なんだ、ではございません」はぁ…とため息をつく李順副指令。

普段、管制通信をしている夕鈴は分かる。
このモニターランプが青く映っているとき、モニターは双方向カメラでつながっているのだ。

モニターが繋がった瞬間…すぐ離れたけど…まさかまさか。
李順副指令に今さっきの様子を見られた―――?
夕鈴は青くなって目をぐるぐる回す。

(ぎゃーーーー!! バイト、クビになるっ!!)

「ごごごっご苦労様デスっ!
李順副指令っ!!!」

「夕鈴殿。今は婚約者演技は必要ありませんからね?
よいですか―――あなたはバイトだということと忘れず。
職務に忠実に今回の大切な使命を果たしてください。
―――忘れないでくださいよ?
くれぐれも陛下に暴走させないよう、しっかりしてください」

ジロリと睨み釘を刺される。
夕鈴は硬直して元気よく「はっ、はいっ!」と返事をする。

李順はすぐさま、矛先を黎翔へ向ける。

「―――陛下!!
先ほどからわざとぐるぐるとミチクサを喰って…

燃料の無駄です。
さっさと目的地を目指してください!!」

「チッ…」
黎翔は小さく舌打ちした。

「…陛下、ミチクサって?」

夕鈴が不思議そうに見上げると、黎翔は間髪を入れずにスクリーンに向かって言い放つ。
「―――これより、氾惑星第一衛星水月に向かう!」

「…最初から向かってくだされば問題なかったのです。
…陛下。
ターゲットは非常に用心深い。
火魔人我Zを気づかれぬよう行動には重々ご留意を」

黎翔は渋顔のまま、面倒くさそうに応答した。
「―――了解!
ターゲットに傍受されないよう、この距離より単独行動に移る。
通信回線はこれにて切断―――」

「へーかっ…!××…」

パチン、とスイッチを切る黎翔。
李順副指令が叫ぶアップが瞬間残像として映し出されたあと、
プッ…と電波が途切れ、消えた。


* * * * * * * * * * * *

それからほどなくして、惑星氾の第一衛星水月に着陸した。

「―――なんですか?
…すぐ近くだったんじゃないですか」

夕鈴が拗ねたように言うと

「…すぐ着いてしまっては、勿体なくてな」
とハハハと黎翔は笑う。

「燃料は貴重です!
無駄遣いはおやめください!」

夕鈴が怒ったように背中を向けると、グイッと荒々しく両肩を引き寄せられ向き合わされた。

「愛しい君との時間に―――無駄なんて、ないだろ?」

いきなり抱きしめられる。

「―――はい?
あの」

黎翔が身に着けている白い宇宙戦闘服は、宇宙空間での白兵戦闘のため体の動きを阻害しないよう軽く薄い特殊素材で非常にピッタリ作られている。
長身の黎翔の長い手足、たくましく厚みのある胸板、骨格筋までそのまま露わに無駄のない体のラインをくっきりと表しており―――。
普段出撃時のモニター越しに見慣れているはずなのに、こうして目の前に居て、自分を抱きしめていると、なんだか気恥ずかしい。

「へーか。近いですっ!
今は婚約者バイトの演技、必要ないですよ?」

真っ赤になって胸を押し返す夕鈴。

「…ああ、ヘルメット、邪魔」
小さくつぶやく黎翔。

「え?」
夕鈴がきょとんと見上げる。

「…まあいいや。また帰ってから、ね?

いや―――帰ったら艦内に自由はないなぁ…
うーん。二人っきりになれる貴重な…(ブツブツ)」

「…貴重?」

「いや、貴重な人材をスカウトに、行かなきゃ、だね?」
黎翔は苦笑しながら夕鈴を抱きしめていた腕を緩めた。

「お仕事、ですね!」
夕鈴は元気にガッツポーズをした。
やる気満々の彼女を見るのは、楽しい。

「うん」
「それで、私、何をしたらいいんですか?」

「じゃあ―――夕鈴。
今からいうことをよく聞いて行動するんだよ?」と黎翔は話しはじめる。
「はい」夕鈴は腕につけられたボイスレコーダーのスイッチをオンにした。

「まず、ここから西にいくと、洞窟がある。
その洞窟の中にはこんこんと清水の湧き出る青い不思議な池があるという。
その池の守護神、白海龍が我々の尋ね人の居場所を知っている、らしい」

「白海龍…恐ろしそうなお名前ですね…。怖くないですか?」

「白海龍は化身をとることがあってね…。
音楽好きの神様の姿をとった白海龍は
女性とペットには、とても優しい、らしい」

「女性とペットに優しい?
…ああ、だから私、が?」

黎翔はコクン、とうなづいた。

「男はおびえて、出てこない。とくに私には―――」
黎翔は目を伏せると薄嗤いを浮かべ、言葉を切った。
「へーか、には?」

「いや、いい。

―――それで、とりあえず君は
その洞窟の奥にある目的地に行き
そこで、この笛を吹くんだ…」

といって、一本の横笛を渡される。

「えっ!?
私、笛なんて、吹けませんよ―――?!」
夕鈴はギョッとして慌てだした。

「うん、吹けなくていいの。
池の傍で練習してくれれば―――」

「…はぁ?」
キョトン、と黎翔を見上げる夕鈴のヘルメットを
ポンポン、と軽く叩く黎翔の優しい瞳に、夕鈴は少しホッとした。

* * * * * * * * * * * *

辺りは不思議な青白い光に包まれていた。
コツン、コツン…と洞窟の中に、ブーツの音が反響する。
ドキドキしながら頭の中でこれからの手順を反芻していた。

『―――ヒカリゴケが生えた洞窟内はそれはそれは美しく、謎めいた光景らしい…。
明かりを持っていかなくても十分に置くまで見通せるはずだ―――』
へーかの声が腕のボイスレコーダーから再生される。
へーかが一緒にいてくれるようで、心強い。
言葉通り薄暗い室内よりも明るい程度にホンワリ光るそれらは、洞窟の内部を幻想的に照らし出している。

ピコン、と軽いアラーム音が鳴り、腕についた生命維持装置のランプが青くなった。

「あ…」
そのランプが灯ったことを確認すると、ヘルメットをはずす。

―――呼吸ができる。
それも、清浄で、ほんのり甘くかぐわしい空気。

『その洞窟の中の不思議な青い池の周りは神域で、ヘルメットをとっても普通と同じように生活できるらしい―――
腕のランプで確認したらヘルメットを取っても大丈夫』
ヘーカの言った通りだ。

この池の周りは清浄な空気に満たされ、深呼吸をする。うっとりするほどおいしい空気。
「ああ、気持ちいい…」

『正常な空気が満たされたら、そこはもう白海龍の守護エリア。
その先に進むとすぐに青い池が見えてくるよ』

デコボコした岩で足を滑らせないよう、慎重に進む。
100歩も行かないうちに、目的地が見えてきた。

洞窟の奥にできたドーム状の広い天井は、スペース・ベースボール球場ほどはあるだろうか…。
かなり広いそこに広がる青い池は、かすかに霧も漂い、満々と澄んだ水を湛えている。

「ふしぎ。ほんとうに…まっ青!」
私は思わず息を飲む。

『池の中央に進む浅瀬の砂州があるから。
その奥の祠が祭られている島に行って、そこで笛を練習するんだ…』

ぐるりと見回すと、陸繋砂州でつながれた小島が池の中央に見えた。
ヘーカが言ってたそのもの。だから、怖くなんかない…。
私はヘルメットを近くの小岩に置くと、砂州を進み始めた。

何も起こらず、あたりは静か。

…この青い池の水では、プランクトンすら住めないのでは?…
と思えるほどの清澄さで、なるほど神域の聖なる池。
他を寄せ付けない神々しさすらあった。


その時、すぅっと波紋が広がり、池の水面がうねるように波立った。
ピシャンと微かな水音に驚き「…きゃ…」と息を飲み、池を覗き込んだ。

生き物一つ住めないほど硬く澄み切った水の中に、不思議な魚の影が見えたような気がした。
波紋はすい…と遠ざかり、再び近づくと、今度はキラキラと輝く銀白色の鱗に覆われた魚体と背びれが一瞬現れた。
大きくほっそりとした優美な魚。

「きれいな…お魚!
図鑑でも見たことないわ…!」

身を乗り出してその姿を必死に目で追うが、
白銀の魚はあっというまに遠ざかり、今度は深く沈んで見えなくなった…。

「…この池の、主、さんかしら?
他に何も生き物がいないみたいなのに…あんな大きなお魚がいるだなんて…」


私は、美しい魚に後ろ髪引かれながらも、へーかの指示を思いだし、島の中央に進む。
そこには小さな祠と祭壇のような平らな岩が置かれていた。

『池の中央の島で、この横笛を練習するんだ。
すると、音楽好きの神様の化身をとった白海龍が現れるかもしれない。
音楽好きの神様はパイプオルガンを直せる唯一の人物を知っているから』

『その、神様に、パイプオルガンを直せる人のことを尋ねればよいんですね?』

『うん。でもそれからね。
夕鈴。
言いにくいんだけど―――

実はもっと、大事なこともあって。

君はこの笛で一曲「白陽の春」を弾けるようになるか、
あるいは吹ける人を連れてこないと、生贄になってしまうんだよ?』

『生贄っ!?
―――なんですかっ!?
それ、聞いてませんよ?
パイプオルガンを直せる人を探すって話じゃなかったんですか?』

『あのパイプオルガンは不思議なボイラーで動いていてね。
調整修理のためには、一度ボイラーの火を落とさなければならない。
そして、その不思議な火は
この笛で白陽の春を一曲弾ききるか、
清純な乙女の生贄をささげるか、の
どちらかでないと再び熾せないないんだ…』

『え? でも、一曲って? 白陽の春―――』

『知ってる、でしょ?
白陽国の人間なら、赤ん坊だって知ってる平易な曲だ』

『む、無理です!どんなに簡単な曲でも…
私、笛なんて―――』

『大丈夫。
李順が、婚約者の教養手当と、
万が一の危険手当は弾むって言ってたよ』

『―――危険手当?
バイト、ですか?』

思わず私の目は$になってしまった…と思う。

『そう。
君ができなければ、吹ける人を連れてくればよいだけの話だ。
お願い、できるかな?』

そこで、ボイスレコーダーは途切れた。
だって、そのあとぎゅーぎゅー抱きしめられて…恥ずかしいことを口走られるんじゃないかと思うと、思わずレコーダーのスイッチを切ってしまった。

―――お願いって。そう簡単そうに言われても…。と思い出す。

でもお金につられるようで、ちょっと恥ずかしいけど。
やっぱり…まだまだ、いろいろ物入りだし。
危険はないっていうし。
白陽の春、ならよく知ってるし。

音楽好きの神様が現れて手ほどきしてくれるのなら。
もしかしたら練習すれば、すぐ弾けるようになるかもしれない!
うん、きっとそうだ。

私がしっかりバイトを頑張らなくちゃ!と決心を固めた。


池の中央にまつられた祠の正面から少し控えたところに
少し広くなっているところがあった。
すべすべとした岩が平らで、きっと人々はここに膝をつき、額を摺り寄せ、何かを願うのだろう…。

私はそこに腰をおろし背筋を伸ばし居住まいを正し、おもむろに懐からヘーカに渡された横笛を取り出す。

とても素敵な細工のある横笛で、とても大切なもののように見えた。
私なんかが吹いていいのかな…と思いつつ、そっと唇を当てて吹いてみる。

「ふっ」


…音が出ない。

「フッ フッ フーーーーーっ!」

―――ピ、とも音が出ない。

そりゃ、私?
横笛なんて雅なもの、一切ご縁がなかったですけど。

でもなんだか悔しい…!!!

意地でも音が鳴らしたい!
とふつふつと闘志が湧いてきた。

―――唇をあてる角度かしら。
それとも、息を吹きこむ強さ?

いろいろ試して、必死に横笛と格闘すること小半時…

正直、使命だとか白陽の危機とか、すっかり頭の中から消えさってただ笛の音をだすことに熱中してしまっていたその時…。
池の中からすぅ…と青白い光に包まれた白っぽい衣をまとった不思議な人が、池の表面を渡って歩いてきた。

白っぽい長い髪をかるく三つ編みに結わえ
長いまつ毛、優し気で少し憂いを帯びた白い横顔は中性的でもあり男性のようでもあった。

(へんねえ、…ここは男性が近づけない場所って…)
私は頭をひねった。

「きみ―――」微笑みをたたえた優し気な横顔。
「はい」
「名前は?」
「夕鈴、です」
「…もしかして、あの。失われた白陽に乗り込んでるという。陛下の…お妃様?」
「―――あ? はい」
艦長の婚約者である私には巷では『お妃様』とかいうあだ名がついて、あちこちに噂に尾ひれがついて広まっていることは、知っている。
「…随分。お可愛らしい方ですね」
「どうしてご存じなんですか?」
「うん。いろいろ―――
あの陛下が『本来なら片時も側から離したくない』とか
『これほど愛しい存在を知らなかったのは大きな損失だった』とか…
常日頃おっしゃってる、あの、お妃様、でしょ」

―――ひいいいいい……!!
あの陛下(ヒト)が艦橋で口走ってるたわ言が…
一体ぜんたい、どうして、こんな僻地まで知れ渡ってるの―――!!!

思わずカアアアっと血が上る。…必死に顔を隠す。

「そそんなことまでご存じなんて―――やっぱり、神様、なんですね?」
私は少し確信めいて口にした。

神様は、うん、ともちがう、とも言わず、ただ微笑んだ。

(クス。随分んと初々しいお妃様だな。
宇宙戦艦白陽の全艦放送の音声が、U-Tube(宇―宙ーブ)で流れてること、知らないんだ…)と、
当の神様が思ったことを、私は、ずいぶん後まで知らなかった…。
というか
知っていたら―――爆死していたと思う。

「でも、想像していたのとは、だいぶ違いますね」

その言葉に私はがっかりした。
「そうですか…ガッカリさせて申し訳ないです―――」

絶世の美女、とか、国を傾けた悪女、とか。あることないこと、ウワサされてるんだろう…な。

「どうされましたか?」
その声は落ち着いた甘い声で、やはり男性っぽいトーン。

「私…あの。
この笛で一曲白陽の春が弾けるようにならないと、生贄にされちゃうんです。
でも、ぜんぜん吹けないから、この池に住む音楽の神様に会いたくて。
―――あなたのことですよね?」

「…音楽の神様?」

「―――って聞いて、やって来たんです。」

あははと軽く声をたて、その不思議な神様は笑った。
「こんな辺鄙なところに来る人がいるかと思ったら…」
「ここには、人はこないんですか?」
「…うん。母星の氾惑星は
ひっきりなしに大勢の人間が出入りするけど、ね。
この月を訪れるのは…僕の妹くらい、なものかな…。
外の人は、久しぶり…」

「それは―――寂しい、ですね」

いや、と軽く首を横に振ると、少し寂しげな美しい微笑みを見せながら神様はすうっと手を伸ばし、夕鈴の手元の笛を指さした。

「…その横笛を、貸していただけます、か―――?」

その時、神様の衣が白銀色にキラキラと反射したのをみて、私は思いだした。

「…さっき、池の中にいたお魚さんと同じ―――!?」
「ふふ」と微笑む。
「―――え?
もしかして。本当にさっきのお魚さんだったんですか?」
私は横笛の吹き口を丁寧に布衣でぬぐって、そっと差し出す。
「―――さあ。どうかなぁ」
くすくす、と面白そうに笑うと、私の手の中の笛をツイと受け取った。


神様がその笛を口許にあてたとたん
えもいえぬキラキラしい音楽が奔流となってほとばしった…。

私は思わずこの世の者とは思えぬ音色に身を震わせて聞き入った―――。


(つづく)



さまよえる白陽2-水月(下)【終】

とりあえずSFパロ・水月編の最終回です。

本当に、ご興味ない方には恐縮です。

引きまくってらっしゃいますよね…?
拍手の数そのあたり如実に反映しているのではと気持ちハラハラしておりますけれど(笑

書いてる方はとても楽しいです。

SFとか、ロボットものとか、パロディとか。設定はねつ造の塊とか、思いついたまま適当とか。細かいこと突っ込まれると非常に困りますが―――なんでもありよ、と笑っておおらかに雰囲気で察してくださるようでしたら…

宜しければお付き合いくださいませ


【未来パロ】【SF】【ギャグ】
基本、陛下、ワガママ。

* * * * * * * * * * * *
さまよえる白陽2-水月(下)【終】
* * * * * * * * * * * *


銀河の彼方、白陽星へ
はるばーるのーぞーむー
ひ魔人ゴー!
ひ魔人ゴー!
ひ魔人我ぁ、ゼーット!

* * * * * * * * * * * *

思わず聞き惚れてボーッとしていた私は、音がやんでしばらくたってから、ようやく拍手を送った。
「神様、すごいです!」

「神様、はおやめください。お妃様。
私のことは、水月、と―――」

「水月、さん?」
「この星の名前ですよ―――仮の姿ではありますが。」
「では、水月さん。
この笛で白陽の春を弾けるよう、私に教えていただけませんか?」

「―――弾けないと、そんなに困るのですか?」
「はい、弾けないと、生贄です…」
私はしょぼんとした。

水月さんは、笛をしばく見つめると、ようやく口にした。

「―――これは、白陽に伝わる魔歌(まがうた)の笛、ですね?」
神様は、寂しそうにほほ笑むと、私に言った。

「まがうた?―――なんですか。それ
恐ろしいものなんですか?」

「いえ―――善くもあり
悪しくもあり―――
吹き手の心の美醜に因り、魔歌(まがうた)はどちらにもなりうるのですよ」

「では、あなたは、純粋で、美しい、善の吹き手、ですね」
ぱちぱちと手を打つと、水月さんは、目を丸くして
「…私は、とても怖がりなのです」
「へ?」
「私は、あの方がとても恐ろしいので、この星に隠れているのです」
「あの、かた?」
「はい。
───あの瞳に見据えられると体が凍り付き、
逃げ出すことすらあの方は許して下さらない───
恐ろしくて、冷たい…あのような方を、私は他に知りません」
「水月さんのような神様にも、何か恐ろしいものがあるんですね。
でも、大丈夫!!
それなら、私がその恐ろしいものから
水月さんを守ってさしあげますよ!?」
と私が笑うと、水月さんはホッとしたようも見えた。

「私を、守って下さる?
───やはり、お妃様は私の想像していたのとは違います。
あの陛下が―――あなたのようなお方をおそばに置かれるとは
少し意外でした」
クスと笑う水月さんの横顔は、やっぱり整っていて綺麗。

「…陛下が、私のような?」
「―――」
「それは…噂と違って。ガッカリした、ということでしょうか?」

(美しい水月さんからみれば、私なんて足元にも及ばないに違いないわ…
絶世の美女と噂される“お妃様“の実物がこんなんじゃ、ガッカリしても当然よね…)

「いえ…あなたのようなお方で、―――非常に興味深く思います。
さあご機嫌をお直しください…」

そういうと、水月さんはもう一度笛をとり
「お妃様。
───あなたのために、吹きましょう」
そっと吹き始めた。

それは“白陽の春”で───。

でも、今まできいた、どんな白陽の春とも違った。

白陽の春は平易で優しい音律に春をたたえる美しい歌詞がついており、
白陽国の人間なら赤ん坊でも知っているほどよく知れ渡り
小さいころから何度も繰り返し耳にし、歌ったことのある曲だった。

にもかかわらず、音楽好きの神様の奏でる白陽国の春は、これまで聞いたどの演奏よりも感動的で、美しかった。

(ほえ~ 陛下にお聞かせしたら…
さぞ、お疲れも癒されるでしょうに…)
私は体中のよどみが消え去り、身が軽くなってゆく心地よさを感じながら、陛下のことを考えていた。

…。音がやむ。

私は精一杯の拍手を送った。

水月さんは白陽の春を一曲吹き終えると丁寧に笛の吹き口を袖の中から取り出した手布でぬぐい私に返してくれた。
その途端、ヘーカが突如、池のほとりに現れた。

「夕鈴!」

「へーかっ!!」

思わず私が声をあげると、
音楽好きの神様はビクリとし、視線のその先に立つ人物に気が付き
と青ざめ顔をひきつらせヘナヘナ…と崩れ落ちるように跪拝をとり
顔を袖に埋めた。

へーかは、身軽に砂州を渡って、島に上ってきた。

「水月―――久しぶりだな」

「ご尊顔を…」

陛下の足元に跪いた水月さんは、カタカタと小さく震えながら、
今にも口から魂が抜けださんばかりだった。

「へーかっ!!
神様は、男の人が嫌いなんですよっ!?
それを知ってて…」

「いえ、男ではなく―――
正確には…私は狼陛下が恐ろしいのです…」
水月さんは、私にそう小さくつぶやいた。
「えっ!?───もしかして、さっき
水月さんが言ってた、恐いものって───!!?」
「…ハイ」
水月さんがすまなさそうに頷く。

「そいつは我が国の守護龍でありながら、
私を怖れ、顔も見せぬ。
───いい機会だ、水月。
お前は一体いつまで引きこもっているつもりだ?」

カタカタと震える水月さんは、目が死んでる───!?

「…ここまできたら、
どこまでいけるか試してみたいと思いますか…」

ちょっとちょっと、
ダメでしょ、その答え───!?

怒ってる、怒ってるわよ、狼陛下!
怖いっ!!!


「はぁ…?
でも、へーか!
水月さんは、少し変わってるけど、良い神様なんですよ?
私にもとても優しくて親切にしてくださり、
素晴らしい演奏で心を和ませて下さったり───
そうそう。
この魔歌(まがうた)の笛のことについても
お詳しいみたいで───」

ここはどうにか怒りを鎮めてもらって…

「ほう
…ずいぶんと
親しげだな」

ジッと水月さんを睨みつけるへーか。

待って、待って!?

「いや、えっと
…私、あれほど美しい白陽の春は、聞いたことがありません!
陛下にぜひお聞かせして、癒して差し上げたいと思ったくらいです…!!
私が笛を上手に吹きこなせるようにって、お手本の演奏を―――」

「君が吹けなかった、笛を―――?

それは。
―――間接キスを、したということか?」

ツカツカ、と私に近づくと、私を抱きしめる。
ピンクのぴったりした宇宙服に陛下の体がダイレクトに接触する。

ギャーっと思ったが、急激に辺りが寒々とし、
ヘーカの様子が恐ろしくなっている空気を感じ、声をあげることすらはばかられた。

陛下の最大奥義、氷の刃ブリザード攻撃が吹き荒れ…

あれ─────────!!?

ちょっと、ちょっと、ちょっと!? なんでさらに怖くなってる?
ヘーカ、怖いでしょ!?
水月さんが…

見ると、水月さんの口許からはエクトプラズムと呼ばれる白い霊魂が抜け出そうとしているところだった。

「ヘーか、違っ、ちゃんと、吹き口はちゃんと布でぬぐいましたっ!!
そんな変なことで人を疑わないでくださいっ!
凄いですよ!水月さんはすごい知識もあって、最高の白陽の春を吹いて聞かせてくださったんです!!
素晴らしい神様です!」


ぎゅーっと陛下にしがみ付く。

…その時私は、忘れていた。
陛下の身に着けている白い宇宙戦闘服は、宇宙空間での白兵戦闘のため体の動きを阻害しないよう軽く薄い特殊素材で非常にピッタリ作られていて。私のピンクの宇宙服もピッタリピッタリで。二人がそんな恰好でかなりの密着度を保っていたことを───。


ふぅ…と一呼吸すると、陛下は急に雰囲気を和らげて言った。

「───水月。
以前の働きは聞いている。お前の能力を高く買っているものも多い。
そしてなにより、先ほどのお前の演奏はみごとだった。
魔歌の笛を弾きこなし、その善たるエネルギーは私の火魔人我Zのエネルギーを満たしてくれた…。

妃の目にもとまる優秀さを
私も見てみたいものだ」

そういうと、水月さんの表情が少し、変化した。

「───もったいないお言葉にございます
我らが王───…」


* * * * * * * * * * * *

戦艦白陽に戻るため、再び火魔人我Zに乗りこむ。

「水月さんは?」
「妃と笛の契約を結んだ守護神だ───必ず追いかけてくるだろう…」
「笛の、契約?」

ニッと笑って陛下はコツン、とヘルメットを重ねた。

「君が、すごいってこと」

水月さんとの別れ際が思い出される。

「正直、働きたくなくて」
「…は?
いえ、働くというのは
やりたいやりたくないの問題では」
「…朝、起きたくないんです」
「いやいやいや、そんなこと悲しげに言われても!」

困った人だ…と思いながらも
水月さんは
「でも、お妃様。
かならずあなたを助けにゆきますから」と言ってくれた。

コックピットに潜り込んで、
「おいで、ゆーりん?」と手招きされ、キュッと抱きしめられると
なんだかとっても安心してしてしまい、それまでのいろいろな気づかれがドットでてきた。


疲れてたんだ。
あっというまにウトウトしてしまい、惑星氾第一衛星水月からの帰りの道中は、覚えていない。

眼が醒めると陛下が相変わらずぎゅーぎゅー抱きしめていて、困った。

だって、へーかのスーツ。
ピッタリすぎませんか?
それ、ちょっと…

恥ずかしすぎます!!!


またギャーギャー、わぁわぁひとしきり文句を言い合いながら
着艦デッキから引き上げる二人。

「…もうっ、へーかなんかっ
嫌いっ!!」

「ゆーりん…、待って?」

ガーンとした表情で、ヘルメットを片手に追いかける陛下を見捨てて、さっさとブリッジに上がろうと、カンカンと足音を立てて走った。

ところが、知らないうちに、水月さんはそこに居て
「お妃様、お待たせしました」声をかけられ、びっくりしてしまった。

水月さん。私よりも先に到着してる…!?

「水月さん!?どうやって?」
「私も、移動手段はありますから…」
そんなふうに微笑まれると、なんだ、そうなんだ、と意味は良く分からないけど納得させられてしまう。


* * * * * * * * * * * *

「夕鈴殿。引きこもりの守護龍、水月をよくぞ改心させてくれました!
よくやりましたね、今回の出張手当ははずみますよ?!」

そういって、李順さんにねぎらわれた。

「あ、でも、ヘーカ。
これで笛で白陽の春を一曲弾きこなす、課題はクリアできましたね!」

「うん。…ちょっと残念だけど」

「…残念?」
私は陛下の反応が微妙でちょっと不思議だった。
でも李順さんはホクホクと嬉しそうに答えた


「水月の吹く祝福の白陽の春のエネルギーは、
白陽艦隊で使用されている波動エネルギーを生み出す魔歌(まがうた)なんです。
これで、燃料エネルギーに困ることなく暫くはやってゆけそうですよ。

これで、バーンと宇宙の果てまでワープだってできますね!」

燃料に関していつもケチケチしていた李順副提督の言葉とも思えない大盤振る舞いな発言もなされた。


「問題の、パイプオルガンの修理、は?
───水月さんには、パイプオルガン。直せないんですか?」

「私はどうにも感覚派ですからね…。
守護神というのは森羅万象自然のエネルギーを利用はしますが…。
ザックリ申し上げますと、精密に物を動かしたり直したりは苦手です。
それに…細かい図面とか引くのは苦手で。
パイプオルガンというのは目に見えないところにもたくさんのパーツが存在し、オーバーホールともなると、とても大掛かりで各種手がける精鋭たちをあつめ、それぞれの持ち場で仕事を黙々とこなし。最終的にそれを一体化してゆくという、たいへん大掛かりな楽器なんですよ。
全体のバランスを損なわず非常に細かく神経を行き届かすことのできる、かつ几帳面で何一つ妥協せず、誤魔化さず、清廉な心を持つ人物なら、一人。───私は知っています…」

と水月さんにしては長いセリフを吐いた。
───そのあと顔が青くなって、フラリと椅子に横になった。


「水月。その人物の、居場所を教えてくれるか?」

へーかが問うと、水月さんははっきりした口調で答えた。

「緑の惑星柳の、緑深き山々のすそ野の方形の淵に住む、眉間に皺を寄せた…
非常にめんどくさい男───」

(え? ひじょーにめんどくさいおとこ、って、どういう意味?)
と一瞬ひっかかり?が浮かんだけれど、陛下も李順さんも一向にこだわる様子を見せなかった。

陛下がスクリーンをすっと指さして、モニターに表示された宇宙海図が陛下の指先の動きに的確に反応する。
「惑星、柳」と音声認識のとおり、スクリーンにチカチカとある衛星が点滅し、指先で払うとその衛星のアップが表示される。

母星、白陽の懐かしい故郷とよく似た、緑豊かな惑星、柳星のようすに、思わず見とれてしまう。

「かなり遠方、ですね」

「―――よし!
李順、ワープだ!」

「それでは、さっそくワープエンジンの調整にとりかかります!」
李順さんがヘーカに確認を取る。

「…どれくらいで調整可能だ?」

「…そうですね。早く見積もって、半月───いや、三週間程度お時間をいただければ」

「え?
すぐ、行けないんですか?」

「夕鈴、ワープ・ドライブはですね。
光速を超える速度での宇宙航行を可能にするFTL (Faster Than Light) 技術でしてね、亜空間の場(亜空間フィールド)によって形成される亜空間バブルで宇宙艦を包み込み、周囲の時空連続体を歪めて艦を推進させるためには、膨大なエネルギーが必要とされる一大事業なんですよ!?…それに、いままでずっと使っていなかったワープエンジンの調整には時間がかかりますし…これからはきっと残業続きの毎日で大変なことになるんですよ!?」


…ちんぷんかんぷんで、李順さんが何を言ってるのか良く分からなかった。

私は学の無い民間人のバイトだから。それは仕方がない。

とりあえず、コクコク、と頷いておく。

ようするに、今までケチケチ運航をしていたこの戦艦白陽では一度も使ったことのない宇宙航行で。
膨大な波動エネルギーを集め、ワープするには少し時間がかかるということね。


* * * * * * * * * * * *

しかし―――
水月さんのマイペースは相変わらずで、
何かあるとすぐにお魚に戻ってしまうことが多い。

お魚、というか───龍、だったのだけど。


戦艦白陽に戻った翌日。
艦内モニターでこっそり居住区を抜け出し、デッキの発艦スペースの方へ歩いてゆく水月さんの姿に気が付いた。

私は思わず小さな声でマイク越しに話しかけた。

「水月さん、…どこ行かれるんですか?
そっちは危ないですよ?」

「私は調子が悪いので、早退します」と丁寧な口調で返事をされた。
「早退?―――」

宇宙空間に浮かぶ、この白陽から。
どこに早退するというのだろう…。

「実家の池の庭の鯉に餌をやりわすれました」
「それ、調子が悪いとかと、ちょっと違いません?」

ブリッジの官制マイクを通して、必死に話しかけたのだけど
水月さんは「…」いつものようにニコと優し気に笑うばかり。

みるみるモニターの中で変化が解かれ、白銀のウロコに覆われた大きなお魚…白海龍が現れた。
隔壁をものともせず不思議な力で通過すると、大きな白海龍は宇宙空間へと泳ぎ出した。

驚いて一瞬目を見張ったけれど、そうだった、水月さんは白海龍の化身。
この白陽国の守護神の一人だったんだ、と思いだす。

宇宙空間の中に吸い込まれるように泳いでいく水月さんの後ろ姿に
「ちゃんと、戻ってきてくださいね?」
聞こえているかわからないけど、声をかけてマイクを切った。

ほっそりとした龍の姿の水月さん。
やっぱりあの日、青い池のなかで見かけた、綺麗なお魚だったんだ、と分かった。

その日の夕方に、また水月さんは小さな龍体姿で戻ってきて、いつのまにか紛れ込んでいた。

* * * * * * * * * * * *

水月さんは、といえば。
その後もあいかわらずマイペース。

ヘーカに対しては、相変わらずビクビク、焦点の合わない瞳だけれど、
それなりに戦艦白陽のクルーともなじんだ様子で、
ときどき笛を吹いてくれたりしている。

そのたびに、李順さんが「エネルギーがまた溜りました」とホクホクするから、水月さんにとっても呑気に笛を吹いていられて良い環境かもしれない。


最初は心配で、心配だったけど、
水月さんも随分ここになれたわね…と思いながら、ホッとした。


ときどき宇宙空間をクネクネとお散歩して飛んで行ってしまうけれど…
その姿はとっても美しい。


* * * * * * * * * * * *

時間があるということは、忙しい人と、忙しくない人がいる、ということで。

李順さんは忙しい人で、
へーかは忙しくない人だった。

今日も、第一ブリッジの指令席の後ろの小部屋に、ちょいちょい、と手招きされて
ついてゆくと「ゆーりん、お茶、入れてくれない?」という。

「みなさん、忙しく働いていらっしゃるのに…!」と言うと

「だって。ワープエンジンの調整の現場に、私がいたらみんなやりにくいだろ?
私ができることは、演技向上の訓練くらいなものだ───
君が気にするのなら、───艦長室に、行く?」

「…ま、ま、まさかっ!!」
本能で、危ない、と感じた。

「うーん。じゃあ、ここで少しだけ、おしゃべり」
嬉しそうにヘーカは私に構い倒す。


「じゃあ、ちょっと。
おしゃべりだけ、ですよ?」

狭い小部屋で、二人の距離はちかくて。
キュンと見上げると、へーかは嬉しそうに私の手をとり、抱き寄せる。

「うん」

あんまり、嬉しそうで、困ってしまう。
何か話題を…

「あの…もし、水月さんが同行してくれなかったら
私が生贄になってたんですか―――?」

「そうだね。
活きのいい兎の生贄が必要だったね

…正直、僕は少し残念だけど」

「ど、どうして!
へーかが残念がるんですか?
酷いじゃないですかっ!」
キッと向き直る。

「…え?だって
白陽の春、の代わりの
生贄、でしょ?

―――せいぜい、私を楽しませてくれ、と
期待しちゃだめだったかな?」

怪しい色をたたえた陛下の視線に、思わず目を伏せる。

「だ、だから、それって…」

不穏な空気に、おもわずもじもじとする。

「うーん。でもまぁ…李順がいると。儀式って分かっていても、いろいろうるさいよね~」
ぽふっと、私の背中に手を回して抱きしめ、密着度が上がる。

「はあ?」
ぎゅうぎゅうと押し戻して抵抗をする…が、むなしい努力だと思わざるを得ない。

「へ、ヘーカ!
ち、近いですっ!」

「やっぱり。いつ水月がいなくなるかも分からないから。
年には念を入れて
手とり足とり、いまから練習―――する?」

「あの…」

「本当の、妃、の役と―――
その生贄の―――」

「い、い、いい加減にしてくださいっ!!」

バタン!!
カッカッカッカッカッカ…


陛下の、バカバカバカ…!
人のこと、からかって~~~!?


私は真っ赤になった顔を見られたくなくて。
走って逃げた…。


* * * * * * * * * * * *


失われた故郷、白陽を救うため、急げ、宇宙戦艦白陽!


白陽滅亡まであと785日。
あと785日しかないのだ───

君は生き残ることができるか…!






(水月編 おしまい)




R〔仮〕さま、リクエスト、ありがとうございました!

sss やさしいひと/他人行儀

* * * * * * * * *
やさしいひと
* * * * * * * * *

その人は、なんでも叶えられる特権を持っている。
それゆえに人に取り巻かれ、苦しみ、孤独を感じているのだろう。

その人は、優しいから。
私のためなら、といつも甘やかす。

でも
その人に頼るのは、
自分の実力もないのに楽してるようで、
―――なんだかとってもずるい気がして。

ちゃんと、地に足付けて、自分のことは自分でやったうえで
人の役に立つのがカッコいいじゃない?

実力もないのに、人の助力に頼って、楽をするような人間だと、
あの人に、ガッカリされたくない。

やさしいから、
甘えたくない。

傷つけたくない。




* * * * * * * * *
他人行儀
* * * * * * * * *

その人は、楽して叶えられることに痛みを感じる。
たぶん苦労して、涙し、努力したからこそ、この世の理を知っているのだ。

その人は、潔いから。
私のためにならないと、といつも身を引いてしまう。

でも
私がなんとしても助力を差し向けたい思うのは、
常日頃の振る舞いを見ているからであって、
―――私は君の役に立ちたいのだ。

人のことばかり考えて、いつも自分のことは二の次さんの次
笑顔で誰かのために奔走している君は、カッコいい。

君は十二分に他人に尽くし、その恩恵は誰がすべきなの?
たまに頼られてこそ、君に認められた証しのような気がして。

やさしくしたい。
甘えてほしい。

愛しい君だから。



(おしまい)

*

プロポーズの日2014

今日6月2日は
プロポーズの日、らしいです。
プロポーズの日に寄せて。
すべりこみ。

【たぶんバイト妃】

* * * * * * * * * * * *
プロポーズの日2014
* * * * * * * * * * * *

それはいつものような夜。
陛下はいつものようにお仕事でクタクタで
私はいつものように茶器を揃えおいしいお菓子を用意していた。

「ただいま、夕鈴―――」

人払いを済ませると、さっそく陛下は小犬にもどり
ちょっとはにかみながら、にこっと笑った。

「―――なんだか、嬉しそうだね?
今日は何か、いいこと、あったの?」

当然のように、私を膝の上に招き、
抱えるように包む。

今日、侍女さんたちと庭を散歩したこと。
咲き染めの淡い桃色の薔薇(そうび)が美しく、思わず侍女さんたちが恋占いを始めたこと。
八重崎の花弁が多すぎて、なかなか占いの結果が出なかったこと…
「…恋占いって、みんなでやると、ちょっとどきどきしちゃいません?」
つい熱が入って真顔で陛下のお顔に近づきすぎた。
クス、と笑われ。
…あ…。やだ。
話、…えっと、話の続きを―――早く。

「えっと…陛下。それで。
―――お見合いすることになりました」

「そっか…それはよかった――― えっ?」

陛下はガタリ、といきなり立ち上がったので、
私は陛下の膝の上から転げ落ちそうになった。

陛下はあわてて私を抱え上げ、鼻先スレスレのところまできれいなお顔を寄せて覗き込んだ。

「…っと、ゴメんっ!」

誰からも、冷酷非情な狼陛下、と呼ばれている人なのに。
「お見合いっ?
誰と―――!?」
陛下はきれいな瞳をまん丸に開くと、急にオロオロとしはじめた。

「…あのその。
そんな風に真正面から問われるとちょっと。恥ずかしいんですけど―――あの…老子の…ご紹介で」

(老子?―――いつのまに、あやつ、
そのような話を―――!?)

「ダメっ!!!」
ギュッと目を伏せた陛下は、力づくで私の両肩をひきょせる。

ながいまつ毛が私の頬にちくちく触れてくすぐったいけど、
息もできないほどぎゅうぎゅうと私を抱きしめるものだから
しばらく一言も発することができなかった。

「絶対―――ダメ!
そんな、うさん臭い話」

「う、うさん臭くなんか、
ない、ですっ
ちゃんとした、お相 手 ―――で…
へっ、へーか!!
く…くるっしいです…」

ハフハフと空気を求めてあえぐ私に気が付き
ようやく陛下は腕の力を緩めてくれた。

「ごめん…でも」
だらり、と力を落とし、黎翔は夕鈴を長椅子に下ろして、その隣に座り直した。

「でも…。陛下?
自分のことは一番、自分が分かるものです。

人には立場っていうものがあって。
自分の身の丈に見合った場所に落ち着くのが、一番幸せだって…
誰だって、最後には悟るべきなんですよね。

どんなに夢を描いても―――
分別を持って、時には現実を受け入れないと、ですね。

年齢も年齢ですし。
もうあまり選択肢、ないですよ(笑)

だから、あの―――
心から祝うって…
その、できません、か―――?」

「―――ダメ!」

「あの、せめて、もう少し詳しくお話だけでも聞いて―――」

黎翔が、憤然と立ち上がる。

「―――っ」
そんなに、怒ることですか―――?

「絶対に
許さない」

冷たい赤い瞳で射抜くように見つめられ
私は痺れたように動けなくなった。


一回だけドクンと大きく弾んだ心臓は
そのあと脈打つを忘れたように、時が止まった

「―――だって…お年頃なんですよ?
申し分ない、立派なお話で―――」

…いきなり、唇を奪われた。

「―――なっ?…んっ!!」

力づくで、強引なそれは、鼻も頬も一緒くたに
かじられるように押し付けられて
…狼に、食べられてるような気がした。



ようやくドンと胸を突き飛ばし、二人の距離を空ける。

羞恥心で神経が焼き切れそう。
なの視線に入った自分の指は、血の気が引い青白く見えた。

はあ、はぁ…と荒い息づかいに、正気が戻ってくる。
震える指先で口許をぬぐった。

「―――絶対に許さない!」

「は…え?
――何?」

「だから、君が見合いをする、と―――
それももう先々まで決めたような口ぶりで…」

「え―――?
ちが…」

「ぼくのことなんか―――
置いて
行ってしまうつもりなんだ―――」

「違います!
どうして陛下を置いていくとか、いかないとかのお話になるんですか?
全然関係ないじゃないですか―――!」
「違わない!!」
「違いますって!!…」
「僕のことなんか…嫌いなんだ
―――嫌われるようなことばかりしてるから」
「だから…、」
「夕鈴は、僕のことなんて嫌いなんでしょ?」
「へーかは、関係ないでしょ?!」
「やっぱり、僕のこと、嫌いなんだ」
「嫌いなわけ、ないじゃないですかっ!」

「じゃあ、僕と結婚して!」

―――え?

はい?

それって、プロポーズって、やつですか?

あわあわと蒼白になっている間に、
もう一度抱き寄せられて、今度は優しく口づけされた。

「私が先約。―――だからその見合い話はぶち壊す」

「陛下。ホンキですか…?」
「―――嘘や冗談で、求婚できる?」
「…いいえ。陛下はそんなお人じゃ…」
「本気だから。お見合いは止めて―――」
「あの、陛下?
お見合いは、だから。
私付きの―――侍女さんの話ですよ?
20歳になってしまって、嫁き遅れたってずっと気にしてた…
彼女の話じゃ、なかったんですか?
私、仲人するんです…
どんな様子か今から楽しみで―――」

やおら腰をさらわれ、すたすたと部屋の奥に―――
「きゃっ…!」


「妃が仲人をするというのなら、
我々がもっと仲良くなっておく必要が
あるな。
人生の先輩として―――」


(おしまい)

雨乞い

ブログ1周年記念 3本勝負、3本目
―――――――――――――――――
シエル様
"胸キュン陛下×夕鈴(浩大ピンチ)"
バイトでもいいし、未来設定で夫婦になりお子までいる設定どちらでも構いませんが、陛下が賊に襲われ浩大が命の危機に!ってなり、夕鈴が陛下が命の危機に!と勘違いで、ラブラブ展開に発展
―――――――――――――――――

シエル様、ありがとうございました。


【バイト妃】【ちょっと流血しますよ】【痛い】

* * * * * * * * * * * *
雨乞い
* * * * * * * * * * * *

「―――これは大切なご公務ですからね?」
李順さんにジロリと念を押された手前、嫌です、とは言えなかった。

ため息をつきながら、重たい妃衣装にさらに上着を重ねる。
なにもこの季節にこんな正装しなくても―――ただでさえ妃衣装は重たく暑い。

その日もとても日差しが強く朝から汗ばむほどで、昼にはさらに気温が上昇しそうな予感だった。
何週間も雨が降らず、あちこちで干ばつの被害が報告されはじめ、慣習に従うべしという卜部の奏上を重んじる老臣たちの勧めもあり、国をあげて雨乞いの儀式を行うことになった。

もっとも近代的な考え方である黎翔は、占いを信じて雨乞いを執り行うなど、はなからやりたくはなかったのだが、荘園領地を抱える貴族らの声を無視することもできなかった。

儀式を執り行うともなると参列する側も大変である。
国王夫妻も精進潔斎し、雨が降るまで最長一週間の雨乞い行事に立ち会わねばならない。

「もっと簡素な衣装では―――」
「様式、支度は細かく取り決められており、勝手はなりません。
万が一にも雨が降らず、それが妃の不備や勝手な振る舞いのせいだと言いがかりでもつけられたら―――どうします? バイトのあなたはいいかもしれませんけれどね。陛下のお顔に泥を塗るおつもりですか?」
そう言われてしまえば、シュンとするばかり。

時間をかけてようやく支度が整い、陛下の元に挨拶に訪れる。

儀式のための古典的な装束を身に着けた陛下の立派なお姿におもわず見ほれてしまった。

「わが妃はいつにもまして美しいな」
そう言葉にされると、嬉しいような―――照れるような。

陛下はこんなに暑くても汗一つかかず、涼しいお顔。

王族に生まれ育った国王様だし。場数も踏んでるから当たり前といえば当たり前。
さすが、というえばそうなんだけど。

私のよりさらに重たそうな衣裳をサラリと着こなすあたり
なんだか―――悔しい。

だから私も衣裳が重いとか、暑いとか、文句をいうまい、と心に決めた。

儀式を執り行う王宮広場の中央には広い祭壇が築かれ天幕で覆われている。
いよいよ雨乞い儀式が行われる。

白い天幕で仕切られ、あちこちで焚かれた護摩の煙でがもうもうとする祭壇には国中から集められた僧侶が整然と居並ぶ。鳴り物で儀式の開始が知らされ、長い長い文言から始まった。

最初は興味深く見つめていたがそれもほんのわずかな間だった。

苦しんでいる民のためとはいえ、雨が降るまでひたすら祈祷を続ける苦行を執り行うというのは大変なこと。
早朝の暗いうちから執り行われた初日最初の儀式が無事おわったのは、もう昼過ぎで、それだけでもへとへとだった。

「これからは坊主どもの読経を唱え続けるんだ。法力を頼みに雨が降るまでは、これを七日七晩、か―――。
…長丁場になるかもしれない。夕鈴、君はあまり無理をしないで―――
交代の時間でしっかり休んでおいで」

カラカラに喉が渇き、それでも飢える国民のため、と思えば我慢もできた。

「いえ、大丈夫で…す―――」

クラリと思わずめまいがしたその瞬間、
シュっと小さな風切り音がして、何かがかすめた。

―――え?と気が付くと、天幕にブスリと矢が刺さっている。
陛下は顔つきが変わった。

「賊だ―――! 出会えっ!」

「王の天幕に、弓引く不埒物を、ひっとらえよ!!」

辺りは大騒ぎになった。

陛下が私の肩を捕らえ、抱き寄せる。

「夕鈴、怪我は?」
「いえ―――」

「―――お妃様、大丈夫ですか!?」
李順さんが駆け寄る。

雨乞いの祭壇まで大混乱。
集められた僧侶たちは騒然としはじめた。


陛下がすばやく私に声をかけ、心配そうにのぞき込む。

「夕鈴、痛いところはない?」
「どこも―――」

実害はないけれど、私は緊張で酸素不足に陥りそう。

「かすったが無傷のようだ」
「…やだ、めまいがしなかったら―――当たって、た?」

いまごろになって、ガタガタと震えが走る。

「安心して…夕鈴。
―――李順、妃を安全な場所に」
「は」

儀式用の剣しか身に着けていなかった陛下は、すぐさま脇に置かれている愛刀に手を伸ばし、
その間にも矢の撃ち込まれた角度から敵の位置に見当をつけ、私をするりと李順さんのほうへ押し出した。

「すぐ戻る―――」
「あ、陛下っ!!」
私には、陛下の動きが止めらえなかった。
いつも、何の役にも立てなくて―――。

「―――陛下っ! お待ちくださいっ!!
警備兵を揃えてから、陣頭指揮を…」

「浩大、いるか―――?」
「っほいほーい!」

人が多すぎて―――混乱の中、何も見えない。
戦いとは縁遠い僧侶はパニックを起こし、怒号と悲鳴が飛び交った。

賊が誰なのか、どこにいるのか、何が目的なのか―――

敵がいると思われ、警備の者らが向かった方角とは全く反対の、裏をかいた茂みがガサガサ揺れ、大きな影が飛び出した。
はっと気が付いたとき、天幕のすぐ傍に血走った目の一人の荒坊主が立っていた。

雨乞いに呼ばれた立派な装束の僧侶らとは異なり、汚れすさんだ破戒僧。
仁王立ちになってその大きな体を熊のように誇示し、太い腕で私を指さした。

「雨乞いなど―――

そもそも、狼陛下が妃の言いなりになって
国政をおろそかにするから
罰が当たったんだ―――

傾国の悪妃を退治すれば
天も雨を降らせよう―――!
悪妃こそ、生贄にささげるがよい―――」

そう言って、薙刀用の朴刀長器を振りかざした破戒僧は
当たり構わず跳ね飛ばし、私の方へ向かって切り込んできた―――。

「夕鈴っ!―――」
陛下!?

「お妃ちゃん―――!!」

* * * * * * * * * * * *

李順さんや周りの人が私を守り、もみくちゃにされながら視界の端に血しぶきが上がった


「陛下っ!」
「陛下ぁああ―――!!?」
周りから声が上がる。


「―――陛下の身に?」
私は息が止まりそうだった。

やだ―――

「夕鈴殿―――見てはいけません」
李順さんが鋭く低い声を出したけど、目を閉じられない。

賊が取り押さえられ、人垣が切れたとき。
数名が折り重なったその場に
陛下が血まみれで、片膝をついて、愛刀でかろうじて体を支えていた。
白い、古式ゆかしい儀式の衣裳が―――赤く染まっていた。

「へ―――陛下ああああっ!!!」
私は思わず駆け出して、陛下の側へとはしった

すぐそこが、なんて遠いの?
たった10数歩しか離れていなかったのに―――
陛下は…
今日の儀式の妃衣装は重たくて、動きにくくちっとも前に進まない

やだ―――陛下!

ようやく陛下の側にたどりついた。
手をのばし、陛下の頭を胸に掻きよせギュッと抱きしめる。

「―――夕鈴…?」

陛下の声に、ホッとする。

「大丈夫ですか?
すぐお医者さまを―――
気を確かに―――しっかりしてください」

「心配するな。大丈夫だ」

「でも、すごい出血です―――動かないでください
どこをやられたんですか?
すぐ手当を―――」

「浩大だ」

「へ?」

「いや、儀式用の服が重くて。
足を取られ膝をついた途端切り込まれ。
浩大が盾になった
あいつは―――?」

「え…浩大?」
ときょろきょろと見回すと、浩大は1、2間ほど跳ね飛ばされて、腹のあたりが大きく割けて血まみれだった。
怪力に任せて朴刀長器で薙ぎ払われたのかかなりの大怪我だ。
さすがに浩大。
腹を抑えて「いってー!!」と叫びながらも、上体を起こし「―――ちっ、やられた」と冷静に自分の腹を見下ろした。

「陛下は大丈夫です―――」

浩大には本当に悪いけど。陛下が無事だ、と分かった途端
私は緊張の糸がほどけ思わず、ワンワンと泣き出した。

陛下の頭を抱きしめたままどうしてよいのかも分からず

「陛下、陛下、よくぞ御無事で―――!
浩大、痛かったわね、痛かったわよね―――でもありがとう」

そう言いながら、涙があとからあとから出てきて。
抱えた陛下の頭に頬ずりして泣いた。

「しっ 心臓が止まるかと思いました―――!
陛下が切られたと思った途端
生きた心地がしませんでした―――」

ヒックヒックとしゃくりながら、陛下の頭をわしわしと抱きしめた。


切られたのが陛下ではなく浩大と知ってちょっぴりホッとした事実に対し急に罪悪感が湧いてきた。
思わず尋ねる。
「こっ、浩大は―――?」

「あちらで手当を受けてる。大丈夫そうだ。
ほら、手を振ってる―――」

よかった…。

まだまだ涙は尽きなくて…。でもそうこうしているうちに
突然、ゴロゴロ…と遠雷が鳴り響きい、あれよあれよという間にビュービューと強い風が吹いて。
そのうち空からパラパラ、パチパチと白い雹(ヒョウ)が降ってきた。

「ぎゃ!」
祭壇周りにいた僧侶たちは頭を守り、四方八方に飛び跳ねた。

あっけにとられながら、両肩を支えられ周りの人に助け起こされた私は、ようやく陛下の頭に回した腕の力が抜けた。私の胸に埋めていた陛下が顔をあげて、ニコリ、と笑ったその笑顔を見て、またしがみついて泣いた。

雹(ヒョウ)の当たらない天幕の下まで担ぎ込まれ、椅子に座らされたけどまだ涙は枯れなかった。
そうしたら今度はもくもくと黒雲が立ち込めたかと思ったらザンザンと大雨降り始めた。

「―――夕鈴の涙が、雨を呼んだのかな?」

「ば、ばかなこといわないで―――」
ひっくひっくと泣き続ける私。



「心配してくれて嬉しい

でも、もう泣き止んで―――」


そう言って、陛下は私に
優しくキスをした。


―――雨がやむまで。



(おしまい)



現地視察

ブログ1周年記念 3本勝負、4本目 ←すでに3本勝負じゃない。

―――――――――――――――――
風花さま
"明るい系陛下×夕鈴"
(跳ね兎、たじたじ狼、腕の中)
―――――――――――――――――

風花様、ありがとうございました。

明るい系の陛下、といえば、李翔さんが思い浮かびます。
舞台は下町、も定番ですが、今回はお二人の旅の一コマで…。

【バイト妃】【微糖】

* * * * * * * * * * * *
現地視察
* * * * * * * * * * * *

―――勝手に連れ出した。

私も、時には勝手気ままに過ごしたいのだ。

やるべき務めはすべて果たした。
いいや、やるべき以上、すでに済ませたぞ、文句なかろう。

先回りで精力的に仕事をした分、
少しくらいは、許せ―――。


当初から李順の組んだ公務の予定は、隙間なくびっしりと埋まっていて、
そもそも「遊び」「観光」といった要素など、どこにも見当たらなかった。

にもかかわらず、私は妃をこの視察に同行させていた。

それは、たまたま、というよりも、
密かな目的があったのだけれども…。
それは内緒。

とにかく私は王宮の大臣ら、例のうるさ方の面々を半ば強引に押し切る形で、妃を連れて視察に出た。

この公務で最も比重が大きかったのは、国境付近の穀倉地帯の治水事業。
かなり大がかりで時間も資金もかかるこの事業はようやく実現化へ向けて動き出したばかりでぜひとも見ておきたいものだった。

ところが今朝がた。
予定現場へ行く途中の橋が晩の大雨で流されてしまい、現地が混乱しているので今回の一行による視察は見合わせてほしいと延期の願いが届いた。
というわけで、もともと半日でも隙間をつくって強行軍突破しようと練っていた私にとっては願ってもないチャンスだった。

―――国王の急病。
ちょっとした体調不良など、誰にでもある。
旅先での疲れで倒れたことにして、束の間の休暇を楽しむことに決めた。

実は密かにガイドも手配済だ。
視察団本部には李順を残しておく。
病気の国王の代わって長官らと塩梅よく采配するだろうし―――。

せっかくのデートの邪魔はされたく、ない。

「夕鈴、少し、外に行かない?」
「外、ですか―――?」

朝餉の後、散歩にでも行くのかと思ったんだろうな。
君は「はい、喜んで」と軽く誘いを受けた。

* * * * * * * * * * * *

浩大の御する小さな馬車。
とくに裕福でもない中流貴族の物見遊山、といった風情に仕立ててある。

「へーか!?
ちょっと外へ、といいながら―――馬車で遠出して
大丈夫なんですか?」

「視察、だよ? 川辺の」
「視察、ああ、そうなんですか…でも
私、陛下のお仕事に、足手まといなんじゃ…?」

「まあ、視察って言っても。内内なものだから」

「内内…?
―――あの…、李順さん、には…?」

「うーん。まあ、内内だからね―――」

「―――!?」
夕鈴の胸に嫌な予感がよぎる。

「もう、来ちゃったし。
君に見せたいものが、あるんだ」

この時期だけしか見られないという時期、場所、情報等を確保するため、現地にはガイドを手配してある。

小さな町にあるたった一つの旅籠を兼ねた飯店。
昼食の時間に、そこで落ち会う、と連絡していた通り、奴は現れた。

小さな飯店だったが庶民的な料理はどれもおいしそうで、すでに机の上には乗りきらないほど並べられている。
浩大は遠慮して隣のテーブルについている。

「ご無沙汰しております」
「克右、ご苦労」
「…陛下、ありゃ。今回は娘さんもご一緒ですか―――?」

克右は、仰々しくない程度に丁寧な礼をすると、克右は浩大の卓についた。

浩大は早速小さな声で情報を伝える。
「…おい、軍人さんヨぉ、この方は貴族の李翔様! そんでもって、奥さんと一緒に旅行中。
あんたの役どころは李家出入りの商人。今回の旅の案内人だってサ―――
いいかい?」
奥さん、といわれ、夕鈴は口いっぱいにほおばっていた湯を思わずごくん!と呑み込んだ。
「熱っ!」
「―――大丈夫か? やけどは? あーんして見せて」
顎を指でクイと引かれ、口許を覗き込まれた夕鈴は赤面した。
「ち…近いです!! 李翔さんっ!!」

「―――相変わらず、仲の宜しいことで」
二人のやり取りを少し遠巻きに、目を合わさないように気遣う。

「腹ごしらえをしたら、行くぞ?」
「行くって? 遠いんですか?」

「日暮れ前までに、少し山の方へ移動しないと―――」

* * * * * * * * * * * *

連れてゆかれたのは山の近くのせせらぎ。

「ここで、この時期にだけ見られる景色があるんだそうだ」
「へぇ…確かにきれいなところですけど。
特に変わった風にはみえませんが?」

「そうだね。今は―――
もう少し暗くなると見えるはずだ」

川べりから見上げると、少し離れた小高い野原に浩大と克右の二人がいた。
少し大きめのテントを一つと、小さなテントを二つ設営している。

「何の準備ですか?」
「暗くなってから移動するのも危ないから、今日はここで野営する」
「野営? 私は初めてです」
「そうか。女性には慣れなくて、申し訳ないけれど…」
「わたしは、どんなところでも平気ですよ?」
ニコニコ笑いながら、物珍しそうにテントを張る様子を見学していた。

馬車から荷物を下ろしたり、てきぱきと二人は働いていた。

「そういえば―――その景色というのを、陛下はご覧になったことがあるんですか?」
「いや。話に聞くばかりで。一度この眼で見ておきたいと。
それなら君と、と 思ってね。少し無理をさせたな」
「あなたがいてくだされば…大丈夫、です」


いつの間にか自然とつながれた手。
『二人で川風になぶられながら、陛下とこんな会話をしてるなんて、まるで…デートみたい』と夕鈴はドキンと胸が高鳴った。

「もうそろそろ、日が暮れる―――。
団扇を持っていくといい」

ガサガサと草をかき分ける音がして、ガラスのランプを手に、克右と浩大が川べりまで降りてきた。

「では、こちらの方へ」

先頭に立った克右の案内で、川に沿って林の奥へと一行は進んだ。
宵闇迫る薄暗がりの中、ぶらぶらゆれるランプの淡い光と、繋がれた手だけを頼りに進む。

「ここら辺り、で見られると聞いてますがね…」

そう言って、立ち止まる。
息をひそめて辺りを見回していると、あちらの岸辺でチカ…と緑色の明りが揺れた。
「あそこ」
ガサガサともう少し進む。
「暗いから。足元に気を付けて」
陛下の腕がのびてきて突然腰を引き寄せられ、ドキドキした。

あっという間にとっぷりと日は暮れ、残照が空から消えると、辺りは一気に暗くなる。
すると、草地ぜんたいに、ぼんやりとした緑色の小さな灯が。
…それはよく見ると動いたり、ふわふわ飛んだりする。

「蛍、という虫だそうだ」

「わぁ…!」
思わず歓声をあげた。

暗闇が増し目が慣れると蛍の放つ淡い光が鮮明になる。
直ぐ近くにもよちよちと歩く蛍。

ふわふわととんだ蛍がすぐ目の前を行き交い、鼻に留まる。
「夕鈴の鼻が、光ってる…!」
プッと吹き出す陛下。

宙を舞う蛍の動きにあわせ団扇であおぐと、その団扇に一匹の蛍が留まった。

「へーかっ!! ほらっ!! 捕まえましたよっ―――!?」

「お嬢ちゃん、虫かご、いるかい?」
克右さんに、細い竹組に薄い紙を貼った小さな虫かごを渡される。
渡された虫かごの中に一匹入れてみると、かすかにアンドンのように光った。
「…きれい」
「そうだね」
お思わず陛下の手を握ると、陛下も手を握り返した。

あたりを見回すと、浩大らしき人影が持っているアンドンはもう相当数の蛍が集まっているようで、
光を放ってきれいに見えた。
浩大はひょいひょいと器用に素手で捕まえ、しかも速い!

「へーか!!
もっと、たくさん集めましょう!!」

つい競争心を煽られる。

団扇で草むらをあおぐと、蛍がふわりと飛び立つ。

「あ、あっち、あっち!
へーか、あっちの方に、もっとたくさんいますよ!?」

陛下の手を引いて、駆け出す。
その途端くぼみに足を取られ、転びかけたところを抱きかかえられる。

「ほら、足元に気を付けて!」
「へーか! そんなふうに抱き上げられていたら、蛍が捕まえられません!!」

「だって、君は転びそうだったんだよ?
川にでもおちたら、どうする?

―――君こそ、蛍のようにどこかに飛び去って行ってしまわないかと…
私は捕まえるので必死だ」
陛下はクスクスと笑った。

「私は―――飛んだりしませんよ?」
「どこにも?」
「どこにも―――行きません」
「では、私の腕の中に居て」

「―――今は蛍を…!」
「うん、でも。
…ちょっと寒い、かな」

「た…確かに。
日が暮れて少し寒くなってきましたね」
頬が染まるけれど。声が震えないように、普段通りに何気なく応えるふりをする。

「夕鈴、あったかい。ちょっとだけ―――こうしていて」
「…」
嫌、とは言えない。

あちらでは、虫かごに集めるために、浩大と克右さんが蛍を追っている足音がするのに―――

私たち二人は暗闇に紛れて蛍の舞う中、抱きしめ合って
お互いの体温を感じていた。

* * * * * * * * * * * *

「成虫の蛍の寿命は、数日の命だそうだ」

そう聞くと、なんだか申し訳なくなって
そのあとたくさんは集められなかった。


テントに戻ると、大きいテントと小さいテントでひと悶着。

私は当然、小さいテントで一人で寝るつもりだったのに、
「そんな不用心なことはできない」と首を縦に振らない。

浩大が二カっと笑って「見てて、見てて!」と呼び止める。

大きなテントの中に、浩大と克右さんの二人で集めたたくさんの蛍を放してくれた。

「お妃ちゃん!!
これはなかなか見られない景色だよーん?」

「蛍?」

「明日になったら、帰してやるから…今晩一晩だけ。
このテントは大所帯だ」

…ほらね? 二人っきりじゃないから、大丈夫
―――と言いたいのか、最後まで陛下は我を通した。

結局私と陛下の二人が大きいテント、浩大と克右さんがそれぞれ小さいテント、ということになった。


テントに入ると、暗闇に蛍の放つほのかな光が乱舞して、この世の者とは思えない幻想的な様子だった。
すぐ傍に陛下がいて、ギャッと声を上げそうになったけれど、
「し―――っ! 叫び声でも上げたら、奴らが飛んでくるよ?」
と口をふさがれた。

テントの中に胡坐をかいた陛下が
「もたれていいから…座って?」と私の手を引いて、座らせる。

背中があったかい。

「どう?」と横から覗き込む陛下の瞳に、キラキラ蛍の光が反射していた。

「―――じゃ、じゃあ、今晩は、寝ません!」

「え?」
「こんなに綺麗な景色。一晩中でもみていなかったら、勿体ないですから!」
「…たしかに。勿体ないね。
君との時間は―――貴重だから
ずっと、一晩中。
蛍をみながら、おしゃべりしていよう」

「はいっ!」


それから、あれやこれや。
いろいろな他愛のないない話を、いっぱいした。

陛下の胸に持たれかけた背中が暖かくて
つつみこまれた肩が暖かくて。


寒いね、

―――そうですか?


いつのまにか、手を握られて。
握り返して。


こんなの、ドキドキして。
眠れるわけがない―――

だから、大丈夫。
一晩だって、二晩だって…

―――ずっとおしゃべりしていようと決心していたのに


やっぱり、いつの間にかうとうとと寝てしまった。


* * * * * * * * * * * *

次の日宿営地に戻ると、やはり
二人の前に恐ろしい李順さんが仁王立ちしていた。

「…あの、視察に連れて行っていただいて―――
やはり、まずかったでしょうか…?」
私が首をすくめると

「…ちょっと待って。
夕鈴。
―――デート、じゃなかったの!?」
と、陛下が少したじろいだ様子で私を振り向き、
ヘンなところに真顔で突っ込みを入れた。

「―――え?

…デート

だったんです か―――?」

(また…! このヒトはっ
李順さんの前で、なんてたちの悪い冗談、言い出すんですかぁっ!!)
と、私が呆れて陛下を見返すと、

陛下は真っ白な目になった。

「で、ホントのところ。
デートだったんですか?」

と李順さんがすかさず確認を入れる。


「―――いや、
視察 だったようだ」

と陛下はお答えになった。


(おしまい)





風花様、ありがとうございました。




ばか

ブログ1周年記念 3本勝負、最後5本目です。

―――――――――――――――――
みほこさま
退宮したあと、李順さんに知れずに本物になり陛下の子を出産する
―――――――――――――――――

みほこ様へ



【人知れず、本物】

* * * * * * * * * * * *
ばか
* * * * * * * * * * * *

さようならを言う間も無かった。


目が醒めたときは
私はその日があなたとのお別れだなんて
これっぽっちも思っていなかったのに…。

もう、お終いにしよう。

それは、その時あなたが考えうる中の
最良の選択肢だった―――はず。

* * * * * * * * * * * *

さようならを言われたくなかった。

突然
君が大事な存在だと気付いてしまったとき
私は君とのかなうはずのない幸せのひと時を過ごすなど
これ以上残酷なこともないと思ったから…

もう、お終いにしよう。

それは、今私が考えうる中で
最善の選択肢だった―――はず。

―――そして、最悪の選択肢だった。

* * * * * * * * * * * *

多忙で死ねるのなら、それは私にとって、救いだ。
せめて気が狂えば。

生きる楽しみも目的もなく
砂を噛みしめるような毎日を
呪縛されたこの場所で過ごすだけ。

陰謀も、黒い邪な影も。
私を食い潰せるのならやればよい―――

せめて、楽しませてくれ。
それがせめてもの私にとっての『娯楽』となろう。

夕鈴、君がいたら
ここに
私のこの腕の中に

私の中にあった君の温もりは
とうの昔に散じた

冷えた心臓は止まらない
私の胸には黒い黒い血が滴っているというのに

馳せる思いすら
戒めるべきもの。

手放して
いや突き放して。
ここから締め出しておきながら

私の中からは締め出せない


君という存在が
…ただの駒の一つにすぎなかった君が
なぜ私を占める?


君は幸せか?
私を忘れてくれたか

私は忘れられない

「ばか」

胸の奥で
懐かしい君の声がした。

「へいかの
―――ばか」

と。

* * * * * * * * * * * *

では
君の望む通り
馬鹿になろう。


私は気が狂ったのだ。

―――そう思ったら、
楽になった。

だからあっけなく
君の声に忠実に従った。

国のことも
人のことも
私のことすら
どうでもよい。

体はこれまで何度もかいくぐった抜け道を記憶している
頭は狂っていようと、さほど問題はなかった

馬はとびきり賢い。
そして私は馬鹿だ。
何とも言えない取り合わせだなあ、と笑っているうちに
君の家が見えた。

私は馬鹿だから
君の立場も
家の人への配慮も
なにも出来たものではない。

君は私の顔を見るなり
「―――ばか!」と言って泣いた。

「うん、私は馬鹿だ」と君を抱きしめた。

さらうように、君を馬に乗せて
離さなかった

「ばかです」
「うん。君の言う通りだ」

どこに行くとか
何をするとか
何も考えつかなかったけど
君が私の腕の中にいるだけでよかった。

だいぶん遠くへ来てしまった。

馬が汗をかいて、水と草をやろうと
小川の側の水車小屋に立ち寄った
下馬して馬の手入れをすると、心地よい疲れが襲う

粉ひき小屋の中を覗くと
ひんやりとした土間になっていて
片隅に藁が敷かれていた

何も話す言葉がなかったから
私たちはコトンコトンと絶え間なく続く音を聞きながら
君の髪の匂いをかぎ、
肌を引き寄せ、頬の柔らかい感触を確かめる

たまらなくなって、口づけをしたら「ばか…」とまた泣かれた。

私の襟に両手でしがみ付いて君が泣くから
私は二人が溶けてくっつくんじゃないかというくらい強く抱きしめて
そのまま激情を止めることができなくなった。

* * * * * * * * * * * *

「優しくしたかったのに…」
とつぶやくと

「や…優しかったです」

君は俯いたまま、顔を背けた。

引き寄せると振り切るように立ち上がる。
すばやく身支度する君は裾をこれ以上ないほど神経質に掻きよせ、きつく帯を結んだ。

「…戻る?」
はだけた私の衣を見えないフリする。

「…きっと、みんな心配してるから…」
気もそぞろな様子で、目を合わせない君。

「私は心配していないが?
―――むしろホッとしている。
…君の最初が、私で」

敷物にしていた上着にかすかに残る赤い印を見て
彼女は息が止まり、赤面した。

「…ばか!!
―――そ。そんな上等な仕立ての良い絹を
台無しにしてしまって…」

「だって。君は私のものだから―――構わない」

「これでいいんですか?」
「うん」
「…嘘つき」
「嘘じゃない」
「うそ。―――きっと困ります」
「困らない」
「…困りま」
君の口を塞ぐ。

君の本音は、違うでしょ?
―――知ってる、私は。

だから、それ以上。言葉は要らない。

言い訳しなくてよい。
私は馬鹿だから。…聞かないよ。

今は、私を満たして―――?
馬鹿みたいに、君がいいんだ。


* * * * * * * * * * * *

「一週間も、どこに…!」

泣きながら青慎が飛び出してきた。

言えない。
「ごめんね、心配かけて―――」

これからも、きっと心配かける。
ごめんね、青慎。

* * * * * * * * * * * *

汀家の娘が父なし子を身ごもったらしい、という噂は
下町でもちきりとなった

次第に大きくなる腹はかくしようがなく
「やはり噂は本当じゃねえか」
「ふしだらな娘だ」
「片親だから…」とヒソヒソという輩もいたが
彼女の人となりを知る友人は「よしな」と眉をひそめた。

几家の女主人「悪いようにはしないよ」と内々に援助を申し出たが、
娘はきっぱりと断った。

「一人で生んで、立派に育てます」

頑なな娘を、口の悪い幼馴染は散々になじる。

「てめ、父なし子が何と言われてもいいのか?
子供の身にもなってみろい! てめえの不始末を…」

「不始末、じゃないから。
ただ、―――馬鹿なだけ」

「ああ、そうか、てめは馬鹿だ」

「そうよ。馬鹿よ
―――だって。
馬鹿な人の子だもの」

「その馬鹿てえのは、だれだ?
―――まさか」


「あんたに言う必要なんてないじゃない!」


* * * * * * * * * * * *

ウワサなんて、怖くない。

こんなことで傷つくようなヤワじゃないわ。
これでも、私。その昔、プロ妃、やってたんですもの。

命の危険だって、へっちゃらだったし。

言われないのも、言われるのも
私は傷かない。


―――あの人の言葉だけが、ホント。


…待つのなんて、べつに辛いことじゃない。
指折り、待てることが嬉しい。


ほんと。
誰にも言い訳なんて
言う必要なんて、なかったのよ?


だって。
馬鹿なあの人は、
本気で迎えにきちゃったから―――。


―――想像、つくかしら?
この下町に。
こんな大行列で。

ただの庶民と、
産まれたばかりの赤ちゃんを。

本気で
仰々しく
迎えにくる律儀で馬鹿な王様が、この国に、居るだなんて…。
―――誰も信じるわけ、ないでしょ?



正気じゃないわよ

ほんとうに―――馬鹿な王様…!!
ばかすぎて。
涙で、あなたがちゃんと見えないじゃない…


「夕鈴。―――おかえり
待たせた。
もう、何も
心配するな」

ですって?


…ばかですよ。
本当に。―――陛下




お願い。
ばかなあなた。
今、この世で一番幸せな私たちを、

抱きしめてください。



(おしまい)






みほこ様、ありがとうございました。


フォーギブ ―Forgive―

初出:2014年06月11日22:29 (転載)

SNS 33333HIT御礼 キリリク
大変長らくお待たせいたしました。
2014年5月20日に、おふみくださったUサマよりリクエストを頂戴しております。

―――――――――――――――――
USAさま
「黎夕で互いに辛く最後は幸せになるお話」
―――――――――――――――――


USA様へ捧げます


【暴力シーン】【辛】【微糖】

すみません。いたいけな子供(モブ)が痛い目にあいます。ご注意ください。

* * * * * * * * * * * *
フォーギブ ―Forgive―
* * * * * * * * * * * *

夕鈴はこわばったまま、光の無い虚ろな瞳で私の方を見つめていた。
血まみれの子供は妃の足元でピクピク悶絶しながら、フシュウと異様な音を立てて肺の中のすべての息を吐き出した。


「―――私に…
花を…くれた、だけ…ですよ?」

公務で養護施設を訪れた妃に、花を差し出す子供。
いつもなら微笑ましい光景の一つに過ぎなかった。

出迎えの役人。お定まりの堅苦しい挨拶のあと、
整列させられた子供達の歌声が響く。
代表と思われる施設の子供数人が、花や贈り物を手に手に妃へ捧げ感謝を述べる。

妃は子供たちを一人一人、抱きしめたり握手をし、一言二言交わしながら励まし慰問を続けている。

そのとき、違和感があった。
何か違う―――?

まだ幼さが残る愛くるしいその姿。
小さな体にひときわ大きな白い花束を抱え、
張り付いたような笑顔を浮かべ走り寄る子供は―――なぜか異様な殺気を身にまとっていた。

「ダメだ、その子供を止めろ!」

とっさに叫ぶ。だが誰も子供の殺気に気が付かない。

妃へあと1、2歩というところで
子供は花束の中に隠し持っていた短剣を妃に振りかざした

私の身体は、考えるよりも先に動いていた。
鞘から抜き放たれた刃は子供の体を容赦なく―――薙いだ。

* * * * * * * * * * * *

妃をねたむ者が仕掛けた罠は、妃の心に大きな傷を残した。

目の前で、一撃のもと、剣で薙ぎ払われた子供。

躊躇も手加減もそこにはなかった。


そのことを
誰に対して憤(いきどお)るべきや―――?


妃は、ただ 自分を責め、心を閉ざした。

* * * * * * * * * * * *

君は少しやせた。


あの日以来、部屋から一歩も出ない妃を見舞う。

唇を噛みしめる青い顔。
指先を小刻みに震わす

話しかけても、返ってくる言葉はない。

―――君は、二度と私と、目を合わせないつもりか?

君との絆まで、私は剣で断ち切ってしまったのか。



言い訳はしない。
説明すべきこともない。

君のため
子供を切った。

それが、事実だった。


* * * * * * * * * * * *

白い花が咲いていた。

私はそれを手折り、持って行く。
妃はその花からも目を背けるだろう。

それでも、私は持って行くのだ。

今日も。
君は許してくれないだろう。


だから、私は白い花を持って行く。

「―――李順。妃をここに」

風通しの良い四阿に、妃を呼び出す。
庭に出るのは嫌だと散々手こずらせはずだ。
なにしろ、あの日から一歩も部屋から出ていないと聞く。

だが、私はこの国の王で
誰一人、私の命に逆らうことは許さない。

その権力を使ってまで、君に嫌われようとは―――私もずいぶんと自虐的だな。

ずいぶんと待たされた。
「大変お待たせいたしました」侍女が額が擦り切れるほど地に頭を叩きながら代理の挨拶を述べた。

卓の上に置かれた白い花をチラリと見やると妃はギクリと身を固くし、
青い顔のまま口を開く気配もなかった。


「よい。
…支度には、時間がかかるものだ」

私は許し、人を払った。


風になぶられ、そのまま時を過ごす。

「そういえば。
支度に時間がかかるものが他にもいたな
―――李順?」

声をかけると、すぐそばで李順が「…は」と返事をした。

白い花束をかかえた子供がそこに連れてこられた。


一、 二歩、後じさりした妃の顔がさあっと青ざめ、
動悸においつかない呼吸が口から漏れた。

唇を震わせ
「あな、たは… あの時の、子?」と
かすれた声でつぶやく。

「無事、だったの…?」

大粒の涙が妃の瞳を洗い流し、再び光を取り戻した。


こどもは、コクン、とうなづいた。

「その子に。
やり直しを、させてやってくれ―――?」

子供は、ゆっくりと白い花束を両手で差し出す。
差し出した腕に、巻かれた包帯が見える。

「―――生きていてくれて、よかった」

夕鈴が泣きだして、子供を抱きしめた。
子供は一瞬、ビクと緊張が走らせ、そのあと抱きしめられた心地よさに次第に脱力していった。

「―――ごめ、んなさい」

自然と涙が流れた。

子供の目に、作り笑いでない、自然な微笑みが浮かぶ。


「お姉さん、悪いんじゃ、ないんだね?
父さんや母さんが死んだのは
お姉さんのせいじゃ、ないんだね―――?
僕知らなかったんだ。

悪い妃のせいで、父さんや母さんを殺されたって―――
子供なら、悪い妃に近づいて天誅を加えられる。お前が英雄になるんだって…

だまされたなんて知らなくて。
そんなこと信じてた僕が、悪かったって―――

ほんとに、ごめんなさい」


「人の言葉をうのみにする純粋な子を利用し。
真っ白な心を暗闇で書き換える、悪い大人もいるのだ―――

一旦歪められた価値観をただし、
心を白く戻すにはちと苦労が要る…

―――待たせた」

白い花束を受け取り、夕鈴は子供の頭をなぜた。

「ありがとう」

頃合いをみて李順が
「―――要件はすみましたか?
では、こちらにいらっしゃい」
と子供を引き取った。


李順が子供を連れてゆくのを見て、夕鈴は尋ねた。


「…あの子は、これからどうなるの?」

「しばらく更生施設に入ることになる
もともとは純粋で、正義感の強い子だそうだ。
そこをたちの悪い大人につけ込まれた
―――しばらく観察は必要だが、
勘の良い子だと気に入り墨将軍が引き取りを申し出ている」

「墨将軍、が?
―――なら、安心ですね」

夕鈴は、本当に久しぶりに、笑った。


「…もう心配ない」

「はい」

「―――では、私は政務に戻る
君も疲れただろう。
安心して、あとはゆっくり休むがよい」

事務的な口調で要件を済ますと、黎翔は立ちあがった。
背を向ける黎翔に、夕鈴の胸は痛んだ。




「―――陛下」



「…」

振り向かずに、歩き始めた

その背中に、夕鈴は駆け寄り…おずおずと袖を引いた。



「私は、あなたを傷つけてしまったんですね?」

黎翔は冷たい狼の表情のまま自嘲的にフッと軽く嗤いを漏らした。

「私が君の目の前で子供を切り
君の心を傷つけたのは事実だ。
―――気にすることではない」

「私が謝る番です」

「謝る―――?
そんな必要はない」

「こっちを向いてください!!」

黎翔は向かなかった。

夕鈴は黎翔の前に回り込むと、背伸びをして、グイッと黎翔の両頬に手をあてた。

「へーかっ!」

「!?」


「泣きたかったら…泣けばいいんです!」

「―――私は何も…」


「でも―――

私は。
泣きたいんです」

「あ…」
黎翔の胸に、夕鈴は顔を押し付けた。


「泣いても、いいですか?」

「―――あ、あ」

どうしてよいのか、分からず、だらりとしていた手に気が付く。

「私は、今
陛下に、慰められたいんです!!」

夕鈴は少し怒ったようにつぶやいた。


「…では。
私が、触れても、いいのか?

口も
きいてくれなかったくせに―――」

「口をきけなかったのは。
自分が不甲斐なくて悔しかったからです。

陛下が嫌いなわけではありませんし…
陛下にされて嫌なこともありません!

―――遠慮なく、どうぞ!」

耳が真っ赤だった。

顔を埋める彼女を、そっと袖で包みこむ。


「陛下。ごめんなさい」

涙声で夕鈴は詫びた


黎翔は大きな掌で、そっと彼女の背中をなぜた。

「…いや」

「ごめんなさい」

彼女の背中を抱きしめた。

「…ごめ、な…さい」



黎翔は夕鈴にだけ聞こえるよう
彼女の耳元にそっと唇を寄せて

「―――許す」

と小さくつぶやいた。




(おしまい)






USAサマ
ありがとうございました。



炎と燃え盛る私の

本日6月12日は「恋人の日」だそうで
SNSコミュのお祭りが開催されております。

なんとなく多忙だし、書けるかな…と諦めかけていたのですけれども、
白友の某Rっこさんにお尻を叩かれて、提出したブツでございます。

-------
コミュのお題: 恋人  『好きだよ!ばか!!!』 
-------

【パラレル】【捏造】

--------<設定>
・黎翔…現国王の王弟。反乱鎮圧軍の総指揮官。
・夕鈴…白陽国版ジャンヌダルク。女だてらに戦装束に身を包み最前線で活躍する。
・几鍔…国王の圧政に苦しみ立ち上がった民衆を束める反乱軍のリーダー。 (名前だけしか出番なし)
・兄王…悪政により国民を苦しめたらしい。決起した民と武力対決するも───。(いた、だけ)

初出:2014年06月12日12:18 

* * * * * * * * *
炎と燃え盛る私の
* * * * * * * * *


その時。大銅鑼の音が遠くで鳴り響いた。
時の声が上がる。
それを聞いた民衆軍は口々に叫んだ。

「国王の首を、とったぞ―――!
民衆軍の、勝利だ!」

「残った貴族の奴らは皆殺しだ
根絶やしにしろ…!!!」


王宮の奥深くで、反乱鎮圧軍の総指揮官たる氷の男と相対していた白陽国のジャンヌダルクは、男たちの野太い声を背に、ジリジリと間合いを詰めた。

「王は、落ちた。
お前も―――投降しなさい!」

背の高い、黒い鎧で身を覆った敗軍の将は、兜をむしり取り、ガチャンと投げ捨てた。

短い黒髪を揺らし、軽く頭を振る。

こんな時だというのに、その男は自然体で、
赤い瞳を涼し気に細め、口の端を少しゆがめて一言だけ返事をした。
「…断ったら?」

夕鈴は手に持っていた短剣をつきだす。
黎翔は長剣でその剣先をスルリとかわし、まるで赤子をあやすように夕鈴を弄ぶ。

「私も、お前たち民衆が忌み嫌う、王家の一人だ。
いまさらお前たちに必要とされるとは思わんがな―――」

「私は知っています。あなたは、横暴なる王を何とかしようと―――
我々民衆との和を取り持つために必死に働いていたことを」

「それを言ったところで。
結果はこれだ。
そして、私が今まで何をしてこようと―――暴徒と化した今のお前たちが、冷静に耳にするものかな?」

クスと黎翔は笑うと、鮮やかな剣技で夕鈴を傷つけることなくさばいた。
クルリと背中を向けさせられ「あっ!」とバランスを崩した夕鈴の背中を
黎翔は掌でドンと押しやった。

勢いづいた夕鈴は扉の敷居を踏み越え、廊下に転げ出た。

「―――几鍔の元へ帰れ。
そして、私のことは―――
忘れろ」

「…あっ! 何をする気?」

黎翔は、重たい扉を素早く締めようとした。
夕鈴は必死に短剣をねじ込み、扉を閉めさせまいと抵抗した。

隙間から、赤い瞳が除く。
「―――行け」

「…行きません!」

黎翔は怒ったような表情をし、扉を押す力を一瞬緩めると、
反対の手で夕鈴の胸ぐらをつかんで引きずり上げた。

「鎧をまとおうと―――お前は、女だ」
「…な、何を」
片手とはいえ、すごい力で夕鈴はギリギリと締め上げられ脂汗を浮かべる。
黎翔に締め上げられ宙づりにされていて、浮いた足をじたばたするがどうにもならない。
両手をかけて締まる首をなんとか緩めようとするが、息がつまり眼の奥が赤くガンガンとしてきた。

扉の隙間は体一つ分に広がり、黎翔はその隙間からもう一本の腕を伸ばし、彼女の胸当てを止める帯に剣先を突っ込むと、ジリ、と切り裂いた。
彼女が身に着けていた装束の胸をわしづかみ、一息にむしり取る。

厚手の手袋に覆われた大きな手で、夕鈴の顎から頬をクシャリと握り上げると、
荒々しい口づけを施し、胸元までイヤラしく夕鈴の体を、舐めた。

夕鈴は羞恥と怒りで息を止めて目を見張る。

彼女にしっかりと見せつけるよう目の前で黎翔は赤い舌をさらし、最後に、ペロリ、と自分の口をなめ上げた。
胸元があらわになった彼女は、窒息の苦しさと戦いながら辱めに悔し涙を浮かべ…

突然、黎翔はドサリ、と彼女の足を地に下ろす。
ゲホゲホと息をつく彼女を冷静に上から見下していた。

「憎みたければ、私を憎め。

戦場に女がいれば、みな同じだ。
気が狂った男たちにどうされるか―――敵も味方もないぞ?

この後は、血の匂いで麻痺した男たちが、
欲にまみれ簒奪と破壊を繰り返すだろう―――」

黎翔は、ふい、と横を向き、遠い目をした。
それは見えないものを見て、聞こえない音を聞こうとしているのだろう。

ドカドカと足音が響いた。
それまで以上に辺りは騒然としはじめた。

怒号が飛び交う。

『火事だ―――』
『火の手が上がったぞ』
「誰だ、火を使ったのは―――」
「馬鹿者が!! 宝が燃えてしまうぞ!」

黎翔は、夕鈴を扉の外へトン…と軽く押し出す。

「…早く行け」

夕鈴は、はぎとられた前を両手で隠し、涙を浮かべていた。

「―――行け」
黎翔は最後にもう一度そういうと、ギイイイ…と扉を閉めた。
だが、夕鈴は短剣の刃を扉にこじ入れていた。

力いっぱい、両手で隙間を広げる。

緩んだ隙間に肩を押し込み、タックルをかけて必死に扉の中へ上半身をねじ込むと、夕鈴は手を伸ばし、叫んだ。

「あなたが…
好きなの…!!―――バカ!

一人で、死なないで!!」


(ここまで)




タイトルは仮オストロのお歌から(全然話と関係ないけど)

現代なのか過去なのか
中国なのか西洋なのか
服装や設定はお好みで妄想してください

-------

失礼いたしました。

恋人の日。
どうぞ萌をお茶うけに、まったりとお過ごしくださいませ^^


*

続・フォーギブ ―Forgive―

【バイト妃】【甘】

* * * * * * * * * * * *
続・フォーギブ ―Forgive―
* * * * * * * * * * * *

夜遅くに訪れた後宮。

「お妃様はお疲れのご様子で、
先にお休みになられました」

こんな遅くまでは起きてはいまいと思った通り、
君は目をつぶって寝台に横たわり、静かな寝息を立てていた。

…君の顔を見たかったんだ。

私は君を起こさないように最善の注意を払い、寝台の隅にゆっくり腰を沈めた。

手を伸ばせば、君がいて。
額にかかる淡い髪を梳けばさらさらとした感触。

私は臆病だから、そんな小さな手ごたえでようやく君の存在を検められる。

すぅすぅ…と繰り返される小さな吐息。
君の目の下にはうっすらと隈ができている。

─────これまで、さぞつらい思いをさせてきたのだな、私は。
今、ようやく安らかな眠りを君が得たのなら幸いだ。

小さな手が力なく頬の横にあって、
私は触れてもよいのか散々迷った。
だけど、君の手に触れたかった。

その時、小さな声で
「へいか…」と呼ばれた。

それは単なる寝言だと分かっていたけれど
それでも君が私を呼んでくれているのなら嬉しい。

私はつい手を伸ばし、君の指先触れた。

ぴく、ぴくと指先がまさぐるように私の人差し指を探し当て、
きゅっと握りしめられた。

「へいか…」
無垢の微笑みが追い打ちをかけ、私は思わずどうしてよいのかわからなくなった。

無防備な君に、それはずるいと知りながら
口づけを落とす。

そっと窺いながら。

しかしこんなふうに盗むように口づけをするのはよろしくあるまい
瞼を閉じた君に失礼だろうと、私も目を閉じて
もう一度、今度は君の柔らかい感触を味わいながらゆっくりと口づけた。

指先を握りしめた手がぴくぴく手と動くと、不意に意志をもってきゅっと握りしめられる感覚に、私は目を開けた。

そこに、硝子玉のような目をパッチリ開けた君がいて
二人、瞬きもせず視線を合わせた。

意識が朦朧としていたであろう君。

次第に君の瞳の中に意識がよみがえり、くっきりと視点を結んだ。

かぁっと、みるみる頬に色味がました君は
口づける私を避けようと、私の胸を両手でドン、と力任せに押した。

そのまま口元を両手で押さえると、くるりとうつ伏せになって、私の視線から逃れた。
頭を振って必死に現状把握に努めている。

「あの、えーと。
…先に寝てしまってすみませんでした。
ご政務でお忙しいから、とお言伝いただいたので────まさかおいでになると思っていなくて…」
もごもごと枕に顔を伏せ、君は言い訳をしている。

「もう遅いから寝ているとは思ったんだが
君の様子が気がかりで」

なぜ私は言い訳めいた言葉を口にする?

「急に君の顔が見たくなった…
─────いや、
ずっと君と会いたかったのだ、私は」
観念して本音を口にした。

「…今、何してたんですか」
君が言うから
「君が寝言で私を呼び
あまりに愛らしかったから…つい、口づけを。
─────君が嫌なら、しない」

「陛下を? 私が?」

「呼んだ、二度も」

私が真面目に答えると、夕鈴は慌てて布団をかぶって、丸まった。

「ご…ごめんなさい」

恥ずかしさに震えながら、君は謝った。

「謝られるのは心外だ…
私は呼ばれて嬉しかったのに────」

「あの。私」
君がごそごそと布団から顔を出した。
窺うような上目づかいが可愛い。

でも、わざと私は傷ついたように少しふてくされた表情をして見せた。
それをみて、君はさらにしょぼんとしおれる。

「────あの、私」
「…」
「陛下、怒ってらっしゃいますよね?」
「いや」
「だって。あの件からずっと、
私、陛下のことを遠ざけて────失礼なことを」
君は涙ぐんだ。

「それは私自身の行いのせいだ。君は何も悪くない
それに…」
「…それに?」
「私は何度でもそうするだろう。
君を傷つけようとするものがいれば、どんな時でも、誰であろうと
私には一切手加減できない」

夕鈴は手を伸ばして、私の手に重ねた。

「やめて、ください。
私は、そんな価値ないのに」

「価値が、ない?」

私はカッとなった。
そんな私の様子に、ビクリと身を小さくする。

差し出された手が引っ込んで…私は思わずしまったと思った。

「…陛下?
私は、ただのバイトで、ただの囮で…、これは単なる仕事なんですよ?
李順さんはそのために危険手当を付けてくださるんです。
何かあっても、私自身のせいで…
だから、気になさらないでください。
陛下がいちいちお気になさることじゃないんです。

─────今回は、私の態度が悪かったんです。
驚いて、子供が死んだのは自分のせいだと思い込んで
…自分の気持ちが整理できませんでした…。
本当に、────ごめんなさい」

夕鈴が吐き出す言葉を、私は口を挟まずに聞いた。
彼女をきちんと受け止めたかった。

「君が仕事熱心なのは知ってる
─────でも、どうして。
さっき、私のことを呼んだ?」

「え?」

「寝言で、私を呼んだだろう」

「そ…れは」

「へいか、って。呼んだのは誰?」

「それは…私が寝言で呼んだというのなら、
…私だと思います」

モゴモゴとバツが悪そうに答える君。

「どうして?」
「夢─────です、ただの
夢を」
「どんな」
「私は…」
「夕鈴は、夢の中で私は?」
「…私は、陛下を」
「君は、私を?」

引き寄せて、囲い込んで、逃がさない。

「いつも、呼んでいましたから─────
陛下のことを、ずっと」

君は観念して白状すると、
これ以上ないという恥ずかしそうな顔をして、そむけた。
あわてて布団にもぐって隠れる。

君のうすっぺらい砦は、私にとってなんの障壁にもならないとも気づかずに。

布団ごと私は夕鈴を抱きしめた。

「私が───呼んだら。
応えてくれるのか?」
「え?」
「君の夢の中と同じように」
「あの… どうして私の夢の中を?」

そう君が答えるから、
やっぱりそうだったんだと分かってしまった。

私は嬉しくなってしまった。

「では────許せ」

「許すも許さないも
あの子のことは陛下が私のために、してくださったって。よくわかってます
もう何も怒ってなんかいませんし、
そもそも陛下が私に許しを乞うことなんて、何一つありませんよ?」

「何をしても怒らない、と?」
「はい、…?」

私が布団の端をめくって彼女を発掘する。
「では、これは?」
君は抵抗をしないことに気を良くして、両頬を引き寄せて口づけをすると、君は目を丸くした。

「…え?」

「君は、嫌か?」

「あの…なんで。
そんなこと、するんですか?」

「君は私の愛する妃、だから」

「愛する妃って────」

「だから、許せ」


(おしまい)


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Author:おりざ
秘密の苑・刺青の男[織座舎]陛下の花園へようこそ。”狼陛下の花嫁”の二次創作作品を綴っています。足跡などお気軽に残していただければ嬉しいです。【新刊】秘密の苑・刺青の男パラレルアンソロジーパラレルアンソロジーとらさんで取扱。【お詫び】拍手コメ御礼お休み中です。本当に申し訳ありません。お返事ご希望分はコメント欄へm(_ _)m

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